教授の戯言

手品のお話とかね。

ピット・ハートリング・レクチャー(1/2)

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訳担当の富山です。2019年6月9日(日)、原宿 Casa Mozartにて開催されたピット・ハートリング(Pit Hartling)の6時間レクチャーに参加してまいりました。 私は彼の訳本『Card Fictions(以下CF)』を出したり作ったり直接会いにドイツに行ったりもしている、日本の全人口の上位0.01%に確実に入っているレベルの、割とピット愛に溢れている者だと自負しておるのですが、彼のまとまったショーやレクチャーを受けたことがなかったのです。今回来日ということで万難を排して行ってまいりました。

皆さまも色々とマジックショーをご覧になったり、レクチャーに行かれたこともあるでしょう。私もそれなりにあります。その中で今回のピットのレクチャーはどうだったか。端的に、そして控えめに言っても最高でした。魔法かと思いました。凄すぎて震える。あれこそ、エンターテインメントとしてのカード・マジックです。繰り返しになりますけど、本当に、本当に良かったです。終わったあとの帰り道、なんだかふわふわしておりました。

まあ今回の先、そうそう来日もされないとは思うのですが、これだけは申し上げておくと、「来日レクチャー決まったらとにかく参加しろ」これです。というか私も行きますし、むしろドイツにあそびにおいでと言われたのでそのうち行くことにします。

ピットのマジックの面白さ、賢さを伝えるべく頑張って訳しましたし、いまも訳しているつもりなのですが、はっきりいって完全に書き物を超えていました、リアル演技が。完敗です。以前ポン太・ザ・スミスさんが本の良さを説明する際、文章は著者の想定する理想を書ける、ということを仰っていました。確かにそうだなと思っていました。しかし今回参加された方は思ったことでしょう、「富山の書いた本より、断然不思議で楽しいじゃん」と。ぐぬぬ、しかし認めざるを得ない。でもですね、ひとつだけ申し上げたい。

 

 

「本の記述という理想形態を!

 実演が超えてくるほうが

 おかしいんじゃろがい!」

 

失礼、取り乱しました。己の備忘のために細かく記しますが、以下は読まなくていいです。むしろ読まないまま、いずれ機会が訪れた際にピットのショーなりレクチャーに行って生で見るのです。そして震えるがいいのです。

 

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 予約時に特に発番がなかったので、着席が入場先着順だったらどうしよう、と思い、開場の40分前に行く。訳本を出している身としては意地でもいい席に座りたかったのです。大人げないのは理解しています。1人並んでおられたが、私は少し離れたところで会場前を監視しながら『In Order To Amaze(以下IOTA)』の自分の訳文を読み返しながら時間を潰していました。分かってます、自分でも思います。キモい。その後並びましたが、開場予定時刻の10分~15分前に入ったところで入れてもらえました。予約順で1列目2列目3列目とだけ分かれていたようで、私は1列目でOKでした。そして席の配置を見てまずびっくりする。演者のテーブルの若干うしろまで、240度くらいの円弧を描いて席が配置されているのです。「え、マジで?」みたいな顔を見られたのか、受付をされていたポン太さんが「どこに座ってもオーケーです。ノー・アングルだそうです」と。なんだそれは。そんなカード・マジックがあるか?とりあえず最前列の中央を外した位置に座る。

メールのやり取りはちょくちょくしているとはいえ、ピットに直接会うのは6年ぶりくらいなので、憶えててくださるかなーと思っていたが、むしろ向こうから挨拶してくださってホッとする。「奥さんもレクチャーツアーに同行されるのだとばかり」「今日の便でドイツに帰ったよ―」ほほう。一応小ネタとして、オレンジ・ジュースを買ってきたことを告げ笑われる("Unforgettable"というトリックでは、オレンジ・ジュースが重要な役割を果たすのです)。おかしな話なのですが、こっちはレクチャーを受ける立場なのにめっちゃ緊張してくる。マジで胃が痛い。なぜなのか。

いよいよレクチャーが始まる。本人の真横のちょいうしろまで囲まれた、しかもカード・マジックのレクチャーという、個人的に前代未聞のイベント開始。通訳はスーパー・カード・テクニシャンのMajilさん。後述しますが、実質5時間くらいはレクチャーしていたと思いますが、最後まで的確でいい通訳をしてくださいました。本当にお見事でした。ピットの説明フレーズの切り方も良かったですが、Majilさんもそこへのかぶせ方が絶妙でした。

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 ■第1部:

01. Sherlock (『IOTA』)

部屋の一番隅で、観客がデックからカードを1枚引きます。彼はそれを憶えて、デックがシャッフルされる前にどこでも好きな位置に戻します。別の観客が複数回のシャッフルとカットを行い、ここでははじめてマジシャンがデックに触れます。マジシャンは説得力のあるカードの減らし方と、アーサー・コナン・ドイル顔負けの論理をもって、この選ばれたカードを追い詰め、そして見つけ出すのです。

 元はちょうど100年前、1919年のチャールズ・ジョーダンの手紙越しマジックを、手紙なし、現場で行えるようにしたもの。さっそく来ましたぞ、クソ不思議なやつが。ひとりしか引いたカードを知らない、別の人がカードを複数回シャッフルする、これで見つけるわけですよ。シャーロック・ホームズの有名な台詞、「ありえないことをすべて取り除いていけば、あとに残ったものがいかにありえそうもないことであっても、それこそが真実にほかならない」('Once you eliminate the impossible, whatever remains, no matter how improbable, must be the truth.)とか言いながら、「選ばれたことのないカードを捨てます」「ときどき選ばれるけど、あなたは選ばなそうなカードも捨てます」「残ったのがあなたが選ぶ可能性があるものですが、日曜には選ばれないやつはどけましょう」「残った、あなたが日曜に選びそうなカード、それもこのトリックで選びそうなのは……」と、どんどんカードを捨てていって、最後に当てちゃうのです。原書ではクライマックス、「『初歩的なことだよ、ワトソン君』("Elementary, my dear Watson")と言いたくなる誘惑に抗おうね」と書いてあるのに、ピット、言ってましたねw「Elementary, Watson」と。キメ台詞を言う誘惑に抗いきれなかったとみえますw

「お客さんに指示を出すときになにか注意点はありますか」という問いに、「簡単な指示だし、そんなに気をつけることはないです」と仰っていましたが、『IOTA』においては、指示を「1枚完全に抜き出してくれるように頼む」「それからそれを憶えて戻すように言う」と分割するといいよ、というTipsがあったことは、訳者っぽく付け加えておきます(その場では言いませんでしたけど)。

ジョーダンの原作?では3回のシャッフルをしていたそうですが、長いので2回+複数回のカットでいいだろうとのこと。

最後までわからない1枚選んでもらう系手品を練習するには、顔を背けて携帯電話のカメラで撮影してそれを伏せて始めるといいよ、的なTipsは即効性お役立ち感があります。

 

 

02. Colour Sense(『CF』)

観客がデックをシャッフルし、それからパケットを持ってテーブルの下で表向きにします。マジシャンはちょうど、見えていないパケットの真上あたりのテーブルの板面に手のひらで触れることで、その“色”を感じるのです。マジシャンはそれぞれのカードの色を、観客がカードを出してテーブル上に置くより前に言い当てていきます。さらにマジシャンは、絵札であるかどうかや、パケットが何枚あるか、さらにはスートや数まで感じることができてしまうのです。

 私のだいすきなやつです。透視の練習のモチベーションが「いま隣の家に凄く魅力的な人が~」とかいうのに笑ってしまったw 記憶する部分について、『CF』のパターン・プリンシプルではない、彼の方法が説明されました。実は私自身、齋藤修三郎さんに教わった別の方法でやっていたのですが、それがピットのやっている方法でもあります。Tipsに載せようか迷ったのですが、作者本人が本文に載せなかったのだからまあやめとくか、ということでいまに至ります。なお、記憶する必要もなくす、ということでのタマリッツのアイディアも紹介されました。

『CF』本文内のInducing Challengesの例としてこのトリックの終盤部分が使われていたのですが、そこについて会場から、「今日はやらなかったのですね」というマニアックな指摘が入り、私も「そういやそうだったな」と思いましたが、「なんというか、ショーのときも含めて世の中の人たちはどうもみんな優しい人たちのようで、ほとんど誰もそこで挑戦してこないので、結局挑戦を誘わなくなりました」にちょっと笑ってしまいました。正直かw

