マークト・デック嫌いとか、メモライズド・デックなんか使えないとか言う人もいますが、たぶん食わず嫌いというか、本当に良いのを見たことがないだけだと思います。私はEffect is Everything派なので、使えるものは何でも使えばいいし、変に枷を設けること自体がナンセンス、という思考。ともあれ、どのメソッドであろうと、その道の第一人者レベルのはどれも魔法です。
解説冒頭、ピットが「これは『In Order To Amaze』という私の本に載っている1つ目の作品です。これらはじきに日本語で読めるはずです」と言ってこっちを見たので、当然集まる視線。みんなの視線が痛い。「がんばります」としか言えないです。「がんばります。がんばります。もっともっとがんばります……!」(CV:島村卯月) こざわさんに査読をお願いしたら断られたので(こざわ「ええ?メモライズド・デックの現象チェックとか面倒」)、誰か探さねばならないです。誰か。
フォールス・シャッフルについて。休憩中に私も質問したのですが、ハートリングは注目を集めていないときはリフト・シャッフル(バノン先生の影響で私もよく使う)を使っております。これは表向きで行うことで色々なフェイスが見えて混ざっているのをさり気なく見せつつ、どのカードがどの位置になるかを把握可能、というメリットがあります。逆に混ぜている様子を強調したいときは、ゴードン・ブルース、もしくはパーシー・ダイアコニスどっちかの考案したオーバーハンド・シャッフルを用いているとのことで。この後者のシャッフルがまた本当に混ぜているとしか思えず。とても詳しく知りたいのですが、それが載っているという『Five times Five Scotland』が手元にない悲しみ。まあいずれ入手してくれようぞというところで。(2019.0616追記:入手。練習し始めました。)
予約時に特に発番がなかったので、着席が入場先着順だったらどうしよう、と思い、開場の40分前に行く。訳本を出している身としては意地でもいい席に座りたかったのです。大人げないのは理解しています。1人並んでおられたが、私は少し離れたところで会場前を監視しながら『In Order To Amaze(以下IOTA)』の自分の訳文を読み返しながら時間を潰していました。分かってます、自分でも思います。キモい。その後並びましたが、開場予定時刻の10分~15分前に入ったところで入れてもらえました。予約順で1列目2列目3列目とだけ分かれていたようで、私は1列目でOKでした。そして席の配置を見てまずびっくりする。演者のテーブルの若干うしろまで、240度くらいの円弧を描いて席が配置されているのです。「え、マジで?」みたいな顔を見られたのか、受付をされていたポン太さんが「どこに座ってもオーケーです。ノー・アングルだそうです」と。なんだそれは。そんなカード・マジックがあるか?とりあえず最前列の中央を外した位置に座る。
元はちょうど100年前、1919年のチャールズ・ジョーダンの手紙越しマジックを、手紙なし、現場で行えるようにしたもの。さっそく来ましたぞ、クソ不思議なやつが。ひとりしか引いたカードを知らない、別の人がカードを複数回シャッフルする、これで見つけるわけですよ。シャーロック・ホームズの有名な台詞、「ありえないことをすべて取り除いていけば、あとに残ったものがいかにありえそうもないことであっても、それこそが真実にほかならない」('Once you eliminate the impossible, whatever remains, no matter how improbable, must be the truth.)とか言いながら、「選ばれたことのないカードを捨てます」「ときどき選ばれるけど、あなたは選ばなそうなカードも捨てます」「残ったのがあなたが選ぶ可能性があるものですが、日曜には選ばれないやつはどけましょう」「残った、あなたが日曜に選びそうなカード、それもこのトリックで選びそうなのは……」と、どんどんカードを捨てていって、最後に当てちゃうのです。原書ではクライマックス、「『初歩的なことだよ、ワトソン君』("Elementary, my dear Watson")と言いたくなる誘惑に抗おうね」と書いてあるのに、ピット、言ってましたねw「Elementary, Watson」と。キメ台詞を言う誘惑に抗いきれなかったとみえますw
