教授の戯言

手品のお話とかね。

齋藤修三郎『The trick that cannot be named』

<【Warning!】本項は多分に提灯記事要素を含んでいます。>

 

齋藤修三郎『The trick that cannot be named』

【現象】「これからマジックをお見せしますが、皆さんはそのタイトルを当ててください」と言って始めます。演者はひらがなの書かれたカードをシャッフルしたあと、それを4人の観客に数枚ずつ渡し、できるだけ長い単語を作ってもらいます。それらの単語すべてが予言されています。そして観客にマジックのタイトルを答えてもらいますが、当たりません。観客の予想だにしなかった結末が待っています。

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第1段(これ)では、ひらがなカードから観客によって作られる単語を当てつつ、作品タイトルを観客に当ててもらう(当たらない)もので、同じカードを使った第2段『辻占』では選ばれたトランプも当てちゃう、という構成。不思議であるという要素の他に、観客とのやり取りがあること、ビジュアル的に現象が理解しやすいこと、ある程度の時間をもたせることができる、というのが本作の特長です。別にご紹介する"Triceratops"がどちらかというと「不思議」にステータスが振られているとすると、こちらは「楽しさ」「笑い」寄りにステータスが振られているという印象。どちらも、昨今流行りのCGみたいなクイック&ビジュアル、というものではありませんが、観客とのやり取りと笑いがあるのが個人的には一番の推しポイントです。私は手品を演じるときは観客と(に)よく喋るスタイルなのですが、そういったコミュニケーションの材料として本当によくできているのですよ。

 

齋藤修三郎さんのセールスアイテムに共通するのは、「演じる難度的には実はそこまで高くないのに、どう見ても不思議」という土台に、「つい笑ってしまう要素」が乗っかっている、というポイントだと思っているのですが、これも例に漏れず、大変実演に向いた作品だなと思った次第です。「ストイックなまでに緻密なコイン技法でレイマンをあっと言わせる手品」も否定はしませんが、私はどちらかというと面白さが前面に立っている、それでいて「なんで当たったんだろう、なんでこうなったんだろう」という不思議がうっすら香る手品、というのが好きで、本作はまさにそのイメージ。


私ももちろん、観客の方には「不思議だったなー」と思ってはいただきたいのですが、それよりも「楽しかった、めっちゃ笑った」という感想を持ってもらいたいので、そういうスタンスの方にはジャストフィットの作品だと思います。

 

また、本作はひらがなカード以外にも予言用の絵の数々があり、観客へ示すときもそういったものがあるおかげで、「トランプをいっぱい使っていた」「グネグネやってなんかカードが当たった」といった印象から逃れやすい、「ナードっぽい手品」ではなく、「エンターテイナーとしてのマジシャン/エンターテインメントとしてのショーを見た」のように思ってもらえるはず(※個人の感想です)。

 

唯一、無理に欠点というか「ここはなあ」、というのを挙げるとすると、ひらがなと日本語の単語を使うものなので、「日本語が分からない人には演じられない」というところでしょうか("Triceratops"も同様ですが)。私は「英語で演じるときはどう言うかなー」ということを考えながら手品の練習をすることが多いのですが(実際に英語で演じる機会はそうそうないのですけど)、本作はちょっとその方針からは外れざるを得ません。ただ、上述の通り敢えて欠点を挙げるとすれば、なので、日本国内で、ちょっとしたパーティーなどで演じるということからいえば、何も問題ありません。中学生からお年寄りまで対応可能でしょう。解説書も、齋藤さんの実演の経験・反応からフィードバック済みの演出や台詞まできちんと記述されているので、その通り演じるだけでも充分な反応を得られます(私も実演のみを見たことがあり、かなり笑わせていただきました)。サロン規模でのレパートリーを探している方(クロースアップでももちろんOK)、ある程度の時間を、笑いも織り交ぜつつマジックを披露したい、という方たち向きのトリックです。マジックマーケット2019ではD-7 メチャ凄サイトー にて、3000円ポッキリのお値打ち価格!「安ゥい!」「安いわね!」 これを見逃してあとから買うと税金が乗るよ!10月以降は10%になっちゃうよ!それはもう、マジケに行ったらその場で買うしかないじゃないですか!(取り置き予約もできるそうですが、詳細を知りませんので、分かったら追記しようかと思います)

 

実際に拝見した演技や、自分で練習してみた結果からいうと、クロースアップからサロンのスタイルで10~15分程度はもたせることができます。これは私のように、「サロンマジック頼まれたけど、演じるトリックどうしよう」と毎回迷う人間には福音になります。あと、最後になりますが、不思議偏重ではないトリックだからということもあるのですけど、基本的には失敗のしようがないように構成されているのが演じる側としてはポイント高いです。毎回、観客へ示す前にちゃんと並んでいるかなども堂々と確認できますし、しかも別にそれは不思議さを減じはしない、というのがいいですね。

 

日本人向けに、それなりの時間をもたせつつ、不思議と笑いをお届けしたい方、マストバイ!「なのだぜ?」(CV:牧瀬紅莉栖)

 

www.magiclesson.biz

 

 

取り置きOKだそうです。

 

カーティス・カム来日ツアー

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6月末から7月にかけて、カーティス・カム (Curtis Kam) 氏が来日レクチャーとのこと。以前主催者の方から今度お招きしますよ云々を伺っていた際、「えー、でもカーティスというとコインすごいおじさんでしょう?私コインとかそんなに詳しくもないのでよくわかんないですね」と言ったところ、「むしろコイン以外も全体的に強い」「マジで!」「分かったら来るのだ……」「ははっ」みたいな感じになっておりました。

私はコインで有名というイメージしかなかったのですが、実際には以下のような経歴で、コインはもちろん、クロースアップ以外にもめっぽう強いとのことで、これはもう凄いですね。コインマニアでない私にもいろいろと得るものがありそうで楽しみです。

ホノルルの4つ星ホテル「ハレ・コア・ホテル」のショー「Magician Paradise」の主役を13年務めたほか、有名レストランチェーンなどでスライハンドを駆使したクロースアップマジックをおこない、40年以上にわたり、ハワイの企業や個人を楽しませてきました。また、バレエハワイ、ハワイオペラシアターなどのためのイリュージョンもデザインしています。さらに長年にわたり、ハリウッドのマジックキャッスルやロンドンのマジックサークルなど世界各地でオリジナルのマジックのレクチャーをしています。

 

日本語レクチャーノートの翻訳および会場通訳は安心の二川滋夫さんです。

私「レクチャーノートは2~3冊出るのですか?」 二「いえ、1冊だけですね」 私「なーんだ、1冊ですか」 二「でも、50ページくらいあるんですよ……」 私「……多いですね……」 みたいな感じでした。「厚い!絶対に厚い!」(黄金バットナレーション風) ていうかほぼ2冊分じゃないですか。

 

日本ツアー2019日程:

6/30 東京(これ)

7/4 浜松(カーティス・カム氏浜松レクチャー: 日曜手品日記
7/5 名古屋
7/6 大阪
7/7 横浜(カーティス・カム 横浜(関内)レクチャー マジックハウス

7/7 横浜ワークショップ(カーティス・カム ワークショップ マジックハウス) 

 

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ハワイのKing of coin、カーティス・カム 来日!!

LosAngelesのMagic Castle、LondonのMagic Circleなど世界の第一線で演技すると同時に、世界中の有名コンベンションでマジック愛好家のために、その技術と理論を惜しげもなく披露してきた彼が、日本のマジック愛好家のためにレクチャーをおこないます。この機会にふるってご参加ください。


東京は基本30名限定となりますので、参加を希望される方は以下の連絡先にメールいただければ幸いです。
※人数を超えた場合には、会場の関係でお断りすることもございますので、なにとぞご了承ください。

 

■日時
2019年6月30日(日曜日)
18:00~20:00

■場所
新橋(TKP新橋汐留ビジネスセンター)B201

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カーティス・カムレクチャー地図

■内容
Magic castle でのアクトを15分 演技。
その他、彼の代名詞となっているDVD "Palms of Steel vol.1~5"の中からコインマジックを演技,解説。さらに、フルタイム プロとして活動していた中で、効果的でかつ簡単に演じられるカードマジックなど、時間が許す限り解説してもらいます。

■会費
5000円

■連絡先
inspiron2000@nifty.com

 

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ピット・ハートリング・レクチャー(2/2)

 

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■第3部:

08. Catch Me If You Can(『IOTA』)

マジシャンは、マジック界の鉄則を破って同じトリックを2回やってみようと思う、と持ち掛けます。1回目は指先の早業で、2回目はそれなしで。最初は、2枚の”探偵”カードがその手腕を発揮、観客に自由に言ってもらった”犯人”のカードを、シャッフルされたデックの中ほどから捕まえてきます。

そしてありえないことに、この探偵たちの同僚――開始時点からずっとよけてあって、パフォーマンスのあいだじゅう、誰も触れていなかったもう1つのデックの中にいる2枚――もまた、先ほど自由に言われたカードを捕まえているのです。

 ここからメモライズド・デックのマジックがバンバン来ます。私、そんなにメモライズド・デックを使った手品を見たことがないというか、メモライズド・デックを使いこなすマジシャンにあまり会ったことがないのですが(もちろん、映像なり本なりでは多少ありますが、テクニックやギミックと比べればやはり圧倒的に少ない気はします)、そのファースト・コンタクトがピットだったのは僥倖でした。

いや、ボリス・ワイルドといえばマークト・デック、みたいな感じで、"この人はメモライズド・デックを使う"と分かっていたらそんなに不思議に見えないのではないかな、と思っていたのです。杞憂でした。後述しますが、ピットは暇さえあればさくさくとオーバーハンドタイプのシャッフルをしており、常に混ぜているようにしか見えないのです(なんならフォールスではなく本当に混ぜていることもあるので始末におえません)。また、メモライズド・デックだとしたところで、一体どうやって実現しているのかさっぱりわからないマジックばかりで、これが上手い人が使うメモライズド・デックのやり方・演じ方なんだなあと感激した次第。

マークト・デック嫌いとか、メモライズド・デックなんか使えないとか言う人もいますが、たぶん食わず嫌いというか、本当に良いのを見たことがないだけだと思います。私はEffect is Everything派なので、使えるものは何でも使えばいいし、変に枷を設けること自体がナンセンス、という思考。ともあれ、どのメソッドであろうと、その道の第一人者レベルのはどれも魔法です。

解説冒頭、ピットが「これは『In Order To Amaze』という私の本に載っている1つ目の作品です。これらはじきに日本語で読めるはずです」と言ってこっちを見たので、当然集まる視線。みんなの視線が痛い。「がんばります」としか言えないです。「がんばります。がんばります。もっともっとがんばります……!」(CV:島村卯月) こざわさんに査読をお願いしたら断られたので(こざわ「ええ?メモライズド・デックの現象チェックとか面倒」)、誰か探さねばならないです。誰か。

