教授の戯言

手品のお話とかね。

Florian Severin著, 岡田浩之訳『ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険』

 ロリアン・ズィヴァリン(Florian Severin)著, 岡田浩之訳『ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険<Seltsame Abenteuer des Darian Wolf>』です。ドイツ語の原書『13 Steps to Vandalism』は、本国ドイツでは出版するや売り切れ、プレミアが付くことに。その増補改訂版である英語版が『What Lies Inside』。邦訳版は英訳版を底本とし、四六判500ページ超え(!)の約3.5cm厚(!!)簡易函入。パーラー以上でも映えるメンタル・マジックのショー・ピースが、だいたい各章1つずつ解説されています。長いものは60ページ以上あったりもしますが、だいたいはそこまでではありません。

 

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ふろりん本
ハードカバーの縦組み(!!?)で文芸書っぽい感じというか、翻訳&出版者の岡田さんの造本愛の横溢する仕立てですが(あんだけ言ってたのに小口加工はしなかったのね)、実際に本書は読み物として大変面白く、校正をさせてもらっていたTくんは何度となくゲラゲラ笑ってしまって、「世の手品本がみんなこういうクオリティなら世界は平和なのに」とか言っておりました。この質、この分量をベースにされると著者アンド翻訳出版者はだいたい死ぬとは思うけど。彼も私も、「これまでに読んだ手品の本で、これより面白いものにはお目にかかっていない」で意見が一致しました。
 
カード・トリック自体は1つ2つしかありませんので、だいたいの手品マニア(たぶんカード・マニアかコイン狂いに違いない)におかれましては即座にレパートリーになるものばかりかというとそうではないと思うのですが、どの奇術の記述もべらぼうに面白く、現象としての面白さ、そこに至る筋道と構造の妙、アウトや拡がりの持たせ方などが、実にみずみずしく、ときには真面目で真摯に、そしてときにはヤクをキメたかの如きアレな筆致で描かれ、それが岡田さんの手により端正に訳出されています。量は膨大ですが、これ絶対訳してて楽しいやつですよねえ。あとがきでも訳者が爆笑していた様が。そりゃこれは笑いますw 
 
なお校正時のTくんは、マジックそのものではないのだけれど、第三章の「無料での招待奇術ショーを行うこと、その際にアンケートを行って必ず忌憚のない意見を聞き、ショーの演目の組み方や内容の改善に結びつける」という件にいたく感激したそうで、「ふろりんって、毎度まいどイカレポンチなことをバンバン書くんですけど、ショーマンとしては本当に真摯なんですよ。本来ショーを行う人間はこういうことをすべきだし、していなくてはならないと思います。私のまわりでこんなことまできっちりやってる人、一人も見たことないんですが、アマチュアはともかく、プロはこういうことまでしていないとダメだと思いました」とか熱弁しておりました。まあそもそもメンタリズムのショーをやる知り合いがまず見当たりませんが、メンタリズムに限らず、マジックという、観客に反応をしてもらわないといけない芸事においてフィードバックを得ることというのは大事というのはホントにそうですね。他人からの、率直な感想や印象・意見はパフォーマンス改善における最高のドライバーであると思います。
 
まあぐたぐだ言っても始まらないので、とりあえず絶版になる前に買っておくんだ。話はそれからだ。手品本は読まずとも買って置いておくだけで、手品が上手く・深くなる未知の手品波動が出るという研究結果もございます(※私調べ)。相変わらず、この厚さにこの装丁この内容であの値段という、明らかに経済観念に乏しいというか、Tくんよりさらに"さんすうが弱そう"な岡田さんにつけ込むしかない。絶版といえば2020年に出て話題になったMajilさんの新訳『The Expert at the Card Table』、あれもう在庫払底とか聞いたけど、しかも追加で刷ったりスタンダード・エディションも別に出さなくていっかなーとか仰っているとか聞きましたがマジですか?手品本はよく絶版になりますが、マスの東京堂くらいなら2・3年は持つでしょうけど、個人出版の払底・絶版まではまじで早いですね。みんな気をつけて。今回のふろりん本と同じ訳者・出版者である岡田氏から出ていた名著こと"りおちゃん本"も確か払底してましたからね。「おい岡田、ちょっとそこでジャンプしてみろよ」とかやったらポケットから『Thinking the Impossible』が落ちたりしないかな。スタンダード・エディションとか早くしろよ感。あれもたまに読み返すといい手品がぎっしりでありますね。
 