なお解説前に「皆さん、やり方は知っていますか?」ときたので、おずおず手を挙げたら「そりゃキミは知ってるだろwww」と笑われました。参加されていたこざわまさゆきさんが挙手して「I am proofreader(査読者です)」と言ったので、同じく参加されていた齋藤さんを「He's the editor and the designer(おまわりさん、この人、組版/デザインマンです)」と通報紹介しておきました。同じ部屋に『CF』の訳者、査読者、組版/デザインマンが居るという変な空間。「きみらが説明しなよw」とか言われてしまいました。説明は可能っちゃ可能ですが、実演自体そんなふうにはできないですw

どうでもいいけど、ピット本当に地アタマが良さそうで、これのバイナリとか、後で出てくるエピトム・ロケーションとかも本当に超速。「早くやる必要は本当にないです」と言いながら3秒くらいで憶えている。

該当の山を渡す方法は、先日出した新版のUpdated Handlingの通りでした。仕組みもいいけど、やはり全体を通した楽しませ方、見せ方が勉強になります。

また、「借りたデックでやるんだけど、そのときは'some stupid joke'を言うためにわざわざ青いデックを借りる」という変なTipsで笑ってしまいました。

 

 

03. The Poker Formulas(『IOTA』)

マジシャンはまるで暗号リストのような大量の数字の羅列で埋め尽くされた、よれよれの紙を何枚か取り出してきます。彼が言うにはこれは『ポーカー・フォーミュラ』なのです。この表の力を示すため、何でもいいのでポーカーのハンドをひとつ言わせ、同じようにプレイヤーの数も言ってもらいます。

紙をガサゴソやってマジシャンは該当する公式を見つけ、それをデックに『プログラム』します:デックを静かにリフルし、叩き、ひねりますが、あきらかにカードの位置は全く変わっていません。言われた通りの人数にカードが配られ、マジシャンのカードが示されます――それはまさに、観客がリクエストした通りのハンドなのです!

数年前のフランクフルト、私がピットに初めて会った際に見せてもらい、度肝を抜かれたやつです。「いつ!いつ出ると!?」「今度出す本に載せ寄る予定さ」「MADAKONEEEEEE!」そこから『IOTA』が出るまで2~3年待ちましたからね、私は。「今日の会に参加されてる方たちはみんな、すぐに知れていいなー」と一瞬思ったのですが、数年のあいだ魔法じゃないかと思えた私のほうが幸せだったのかも知れないと思い始めました。

現象は上記の通り。好き勝手に言われたハンド、その組み合わせ、プレイヤー数、それらを謎の公式集通りに操作すると、その通りのハンドが完成します。いや、なに言ってるか分からねーと思うが本当にそうなのです。しょうがないのです。箱の中にデックを入れて、そこから片手で配っていくノー・スライト・バージョンも紹介されていました。

Majilさんは桂川さんより頻度低いですが、通訳外で感想を漏らすことがあって面白い。こざわさんリクエストのストレートフラッシュが出た瞬間、私「す、SUGEEEEE!」とかなっていましたが、Majilさんも「いいなあ、これ……」とか漏らしてて笑いました。いや笑うしかないんですが、あんな状況。会場全体もどよめきました。

また、シャッフルしたカードの並びを撮影(動画1コマあればいい)することで、そのための公式を導き出す、マーティン・アイゼラ(Martin Eisele)のVisionというアプリが紹介されていましたが(それによって、適当にシャッフルされたデックからでもこれができるようになる)、いや、そんなそこまでせんでもいいだろ、とは思いました。会場で野島伸幸さんがさっそくインストールされていましたが、月額課金的な、結構高いアプリなんですよね、これ。まあ野島社長クラスなら余裕かもしれませんが。 

 

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休み時間中にMajilさんと立ち話。「私、Master of the Messはリクエストしようと思うんですよ」「あれは見たいですね。あとはあれです、カルテット、あれ実演見たくないですか?」「見たい、めっちゃ見たいです。ていうか正直あれは机上の空論というか、『まあね、実際にやったらそうなっちゃうのは、しょうがないよね』くらいにはなるんじゃないかとは思ってるんですが」「ええ。僕もそう思います。絶対無理ですよね」「……Identity、見たいな……」「The Illusionist!フェイクムーブどうやるのか具体的に見たい」「あああ、本のやつ全部見たい」などと、好き勝手なリクエスト案を話していたら、唐突に野島さんが参入、「ぼくは……エピトム・ロケーションが見たいです」とか言い出すw 「Triathlonですね」「あ、いや、なんならエピトムのとこだけでいいです」なんじゃそらw Majilさんの「いやあ、見てて思いましたけど、アタマいいだけですよピット」には笑うw

 

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■第2部:

04. Back to the future(『The Movie』DVD)

「観客がカードを選んで、マジシャンがそれを当てる。これが普通ですが、今日は逆をやってみたいと思います。つまり、選ばれる前に当てるのです」という意味不明なことを言い出すマジシャン。観客に1枚のカードを選んでもらい、しっかりと手で押さえてもらいます。別の観客にカードを選んでもらいますが、そのカードがデックの中からいつのまにか消え、どこにもありません。はじめの観客が押さえていたカードを表向きにすると……。

キモい!キモいよ!最初なに言ってんだコイツ的な空気を醸成しておいて、あの完全な消失ですよ。ついさっき、それを見て、憶えたはずなのに!パームもうまい。デックの順序が変わらない、便利なトリックです。

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05. Opposite Pockets Revisited(Steve Beam『Semi-Automatic Card Magic Vol. ?』に寄稿)

2枚を使った有名なトリック、というのをやるが、面倒なのでお客さんたちにやってもらう、とマジシャンが言います。観客に1枚カードを選ばせ、憶えたらお尻の下に入れておいてもらいます。別の観客に1枚対照的なカードを思いうかべてもらいます。デックからそのカードを抜き出して同じようにその上に座らせます。「私はこのトリックがすごく好きで。1枚を自由に選んでもらい、1枚を自由に思ってもらうわけですが、問題が1つあるんです。めったにうまくいかないのです、このトリック。本当ですよ。ダイヤの3とスペードのJの2枚のときだけしかうまくいかないんです」観客2人のお尻の下のカードを見ると、本当にその2枚なのです!「うまくいくと、いいトリックなんですよ!」

 もとがブラザー・ジョン・ハーマンの"Opposite Pockets"というトリックだそうで。自由度が増しています(※演者の負担は若干増えている気がする)。いやしかし、一度も演者がカードのフェイスを見てない状況でこれですからね。最初変な声が出ました。

 

 

06. Chaos(『The Little Green Lecture』レクチャーノート。壽里竜氏による邦訳版あり(マジックランドの箱根クロースアップ1998のノート))

最初は数学的な原理に基づいた、あの悪名高いカウンティング・トリックに見えますが、最後はめちゃくちゃになって終わります。「正確な数学的原理に従って……」と言いながらも、演者はデッククをテーブル上に荒々しくぶちまけ、完全に混ぜてしまうのです。

しかしカードをひとかたまりにまとめると、演者は即座に2枚の自由に選ばれたカードをその中から見つけ出してみせます。

最後の最後の瞬間まで、演者は1枚のカードの表も見ないのです!おまけに、この『カオス』、完全にセルフ・ワーキングだというナイス・ニュース。

「これは数学に基づいたトリックなので、厳密性が重要なのです」と宣言してからの、あらゆる類の厳密性を全部ぶち壊していくあのぐちゃぐちゃ感が最高です。最後の「ああ……ごめん失敗しちゃった。両方共違うカードだ。最初からやり直さなきゃ」あたりのギャグ、大好きなんですよね。

観客というか場のコントロールについて、「あなたが場をコントロールする、仕切っていい」(You're in charge.)という、このあともちょいちょい出てくる言葉がありました。思うに一般的なマジシャンは観客のイレギュラーなどを気にしすぎなのかも知れません。名高いマジシャンはだいたい場のコントロールが絶妙に上手いですよね。