片方のデックは借りたデックでいい、というのがやはりいいです。あと思ったより、2枚の探偵カードを戻すときに順序を選択させたりするフェイズは面白い。というか意味ありげに見えます。実際うまくいけば現象の完璧さが増しますしね。1回目の、スライハンドで見つけるくだりの変な動作すごく好き。のじま観察日記を思い出しました。

ホァン・エステバンなんちゃらさんという南米のマジシャンの理論だそうですが、「種は蒔いておいて、うまく育てば収穫すればいいし、そうでなければ何もしなくていい。いずれにせよマイナスはない」みたいなのが良かったですね。ヒットすればラッキー、みたいな姿勢で、リスクのないものをちょいちょい入れていくといい、というお話。ボリスさんも似たようなフックを張り巡らせていた印象。

作品を作るときのお話で、「最初にトリックを作った時点では、どれもだいたい最終形に比べて体感的に40~50%くらい台詞の量が多いので、徐々に減らしていく」というのが印象的でした。たしかにやり慣れてないトリックって余計な台詞や描写を入れたくなるのよね。しかしピット、よくあんな頭使わなきゃいけないトリックの最中も喋っていられるな。私はそこがツラいです。

この作品では使わないのですが、フォーシングについての話がありました。「選ぶ行為そのものに意味があるときにはじっくりと時間をかけて公明正大に選ばせるが、そうでないときは時間がもったいないので手早くする」というのは、やはり演じるプロだなと思った次第。演じるのがステージなのかパーラーなのかクロースアップなのかにもよる話なのですが、私はついどこでも同じようなことをしてしまうのでちょっと反省。

 

 

09. Master of the Mess(『CF』)

52 枚のカードを全部、テーブル上へと盛大にぶちまけたりあちこちに放り投げたりして、表向きのカードもあれば裏向きのカードもあるという、いかなる意図も介在できないレベルの完全なごちゃ混ぜ状態を作った上で、演者はこれで何か演じてみせようと言います。

観客は1 枚のカードに集中します。すると演者は何ひとつ質問することもなく、テーブル上の山から1 枚ずつカードを取り除いていきます。次第に山のカードが減っていき、やがて無くなります―――たった1 枚のカードを除いて。信じられないことに、演者は観客が選んだその1 枚だけを正確に指し示すことに成功するのです!

続いて新しいカードが選ばれ、そしてごちゃ混ぜの中、どこにいったか完全に分からなくなります。演者は指先でそっとデックを揃えます。すると彼の指先で、カオス混沌から秩序への変化が起こります―――すべてのカードが再び裏向きに揃うのです。そう、選ばれたカード、ただ1 枚を除いて!

以前フランクフルトでエリミネーション・フェイズ見せていただいて、その速さ、自然さに驚いたので、ぜひまた見たいと思っていたのです。こざわさんのリクエストで始まったのですが、「いや、なんかこんなふうに混ぜられちゃったんですよね」みたいなぐちゃぐちゃにしながらの小話が入りまして。なんというか、最初にステージングというか、背景説明みたいなのを入れたのか、へー、と思い、「で、いつ揃えにかかるのかな~」って見ていたんですよ。……突然揃いましてね。一瞬声を失いまして、不思議すぎてじわっと涙が。元の手順だと2段階なのですが、その2段目だけをやっていたので(そのせいだけではないのですが)、全く心の準備ができていませんでした。通訳のMajilさんが「いつやったの?」とか漏らしてて笑う。すみません、嘘です、笑いごとじゃねえ。私も全く分からず、他人を笑っているどころではありませんでした。文字通りマジックです。やばい、思い出しただけでも不思議だ。トライアンフというメジャーな現象で、場にいる20人だか25人はまあ基本マニアなわけですが、それが「え?あれ?」ってなるとかどんだけなのでありますか。過程をすっ飛ばして結末だけが来るとか、キング・クリムゾン的ななにかか。なんかほら、この人スタンド使いっぽい顔してるし。

なお本作はUpdated Handlingというより、第2段だけに、かつ混ぜ方もかなり違うかたちになっており、『CF』読んでTips書いていい気になっていてすみませんでした。また、ものすごくランダムに見えるのに、実際はすべてが1枚もずれずに進行していくそうで、「なんじゃそら、新手のパーティー・ジョークか?」とか思っていたら、最終的に全部メモライズド・オーダーに戻ることで証明されていて震えました。そんなシーケンシャルな構造なのか。

 

あとこのトリックの解説の前に「誰か、なんでもいいので好きなカードを1つ言ってください」と言われたので、言ったんですよ、クラブの6って。そのままデックに手をかざすピット。トップ・カードをめくるとクラブの6だったんですよ。もうなに言ってるかわからねーと思うが(略 息が止まるかと思いました。別の方が「ハートの4」とか仰ったかな。それも出てきたんですよ。それが。トップから。どうなっているんだこの世界は!気をつけろ!なんらかのスタンド攻撃を受けている可能性が高いッ!

 

 

10. Top of the Heaps(『IOTA』)

「なにか好きなフォー・オブ・ア・カインドを1つ言ってくれ」といわれ、どなたかが10と仰って。雑に山を作っていくピット。4つの山を作って両手で順繰りに覆っていきます。トップ・カードを表向きにすると全て10なのです!

 会場がどよめいたさ。だってずっとデック裏向きのままなんですよ。このあたりから、ピットとデニス・ベアによって作られた”カルテット”という概念というか手法を使ったマジックが来るのですが、Majilさんとアイコンタクトで会話してしまいました。「ちょっとMajilさん、これ、カルテットじゃないですか……!」「じ、実在の手法っていうか、こんな早さで使えるんですね……!」(0.2秒) もうそのあとは普通に口に出てましたね。私「訳した気がするんだけどな……」 Majilさん「僕も読んだはずなんですが……」 おかしい。読んだはず、知ってるはずなのにw 

 

 

The trick cannot be explainedというか説明できないトリック系のお話。ネモニコシスというか、タマリッツもよくやるのですけど、観客の名前を聞いたり、小さめの数を言ってもらうなどして調整していく話。あとでそのぶん綴るなどができるので、お客さんの名前は聞いて憶えておくべきという。

 

 

11. Echoes(『IOTA』)

マジシャンはデックから無作為に1枚のカードを取り出し、表を見ないでそれをテーブル上に置きます。観客の1人に「やまびこを返してください」と言って1枚抜き出させ、それを演者のカードと一緒にしてもらいます。この動きを演者と別の観客2人とでもう2度繰り返します。6枚のカードを見てみると、観客たちの選んだカードは、まさにマジシャンが選んだもののやまびこになっています。つまり、観客たちによって選ばれた3枚はすべて、演者が選んだカードのメイト・カードなのです!

今回のレクチャーでは上記のような演出は一切省き、3者の選択がすべてマジシャンの選んだものと一致するという現象の骨子のみを見せていましたが、それでも不思議で。本の通りにやると、もっとバカバカしくも笑える演出がついております。「このくらいのものを思いついたらそのまま発表しちゃいそうなものだけど、そこで出さないで工夫を加えるのがやっぱりプロなんだなあ」という声が会場から聞こえました。あの声はたぶんこざわさんですけど。

 

 

12.The Core(『IOTA』)

神学的で生物学的なカード・トリックの珍しい例として、観客が、演者の人格の投影たるエデンの園への幻想的な旅をする、というものがあります。デックというのはまさしく果実のようなものであること、観客はその想像上のデックの皮を剥いていき、デックの”芯”で何のカードを見つけたかを問われます。

誰も触れない状態で最初からテーブルに置いてあった普通のデックをゆっくりと取り上げどんどん”剥いて”いきます。どうやらこのデックは観客の空想の旅路から現れたもののようです︓中心にあるカード、つまりデックの芯は、まさに先ほど観客が口にしたカードなのです!

 みんな喜べ、セルフワーキング・マジックです!どのカードがどこにあるかさえわかっていれば、あらゆるカードを最後の1枚にできます。訳してても笑いましたが、ピットの"楽園"では、魅惑の木にたわわに実っているのは大量のデックという、なんだかデビット・リンチの世界みたいな感じだぞw

 

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■第4部:

フォールス・シャッフルについて。休憩中に私も質問したのですが、ハートリングは注目を集めていないときはリフト・シャッフル(バノン先生の影響で私もよく使う)を使っております。これは表向きで行うことで色々なフェイスが見えて混ざっているのをさり気なく見せつつ、どのカードがどの位置になるかを把握可能、というメリットがあります。逆に混ぜている様子を強調したいときは、ゴードン・ブルース、もしくはパーシー・ダイアコニスどっちかの考案したオーバーハンド・シャッフルを用いているとのことで。この後者のシャッフルがまた本当に混ぜているとしか思えず。とても詳しく知りたいのですが、それが載っているという『Five times Five Scotland』が手元にない悲しみ。まあいずれ入手してくれようぞというところで。(2019.0616追記:入手。練習し始めました。)

タマリッツは技法魔人として崇められてはいるわけではないが、attitude<姿勢・構え>による説得力が凄いこと、ロベルト・ジョビーがたまに「タマリッツのブレイクはlorry<トラック>が通れそうなくらいでかい」とか言うらしいのですが(ひどいw)、「上手い人がすごく小さなブレイクを取っていてもマジシャンには分かる。しかしローリーが通れそうなくらいのタマリッツのブレイクはattitudeに隠されてなぜか気づけない」「タマリッツはザロー・シャッフルもするんですが、これがまたひどい出来で。でも観客は、『汚い混ぜ方だけど、なんかこのひと混ぜたいんだな。きれいに混ざらなくても気にしないのかな』と勝手に理解し、そして『混ざった』という印象だけが届くのです」「逆にダーウィン・オーティスとか、凄く緻密なプッシュ・スルー・シャッフルをする人がいますが、それはとても上手いのに、なぜか観客に『なにかコントロールしているな』と思われ、『オレにも混ぜさせろ』という流れになってしまう」あたりは寓意を含んでいる感じがします。

ピットのダブル・カバー・ザローを2回やる、というのはとても良かったです。見栄えもよく(混ざったように見えるし、実際トップだけは順序も変わっている)、2回セットでやることで順序も戻る、という。ザロー自身もその方法を使っていたそうで、私は初めて知りました。そしていま理屈を若干思い出せない気がします。

こっそり明かしてくれたとあるフォールス・シャッフルが、「そんな方法あるのか」という感じで震えました。本当に頭いいなこの人。だってまずは本当にシャッフルしているのだもの。