なお解説前に「皆さん、やり方は知っていますか?」ときたので、おずおず手を挙げたら「そりゃキミは知ってるだろwww」と笑われました。参加されていたこざわまさゆきさんが挙手して「I am proofreader(査読者です)」と言ったので、同じく参加されていた齋藤さんを「He's the editor and the designer(おまわりさん、この人、組版/デザインマンです)」と通報紹介しておきました。同じ部屋に『CF』の訳者、査読者、組版/デザインマンが居るという変な空間。「きみらが説明しなよw」とか言われてしまいました。説明は可能っちゃ可能ですが、実演自体そんなふうにはできないですw
休み時間中にMajilさんと立ち話。「私、Master of the Messはリクエストしようと思うんですよ」「あれは見たいですね。あとはあれです、カルテット、あれ実演見たくないですか?」「見たい、めっちゃ見たいです。ていうか正直あれは机上の空論というか、『まあね、実際にやったらそうなっちゃうのは、しょうがないよね』くらいにはなるんじゃないかとは思ってるんですが」「ええ。僕もそう思います。絶対無理ですよね」「……Identity、見たいな……」「The Illusionist!フェイクムーブどうやるのか具体的に見たい」「あああ、本のやつ全部見たい」などと、好き勝手なリクエスト案を話していたら、唐突に野島さんが参入、「ぼくは……エピトム・ロケーションが見たいです」とか言い出すw 「Triathlonですね」「あ、いや、なんならエピトムのとこだけでいいです」なんじゃそらw Majilさんの「いやあ、見てて思いましたけど、アタマいいだけですよピット」には笑うw
観客というか場のコントロールについて、「あなたが場をコントロールする、仕切っていい」(You're in charge.)という、このあともちょいちょい出てくる言葉がありました。思うに一般的なマジシャンは観客のイレギュラーなどを気にしすぎなのかも知れません。名高いマジシャンはだいたい場のコントロールが絶妙に上手いですよね。
カナダはトロントを拠点に活躍されているマジシャンだそうで、ヒゲにロン毛ですが33歳と。アードネスやヴァーノンの研究で有名というか、例の『Expert at the Card Table』の研究家でもあり、かつそこに載っているものを全部できるという変態凄いひとです。 端的に言ってめちゃめちゃうまい。いくつも、目を凝らしているのに全くわからない、というものもありました。セカンドディールとか、あのゆっくりさでやられても分からないものなのかと震える次第。私の好きな、ゲラゲラ笑って不思議で楽しくてしょうがない、という類ではなく、「あ、この人ガチでクラシックの技を研ぎ澄ませてきたマンだ……!」という感じでした。多分、若くて、技法とかテクニック好きな人にはズドンとくる気がします。
あとA Trick for Chuckという、チャールズ・ジョーダンのトリックのバリエーション的なノートを持ってきていたそうなのですが、部数が少なくて物販には乗らなかった模様。コバルトは、基本的に会ったことない人にはノート売らない、ほしければ来るかレクチャーに呼ぶかしてください、みたいな考えの人だそうで(であるがゆえに堀木さんは「じゃあ呼ぶわ」になったのですが)、ホイホイ買えないのですよね。インコンビニエントな感じもしますが、しかし手品の秘密というのはこういう風に出口や価格などで制限すべきものな気もします。気骨がある感じ。
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レクチャーは以下のような感じで。( )内の数字は上の掲載ノート。
01. The Silly Little Rubber Band Trick(①) 輪ゴムトリック。不思議さよりも掴みという感じ。見た目の正しさと感じる正しさの違いについて。「観客の知性に挑戦するようなことはしない」になるほどー、と思いつつ、いや、ギャンブリングデモってまんまそういうものではないだろうか、と思ったりなんかしないよ絶対。
02. The Cream Control(②) カードのトップ・コントロール。一瞬ルージング・コントロールみたいなのかなと思ったがちょっと違いました。いい具合に正々堂々真ん中に差し込んだ感がある。ネタバレだけど本当は違うんだ。