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07. Odd Men Out(Selling Item)

2人の観客にそれぞれカードを1枚ずつ憶えてデックに戻してもらいます。1人目の観客のカードの色を聞き、それが赤。マジシャンはデックをファンにすると、すべてのカードが黒い中、1枚だけ赤いカードが。それが1人目の観客のカードなのです。続いて2人目の観客のカードの色を聞くと黒。演者は再度デックをファンに広げますが、すべてのカードが赤で、中に1枚だけ黒いカードがあり、もちろんそれが2人目の観客のカードです。デックを広げると赤黒はテキトーに混ざっています。

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解説フェイズ冒頭、ピットの「これは簡単です」に「ウソだ、絶対ウソだ」の声が漏れる会場w 「ギミックデックですから」そのデック、会場から借りたやつやないかいw にしてもフルデックの下準備を、デック借りて適当に喋りながらさっさと済ませてしまうのがやはり凄い。「借りたデックでしたが、どうセットしたのですか」という質問があって解説がなされましたが、ハートリングのホフツィンザー式カル、自然すぎじゃないですかね。そしてまた早い。「こんな感じで取っていくんですよ」とか言って実演するんですが、その解説を見た会場から笑いが漏れるくらい早いw 「ベストは家でセットしたデックを持ってくる、だと思いますけどね」なるほど。

「自分をMax Mavenだと思えばいいんですよ。Dani DaOrtizでもいい。とにかく、あなたがマジシャンであり、あなたが仕切っていいんです」

Alex Elmsleyの原理を、複数回できるようにしているのがピットの凄いところですね。原案のエルムズレイの、ノーマル・デックでブレインウェーブ・デックやるところも普通に凄かったですけどw

あとメモに「Majilさんの訳がナイス」とあったので、なんかうまいこと仰っていたのだと思います。実際問題全体的にうまかったですが、わざわざ書いたということはなんかうまいこと言っておられたはず。たぶんです。メイビーです。

 

つづく。

シェーン・コバルト・レクチャー

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「あいつが来たんだよ!」「え?だれレスカ?」「じゃなくてっ!」「ミルク?」「じゃなくてっ!」「ダ・サイダー!?」「じゃなくてっ!」「コバルトだあぁぁぁぁぁ!!」 ということであのシェーン・コバルト(Shane Cobalt)が緊急来日!6/2のレクチャー&ワークショップに参加してまいりました。……って誰?いや、はい、私も存じ上げませんでした。でもあの堀木智也さんが熱く語りつつお呼びになったのだったら、それはもう間違いはなかろうと。そういうよく分からないものに3万円以上をホイホイ払うあたり、おとなになってよかったなと思ったりしました。いや、むしろチョロくなったのか……?


カナダはトロントを拠点に活躍されているマジシャンだそうで、ヒゲにロン毛ですが33歳と。アードネスやヴァーノンの研究で有名というか、例の『Expert at the Card Table』の研究家でもあり、かつそこに載っているものを全部できるという変態凄いひとです。 端的に言ってめちゃめちゃうまい。いくつも、目を凝らしているのに全くわからない、というものもありました。セカンドディールとか、あのゆっくりさでやられても分からないものなのかと震える次第。私の好きな、ゲラゲラ笑って不思議で楽しくてしょうがない、という類ではなく、「あ、この人ガチでクラシックの技を研ぎ澄ませてきたマンだ……!」という感じでした。多分、若くて、技法とかテクニック好きな人にはズドンとくる気がします。


物販というかノートは4つ。
①『Chasing Dovetails』(ジョージ・松尾訳、堀木智也編集。トリック5種、B5カラーコピー誌、約33ページ)
②『CTRL』(ジョージ・松尾訳、堀木智也編集。カードコントロール4種、B5カラーコピー誌、約24ページ)
③『50 Faces North』(Shane Cobalt、作品単品、A4変型(多分あっちの判型)オフセット中綴じカラー、約11ページ)
④『The Visible Deck』(同上、約9ページ)
そのうちマジオンとかで販売されるのでしょうか。あとはビンテージ・デックなどを販売しておりました。

あとA Trick for Chuckという、チャールズ・ジョーダンのトリックのバリエーション的なノートを持ってきていたそうなのですが、部数が少なくて物販には乗らなかった模様。コバルトは、基本的に会ったことない人にはノート売らない、ほしければ来るかレクチャーに呼ぶかしてください、みたいな考えの人だそうで(であるがゆえに堀木さんは「じゃあ呼ぶわ」になったのですが)、ホイホイ買えないのですよね。インコンビニエントな感じもしますが、しかし手品の秘密というのはこういう風に出口や価格などで制限すべきものな気もします。気骨がある感じ。

 

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レクチャーは以下のような感じで。( )内の数字は上の掲載ノート。

01. The Silly Little Rubber Band Trick(①)
輪ゴムトリック。不思議さよりも掴みという感じ。見た目の正しさと感じる正しさの違いについて。「観客の知性に挑戦するようなことはしない」になるほどー、と思いつつ、いや、ギャンブリングデモってまんまそういうものではないだろうか、と思ったりなんかしないよ絶対。

02. The Cream Control(②)
カードのトップ・コントロール。一瞬ルージング・コントロールみたいなのかなと思ったがちょっと違いました。いい具合に正々堂々真ん中に差し込んだ感がある。ネタバレだけど本当は違うんだ。

03. 名称不明
カードをサイドスティール的にパームするときの出だしの部分。言われてみればこの最小の前後の動きだけでカードを出させることができるのだなと目からうろこ。できる、私にもできる!

04. The Helium Control(②)
カードのコントロール……というか厳密にはチェンジな気がする。イロジカル・ドリブル・フォースみたいな手法かと思いきや、そういったかたちでやりたくなかったので、とのこと。観客の目の前で、いま見せたカードをもう片方のドリブルに投げ入れるが、最終的にはトップに来ている技法。大変ディセプティブ。問題はちょっとプッシュ部分がきれいにできないんだよねえ。「コツはね、観客の目にレーザービームを打ち込むんだ!」(コバルト・談)

05. Dingle’s Riffle Shuffle Control(②)
リフル・シャッフルベースのコントロール。ディングルの手法だそうです。厳密には違うのか、はたまた単にダローが間違っていただけかは知りませんが、これ『Encyclopedia of Card Sleights』の早い巻で見た気がします。ステランコとかなんかそのへんの、結構クラシックな手法だと思っていたのですが。それこそマジシャンよりも前にギャンブラーが使ってそうな。ディングルほど新しくはない気がしますが、何か私の知っているアレとはやり方や概念が違うのかもです。

06. Raised!(①)
表向きにしたデックを両手で覆うたび、フェイスにエースが出てくる。ジェニングスのあれっぽい!と思いましたが、移動しないのでもっとシンプルな凄みがある感じでした。「その動作でこの現象となれば、こういうセット・こういう手法しかありえない」と思った通りではありましたが、最初の2回は目の前で何が起きているのか一瞬わからないくらい不思議でした。サンドイッチマン風に言うなら「ちょっと何起きてるのか分かんないですね」「分かるだろうよ!変わってんだよ!」みたいな。

07. LePaul’s Aces(①)
伏せておいたエースにデックを重ねるたび、デックのトップにエースが上がってくる。元のルポールの方法だと全く同じ動作で同じように上がってくるのですが、さすがに現代だともう一声ほしいなというところです(※個人の感想です)。コバルトの方法は現象としては同じですが、2枚目以降、ちょっと真ん中あたりに入れたりなど、変化を持たせています。

08. Sleeving for Dummies(①)
コインのスリービングについて。「世の中のコイン技法、特にスリービングは難しすぎるし、解説も失敗させたいのかと思いたくなる書きっぷりです。私のは確実安全」ときて、「ほわああ、シェーンニキ最高や」とさせといて、何度か袖からこぼすので吹くw オイイイイイ!と阪口大助ボイスで突っ込むところでした。きちんとうまくいくことがほとんどで、それは確かに綺麗に両手がカラになってよかったです。「世の中のコインマジックの、リテンションバニッシュはどう考えてもおかしい位置で握ったりするよね」との切り出しからのコバルトのバニッシュは力みがない感じでよかったです。というかコインを持って反対の手に渡す、ということから考えたら、そんな行為はぞんざいであってしかるべきだという気はする。ほら見てほら見て、握るよ―?みたいな流れはまた別の意図、見せたいポイントがあるのでしょうが、そこはコインをほぼやらない私からしても変だと思うのですよねえ(※個人の感想です)。転がしながら引き込むやつと、ダウンズ的なポジションから指を開くだけ、というのは私も手遊びでやる方法に似ていたので、やったぜ、とか思いました。私は人には見せませんけど。