デック・スイッチ。スイッチ手法の色々も参考になりました。タマリッツの手法とか、やはりじっくり見ていてもなお錯誤する。「気をつけないと、自分もどっち使っているかわからなくなるからね!」には笑いましたw 

 

 

13. Murphy’s Law(『IOTA』)

マジシャンは、トランプというものは『エンシェント・タロット』に由来を持つもので、今日のデックにも、その『不思議な形質』的なものは受け継がれているのだ、と言います。具体的には、デックを使うことで、人がいかにラッキーか、さもなくばアンラッキーなのかを判別することができる、と言うのです。

それをデモンストレーションするため、観客の1人にAからKまで、なんでもいいのでバリューを言わせたら、デックから1枚ずつ表向きにしながら配っていってもらいます。選んだバリューのカードが早く出れば出るほど、彼はラッキーというわけです。そして彼が悲劇的なアンラッキーだと分かる場合、それは、彼が自由に言ったバリューのカードが、最後に残った4枚であったときです。

見たかったの!すごく見たかったのです!いや、ぶっちゃけ本にあるものは全部見たかったのですが。ここからいくつか、カルテットを用いたトリックが続くのですが、私もMajilさんも、カルテットは「理屈は分かるけど多少はもたつくんだろうな」と思っていたんです。ぜんっぜんもたつかないの!おいおい瞬殺だよ。これ、ほんと単純な話なのですけど、自分が言ったフォー・オブ・ア・カインドだけが出てこないの、想像以上に面白いです。どんだけ運が無いんだ、みたいな。本にもありましたが、お互いが知り合いのグループでやると本当に盛り上がりそう。なお当会場も大変盛り上がりました。

 

 

 

14. Four-Way Stop(『IOTA』)

先ほどの不幸な観客に誕生月を聞きます。マジシャンはカードを1枚ずつ表向きで配っていき、観客は好きなところでストップをかけます。ストップをかけられたところのカードを公明正大に裏向きのまま置き、もう3人の観客に同じことを繰り返してもらいます。最終的に、ストップをかけられたカードは4枚になり、想像した通り、その4枚が誕生月のフォー・オブ・ア・カインドなのです。

 これとか公明正大すぎて、結論は確実にそこに向かっているとは分かるのだけど、それを信じられないといいますか。デュプリケートもないのに、いまその4箇所に裏向きになっているカードがまさしく言ったフォー・オブ・ア・カインドとか、「ええ……なんで……どういうことなんだ……」としか言えませんよ本当に。めっちゃ不思議です。ストップトリックの理想形に見えました。それなりに難しいですけど。

 

 

 

15. Identity(『IOTA』)

マジシャンは言われた数値のカード4枚を指先で触るだけで見つけ出す、と言い、デックのバラバラの位置のカードを1枚ずつ全部で4枚、表向きにひっくり返していきます。その4枚はランダムのバラバラのカードであるにもかかわらず、マジシャンは言われた数値のカードだと自信たっぷりに宣言します。

観客たちの視線が変わり、「このマジシャンはアタマ大丈夫か」と訝り始めますが、彼らは自身でそれを確かめることになります。デックがテーブル上にスプレッドされると、4枚の表向きのカードは、言われた数値のフォー・オブ・ア・カインドへとたちまち変わってしまうのです。誰かが「検眼士を呼んでくれ!」と言い出す前に、4枚のカードはまた先ほどのカードに戻り、そしてまた言われた4枚へ変わってしまうのです!

なにいってるか分からねーと思うが本当にこうなるんですしょうがないでしょう!私だって書いてて・読んでて意味がわからないです。訳しておいてナンですけど、「これ、はたして不思議に見えるのかな」と思っていたんです。すみませんでした、吐くほど不思議でした。なんだこれはwww

 

 

 

16. The Right King of Wrong(『IOTA』)

1から10の中のひとつの数字に集中しながら、観客がデックをシャッフルして、4つの山にカットします。それぞれの山のトップ・カードを表向きにしますが、意図していた数字のカードは出てこず、単なるランダムなカードです。

観客が間違ったデックを使っていたことにマジシャンが気づいたとき、すべてが明かされます。ずっとテーブルに置いてあった別のデックを、カットの結果出てきたカードのバリューぶん数え下ろしていくと、まさにそれぞれの箇所から思っていたフォー・オブ・ア・カインドが出てくるのです。

 失敗を観客のせいにするの大好きw この、どうやってもリカバリ不可能そうな事態から、そのマイナス分より大きな絶対値の現象を起こすのが本当にうまい。すごく変なトリックのはずなのですが、最後の現象自体はしっくりくるというか、とても手品的。

 

「パームなどの技法はフラッシュする可能性があるが、憶えたことはフラッシュしようがない」は名言ですね。体現してるところがかっこよすぎ。

 

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■第5部:

17.Triathlon(『The Little Green Lecture』レクチャーノート。壽里竜氏による邦訳版あり(マジックランドの箱根クロースアップ1998のノート))

演者はもっとも難しいマジックを見せようと言います。それは演者が他のマジシャン向けに、つまり「内輪向け」に特別に開発したルーティーンであると言います。演者がこれからやろうとしていることは、観客の興昧をそそります。3枚のカードを見つけるだけでなく、3枚のカード全てをかなり過酷な条件下で選んでもらうのです。最初の観客にはデックの中央あたりにある好きなカードを見てもらい、2番目の客は単に好きなカードを思い浮かべてもらい、3番目の客には表を見ないで1枚引いてその上に座ってもらい、最後の最後まで自分が選んだカードが何なのか分からないようにしてもらいます。

以上のことは、演者がそれまでにほとんど触っていない借りたデックを使って行います。それにも関わらず、演者は3枚のカードを正確に当てることが出来るのです!

リクエストされてやっておられた。めっちゃ不思議ですが、その裏にある悪魔的な工夫の数々たるや。これはノートを読んだときに思っていたよりもはるかに不思議です。何の手がかりもなさそうに思えますし、借りたデックで、シャッフルした状態で行うので。あと私も参加させてもらったのですが、タマリッツがよくやる、本当は聞いているんだけど、聞こえてない感じで観客の回答を遮るテクニックが見事でした。……すみません、偉そうに書いていて、このノートも読んでいて、その昔実演したことすらあるはずなのに、現場では全く追えませんでした。「ウソだ、ウソだ……ああああ……」とかうわ言のように繰り返すマンになっていました。おい不思議すぎではないですかこれ。

なお、何が驚きって、「いやー、久々にやりました。20年……はいってないかもしれませんが15年はやっていなかったです」でこのクオリティであるところです。多少複雑なトリックなど3日で記憶から消滅していく私としては、まずそこが震えるポイント。いくら自分が考えたトリックだからって、普段演じてなければ忘れませんかね、普通。そしてこれがリクエストされたまさにその理由の箇所についても、本当にスムーズで早い。

終わったあとで野島さんが、「何度やっても6にならない……」とかなっていて(分かる人には分かる数字)ちょっと笑ってしまいました。

 

 

 

18. The Illusionist(『IOTA』)

時に、最高のトリックというのは、決して実際には起こらないもののことを言うのだ、と。そんな『イリュージョン』をお見せしようと言うのです。「これは48枚のカードを使うもので、4枚は最初にどけておく」と言って実際にお尻のポケットにいれておきます。

まずは古典的な、スキルのデモンストレーションからです。観客のひとりに、どれでもひとつ、フォー・オブ・ア・カインドを言ってもらいます。マジシャンはデックを何度もカットしますが、その度に言われたうちの1枚を見つけ出してくるのです。

ところが信じられないことにマジシャンは、「これらは本当はすべて幻なのだ」と言います。そして実際、デックが表向きにスプレッドされると、先ほどカットしたところから出てきたカードはどこにも見当たりません。

マジシャンは、「トリックが始まる前から入れておいたものがありましたよね」と、自分のポケットの中から4枚のカードを取り出してきます――それらは言われたカルテットの4枚なのです! 

 リクエストしたったです!「あー、あんまり大人数相手にやるトリックでもないけど」「(「だめですか……?」という目)」「でもやってみるね」のあと、ちゃっかり通訳のMajilさんが、「特に最初のシークレット・アクションが具体的にどんな感じなのか、本からだとよくわからなくて」とか添えていて笑ってしまいました。手順の序盤なのですが、私も結構どういう感覚でやる動きなんだろうと思っていたので、大変嬉しいコメントではありました。ふたりは私物化!(プリキュアっぽく) 知りたかったムーブの瞬間にMajilさんと目が合って、「なるほど、こういう動作かあ」「いやーこれは意識に上らないわ―」という会話をしました、目で。Majiさんは通訳しながらなのに目でも会話できて器用だなーと思いました。いや、さっきまで見ていたはずのカードが、最終的に最初に尻ポケットに入れていた4枚なんですけど、読んでいて意味が分からんかも知れんですが本当にそうなのです。自分の見たものが信じられなくなります。

 

 

「例えばボリス・ワイルドが自分のデック使ってたらマークト・デックなんじゃないかな、と思われてしまうように、ハートリングさんも『IOTA』みたいな本を出すと、自分のデック使ってたらメモライズド・デック使ってるんじゃないかな、ってマジシャンの人には思われちゃうのではないですか?」という質問に、「そうだね。なので、コンベンションとかで手品するときは、フォーシング・デックとか、色々なギャフとかそういうのを使って煙に巻いています」という回答で笑ってしまったw 気を使ってるんですね、そこは。

「なにかありますか?気分が乗らなかったらデニスのトリックでもやろうかな」とか言い出してて、このふたりホント仲いいよなあ、と。

 

 

 

19. Exact Location(『Mnemonica』)

2人の観客が操作し、憶えたカードをマジシャンは言い当てます。さらにそれぞれの枚数目を宣言します。観客が配っていくとまさにその場所から観客のカードが出てきます。

 タマリッツのあれ。どう考えても当たりそうにないのに当たる上、枚数目まで当たっているという、不可能性のきわめて高い逸品。2つの原理の組み合わせで成立している。言われてみればそうだよね、という単純な理屈なんですけど、見ている最中は全く関連付けられませんでした。ショーの演目というより、「メモライズドデックはこんなロケーションもできるよ」という例でしたが、大変不思議じゃ。

 

 

 

20.Game of Chance(『IOTA』)

デックをシャッフルし、プレイヤーは赤か黒かの色を言います。カードが重ねられていき、3枚目ごとのカードを見ます。それがプレイヤーの指定した色であるたびに点が加算されます。

ゲームのまさに初っ端から、プレイヤーたちはまるでツイていない感じです︓色を選びますが、3枚目のカードはいつも選ばなかったほうの色なのです、それも最後まで︕

デックは繰り返しシャッフルされ、そして赤と黒はランダムに混ざっているのにもかかわらず、各ラウンドは毎回同じ結果に終わります︓どちらの色が選ばれても、出てくるのはソレジャナイ色なのです︕