04. The Helium Control(②) カードのコントロール……というか厳密にはチェンジな気がする。イロジカル・ドリブル・フォースみたいな手法かと思いきや、そういったかたちでやりたくなかったので、とのこと。観客の目の前で、いま見せたカードをもう片方のドリブルに投げ入れるが、最終的にはトップに来ている技法。大変ディセプティブ。問題はちょっとプッシュ部分がきれいにできないんだよねえ。「コツはね、観客の目にレーザービームを打ち込むんだ!」(コバルト・談)
05. Dingle’s Riffle Shuffle Control(②) リフル・シャッフルベースのコントロール。ディングルの手法だそうです。厳密には違うのか、はたまた単にダローが間違っていただけかは知りませんが、これ『Encyclopedia of Card Sleights』の早い巻で見た気がします。ステランコとかなんかそのへんの、結構クラシックな手法だと思っていたのですが。それこそマジシャンよりも前にギャンブラーが使ってそうな。ディングルほど新しくはない気がしますが、何か私の知っているアレとはやり方や概念が違うのかもです。
08. Sleeving for Dummies(①) コインのスリービングについて。「世の中のコイン技法、特にスリービングは難しすぎるし、解説も失敗させたいのかと思いたくなる書きっぷりです。私のは確実安全」ときて、「ほわああ、シェーンニキ最高や」とさせといて、何度か袖からこぼすので吹くw オイイイイイ!と阪口大助ボイスで突っ込むところでした。きちんとうまくいくことがほとんどで、それは確かに綺麗に両手がカラになってよかったです。「世の中のコインマジックの、リテンションバニッシュはどう考えてもおかしい位置で握ったりするよね」との切り出しからのコバルトのバニッシュは力みがない感じでよかったです。というかコインを持って反対の手に渡す、ということから考えたら、そんな行為はぞんざいであってしかるべきだという気はする。ほら見てほら見て、握るよ―?みたいな流れはまた別の意図、見せたいポイントがあるのでしょうが、そこはコインをほぼやらない私からしても変だと思うのですよねえ(※個人の感想です)。転がしながら引き込むやつと、ダウンズ的なポジションから指を開くだけ、というのは私も手遊びでやる方法に似ていたので、やったぜ、とか思いました。私は人には見せませんけど。
09. Coins Through The Table(①) コインスルーザテーブル。1枚、1枚、2枚の流れなので、最後は意外かつ早いクライマックスでした。このくらいのがいいです。なおコバルトさんはCTTTにありがちな、机にカツカツパタンやるのお嫌いらしい。ごめん私は好き(※個人の好みです)。いや「実際そんな音する?しないよね?ていうか物体を通り抜けるときになんで音がするの?」ってのはそれはそうなんだけどw それ言ったら手品のたいていの動作は怪しいのだぜ。
10. The Visible Deck(④) カードを1枚選ぶが、そのカードだけが表向きになる。続いて別のカードを憶えるが、それは最初から予言として置いてあった紙に書かれている。 こういうの、こういうギミック好きなの。すまない、ネタバレだがこれはギミックを使う。これに類するギミックは好きで一時期よく使っていましたが、あの側をあのカードにするとこういうことができるのかと大変わくわく。「ここでこのカードをひっくり返すと、手品やってる人は驚くんだよ」驚いたわ―、それがし、めっちゃ驚いたわ―。活用や工夫のしがいがあるギミックなのですが、このコバルトの使い方がシンプルで良い気がします。
6月上旬あたりから頒布開始したいと思います。ていうかあれですよ、6月9日にはピットの東京レクチャーがありますし、めっちゃ楽しみなのです。『In Order To Amaze』日本語版は間に合わずでごめんなさい。秋ごろには出せたらいいのですが。すべては京都の方の気力と、査読メンのスピードにかかっております。いや、査読を誰にお願いするかすら未定なんですけど。
ピットのメモライズド・デックの本『In Order To Amaze』のこともありますし、今回の"Unforgettable"のUpdated Handlingのこともあるしで、「いよいよ本気でネモニカを憶えねばなるまい」と思いまして、憶えました。1日で憶えられました。というか福岡出張の際の往路航空機の中で、『異世界おじさん 第2巻』を読んだあとからなので、実質1時間ちょっとのはずです。マジックマーケット2019ではタマリッツ・スタック入門の冊子として『ネモニカ学習帳』を頒布しようかと思います(並び、組み方、暗記語呂合わせ、簡易チェック法、バックアップ方法等々)。