09. Coins Through The Table(①)
コインスルーザテーブル。1枚、1枚、2枚の流れなので、最後は意外かつ早いクライマックスでした。このくらいのがいいです。なおコバルトさんはCTTTにありがちな、机にカツカツパタンやるのお嫌いらしい。ごめん私は好き(※個人の好みです)。いや「実際そんな音する?しないよね?ていうか物体を通り抜けるときになんで音がするの?」ってのはそれはそうなんだけどw それ言ったら手品のたいていの動作は怪しいのだぜ。

10. The Visible Deck(④)
カードを1枚選ぶが、そのカードだけが表向きになる。続いて別のカードを憶えるが、それは最初から予言として置いてあった紙に書かれている。
こういうの、こういうギミック好きなの。すまない、ネタバレだがこれはギミックを使う。これに類するギミックは好きで一時期よく使っていましたが、あの側をあのカードにするとこういうことができるのかと大変わくわく。「ここでこのカードをひっくり返すと、手品やってる人は驚くんだよ」驚いたわ―、それがし、めっちゃ驚いたわ―。活用や工夫のしがいがあるギミックなのですが、このコバルトの使い方がシンプルで良い気がします。

11. 50 Faces North(③)
最初から予言しておいたやつが、観客が止めたところのカードになってるやーつ。私、違いをよく分かっていなかったのですが、例の条件(※)を満たすのが"51 Faces North"で、似たような現象なんだけどそれを満たしてはいないものを"Open Predition"っていうんですね。堀木さんが「ほぼ満たしてる」って言うのでまじかよと思いましたが、これは別に全然そんなことなくて(借りたデックでやる、なんか近しいものもあるらしいのですが、それは見せてもらってないので知りません)、タイトルからしてもガチで満たそうとはしていない感じですね。そもそも自分のデックだし(というか下の条件を見ていくとほぼ守ってないw)。いや、借りたものでもできるんですが。私は正直そういう縛りプレイに全く興味が無いので、このオープンプレディクションくらいで充分です。クレティアンのリボンスプレッドハイドアウト使うやつが好きなのですが、これはぱっと見、そういった熱すら残らないので演じやすいように思います。裏側にしたやつをそのまま正々堂々と見せる、というわけではなく、やはり知ってる側からするとナンデ?っていう動作は入るのですが(揃えて広げさせる、というフェイズは冷静に見れば不要)、それを知らずに見ていれば公明正大さを演出する一環として受け入れてもらえそうです。

※51 Faces North

1 .借りたデックでできる。
2 .デックは普通のもので、さらにカードが抜けていても構わない。どんなカードが何枚抜けているかについて演者は知らずともよい。確かに知っているのは、予言対象のカードが含まれているということだけ。
3 .セットアップなどのための秘密の時間は必要としない。
4 .いっときたりとも、デックは観客の視界の外には行かない。
5 .デックからカードを抜き取ったり加えたりしない。
6 .予言を書く道具はすべて借りたものでもできる。
7 .予言を書く際に、それが予言であると明言する。予言するものはカードの名前である。これは最初のカードが配られるよりも前に明かされる。
8 .厳密に即席である。カードをセットするためにひとりになる時間や、特別な道具は不要である。
9 .別の解釈や別の現象はない。
10 .借りた物以外は使わない。
11 .観客が配り始めたとき、演者は予言したカードがどこにあるのかを知らない。この手法ではそれは問題にならない。デックの中で予言以外のどのカードがどの位置にあるかも知らない。
12 .演者は観客がどこでカードを裏向きで配るのかを、観客が実際にそうするまで決して知ることはない。
13 .観客はトップから順にカードを配っていく。変化があるのは1枚裏向きに配るときだけである。
14 .まぐれ当たりのトリックではない。観客が演者の説明通りに行えば、失敗はない。
15 .最初から最後まで、カードは演者によって操作されない。トリックの前も間も後も。
16 .裏向きに配られたカードが予言されたカードであることは、観客が確かめる。
17 .この手法は誰かによって違法な目的に使われ得る。
18 .これはカードではあまり知られた手法ではない。カード以外でも使うことができる。

(『ジョン・バノンのカードトリック』(東京堂出版, 2018)より抜粋)


冒頭に受けたリクエストを片付けていくコーナー:
オープンシフト:凄い、音がしない。これやる人シパシパ音を立ててて、そんな音してたらギャンブルはおろか、手品でもダメでしょうと思っていたのですが、本物は音はしなかった。

グリンプス:バブルピークとヒールピークをお使いの模様。

バートラムのテーブルドデックのトップパーム:うまい(注:だいたいうまい)。

ティーブンスカル:リフルシャッフルしながら見えたやつをコントロールしていくやつ。これはちょっと微妙。リフルは4回以上やったら長すぎるが(※個人の感想です)、それまでにキャッチできない運ゲーとなると多分いかにうまくてもダメな気がする。

マッキング(サーキュラーチェンジ):うまい。チェンジしたカードが、チェンジする前のカードと位置が同じと言うかほぼずれていない。ただこれはしょうがないのかもだけど、チェンジは鮮やか極まりないんだけど、右手の小指と薬指のあいだからカードは見えるので、ギャンブルテク(注:私の脳内にある、漫画的ギャンブラーの世界)としては使えないのではなかろうか。

カラーチェンジ:テンカイバートラムチェンジ、レボリューショナリーチェンジ、プリンティングカード、ルポールチェンジ(これめっちゃ良かった)、アードネスチェンジ(これも良かった)、アンドラスのチェンジ、メンドーサのチェンジ等。うまい。

表向きでやるカッティングジエーセス:恐ろしい力技を見たw

コレクターズ:「ゴメンなボクはCollectorsあんま興味ないねん。でもジャレッド・コプフのやつおすすめやで」ほほう。箱根のノート、Jared Kopf『Nothing But the Family Deck』にあった"Far-Flung Collectors"かしら。

ホフツィンザーエーセス:なんか特殊なことしていたかメモになかった。あれ。

カボーティングエーセス:おいパスするだけかよ。(※個人の感想です)

デックスイッチ:「袖使ったり、チャーリー・ミラーのテーブル・シフトもおすすめやで」ほほう。

ザローシャッフル:おいなんだこのザローは。不思議すぎというか、…あれ?ほんとに?みたいな感じでした。3回くらいやったあと、野島伸幸さんが「で、ザローはいつ始まるの?」とか仰って吹いた。しかし本当に混ぜた感じがする。いや、本来そういうものなんだけど、これは目を凝らしてみても全く分からなかったです。これだけの詳細解説出してほしい。

プッシュスルー:さりげなくそんなうまいプッシュスルーをされましてもw これはなに、アードネス本を読み返して頑張ればそういうのできるようになるの?めっちゃ不思議なんですけど。ていうか細かくかませると抜きにくいし、粗くかませると抜きやすいけど不格好じゃないですか。コバルトのこれ、ほぼオルタネートにかんでそうな気がするんですが、どうなってるのかしらね。

 

そうそう、参加したの、ワークショップ併設コースでしてね。ここまでで3時間半くらいなんですけど、ここからまた4時間半続くんですね!w

 

 

ワークショップ
セカンドディール:クソうまい。何だこれ。ゆっくりなほど不思議さが増す。マジシャン諸君にはセカンドメソッドがいいぞって。プッシュオフがまあ自然というか、あほみたいな速さから、冗談みたいなゆっくりさまでスキがなかった。