何度かの公平でイラつく結果のあと、最後にマジシャンは、同時に2人のプレイヤーでやってはどうか、1人が赤を選んだら、もう1人は黒を選ぶのだ、と言うのです。これなら、1人は勝てるでしょう︕3人目の観客が審判役を務めます︓彼は演者のための色を自由に1つ言ってから、デックを3人の参加者へと配っていきます。

マジシャンは赤と黒のカードが混ざったカードを受け取り、スコアとしてもごく平凡なものでした。しかし、他の2人のプレイヤーはと確認してみると、1人は全部赤いカード、もう1人は全部黒いカード――お互いが『間違った』色を選んで0ポイントなのです︕

これはですねえ、訳していたときからめっちゃ面白そうだなあと思いまして。演者はいかにも何もしておりません、どうしてお客様はそんなに運が無いのですか?みたいな感じでw 実演見たらさらに面白くてしょうがなかったです。しかもこれ、厳密にはメモライズド・デックである必要もないのです。"Murphy’s Law"もそうですけど、演者は明らかになにかとんでもないイカサマをしているはずなのに、それが全くわからない、そして観客側はありえないツキのなさに翻弄されるという、この構図、シナリオ、本当に笑えました。名作。

 

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いやー、最後もすごく楽しく不思議で盛り上がりましてスタンディング・オベーションでした。自分の思い入れが強いマジシャン、ということもありましたが、見るものがどれもこれも不思議で、「ああ、マジシャンってこういう人をいうのだなあ」と感激しました。訳で関わることができていて本当にラッキーというか。知り合いの方たちの感想も、「しゅごかった。本で想像していたより遥かに上をいっていた」という感じで、訳者としては微妙な敗北感を抱きつつも、実際そうなので変に誇らしいというか。いや別に私はむしろ褒められてはいないんですが。「かばんちゃんはすっごいんだよ!」と、隙あらば嫁自慢をするサーバルさん状態でした。もっとも、「言わなくても見りゃ分かるよ、凄かったよ、マジで」みたいな感じでしょうけど。

実にいいものを見た6時間でした。しあわせ。手品うまくて、頭が冴えてて、そしてなによりエンターテイナーとして一級の人ってのは凄いものです。眼福でございました。

ピット・ハートリング・レクチャー(1/2)

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訳担当の富山です。2019年6月9日(日)、原宿 Casa Mozartにて開催されたピット・ハートリング(Pit Hartling)の6時間レクチャーに参加してまいりました。 私は彼の訳本『Card Fictions(以下CF)』を出したり作ったり直接会いにドイツに行ったりもしている、日本の全人口の上位0.01%に確実に入っているレベルの、割とピット愛に溢れている者だと自負しておるのですが、彼のまとまったショーやレクチャーを受けたことがなかったのです。今回来日ということで万難を排して行ってまいりました。

皆さまも色々とマジックショーをご覧になったり、レクチャーに行かれたこともあるでしょう。私もそれなりにあります。その中で今回のピットのレクチャーはどうだったか。端的に、そして控えめに言っても最高でした。魔法かと思いました。凄すぎて震える。あれこそ、エンターテインメントとしてのカード・マジックです。繰り返しになりますけど、本当に、本当に良かったです。終わったあとの帰り道、なんだかふわふわしておりました。

まあ今回の先、そうそう来日もされないとは思うのですが、これだけは申し上げておくと、「来日レクチャー決まったらとにかく参加しろ」これです。というか私も行きますし、むしろドイツにあそびにおいでと言われたのでそのうち行くことにします。

ピットのマジックの面白さ、賢さを伝えるべく頑張って訳しましたし、いまも訳しているつもりなのですが、はっきりいって完全に書き物を超えていました、リアル演技が。完敗です。以前ポン太・ザ・スミスさんが本の良さを説明する際、文章は著者の想定する理想を書ける、ということを仰っていました。確かにそうだなと思っていました。しかし今回参加された方は思ったことでしょう、「富山の書いた本より、断然不思議で楽しいじゃん」と。ぐぬぬ、しかし認めざるを得ない。でもですね、ひとつだけ申し上げたい。

 

 

「本の記述という理想形態を!

 実演が超えてくるほうが

 おかしいんじゃろがい!」

 

失礼、取り乱しました。己の備忘のために細かく記しますが、以下は読まなくていいです。むしろ読まないまま、いずれ機会が訪れた際にピットのショーなりレクチャーに行って生で見るのです。そして震えるがいいのです。

 

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 予約時に特に発番がなかったので、着席が入場先着順だったらどうしよう、と思い、開場の40分前に行く。訳本を出している身としては意地でもいい席に座りたかったのです。大人げないのは理解しています。1人並んでおられたが、私は少し離れたところで会場前を監視しながら『In Order To Amaze(以下IOTA)』の自分の訳文を読み返しながら時間を潰していました。分かってます、自分でも思います。キモい。その後並びましたが、開場予定時刻の10分~15分前に入ったところで入れてもらえました。予約順で1列目2列目3列目とだけ分かれていたようで、私は1列目でOKでした。そして席の配置を見てまずびっくりする。演者のテーブルの若干うしろまで、240度くらいの円弧を描いて席が配置されているのです。「え、マジで?」みたいな顔を見られたのか、受付をされていたポン太さんが「どこに座ってもオーケーです。ノー・アングルだそうです」と。なんだそれは。そんなカード・マジックがあるか?とりあえず最前列の中央を外した位置に座る。

メールのやり取りはちょくちょくしているとはいえ、ピットに直接会うのは6年ぶりくらいなので、憶えててくださるかなーと思っていたが、むしろ向こうから挨拶してくださってホッとする。「奥さんもレクチャーツアーに同行されるのだとばかり」「今日の便でドイツに帰ったよ―」ほほう。一応小ネタとして、オレンジ・ジュースを買ってきたことを告げ笑われる("Unforgettable"というトリックでは、オレンジ・ジュースが重要な役割を果たすのです)。おかしな話なのですが、こっちはレクチャーを受ける立場なのにめっちゃ緊張してくる。マジで胃が痛い。なぜなのか。

いよいよレクチャーが始まる。本人の真横のちょいうしろまで囲まれた、しかもカード・マジックのレクチャーという、個人的に前代未聞のイベント開始。通訳はスーパー・カード・テクニシャンのMajilさん。後述しますが、実質5時間くらいはレクチャーしていたと思いますが、最後まで的確でいい通訳をしてくださいました。本当にお見事でした。ピットの説明フレーズの切り方も良かったですが、Majilさんもそこへのかぶせ方が絶妙でした。

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 ■第1部:

01. Sherlock (『IOTA』)

部屋の一番隅で、観客がデックからカードを1枚引きます。彼はそれを憶えて、デックがシャッフルされる前にどこでも好きな位置に戻します。別の観客が複数回のシャッフルとカットを行い、ここでははじめてマジシャンがデックに触れます。マジシャンは説得力のあるカードの減らし方と、アーサー・コナン・ドイル顔負けの論理をもって、この選ばれたカードを追い詰め、そして見つけ出すのです。

 元はちょうど100年前、1919年のチャールズ・ジョーダンの手紙越しマジックを、手紙なし、現場で行えるようにしたもの。さっそく来ましたぞ、クソ不思議なやつが。ひとりしか引いたカードを知らない、別の人がカードを複数回シャッフルする、これで見つけるわけですよ。シャーロック・ホームズの有名な台詞、「ありえないことをすべて取り除いていけば、あとに残ったものがいかにありえそうもないことであっても、それこそが真実にほかならない」('Once you eliminate the impossible, whatever remains, no matter how improbable, must be the truth.)とか言いながら、「選ばれたことのないカードを捨てます」「ときどき選ばれるけど、あなたは選ばなそうなカードも捨てます」「残ったのがあなたが選ぶ可能性があるものですが、日曜には選ばれないやつはどけましょう」「残った、あなたが日曜に選びそうなカード、それもこのトリックで選びそうなのは……」と、どんどんカードを捨てていって、最後に当てちゃうのです。原書ではクライマックス、「『初歩的なことだよ、ワトソン君』("Elementary, my dear Watson")と言いたくなる誘惑に抗おうね」と書いてあるのに、ピット、言ってましたねw「Elementary, Watson」と。キメ台詞を言う誘惑に抗いきれなかったとみえますw

「お客さんに指示を出すときになにか注意点はありますか」という問いに、「簡単な指示だし、そんなに気をつけることはないです」と仰っていましたが、『IOTA』においては、指示を「1枚完全に抜き出してくれるように頼む」「それからそれを憶えて戻すように言う」と分割するといいよ、というTipsがあったことは、訳者っぽく付け加えておきます(その場では言いませんでしたけど)。

ジョーダンの原作?では3回のシャッフルをしていたそうですが、長いので2回+複数回のカットでいいだろうとのこと。

最後までわからない1枚選んでもらう系手品を練習するには、顔を背けて携帯電話のカメラで撮影してそれを伏せて始めるといいよ、的なTipsは即効性お役立ち感があります。

 

 

02. Colour Sense(『CF』)

観客がデックをシャッフルし、それからパケットを持ってテーブルの下で表向きにします。マジシャンはちょうど、見えていないパケットの真上あたりのテーブルの板面に手のひらで触れることで、その“色”を感じるのです。マジシャンはそれぞれのカードの色を、観客がカードを出してテーブル上に置くより前に言い当てていきます。さらにマジシャンは、絵札であるかどうかや、パケットが何枚あるか、さらにはスートや数まで感じることができてしまうのです。

 私のだいすきなやつです。透視の練習のモチベーションが「いま隣の家に凄く魅力的な人が~」とかいうのに笑ってしまったw 記憶する部分について、『CF』のパターン・プリンシプルではない、彼の方法が説明されました。実は私自身、齋藤修三郎さんに教わった別の方法でやっていたのですが、それがピットのやっている方法でもあります。Tipsに載せようか迷ったのですが、作者本人が本文に載せなかったのだからまあやめとくか、ということでいまに至ります。なお、記憶する必要もなくす、ということでのタマリッツのアイディアも紹介されました。

『CF』本文内のInducing Challengesの例としてこのトリックの終盤部分が使われていたのですが、そこについて会場から、「今日はやらなかったのですね」というマニアックな指摘が入り、私も「そういやそうだったな」と思いましたが、「なんというか、ショーのときも含めて世の中の人たちはどうもみんな優しい人たちのようで、ほとんど誰もそこで挑戦してこないので、結局挑戦を誘わなくなりました」にちょっと笑ってしまいました。正直かw

なお解説前に「皆さん、やり方は知っていますか?」ときたので、おずおず手を挙げたら「そりゃキミは知ってるだろwww」と笑われました。参加されていたこざわまさゆきさんが挙手して「I am proofreader(査読者です)」と言ったので、同じく参加されていた齋藤さんを「He's the editor and the designer(おまわりさん、この人、組版/デザインマンです)」と通報紹介しておきました。同じ部屋に『CF』の訳者、査読者、組版/デザインマンが居るという変な空間。「きみらが説明しなよw」とか言われてしまいました。説明は可能っちゃ可能ですが、実演自体そんなふうにはできないですw

どうでもいいけど、ピット本当に地アタマが良さそうで、これのバイナリとか、後で出てくるエピトム・ロケーションとかも本当に超速。「早くやる必要は本当にないです」と言いながら3秒くらいで憶えている。

該当の山を渡す方法は、先日出した新版のUpdated Handlingの通りでした。仕組みもいいけど、やはり全体を通した楽しませ方、見せ方が勉強になります。

また、「借りたデックでやるんだけど、そのときは'some stupid joke'を言うためにわざわざ青いデックを借りる」という変なTipsで笑ってしまいました。

 

 

03. The Poker Formulas(『IOTA』)

マジシャンはまるで暗号リストのような大量の数字の羅列で埋め尽くされた、よれよれの紙を何枚か取り出してきます。彼が言うにはこれは『ポーカー・フォーミュラ』なのです。この表の力を示すため、何でもいいのでポーカーのハンドをひとつ言わせ、同じようにプレイヤーの数も言ってもらいます。

紙をガサゴソやってマジシャンは該当する公式を見つけ、それをデックに『プログラム』します:デックを静かにリフルし、叩き、ひねりますが、あきらかにカードの位置は全く変わっていません。言われた通りの人数にカードが配られ、マジシャンのカードが示されます――それはまさに、観客がリクエストした通りのハンドなのです!

数年前のフランクフルト、私がピットに初めて会った際に見せてもらい、度肝を抜かれたやつです。「いつ!いつ出ると!?」「今度出す本に載せ寄る予定さ」「MADAKONEEEEEE!」そこから『IOTA』が出るまで2~3年待ちましたからね、私は。「今日の会に参加されてる方たちはみんな、すぐに知れていいなー」と一瞬思ったのですが、数年のあいだ魔法じゃないかと思えた私のほうが幸せだったのかも知れないと思い始めました。

現象は上記の通り。好き勝手に言われたハンド、その組み合わせ、プレイヤー数、それらを謎の公式集通りに操作すると、その通りのハンドが完成します。いや、なに言ってるか分からねーと思うが本当にそうなのです。しょうがないのです。箱の中にデックを入れて、そこから片手で配っていくノー・スライト・バージョンも紹介されていました。

Majilさんは桂川さんより頻度低いですが、通訳外で感想を漏らすことがあって面白い。こざわさんリクエストのストレートフラッシュが出た瞬間、私「す、SUGEEEEE!」とかなっていましたが、Majilさんも「いいなあ、これ……」とか漏らしてて笑いました。いや笑うしかないんですが、あんな状況。会場全体もどよめきました。

また、シャッフルしたカードの並びを撮影(動画1コマあればいい)することで、そのための公式を導き出す、マーティン・アイゼラ(Martin Eisele)のVisionというアプリが紹介されていましたが(それによって、適当にシャッフルされたデックからでもこれができるようになる)、いや、そんなそこまでせんでもいいだろ、とは思いました。会場で野島伸幸さんがさっそくインストールされていましたが、月額課金的な、結構高いアプリなんですよね、これ。まあ野島社長クラスなら余裕かもしれませんが。 

 

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休み時間中にMajilさんと立ち話。「私、Master of the Messはリクエストしようと思うんですよ」「あれは見たいですね。あとはあれです、カルテット、あれ実演見たくないですか?」「見たい、めっちゃ見たいです。ていうか正直あれは机上の空論というか、『まあね、実際にやったらそうなっちゃうのは、しょうがないよね』くらいにはなるんじゃないかとは思ってるんですが」「ええ。僕もそう思います。絶対無理ですよね」「……Identity、見たいな……」「The Illusionist!フェイクムーブどうやるのか具体的に見たい」「あああ、本のやつ全部見たい」などと、好き勝手なリクエスト案を話していたら、唐突に野島さんが参入、「ぼくは……エピトム・ロケーションが見たいです」とか言い出すw 「Triathlonですね」「あ、いや、なんならエピトムのとこだけでいいです」なんじゃそらw Majilさんの「いやあ、見てて思いましたけど、アタマいいだけですよピット」には笑うw

 

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■第2部:

04. Back to the future(『The Movie』DVD)

「観客がカードを選んで、マジシャンがそれを当てる。これが普通ですが、今日は逆をやってみたいと思います。つまり、選ばれる前に当てるのです」という意味不明なことを言い出すマジシャン。観客に1枚のカードを選んでもらい、しっかりと手で押さえてもらいます。別の観客にカードを選んでもらいますが、そのカードがデックの中からいつのまにか消え、どこにもありません。はじめの観客が押さえていたカードを表向きにすると……。

キモい!キモいよ!最初なに言ってんだコイツ的な空気を醸成しておいて、あの完全な消失ですよ。ついさっき、それを見て、憶えたはずなのに!パームもうまい。デックの順序が変わらない、便利なトリックです。

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05. Opposite Pockets Revisited(Steve Beam『Semi-Automatic Card Magic Vol. ?』に寄稿)

2枚を使った有名なトリック、というのをやるが、面倒なのでお客さんたちにやってもらう、とマジシャンが言います。観客に1枚カードを選ばせ、憶えたらお尻の下に入れておいてもらいます。別の観客に1枚対照的なカードを思いうかべてもらいます。デックからそのカードを抜き出して同じようにその上に座らせます。「私はこのトリックがすごく好きで。1枚を自由に選んでもらい、1枚を自由に思ってもらうわけですが、問題が1つあるんです。めったにうまくいかないのです、このトリック。本当ですよ。ダイヤの3とスペードのJの2枚のときだけしかうまくいかないんです」観客2人のお尻の下のカードを見ると、本当にその2枚なのです!「うまくいくと、いいトリックなんですよ!」

 もとがブラザー・ジョン・ハーマンの"Opposite Pockets"というトリックだそうで。自由度が増しています(※演者の負担は若干増えている気がする)。いやしかし、一度も演者がカードのフェイスを見てない状況でこれですからね。最初変な声が出ました。

 

 

06. Chaos(『The Little Green Lecture』レクチャーノート。壽里竜氏による邦訳版あり(マジックランドの箱根クロースアップ1998のノート))

最初は数学的な原理に基づいた、あの悪名高いカウンティング・トリックに見えますが、最後はめちゃくちゃになって終わります。「正確な数学的原理に従って……」と言いながらも、演者はデッククをテーブル上に荒々しくぶちまけ、完全に混ぜてしまうのです。

しかしカードをひとかたまりにまとめると、演者は即座に2枚の自由に選ばれたカードをその中から見つけ出してみせます。

最後の最後の瞬間まで、演者は1枚のカードの表も見ないのです!おまけに、この『カオス』、完全にセルフ・ワーキングだというナイス・ニュース。

「これは数学に基づいたトリックなので、厳密性が重要なのです」と宣言してからの、あらゆる類の厳密性を全部ぶち壊していくあのぐちゃぐちゃ感が最高です。最後の「ああ……ごめん失敗しちゃった。両方共違うカードだ。最初からやり直さなきゃ」あたりのギャグ、大好きなんですよね。

観客というか場のコントロールについて、「あなたが場をコントロールする、仕切っていい」(You're in charge.)という、このあともちょいちょい出てくる言葉がありました。思うに一般的なマジシャンは観客のイレギュラーなどを気にしすぎなのかも知れません。名高いマジシャンはだいたい場のコントロールが絶妙に上手いですよね。

www.lybrary.com

 

 

07. Odd Men Out(Selling Item)

2人の観客にそれぞれカードを1枚ずつ憶えてデックに戻してもらいます。1人目の観客のカードの色を聞き、それが赤。マジシャンはデックをファンにすると、すべてのカードが黒い中、1枚だけ赤いカードが。それが1人目の観客のカードなのです。続いて2人目の観客のカードの色を聞くと黒。演者は再度デックをファンに広げますが、すべてのカードが赤で、中に1枚だけ黒いカードがあり、もちろんそれが2人目の観客のカードです。デックを広げると赤黒はテキトーに混ざっています。

www.vanishingincmagic.com

 

解説フェイズ冒頭、ピットの「これは簡単です」に「ウソだ、絶対ウソだ」の声が漏れる会場w 「ギミックデックですから」そのデック、会場から借りたやつやないかいw にしてもフルデックの下準備を、デック借りて適当に喋りながらさっさと済ませてしまうのがやはり凄い。「借りたデックでしたが、どうセットしたのですか」という質問があって解説がなされましたが、ハートリングのホフツィンザー式カル、自然すぎじゃないですかね。そしてまた早い。「こんな感じで取っていくんですよ」とか言って実演するんですが、その解説を見た会場から笑いが漏れるくらい早いw 「ベストは家でセットしたデックを持ってくる、だと思いますけどね」なるほど。

「自分をMax Mavenだと思えばいいんですよ。Dani DaOrtizでもいい。とにかく、あなたがマジシャンであり、あなたが仕切っていいんです」

Alex Elmsleyの原理を、複数回できるようにしているのがピットの凄いところですね。原案のエルムズレイの、ノーマル・デックでブレインウェーブ・デックやるところも普通に凄かったですけどw

あとメモに「Majilさんの訳がナイス」とあったので、なんかうまいこと仰っていたのだと思います。実際問題全体的にうまかったですが、わざわざ書いたということはなんかうまいこと言っておられたはず。たぶんです。メイビーです。

 

つづく。

シェーン・コバルト・レクチャー

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「あいつが来たんだよ!」「え?だれレスカ?」「じゃなくてっ!」「ミルク?」「じゃなくてっ!」「ダ・サイダー!?」「じゃなくてっ!」「コバルトだあぁぁぁぁぁ!!」 ということであのシェーン・コバルト(Shane Cobalt)が緊急来日!6/2のレクチャー&ワークショップに参加してまいりました。……って誰?いや、はい、私も存じ上げませんでした。でもあの堀木智也さんが熱く語りつつお呼びになったのだったら、それはもう間違いはなかろうと。そういうよく分からないものに3万円以上をホイホイ払うあたり、おとなになってよかったなと思ったりしました。いや、むしろチョロくなったのか……?