ボトムディール:初めて見る持ち方でデックが保持できません。でもなんか堀木さんはマスターしたらしいので今度教えてもらおう。

オーバーハンドシャッフル:微妙にみんなの認識しているオーバーハンドシャッフルと指とかの位置が違う。私は私でちょっと変則的な持ち方しているのでますます困る。ただ、コバルトは発展技法が凄いのはもとより、そこに繋がるベースとなる基本技法に一家言ある感じで、そこが良かった。ニーズが有るかはともかく、そこから発展させることを念頭に置いた、オーバーハンドシャッフルだけ2時間、とかリフルシャッフルだけ2時間、みたいなDVDとかノートとか出してほしいなと思った。というか呼べば毎年来るよ!って仰ってたらしいので、毎年パーツパーツをノートで出させて、10年後くらいにはアノーテッドエキスパートアットザテーブル的な、コバルトの注釈付きのアードネス本とかスーパー技法解説書とか作ればいいんですよ。ていうか作ってください堀木さん。

パーム:DPSがとても綺麗。あと(私にとっての)問題は複数枚のパームなんですが、なんかなれてないせいもあるんですが、結構謎の動きをする。……謎というのは嘘だな。右手が突っ張ったりするのが普通なんですが、彼のやり方はそのへんの動力を右手に求めないので、右手が全く緊張しないように見える、という感じの。謎ではないな。理由がある。いやーしかし、指がつります。

 

 

まあなんかそんなこんなで結局8時間以上やってましたね。13時開始で、終ったの21時45分とかですからね。それも終わったというか、会場的にそろそろ解散させないといけない、ってことだったので。時間で考えれば1時間4千円程度であり、普通の価格帯でした(すでに金銭感覚がおかしい)。

 各所から「すみません……!」という呻きが漏れるw そして「耳が痛いなあ」というコメントにかぶせるように、Yoshida氏が「耳が……耳がちぎれるよ……っ!」とか言ってて笑ってしまった。スミマセンw Improvementなので、素直に言うなら改案というか改善、なのですが。世の改善マンは震えて眠れ、感がある。

 

最初にも書きましたけどね、めっちゃうまいですね。逆かもですが、本もめっちゃ読んでて詳しい。ときに、「いまどきアードネスとか、カードチーティングとか古くねwww」とか言われたりすることもあるそうなのですが、「人間の手の数は変わったか?指の数は?目の数は?そこは変わっちゃいない、ということは不思議さはそのままなんだ」みたいなことを仰っててかっけえなあと思いました。

ちょっと残念だったのは、私スツールに座ってたので少し目線が高かったのですね。なのでチェンジ系の技法は全部うしろというか横の軌道が見えてしまって。なので、本当は1列目、コバルトも通常想定している低い目の位置の正面から見たかったなと。多分コバルトの凄さの半分も体験してないのではないかという気がします。それでもなおテーブル技法含め凄いんですがw

あと英語。せっかくプロ通訳のジョージ松尾さんをお呼びしていて、序盤端的で流石の訳だなーとか思って聞いていたのですが、コバルトがまあノッてくるとすごい勢いで喋るんですよね。そうすると結構私なんかは理解が怪しくなるのですが、逆にそのあたりはほとんど通訳が入っていなかったので、そこは嫌がらせレベルでコバルトの発言にボイスオーバー気味に重ねていただきたかった。他の会場だと通訳は絶賛だったのですが、なぜこちらでは……と書きながら分かりました。あれだ、レクチャーは3時間だからまあ訳していられるけど、ワークショップ入れるとこっちは8時間だからか。長すぎたのかw まあ疲れもしますわw 基本、英語については分からなかったら自分の不勉強と反省するのですが、周りでいかにもな感じで相槌打っていた方たちに「本当か!キミは本当にコバルトが何言ってたかちゃんと理解できていたのか!正直に言え!」と聞いたら、「…す、すみません!ワークショップでコバルトニキがノッてきたあたりは、なに言ってるかついていけてなかったです……」とゲロったので、通訳は私(たち)のような英語弱者向けにもっと甘くお願いしますw

 

最後に、レクチャーに参加してない人たちにも、コバルトが言っていた"手品うまくなる方法"をこっそりリークしますね。

 

日本に来てから1日1回、時には2回食べることもあるらしいです。あんだけうまいやつがいうコツなのでおそらく間違いないはずです。みなさんも是非試していただきたい。堀木さんとかCOMPに慣れてらっしゃるから、これを守るとおそらく手品うまくなる前にお腹壊すね間違いなく。 

『Card Fictions New Edition』日本語版

『Card Fictions New Edition』日本語版
 
ピット・ハートリングの『カード・フィクションズ』なのですが、先日英語版で増補改訂版が出ました。訳担当のひといわく、日本語版の再版をするときは、それを底本にするとのことでした。で、いま作っているらしいです。ていうかもう印刷依頼出してるとかなんとか。
 
2019.0529追記:できたらしい。
【前の版も買ってたよ、というきわめてレアな方たちへ】
一応本人もチェックするそうですが、該当する奇特な方がいらっしゃったら「前、教授の戯言の物販で『Card Fictions』スタンダード・エディション買った○○でっす」みたいなことをコメントを頂きたいと。確認次第4桁円の割引クーポン出します、と。次以降のお買い物じゃないと使えないですが、ご利用頂ければ幸いです。
 
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まいど、富山です。2017年に在庫払底して以降、絶版としておりましたPit Hartlingの『Card Fictions』日本語版ですが、底本の増補改訂版が2019年に出まして、その内容で再作成をいたしました。今回の増補改訂版では、"Finger Flicker"(2p), "Colour Sense"(2p) "Cincinnati Pit"(3p),  "Unforgettable"(5p)の4トリックでUpdated Handlingパートが加わっています(カッコ内のページは、今版でのUpdated Handlingによる日本語でのページ増分。そう、写真無しの文章部だけで12ページ増しなのです!)。当初、「Updated Handlingが後ろに加わってるだけだから、そこだけ追加で訳せばいいのでは」と思っていたのですが、やはり6年半も前に訳した内容は直したくなるもので、結局本編も全部見直し、修正しております。終盤、「ここも直してもいいですか?あそこも変えていいですか」と言いすぎて、組版お兄さんに「てめえいい加減にしろ(意訳)」と怒られてしまいました。組版観の相違による喧嘩別れは避けたいので今回はこのへんにしといてやるぜ(ぼろぼろのナリで)。全体的に読みやすくなっているはずです。
 
6月上旬あたりから頒布開始したいと思います。ていうかあれですよ、6月9日にはピットの東京レクチャーがありますし、めっちゃ楽しみなのです。『In Order To Amaze』日本語版は間に合わずでごめんなさい。秋ごろには出せたらいいのですが。すべては京都の方の気力と、査読メンのスピードにかかっております。いや、査読を誰にお願いするかすら未定なんですけど。
 
ピットのメモライズド・デックの本『In Order To Amaze』のこともありますし、今回の"Unforgettable"のUpdated Handlingのこともあるしで、「いよいよ本気でネモニカを憶えねばなるまい」と思いまして、憶えました。1日で憶えられました。というか福岡出張の際の往路航空機の中で、『異世界おじさん 第2巻』を読んだあとからなので、実質1時間ちょっとのはずです。マジックマーケット2019ではタマリッツ・スタック入門の冊子として『ネモニカ学習帳』を頒布しようかと思います(並び、組み方、暗記語呂合わせ、簡易チェック法、バックアップ方法等々)。
 
読者からのよろこびの声:「このノートを作った直後にはもうネモニカを全部言えるようになっていました。素晴らしいです。『七咲逢は水泳部』です!(7枚目はスペードのA)」(東京都 手品本訳したりするマン) 
 
まあ自分で考えた語呂合わせですし、そりゃ憶えるのも早いだろうよ、という話なのですが。あとタイトルのダジャレを言いたかっただけじゃないのか説もありますが、実はもう24ページくらいの薄い本はほぼできています。今年は行けるかどうかかなり怪しいですが、最悪どこかに委託しようかなと。マジケまでにはカルテットも憶えたいと思います。その内容も入れられるといいのですが。アロンソン・スタックをせっかく憶えたのに、それを活用した手品をついぞいたしませんでしたので、今回は頑張りますよ。本当です。

Nicholas Lawrence クラフトワークショップ

Nicholas Lawrence クラフトワークショップ
 
 
2019年5月4日土曜、快晴、ニコラス・ローレンスのクラフトワークショップに参加しに、桂川新平さんの居城こと、名古屋のLa Campanellaに行ってまいりました。備忘がてら記すものなり。
 