カナダはトロントを拠点に活躍されているマジシャンだそうで、ヒゲにロン毛ですが33歳と。アードネスやヴァーノンの研究で有名というか、例の『Expert at the Card Table』の研究家でもあり、かつそこに載っているものを全部できるという変態凄いひとです。 端的に言ってめちゃめちゃうまい。いくつも、目を凝らしているのに全くわからない、というものもありました。セカンドディールとか、あのゆっくりさでやられても分からないものなのかと震える次第。私の好きな、ゲラゲラ笑って不思議で楽しくてしょうがない、という類ではなく、「あ、この人ガチでクラシックの技を研ぎ澄ませてきたマンだ……!」という感じでした。多分、若くて、技法とかテクニック好きな人にはズドンとくる気がします。


物販というかノートは4つ。
①『Chasing Dovetails』(ジョージ・松尾訳、堀木智也編集。トリック5種、B5カラーコピー誌、約33ページ)
②『CTRL』(ジョージ・松尾訳、堀木智也編集。カードコントロール4種、B5カラーコピー誌、約24ページ)
③『50 Faces North』(Shane Cobalt、作品単品、A4変型(多分あっちの判型)オフセット中綴じカラー、約11ページ)
④『The Visible Deck』(同上、約9ページ)
そのうちマジオンとかで販売されるのでしょうか。あとはビンテージ・デックなどを販売しておりました。

あとA Trick for Chuckという、チャールズ・ジョーダンのトリックのバリエーション的なノートを持ってきていたそうなのですが、部数が少なくて物販には乗らなかった模様。コバルトは、基本的に会ったことない人にはノート売らない、ほしければ来るかレクチャーに呼ぶかしてください、みたいな考えの人だそうで(であるがゆえに堀木さんは「じゃあ呼ぶわ」になったのですが)、ホイホイ買えないのですよね。インコンビニエントな感じもしますが、しかし手品の秘密というのはこういう風に出口や価格などで制限すべきものな気もします。気骨がある感じ。

 

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レクチャーは以下のような感じで。( )内の数字は上の掲載ノート。

01. The Silly Little Rubber Band Trick(①)
輪ゴムトリック。不思議さよりも掴みという感じ。見た目の正しさと感じる正しさの違いについて。「観客の知性に挑戦するようなことはしない」になるほどー、と思いつつ、いや、ギャンブリングデモってまんまそういうものではないだろうか、と思ったりなんかしないよ絶対。

02. The Cream Control(②)
カードのトップ・コントロール。一瞬ルージング・コントロールみたいなのかなと思ったがちょっと違いました。いい具合に正々堂々真ん中に差し込んだ感がある。ネタバレだけど本当は違うんだ。

03. 名称不明
カードをサイドスティール的にパームするときの出だしの部分。言われてみればこの最小の前後の動きだけでカードを出させることができるのだなと目からうろこ。できる、私にもできる!

04. The Helium Control(②)
カードのコントロール……というか厳密にはチェンジな気がする。イロジカル・ドリブル・フォースみたいな手法かと思いきや、そういったかたちでやりたくなかったので、とのこと。観客の目の前で、いま見せたカードをもう片方のドリブルに投げ入れるが、最終的にはトップに来ている技法。大変ディセプティブ。問題はちょっとプッシュ部分がきれいにできないんだよねえ。「コツはね、観客の目にレーザービームを打ち込むんだ!」(コバルト・談)

05. Dingle’s Riffle Shuffle Control(②)
リフル・シャッフルベースのコントロール。ディングルの手法だそうです。厳密には違うのか、はたまた単にダローが間違っていただけかは知りませんが、これ『Encyclopedia of Card Sleights』の早い巻で見た気がします。ステランコとかなんかそのへんの、結構クラシックな手法だと思っていたのですが。それこそマジシャンよりも前にギャンブラーが使ってそうな。ディングルほど新しくはない気がしますが、何か私の知っているアレとはやり方や概念が違うのかもです。

06. Raised!(①)
表向きにしたデックを両手で覆うたび、フェイスにエースが出てくる。ジェニングスのあれっぽい!と思いましたが、移動しないのでもっとシンプルな凄みがある感じでした。「その動作でこの現象となれば、こういうセット・こういう手法しかありえない」と思った通りではありましたが、最初の2回は目の前で何が起きているのか一瞬わからないくらい不思議でした。サンドイッチマン風に言うなら「ちょっと何起きてるのか分かんないですね」「分かるだろうよ!変わってんだよ!」みたいな。

07. LePaul’s Aces(①)
伏せておいたエースにデックを重ねるたび、デックのトップにエースが上がってくる。元のルポールの方法だと全く同じ動作で同じように上がってくるのですが、さすがに現代だともう一声ほしいなというところです(※個人の感想です)。コバルトの方法は現象としては同じですが、2枚目以降、ちょっと真ん中あたりに入れたりなど、変化を持たせています。

08. Sleeving for Dummies(①)
コインのスリービングについて。「世の中のコイン技法、特にスリービングは難しすぎるし、解説も失敗させたいのかと思いたくなる書きっぷりです。私のは確実安全」ときて、「ほわああ、シェーンニキ最高や」とさせといて、何度か袖からこぼすので吹くw オイイイイイ!と阪口大助ボイスで突っ込むところでした。きちんとうまくいくことがほとんどで、それは確かに綺麗に両手がカラになってよかったです。「世の中のコインマジックの、リテンションバニッシュはどう考えてもおかしい位置で握ったりするよね」との切り出しからのコバルトのバニッシュは力みがない感じでよかったです。というかコインを持って反対の手に渡す、ということから考えたら、そんな行為はぞんざいであってしかるべきだという気はする。ほら見てほら見て、握るよ―?みたいな流れはまた別の意図、見せたいポイントがあるのでしょうが、そこはコインをほぼやらない私からしても変だと思うのですよねえ(※個人の感想です)。転がしながら引き込むやつと、ダウンズ的なポジションから指を開くだけ、というのは私も手遊びでやる方法に似ていたので、やったぜ、とか思いました。私は人には見せませんけど。

09. Coins Through The Table(①)
コインスルーザテーブル。1枚、1枚、2枚の流れなので、最後は意外かつ早いクライマックスでした。このくらいのがいいです。なおコバルトさんはCTTTにありがちな、机にカツカツパタンやるのお嫌いらしい。ごめん私は好き(※個人の好みです)。いや「実際そんな音する?しないよね?ていうか物体を通り抜けるときになんで音がするの?」ってのはそれはそうなんだけどw それ言ったら手品のたいていの動作は怪しいのだぜ。

10. The Visible Deck(④)
カードを1枚選ぶが、そのカードだけが表向きになる。続いて別のカードを憶えるが、それは最初から予言として置いてあった紙に書かれている。
こういうの、こういうギミック好きなの。すまない、ネタバレだがこれはギミックを使う。これに類するギミックは好きで一時期よく使っていましたが、あの側をあのカードにするとこういうことができるのかと大変わくわく。「ここでこのカードをひっくり返すと、手品やってる人は驚くんだよ」驚いたわ―、それがし、めっちゃ驚いたわ―。活用や工夫のしがいがあるギミックなのですが、このコバルトの使い方がシンプルで良い気がします。

11. 50 Faces North(③)
最初から予言しておいたやつが、観客が止めたところのカードになってるやーつ。私、違いをよく分かっていなかったのですが、例の条件(※)を満たすのが"51 Faces North"で、似たような現象なんだけどそれを満たしてはいないものを"Open Predition"っていうんですね。堀木さんが「ほぼ満たしてる」って言うのでまじかよと思いましたが、これは別に全然そんなことなくて(借りたデックでやる、なんか近しいものもあるらしいのですが、それは見せてもらってないので知りません)、タイトルからしてもガチで満たそうとはしていない感じですね。そもそも自分のデックだし(というか下の条件を見ていくとほぼ守ってないw)。いや、借りたものでもできるんですが。私は正直そういう縛りプレイに全く興味が無いので、このオープンプレディクションくらいで充分です。クレティアンのリボンスプレッドハイドアウト使うやつが好きなのですが、これはぱっと見、そういった熱すら残らないので演じやすいように思います。裏側にしたやつをそのまま正々堂々と見せる、というわけではなく、やはり知ってる側からするとナンデ?っていう動作は入るのですが(揃えて広げさせる、というフェイズは冷静に見れば不要)、それを知らずに見ていれば公明正大さを演出する一環として受け入れてもらえそうです。

※51 Faces North

1 .借りたデックでできる。
2 .デックは普通のもので、さらにカードが抜けていても構わない。どんなカードが何枚抜けているかについて演者は知らずともよい。確かに知っているのは、予言対象のカードが含まれているということだけ。
3 .セットアップなどのための秘密の時間は必要としない。
4 .いっときたりとも、デックは観客の視界の外には行かない。
5 .デックからカードを抜き取ったり加えたりしない。
6 .予言を書く道具はすべて借りたものでもできる。
7 .予言を書く際に、それが予言であると明言する。予言するものはカードの名前である。これは最初のカードが配られるよりも前に明かされる。
8 .厳密に即席である。カードをセットするためにひとりになる時間や、特別な道具は不要である。
9 .別の解釈や別の現象はない。
10 .借りた物以外は使わない。
11 .観客が配り始めたとき、演者は予言したカードがどこにあるのかを知らない。この手法ではそれは問題にならない。デックの中で予言以外のどのカードがどの位置にあるかも知らない。
12 .演者は観客がどこでカードを裏向きで配るのかを、観客が実際にそうするまで決して知ることはない。
13 .観客はトップから順にカードを配っていく。変化があるのは1枚裏向きに配るときだけである。
14 .まぐれ当たりのトリックではない。観客が演者の説明通りに行えば、失敗はない。
15 .最初から最後まで、カードは演者によって操作されない。トリックの前も間も後も。
16 .裏向きに配られたカードが予言されたカードであることは、観客が確かめる。
17 .この手法は誰かによって違法な目的に使われ得る。
18 .これはカードではあまり知られた手法ではない。カード以外でも使うことができる。

(『ジョン・バノンのカードトリック』(東京堂出版, 2018)より抜粋)


冒頭に受けたリクエストを片付けていくコーナー:
オープンシフト:凄い、音がしない。これやる人シパシパ音を立ててて、そんな音してたらギャンブルはおろか、手品でもダメでしょうと思っていたのですが、本物は音はしなかった。

グリンプス:バブルピークとヒールピークをお使いの模様。

バートラムのテーブルドデックのトップパーム:うまい(注:だいたいうまい)。

ティーブンスカル:リフルシャッフルしながら見えたやつをコントロールしていくやつ。これはちょっと微妙。リフルは4回以上やったら長すぎるが(※個人の感想です)、それまでにキャッチできない運ゲーとなると多分いかにうまくてもダメな気がする。

マッキング(サーキュラーチェンジ):うまい。チェンジしたカードが、チェンジする前のカードと位置が同じと言うかほぼずれていない。ただこれはしょうがないのかもだけど、チェンジは鮮やか極まりないんだけど、右手の小指と薬指のあいだからカードは見えるので、ギャンブルテク(注:私の脳内にある、漫画的ギャンブラーの世界)としては使えないのではなかろうか。

カラーチェンジ:テンカイバートラムチェンジ、レボリューショナリーチェンジ、プリンティングカード、ルポールチェンジ(これめっちゃ良かった)、アードネスチェンジ(これも良かった)、アンドラスのチェンジ、メンドーサのチェンジ等。うまい。

表向きでやるカッティングジエーセス:恐ろしい力技を見たw

コレクターズ:「ゴメンなボクはCollectorsあんま興味ないねん。でもジャレッド・コプフのやつおすすめやで」ほほう。箱根のノート、Jared Kopf『Nothing But the Family Deck』にあった"Far-Flung Collectors"かしら。

ホフツィンザーエーセス:なんか特殊なことしていたかメモになかった。あれ。

カボーティングエーセス:おいパスするだけかよ。(※個人の感想です)

デックスイッチ:「袖使ったり、チャーリー・ミラーのテーブル・シフトもおすすめやで」ほほう。

ザローシャッフル:おいなんだこのザローは。不思議すぎというか、…あれ?ほんとに?みたいな感じでした。3回くらいやったあと、野島伸幸さんが「で、ザローはいつ始まるの?」とか仰って吹いた。しかし本当に混ぜた感じがする。いや、本来そういうものなんだけど、これは目を凝らしてみても全く分からなかったです。これだけの詳細解説出してほしい。

プッシュスルー:さりげなくそんなうまいプッシュスルーをされましてもw これはなに、アードネス本を読み返して頑張ればそういうのできるようになるの?めっちゃ不思議なんですけど。ていうか細かくかませると抜きにくいし、粗くかませると抜きやすいけど不格好じゃないですか。コバルトのこれ、ほぼオルタネートにかんでそうな気がするんですが、どうなってるのかしらね。

 

そうそう、参加したの、ワークショップ併設コースでしてね。ここまでで3時間半くらいなんですけど、ここからまた4時間半続くんですね!w

 

 

ワークショップ
セカンドディール:クソうまい。何だこれ。ゆっくりなほど不思議さが増す。マジシャン諸君にはセカンドメソッドがいいぞって。プッシュオフがまあ自然というか、あほみたいな速さから、冗談みたいなゆっくりさまでスキがなかった。

ボトムディール:初めて見る持ち方でデックが保持できません。でもなんか堀木さんはマスターしたらしいので今度教えてもらおう。

オーバーハンドシャッフル:微妙にみんなの認識しているオーバーハンドシャッフルと指とかの位置が違う。私は私でちょっと変則的な持ち方しているのでますます困る。ただ、コバルトは発展技法が凄いのはもとより、そこに繋がるベースとなる基本技法に一家言ある感じで、そこが良かった。ニーズが有るかはともかく、そこから発展させることを念頭に置いた、オーバーハンドシャッフルだけ2時間、とかリフルシャッフルだけ2時間、みたいなDVDとかノートとか出してほしいなと思った。というか呼べば毎年来るよ!って仰ってたらしいので、毎年パーツパーツをノートで出させて、10年後くらいにはアノーテッドエキスパートアットザテーブル的な、コバルトの注釈付きのアードネス本とかスーパー技法解説書とか作ればいいんですよ。ていうか作ってください堀木さん。

パーム:DPSがとても綺麗。あと(私にとっての)問題は複数枚のパームなんですが、なんかなれてないせいもあるんですが、結構謎の動きをする。……謎というのは嘘だな。右手が突っ張ったりするのが普通なんですが、彼のやり方はそのへんの動力を右手に求めないので、右手が全く緊張しないように見える、という感じの。謎ではないな。理由がある。いやーしかし、指がつります。

 

 

まあなんかそんなこんなで結局8時間以上やってましたね。13時開始で、終ったの21時45分とかですからね。それも終わったというか、会場的にそろそろ解散させないといけない、ってことだったので。時間で考えれば1時間4千円程度であり、普通の価格帯でした(すでに金銭感覚がおかしい)。

 各所から「すみません……!」という呻きが漏れるw そして「耳が痛いなあ」というコメントにかぶせるように、Yoshida氏が「耳が……耳がちぎれるよ……っ!」とか言ってて笑ってしまった。スミマセンw Improvementなので、素直に言うなら改案というか改善、なのですが。世の改善マンは震えて眠れ、感がある。

 

最初にも書きましたけどね、めっちゃうまいですね。逆かもですが、本もめっちゃ読んでて詳しい。ときに、「いまどきアードネスとか、カードチーティングとか古くねwww」とか言われたりすることもあるそうなのですが、「人間の手の数は変わったか?指の数は?目の数は?そこは変わっちゃいない、ということは不思議さはそのままなんだ」みたいなことを仰っててかっけえなあと思いました。

ちょっと残念だったのは、私スツールに座ってたので少し目線が高かったのですね。なのでチェンジ系の技法は全部うしろというか横の軌道が見えてしまって。なので、本当は1列目、コバルトも通常想定している低い目の位置の正面から見たかったなと。多分コバルトの凄さの半分も体験してないのではないかという気がします。それでもなおテーブル技法含め凄いんですがw

あと英語。せっかくプロ通訳のジョージ松尾さんをお呼びしていて、序盤端的で流石の訳だなーとか思って聞いていたのですが、コバルトがまあノッてくるとすごい勢いで喋るんですよね。そうすると結構私なんかは理解が怪しくなるのですが、逆にそのあたりはほとんど通訳が入っていなかったので、そこは嫌がらせレベルでコバルトの発言にボイスオーバー気味に重ねていただきたかった。他の会場だと通訳は絶賛だったのですが、なぜこちらでは……と書きながら分かりました。あれだ、レクチャーは3時間だからまあ訳していられるけど、ワークショップ入れるとこっちは8時間だからか。長すぎたのかw まあ疲れもしますわw 基本、英語については分からなかったら自分の不勉強と反省するのですが、周りでいかにもな感じで相槌打っていた方たちに「本当か!キミは本当にコバルトが何言ってたかちゃんと理解できていたのか!正直に言え!」と聞いたら、「…す、すみません!ワークショップでコバルトニキがノッてきたあたりは、なに言ってるかついていけてなかったです……」とゲロったので、通訳は私(たち)のような英語弱者向けにもっと甘くお願いしますw

 

最後に、レクチャーに参加してない人たちにも、コバルトが言っていた"手品うまくなる方法"をこっそりリークしますね。

 

日本に来てから1日1回、時には2回食べることもあるらしいです。あんだけうまいやつがいうコツなのでおそらく間違いないはずです。みなさんも是非試していただきたい。堀木さんとかCOMPに慣れてらっしゃるから、これを守るとおそらく手品うまくなる前にお腹壊すね間違いなく。 

『Card Fictions New Edition』日本語版

『Card Fictions New Edition』日本語版
 
ピット・ハートリングの『カード・フィクションズ』なのですが、先日英語版で増補改訂版が出ました。訳担当のひといわく、日本語版の再版をするときは、それを底本にするとのことでした。で、いま作っているらしいです。ていうかもう印刷依頼出してるとかなんとか。
 
2019.0529追記:できたらしい。
【前の版も買ってたよ、というきわめてレアな方たちへ】
一応本人もチェックするそうですが、該当する奇特な方がいらっしゃったら「前、教授の戯言の物販で『Card Fictions』スタンダード・エディション買った○○でっす」みたいなことをコメントを頂きたいと。確認次第4桁円の割引クーポン出します、と。次以降のお買い物じゃないと使えないですが、ご利用頂ければ幸いです。
 
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まいど、富山です。2017年に在庫払底して以降、絶版としておりましたPit Hartlingの『Card Fictions』日本語版ですが、底本の増補改訂版が2019年に出まして、その内容で再作成をいたしました。今回の増補改訂版では、"Finger Flicker"(2p), "Colour Sense"(2p) "Cincinnati Pit"(3p),  "Unforgettable"(5p)の4トリックでUpdated Handlingパートが加わっています(カッコ内のページは、今版でのUpdated Handlingによる日本語でのページ増分。そう、写真無しの文章部だけで12ページ増しなのです!)。当初、「Updated Handlingが後ろに加わってるだけだから、そこだけ追加で訳せばいいのでは」と思っていたのですが、やはり6年半も前に訳した内容は直したくなるもので、結局本編も全部見直し、修正しております。終盤、「ここも直してもいいですか?あそこも変えていいですか」と言いすぎて、組版お兄さんに「てめえいい加減にしろ(意訳)」と怒られてしまいました。組版観の相違による喧嘩別れは避けたいので今回はこのへんにしといてやるぜ(ぼろぼろのナリで)。全体的に読みやすくなっているはずです。
 
6月上旬あたりから頒布開始したいと思います。ていうかあれですよ、6月9日にはピットの東京レクチャーがありますし、めっちゃ楽しみなのです。『In Order To Amaze』日本語版は間に合わずでごめんなさい。秋ごろには出せたらいいのですが。すべては京都の方の気力と、査読メンのスピードにかかっております。いや、査読を誰にお願いするかすら未定なんですけど。
 
ピットのメモライズド・デックの本『In Order To Amaze』のこともありますし、今回の"Unforgettable"のUpdated Handlingのこともあるしで、「いよいよ本気でネモニカを憶えねばなるまい」と思いまして、憶えました。1日で憶えられました。というか福岡出張の際の往路航空機の中で、『異世界おじさん 第2巻』を読んだあとからなので、実質1時間ちょっとのはずです。マジックマーケット2019ではタマリッツ・スタック入門の冊子として『ネモニカ学習帳』を頒布しようかと思います(並び、組み方、暗記語呂合わせ、簡易チェック法、バックアップ方法等々)。
 
読者からのよろこびの声:「このノートを作った直後にはもうネモニカを全部言えるようになっていました。素晴らしいです。『七咲逢は水泳部』です!(7枚目はスペードのA)」(東京都 手品本訳したりするマン) 
 
まあ自分で考えた語呂合わせですし、そりゃ憶えるのも早いだろうよ、という話なのですが。あとタイトルのダジャレを言いたかっただけじゃないのか説もありますが、実はもう24ページくらいの薄い本はほぼできています。今年は行けるかどうかかなり怪しいですが、最悪どこかに委託しようかなと。マジケまでにはカルテットも憶えたいと思います。その内容も入れられるといいのですが。アロンソン・スタックをせっかく憶えたのに、それを活用した手品をついぞいたしませんでしたので、今回は頑張りますよ。本当です。