 
ニコラス・ローレンスというと、私は"Reduction"しか知らず、これまた解説を見てみて、「なかなか難物だぜこれは」「ていうかどうなんだこれ」という感想であり、かつご本人がデカい、ヒゲ、めっちゃ入れ墨、怖そう、という感じで敬遠しておりまして。ただ、昨今話題のMHさんの心の師匠、みたいな感じと聞き、MHさんの秘密の一端に触れられるのではないか、あとGW予定入れないと絶対家で不毛なことしかしないし、のようなテキトーな理由で東京から名古屋まで行ってまいりました。日帰りで。速いぞ新幹線。結論から言ってめっちゃ良かったです。あとニコラスめっちゃ優しくて丁寧で、いらしていた手品家の将魔さんが「ニコラス、商売っ気なさすぎて逆にこっちが不安になる」というくらいの方でした。風体とのギャップ大きすぎ。
このレクチャーは、レクチャーではあるのですが、みんな教わったもの(ギミック)をその場でニコラスさんの直接指導の元で作る、という、私にとって初めての形式でした。La Campanellaにおいても初らしいです。大人数で工作するとか、中学の技術の授業以来じゃなかろうか。あとみんな出来に差があってそこも面白い。ニコラスのマジックは基本的にクイック&ビジュアルを地で行く感じなので、現象も長くて1分程度です。一部を除いては角度に強いものも多く、ストリートでの実践で実証されているのは伊達じゃないなと思いました。典型的な東海岸仕様のストリートマジックらしいです。
 
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01. Evolve
演者と観客が1枚ずつカードを選んで4つ折りにするが、位置が何度もビジュアルに入れ替わる。最後に普通に手渡して(!)終われる。
のっけからやばい。現場で見て目を疑いました。ていうかこれは工作がなかなかに難度が高かったですが、作ってみると自分でやっても笑えるくらいに変わる。テーブルに置いて、指でパシッと弾くともう青いカードが赤いカードに変わってるんですよ。おかしいですよカテジナさん。なんだこれ。正直コレやってるだけでもう楽しい。ご本人もこれはよくやる、と仰っているだけあって、目まぐるしく変わるのですが現象はごたつかず、やはりうまいものだなあと。ギミック単体としてはこれが一番好き。超楽しい。
 
 
02. Card Under Box
カードをスイッチするマシーン。
ラブアダブダブの動作で、消さないでスイッチできてしまうギミック。これはEvolveほどではないけどやっていて楽しいです。位置的にやっていることは見えなくもないのですが、これもひとりで「唐突に箱の下にカード1枚を挟んだり消失させたり」して楽しいです。
 
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Intermission_a:Typhoon Solve
Akioさんによるルービック・キューブのマジック。バラバラなのを示したキューブの対角を左手の親指と中指で保持し、それを右手でくるくると回すと揃っている。
いちアイディア、と仰っていましたが、アイディア時点できもい。手順として完成したら一体どうなってしまうのか。めっさ不思議。
 
 
Intermission_b:(タイトル未詳)
将魔さんによるルービック・キューブのマジック。バラバラなのを示したキューブを左手で持ち、左右に何度か振ると揃っている。
エンドクリーンで簡単らしい。……本当かな?「ぼくは本当には揃えられないので」まじか。同志がw いや、私は何度かできるようにはなったんですが、普段人前で手品、しかもルービック・キューブなどやらないので、解き方を覚えていられないのですよね。困った。
 
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03. Jumping Ink(Download 2.0?)
観客にサインしてもらったカードに演者もサインをし、デックに重ねて軽く振ると演者のサインだけが移り、観客のサインだけが残る。そこにまた演者のサインを戻す。
鮮やか。何より簡単なのと、ニコラスいわく、「めっちゃウケるのでトリにもいいよ」とのこと。自分のサインしたカードで現象がビジュアルに起こるので、確かにそうだな、と。これは正直、最初スライハンドでもできるのではないかと思ったのですが、ビジュアルさが段違いな気もしてきました。己の汚れきった手品観を痛感します。
 
 
04. Flap Card
ニコラス式フラップ・カードの作り方。
エラスティック・スレッドを使わない……だと……?現場で、同じ材料を使っているのですが、私のが振らないと戻らない出来なのに、MHさんのは放すと跳ね上がるくらいの勢いで変わってて草。加えて、1チェンジでこの大変さなのですが、MHさんって動画拝見する限り5回チェンジとかやるじゃないですか。どうなってるんですかねホント。あれは別の作り方なのか?あ、書くの遅くなりましたが、MHさんが現場に来られており、ティーチング・アシスタントみたいな感じでした。「MHさんの動画のトリックはCG、なんならMHさん本人も実在しないCGキャラクター」説を掲げていたのですが、なんと実在しており、なおかつ現場で高クオリティのものを作り上げており、演技までされていて「ホンモノはやっぱ違うわ」と思いました。なお、同じ材料を使っているのになぜここまでの差が出るのかw ニコラスに、「改善するかは分からないけどちょっと貸して」と言われ、1分くらいで戻してもらったら、かなりきれいに変わるようになっていてニコラスSUGEEEEE!&おれYOEEEEE!な感じでした。なぜなのか。というかあれはギミックというか、ニコラスのテクがうまいせいではないのか。ないのか。。。
 
 
05. Vanishing Card(タイトル未詳)
左手でカードを1枚立てて持つじゃろ?右手でカードをの前を下から上になで上げるじゃろ?何も起こんない、そりゃそうよ。でももう1回やるじゃろ?そうすると消えていくんだよ、カードが、下から、徐々に。で最後何も無くなる。
やばい。なんだこれ。きもい。レクチャーDVDでの動画を見直すとやっぱきもい。動画で見たらCGだろとしか思わないのですが、生で見てしまった上に自分でもギミックを作り、下手くそながらも途中まではかなり消えているのを見ると信じざるを得ない。
 
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おまけ_a:Unboxing
デックが箱ごとカラチェンする。変わったあとのデックを箱ごと渡せる。
当然ギミックを使うのですが、処理が見事でした。デックを渡せるところに驚いてしまい、まるで気づきませんでした。
 
 
おまけ_b
お札を借りて破るが繋がる。ちゃんと返せる。
現場で見て目を疑いました。ギミックの作り方を聞いて、これはちょっと高額紙幣ではきついぜ、と思ってしまいましたw しかしめっちゃクリーンに、かつビジュアルに繋がります。1000円札でなら作ってもいいか。アメリカは1ドル札があるのがいいよなあ。
 
 
おまけ_c:Blade
カード3枚でやる美女の胴体切り。
これは生で見ると現象のクリアさが凄かったです。最後に全部渡してしまうところもびっくり。家帰って、買った商品の解説DVDを見て、あー賢いなーと思いました。現象のわかりやすさ、仕組みの巧妙さ、処理のしやすさなど、大変いいトリックだと思います。自分でもやろうっと。
 
 
おまけ_d:On/Off Revisited
指輪のマジック。指輪が指から指に飛び移ったり指が取れたりする。何を言ってるか分からねーと思うが(ry
不思議すぎてしゅごい。角度が厳しいらしいのですが、少なくとも私が見たポジションからだと不思議しかなかった。解説をDVDで見たのですが、私あのかたちに指を保てない気がする。練習でなんとかなるのか、あれ。
 
 
Intermission_e:The Rising
デックの横に挿したカードが振るだけで上がってくる。それから両手で1枚と残りとのトランスポジションが起こる。
現場で見て目を疑いました。どういうギミックかと思いましたが、これは参加者に借りたレギュラー・デックで行われており、帰宅後DVDの解説を見てため息が出ました。まじか。知っている原理というか手法なのに、まったく気づきませんでした。いや、知ってるけど、あんな風にはできませんし、ギャグにしか使えないと思っていました。Oh...
 