Nicholas Lawrence クラフトワークショップ

Nicholas Lawrence クラフトワークショップ
 
 
2019年5月4日土曜、快晴、ニコラス・ローレンスのクラフトワークショップに参加しに、桂川新平さんの居城こと、名古屋のLa Campanellaに行ってまいりました。備忘がてら記すものなり。
 
 
ニコラス・ローレンスというと、私は"Reduction"しか知らず、これまた解説を見てみて、「なかなか難物だぜこれは」「ていうかどうなんだこれ」という感想であり、かつご本人がデカい、ヒゲ、めっちゃ入れ墨、怖そう、という感じで敬遠しておりまして。ただ、昨今話題のMHさんの心の師匠、みたいな感じと聞き、MHさんの秘密の一端に触れられるのではないか、あとGW予定入れないと絶対家で不毛なことしかしないし、のようなテキトーな理由で東京から名古屋まで行ってまいりました。日帰りで。速いぞ新幹線。結論から言ってめっちゃ良かったです。あとニコラスめっちゃ優しくて丁寧で、いらしていた手品家の将魔さんが「ニコラス、商売っ気なさすぎて逆にこっちが不安になる」というくらいの方でした。風体とのギャップ大きすぎ。
このレクチャーは、レクチャーではあるのですが、みんな教わったもの(ギミック)をその場でニコラスさんの直接指導の元で作る、という、私にとって初めての形式でした。La Campanellaにおいても初らしいです。大人数で工作するとか、中学の技術の授業以来じゃなかろうか。あとみんな出来に差があってそこも面白い。ニコラスのマジックは基本的にクイック&ビジュアルを地で行く感じなので、現象も長くて1分程度です。一部を除いては角度に強いものも多く、ストリートでの実践で実証されているのは伊達じゃないなと思いました。典型的な東海岸仕様のストリートマジックらしいです。
 
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01. Evolve
演者と観客が1枚ずつカードを選んで4つ折りにするが、位置が何度もビジュアルに入れ替わる。最後に普通に手渡して(!)終われる。
のっけからやばい。現場で見て目を疑いました。ていうかこれは工作がなかなかに難度が高かったですが、作ってみると自分でやっても笑えるくらいに変わる。テーブルに置いて、指でパシッと弾くともう青いカードが赤いカードに変わってるんですよ。おかしいですよカテジナさん。なんだこれ。正直コレやってるだけでもう楽しい。ご本人もこれはよくやる、と仰っているだけあって、目まぐるしく変わるのですが現象はごたつかず、やはりうまいものだなあと。ギミック単体としてはこれが一番好き。超楽しい。
 
 
02. Card Under Box
カードをスイッチするマシーン。
ラブアダブダブの動作で、消さないでスイッチできてしまうギミック。これはEvolveほどではないけどやっていて楽しいです。位置的にやっていることは見えなくもないのですが、これもひとりで「唐突に箱の下にカード1枚を挟んだり消失させたり」して楽しいです。
 
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Intermission_a:Typhoon Solve
Akioさんによるルービック・キューブのマジック。バラバラなのを示したキューブの対角を左手の親指と中指で保持し、それを右手でくるくると回すと揃っている。
いちアイディア、と仰っていましたが、アイディア時点できもい。手順として完成したら一体どうなってしまうのか。めっさ不思議。
 
 
Intermission_b:(タイトル未詳)
将魔さんによるルービック・キューブのマジック。バラバラなのを示したキューブを左手で持ち、左右に何度か振ると揃っている。
エンドクリーンで簡単らしい。……本当かな?「ぼくは本当には揃えられないので」まじか。同志がw いや、私は何度かできるようにはなったんですが、普段人前で手品、しかもルービック・キューブなどやらないので、解き方を覚えていられないのですよね。困った。
 
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03. Jumping Ink(Download 2.0?)
観客にサインしてもらったカードに演者もサインをし、デックに重ねて軽く振ると演者のサインだけが移り、観客のサインだけが残る。そこにまた演者のサインを戻す。
鮮やか。何より簡単なのと、ニコラスいわく、「めっちゃウケるのでトリにもいいよ」とのこと。自分のサインしたカードで現象がビジュアルに起こるので、確かにそうだな、と。これは正直、最初スライハンドでもできるのではないかと思ったのですが、ビジュアルさが段違いな気もしてきました。己の汚れきった手品観を痛感します。
 
 
04. Flap Card
ニコラス式フラップ・カードの作り方。
エラスティック・スレッドを使わない……だと……?現場で、同じ材料を使っているのですが、私のが振らないと戻らない出来なのに、MHさんのは放すと跳ね上がるくらいの勢いで変わってて草。加えて、1チェンジでこの大変さなのですが、MHさんって動画拝見する限り5回チェンジとかやるじゃないですか。どうなってるんですかねホント。あれは別の作り方なのか?あ、書くの遅くなりましたが、MHさんが現場に来られており、ティーチング・アシスタントみたいな感じでした。「MHさんの動画のトリックはCG、なんならMHさん本人も実在しないCGキャラクター」説を掲げていたのですが、なんと実在しており、なおかつ現場で高クオリティのものを作り上げており、演技までされていて「ホンモノはやっぱ違うわ」と思いました。なお、同じ材料を使っているのになぜここまでの差が出るのかw ニコラスに、「改善するかは分からないけどちょっと貸して」と言われ、1分くらいで戻してもらったら、かなりきれいに変わるようになっていてニコラスSUGEEEEE!&おれYOEEEEE!な感じでした。なぜなのか。というかあれはギミックというか、ニコラスのテクがうまいせいではないのか。ないのか。。。
 
 
05. Vanishing Card(タイトル未詳)
左手でカードを1枚立てて持つじゃろ?右手でカードをの前を下から上になで上げるじゃろ?何も起こんない、そりゃそうよ。でももう1回やるじゃろ?そうすると消えていくんだよ、カードが、下から、徐々に。で最後何も無くなる。
やばい。なんだこれ。きもい。レクチャーDVDでの動画を見直すとやっぱきもい。動画で見たらCGだろとしか思わないのですが、生で見てしまった上に自分でもギミックを作り、下手くそながらも途中まではかなり消えているのを見ると信じざるを得ない。
 
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おまけ_a:Unboxing
デックが箱ごとカラチェンする。変わったあとのデックを箱ごと渡せる。
当然ギミックを使うのですが、処理が見事でした。デックを渡せるところに驚いてしまい、まるで気づきませんでした。
 
 
おまけ_b
お札を借りて破るが繋がる。ちゃんと返せる。
現場で見て目を疑いました。ギミックの作り方を聞いて、これはちょっと高額紙幣ではきついぜ、と思ってしまいましたw しかしめっちゃクリーンに、かつビジュアルに繋がります。1000円札でなら作ってもいいか。アメリカは1ドル札があるのがいいよなあ。
 
 
おまけ_c:Blade
カード3枚でやる美女の胴体切り。
これは生で見ると現象のクリアさが凄かったです。最後に全部渡してしまうところもびっくり。家帰って、買った商品の解説DVDを見て、あー賢いなーと思いました。現象のわかりやすさ、仕組みの巧妙さ、処理のしやすさなど、大変いいトリックだと思います。自分でもやろうっと。
 
 
おまけ_d:On/Off Revisited
指輪のマジック。指輪が指から指に飛び移ったり指が取れたりする。何を言ってるか分からねーと思うが(ry
不思議すぎてしゅごい。角度が厳しいらしいのですが、少なくとも私が見たポジションからだと不思議しかなかった。解説をDVDで見たのですが、私あのかたちに指を保てない気がする。練習でなんとかなるのか、あれ。
 
 
Intermission_e:The Rising
デックの横に挿したカードが振るだけで上がってくる。それから両手で1枚と残りとのトランスポジションが起こる。
現場で見て目を疑いました。どういうギミックかと思いましたが、これは参加者に借りたレギュラー・デックで行われており、帰宅後DVDの解説を見てため息が出ました。まじか。知っている原理というか手法なのに、まったく気づきませんでした。いや、知ってるけど、あんな風にはできませんし、ギャグにしか使えないと思っていました。Oh...
 
将魔さんのコメント通り、クリエイターズライブ(2015)はレクチャー不慣れ感が可愛いw
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通訳はホストの桂川さん自らが行われていましたが、途中途中で「ちょっと待って、え、なんでなんで」「いま変わったよね?瞬きとかしてなかったよね!?」「はー、賢いわ……」とか、素で感想を述べるマン(しかも日本語)になってて笑ってしまいましたw 「桂川―、仕事仕事ー!w」
 
私はDVDでしか見たことがなかった碓氷貴光さんがいらっしゃって、名前呼ばれてちょっとビビる。「すみません!現在自力でルービックキューブが解けない上に、この2年、ヘックラウの"Easy Cube"しかやってなくてすみません!」(CV:加賀愛) Penguin Lecture出てるとかかっこよすぎます。
 
世界の真田豊実がいましたよ!なんか面白いおっちゃんがいるなー、どっかで見た感じはするけど、とか思っていたら真田さんでした。「本、買いましたよ」とか言われて「あ、ありがとうございます!」と震えましたが、何を、までは聞いていないので『ASIS』でないことを祈るばかり。なお当方も、ゴジンダボックス等を買わせて頂いたことがあります。さておき、ニコラスのカードが1枚スーッと消えるやつ、あれサナダギミックとの相性抜群だと思うんですよね。もしくはガスタフェローが"Solo"で使っていたあれとか。消えた後に完全に両手のひらをあらためるとかできちゃうですよ。Wow!
 
通訳サポート?でフレンチドロップのベンさんもいらっしゃいました。「東邦さんとベンさんのクラシックフォースのレクチャーは買いましたよ!まだ見てないですけどね!」と言ったところ、カードを1枚引いてテーブルに置かされ、右手で1枚、左手で1枚それぞれ引かされ、最後に口で1枚挟むように言われて言われるままにそうしましたが、表にしたら全部エースでやんの。なんだこれは!悪夢か!もしくは新手のスタンド攻撃を受けているのか。
 
 
夕食会の味噌煮込みうどん屋さんに同行はしたのですが、新幹線の終電の都合があり、お土産に味噌煮込みうどん2つだけ買ってお暇いたしました(味噌単体の味が強いのかと思いきや、かつおのだしがきいていてとても美味しかったです)。日帰りでの名古屋でしたが、素敵な方たちにいっぱい会えた上に、手品も総じて不思議で、大変充実した週末となりました。実際にギミック作るまで帰れないレクチャーとかも面白いですね。