将魔さんのコメント通り、クリエイターズライブ(2015)はレクチャー不慣れ感が可愛いw
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通訳はホストの桂川さん自らが行われていましたが、途中途中で「ちょっと待って、え、なんでなんで」「いま変わったよね?瞬きとかしてなかったよね!?」「はー、賢いわ……」とか、素で感想を述べるマン(しかも日本語)になってて笑ってしまいましたw 「桂川―、仕事仕事ー!w」
 
私はDVDでしか見たことがなかった碓氷貴光さんがいらっしゃって、名前呼ばれてちょっとビビる。「すみません!現在自力でルービックキューブが解けない上に、この2年、ヘックラウの"Easy Cube"しかやってなくてすみません!」(CV:加賀愛) Penguin Lecture出てるとかかっこよすぎます。
 
世界の真田豊実がいましたよ!なんか面白いおっちゃんがいるなー、どっかで見た感じはするけど、とか思っていたら真田さんでした。「本、買いましたよ」とか言われて「あ、ありがとうございます!」と震えましたが、何を、までは聞いていないので『ASIS』でないことを祈るばかり。なお当方も、ゴジンダボックス等を買わせて頂いたことがあります。さておき、ニコラスのカードが1枚スーッと消えるやつ、あれサナダギミックとの相性抜群だと思うんですよね。もしくはガスタフェローが"Solo"で使っていたあれとか。消えた後に完全に両手のひらをあらためるとかできちゃうですよ。Wow!
 
通訳サポート?でフレンチドロップのベンさんもいらっしゃいました。「東邦さんとベンさんのクラシックフォースのレクチャーは買いましたよ!まだ見てないですけどね!」と言ったところ、カードを1枚引いてテーブルに置かされ、右手で1枚、左手で1枚それぞれ引かされ、最後に口で1枚挟むように言われて言われるままにそうしましたが、表にしたら全部エースでやんの。なんだこれは!悪夢か!もしくは新手のスタンド攻撃を受けているのか。
 
 
夕食会の味噌煮込みうどん屋さんに同行はしたのですが、新幹線の終電の都合があり、お土産に味噌煮込みうどん2つだけ買ってお暇いたしました(味噌単体の味が強いのかと思いきや、かつおのだしがきいていてとても美味しかったです)。日帰りでの名古屋でしたが、素敵な方たちにいっぱい会えた上に、手品も総じて不思議で、大変充実した週末となりました。実際にギミック作るまで帰れないレクチャーとかも面白いですね。
 

復活ッ!カードカレッジライト復活ッ!

*[販促] 『Card College Light』再版

 

富山です。昨年秋に払底しておりました『Card College Light』ですが、ジョビーとのやり取りと契約の結果、第2版作成の許可が出ました&刷りました。当然のことながら、初版より少部数の製作ですが、ご興味のある方や先般買い逃してしまった皆さま、この機会にお手にとっていただき、お楽しみいただけたら幸いです。

magic.theshop.jp

 

 

『Card Fictions増補版』が先日出まして。日本語版は絶版というか在庫払底なので、再版はこの増補改訂版を底本として出したいな、と。増補部分だけ見直せばいいしラクだね、と思っていたのですが、結局全部見直しています。結果、誤訳も何箇所か発見して泣きそうですが、正確さも読みやすさもパワーアップしたと思います。しかし読み返すほどに思いますが、良い本ですね、これ。今年には出せると思います。今年6月のピットのレクチャーツアーまでにできるかな…!?

『Card College Lightest』訳中。今年には出ると思います。未契約ですが、いつでも契約できます。ワシは持っておる……っ!『Lightest』出版の優先交渉権と、他の方からジョビーへの『Lightest』権利取得交渉に対する拒否権を……っ!(本当) まあ誰もやらないとは思いますけど。

『In Order To Amaze』校正依頼中。6月のツアーまでに出せるね、と思っていたのですが、そう言ったら校正マンおよび組版マンから、「「無理に決まってるだろ!」」と怒られました。が、今年には出せると思います。問題は原書と同じような造本にすると、お金が凄いことになるところです。ドキドキですね。「持ってくれ……おれのカード限度額……ッ!」

そして、先日何故か電話で直接話す機会があり、ダメ元でお願いしたらOKを頂けてしまい、後日翻訳出版権も正式に買ってしまいました、Guy Hollingworth『Drawing Room Deceptions』……!ガ、ガイさまーーー!この本の英語、擬古文ちっくというかめっちゃ難しいのですがどうしましょう。。。。来年に出せたらいいなー。「洋書全部訳すとかドMの所業だが、1章とか1トリックくらいだったら訳に協力してやってもいいぞ」という方、いらっしゃいましたらぜひご一報ください。いま数名、協力してくれるメンのあてをつけました。「内容保証はしないけど、助けてあげなくもないよ」という方、ご連絡をお待ちしております。

二川滋夫『こいわきじゅつ』

二川滋夫『こいわきじゅつ 二川滋夫全集』

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こいわきじゅつ

いつか作りたいと思っていた二川滋夫さんの作品集ですが先を越されました。ぐぬう。東京は江戸川の小岩奇術愛好会60周年記念企画で、これまで二川さんが36年間にわたり、同会の会報『こいわきじゅつ』に寄稿してきた37作品をひとまとめにしたやーつが先般発売されました。くっ、それはワタシにはちょっと無理。レターパック配送で、全部コミコミで3,600円。安!ていうかホントに100均の手品より単価安いということで割と驚愕。先日のジョン・バノンの本『High Caliber』だってトリック単価なら250円くらいするのに!

 

表紙の二川さんが持っているカードが6と10で60周年なのですね。 

 

www.magichouse.biz

 

基本的にはカード系が多いですが、何より原理系が多いのが大変良いですね。二川さんは変態技法もやれるけど表に出さないというか、いかにしてより合理的で簡単に、首尾一貫した手法を取るか、のような創作姿勢なので、無理がなく辿れる手順が多いのも魅力です。その昔木本秀和氏が「二川さんほど手品のキズを見つけて、しかもそれをきちんと改良する能力に長けた人はいない」と評していたのを思い出しますが、二川さんの創作は完全オリジナルよりも、元ある土台に素晴らしい建造物を作り上げていくスタイルが多いのも頷けます。(※なお、その話を二川さん本人にした際、「高木重朗先生はボクよりそういうのうまかったし、カプスはさらに上でしたね。まるで勝てる気がしません」と仰っていました。まあ高木先生はさておき、カプスはほら、マジシャンオブマジシャンみたいなものですし。神、いわゆるゴッド。)

 

初期の冒頭ふざけ感満載の二川節が好きなのですが、2000年代になってからあまりおふざけがなくなり寂しい。「私の奇術への関わり合い方は、創作奇術の偏重から、次第に今までにある奇術をより楽に、よりタネがばれないように、より面白く、より簡単にし、そしてより完全なものにしていきたい、という実戦を尊重する方向に変わってきました。」(1988) 「此頃、奇術というものは余り数多く覚えても仕方がないのではないか……、少なくてもよいから、より効果的で、より巧妙なものへと改良していき、それを身につけて演じたほうがよいのであろう……と考え始めてきました」(1989)などと真面目な話を書いてらっしゃいますが、前の原稿になるほど「ワタシ達の住む地球、忘れもしないで回転を続けて、マタマタ秋がやってまいりました。恐怖の小岩奇術愛好会の会報原稿の締め切りの季節なんであります。(略)原稿用紙に1文字も記入せぬまま、9月下旬のタネン・ジュブリーに参加のため、ニューヨークに逃げ出しちまいました。(中略)ベンザイスというのは、武田製薬のカゼ薬でもなく、便座椅子でもなく奇術師の名前なんであります」(1984)などの調子がいいのにw

 

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収録作品:

※冒頭の難易度は編集委員の独断だそうですが、「二川先生にお聞きしたら『すべての作品がやさしい』とのことでした」だそうで、まあそうでしょうよw

※基本的にはカード・トリックですが、テーブル下で足指まで駆使するコイン・トリックなどもあり侮れません。烈海王かw

 

難:わいるど・かーど
易:「あなたの,イジワルうッ!」
易:THE BABY PREDICTION
易:即席の完全魔法陣
易:13の不思議-2005
易:NUMEROLOGY
普:スイミング・ウィズ・フレデリカ(短縮版)
易:クアドラプル・マッチング
易:61円のトリック
易:LIE-SPELLER II
易:フォア・オブ・ア・カインド
難:ダイヤモンド・カット・ダイヤモンド
易:ラッキー・セブン
易:覚えたカード・忘れたカード
普:あなたのかあどはこれです!
普:チューンド・フォーチュン
易:Ten Second Discovery
易:バミューダ海峡冬景色
易:除外(Exclusion)

易:DICE PREDEICTION
普:CARD RISE JUST IN CASE
難:ミステリー・カード
普:A NOVEL CARD TRICK #3
難:コイン・スルー・テーブル
普:まぼろしのコイン
普:FLOATING KINGS
普:THE STRANGE PREDICTION
普:EASY NO-THROW MONTE
普:LARSEN'S ACES
普:CLEAN CUT
普:Danny TongのACE ASSEMBLY
易:一致する4枚のカード
難:A FOUR ACE ENSENBLE III
普:EZ・コレクターズ・プラス
普:アウトスタンディング・トライアンフ
難:これでもかっ,エレベーター!
易:スペリングで4枚のAの取り出し

 

 

 

John Bannon『High Caliber』

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アメリカのマジシャンにジョン・バノンというひとがおりまして、彼の著作としては以前『Dear Mr. Fantasy』の邦訳版が出たりしておりました。

kyouju.hateblo.jp

その本以降に出していたレクチャーノート9冊分40トリックをまとめ、2013年にハードカバーとして出したのが『High Caliber』。その名の通り、デカイやつです。それの完訳日本語版が出ます。あ、カード・マジックの本です。ちょっとだけコインもありますが。
 
原書は、訳のひとがシカゴに住んでいたタイミングで出版されたものです。ちょうど『DMF』の日本語版もそのあたりで出ておりました。現地で憧れのバノン先生に色々見せてもらって舞い上がった彼は、「『Mega 'Wave』は訳し済みだし、それはつまり2割くらい実質コピペで済むだろうし、こいつは余裕だ。よし、ハイキャリバー完訳、行っちゃうか!」という甘い皮算用を胸に帰国したらしいのですが、彼は2点見誤っていたのですね。
まずサイズ。『DMF』は日本でいうだいたいA5版をちょいと大きくしたくらい。対して『High Caliber』はB5サイズくらい。単純計算、面積比が1.5倍になるわけです。校正刷りが届いた彼は、「これ、A3で170枚くらいだと思うんですが、半分に折ったら拳銃弾程度は止まる厚みだと思うんですよ。300枚以上のコピー紙ですよ、プロデューサーさん!」とか言っておりました。評価指標がよく分かりませんが、まあとにかく分量が多い。
もうひとつは『Mega 'Wave』ぶんはコピペで行けるだろ想定、これがまた、当時と訳し方(というか文体)も変わっているわけで、そうすると他と合わせるためには結局全部訳し直さないといけないのですね。もちろん、『HC』自体がレクチャーノートの合本みたいなものなので、それぞれの中での文体や雰囲気の違いなんかはあってもいいとは思うのですが、まあそうも言ってられないよね、と。つまり、貯金などないのだ、ということです。
 
かつてない分量を相手に査読・校正を行うなかで、まずこざわまさゆき氏がさりげなくフェードアウトし、岡田氏も別件等(ex. ガルパンの映画を見に行く)で2年弱行方知れずに、訳者氏もジョビーだなんだに浮気をし、「貴社で出したいのですが」というメールを東京堂のご担当者が数か月見逃していたり、という諸々のファクターが重なった結果が今回の出版になります。みんながフルで対応していたら2015年から2016年にかけて出せていたのではないか説。まあ、結果論ですが。
 

  

訳者氏は「バノン本、アマゾンで見たらついに税込みで5ケタに突入」ということを人づてに聞いて「おいおいマジかよ。ダンスパーティーじゃねえんだぞ」とか、ハリウッダーっぽく錯乱しておりました。まあ原書は60ドルくらいだし、絶版だし(Amazon.usで千ドルちょいのプレミア価格を見ました)、DMFのとき「原書より安くなってんじゃん」、というようなこともありましたので、まあそれはそれでと思わなくもないですが、やはりライトな層は尻込みする値段ですね。バノンらしい練られた作品が40トリックなので、トリック単価的には別に高くないというか安いとは思いますし、レクチャーノートをバラで買うのの半額以下だし(それぞれのノートの原書はとっくに絶版ですが)、DVDとかの単品トリックで売っているものもかなり色々解説されているので、私は納得はしました。皆が納得するかは知らぬ。ひとつひとつたどれば、長く楽しめるのは間違いないです。
 
 
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富山です。ジョン・バノンの『High Caliber』を訳しました。大変膨大でしたし、値段設定にも正直驚きました。自分を含めて、基本的には本は1回ザーッと読んで終わり、という人も多いと思うのですが、本書は極めて良く練られた作品が多いので、一晩に1トリックとか、週末に1~2トリック、のようなペースで読んだり触ってみたりされるのが、とても贅沢な楽しみ方になるのではないかと思います。アクロバティックな技法はなく(ゼロではないですけど)、数理や技法の組み合わせもあれば、彼が当時絶妙な使い方をしていた、実にいやらしい「不整合」を駆使したものもあります。校正を兼ねて何度も何度も彼の手順をたどるたび、その賢さ、無理のなさ、ズルさを感じることができました。現象の面白さと、その実現手法のセンスが本当に心地よく、「うまくできてるなあ」と感心することしきりでした。自分史上、最もワークをかけた労作ですので、皆皆様にお読みいただければ幸甚です。……ホントに頑張ったんです……。
 
あとみんな大好き"Play it Straight"は、"The Bannon Triumph"って本人が改名したので、みんなでバノン・トライアンフって呼んであげてください。「あんなに流行って有名になると知ってたら、あの作品には最初から自分の名前をタイトルに冠しておくんだった、ぐぬぬ……!」って子供っぽいボヤキをされていたので(笑)。
 
追記(2018.1105):手元に4冊ほどあり、ほんの少しですがお安く頒布できます。直接お会いできる方は9千円、郵送の方は9200円で。ご興味ある方はコメントか、教授の物販にあるアドレス、TwitterのきょうじゅアカウントのDMなどにメッセージ頂ければと思います。
追記(2018.1110):おしまい。おまけでMega ’Waveで使えるパケット20枚くらいもつけておきました。さておきありがとうございました。
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とのことで。まあ、こうまで広まってしまった"Play it Straight"の改名は難しそうですけどねw 
 
 
 緑の蔵書票さんで、端的な、そしてしっかりとした書評があるので、ご参考に。
 
追記(2018.1113):ほんわかさんでべた褒めされていたので。ありがたいことです。訳者も浮かばれるでしょう(死んでない)。

 

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収録内容:Contents
Fractal Card Magic (2008) 
     The Royal Scam
     Duplicity
 
Six. Impossible. Things. (2009) 
     Counterpunch
     Four Faces North
     Watching the Detectives
     New Jax
     Full Circle
     Origami Poker Revisited
     Riverboat Poker
     The Einstein Overkill
 
Open and Notorious (2009) 
     Opening the Open Prediction
     Fifty One Fat Chances
     Que Será Será
     View to a ‘Skill
 
Mega ‘Wave (2010) 
     Mega ‘Wave
     Fractal Re-Call
     Short Attention Scam
     Mag-7
     Fractal Jacks
     Wicked! (Transposition)
 
Bullet Party (2011)
     Bullet Party
     Bullet Catcher
     Drop Target Aces
     Four Shadow Aces
     Flipside Assembly
     Big Fat Bluff Aces
     Box Jumper
     Fat City Revisited
     Poker Pairadox Redux
     Question Zero
     Elias Multiple Shift
     Crocodile False Cut
     Flytrap False Cut
 
Triabolical (with Liam Montier, 2011)
     B’rainiac
     Short Attention Spin
     Montinator 5.0
 
One Off 
     Aces Over Easy (2010)
     One of the Better Losers (2012)
 
All In (MAGIC Magazine,February 2012) 
     Chronic
     Buf ’d
     Origami Poker Revisited
     Ion Man
     Bannon at the Sidebar (Raj Madhok)
 
Shufflin’ (2012)
     Spin Doctor
     Power of Poker
     Bannon Triumph
     Fractal Recall (Remix)
     Origami Prediction