 
って、もう買えるんですね!わあ!(棒) ダイレクト・マーケティング。いや、べつに売れたところで私にマージンとかバックが入るわけではないのでマーケティングというのもちょっとヘンですが(笑) 本好きな人にはお勧めできる。間違いなくこの1冊で1ヶ月以上は楽しめます。
 

 

追記:発売開始直後から出版者が「は、配送が追いつかないんですがこれは……!」とか青息吐息になるレベルで売れておったみたいなのですが、上記の販売ページ、最初タイトル『ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険』しか情報がありませんでしたからね。本であることすら書いていないというw そしてリオボー本とキャロル本の信頼があるとはいえ、そんな白紙状況の謎商品をポンポン買う手品クラスタのブックワームのみんな、嫌いじゃないですw 
 
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目次
 第一章 斯くも脆き空想の檸檬
 第二章 浴槽の花婿
 第三章 『もしもし?』
 第四章 夕暮れにベルが鳴る
 第五章 きみの頭の中のハエ
 第六章 エフェクト・オーバーキル
 第七章 サイコ
 第八章 富籤辺獄
 第九章 シュルームプレダ
 第十章 昨晩のショーの前にアンタが何をしてたか知ってるぜ
 第十一章 時間旅行者の妻
 第十二章 コンフリクト解消
 第十三章 まっしろな嘘が鳴り止まない
 第十四章 モノのサイズは大事
 第十五章 フェンウィック式臨死実験
 第十六章 アバダ・ケダブラ
  
  星幽狼
  421 Ⅱ
  賽は投げられた

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概略
第一章  斯くも脆き空想の檸檬
暗示を主題としたトリック。演者が持つはレモンとナイフ。それを元にした暗示の話をするが、気がつくとナイフはナイフでなく、レモンはレモンでなくなっている。
 
第二章  浴槽の花婿
1人ずつ、50名程度の女性の写真が提示され、観客が自由に選び、かつ考えを変えることもできるが、それが予言されている。
 
第三章  『もしもし?』
自分のショーを改善するために、忌憚のない意見をいただくための無料のショー開催及びそのアンケートの作り方。
 

第四章  夕暮れにベルが鳴る

観客席にメモ帳を投げ、何人かに複数桁からなる数字を書いてもらう。別の観客に、その中から1つの数列を選んでもらい、電話帳の該当ページを開いてもらう。目を閉じて適当な箇所を指差してもらうと、そこにあった名前と、あらかじめ観客席の方に持っておいてもらっていた封筒の中の大きな紙に書かれた名前が一致している。


第五章  きみの頭の中のハエ

観客が3冊の本の中から適当に1冊を選び、さらにその中の適当なページの最初の単語を憶える。演者は「メンタリストの頭の中で何が起きているかを説明する」と言って、ジッパーを取り出して自分の額に貼り付け、舞台に上がってもらった観客にジッパーを開けさせ脳内のものを取り出すように言う。そこから取り出した紙片には確かにその言葉が書かれている。

 

第六章  エフェクト・オーバーキル

「読心術」のパフォーマンスと「予言」の両立のさせ方について。


第七章  サイコ

例の有名映画の殺人を題材に、観客が自由に決めたホテルの客室番号が、最初から衆人環視で置いてあったホテル・キーに記されている。

 


第八章  富籤辺獄

異なった番号の書かれたピンポン玉が50個ほど入ったバケツがあり、演者はステージ上の観客に引かせたいと思う番号のボールを見事にとらせるが、あまり感銘を受けてもらえない。今度は別の観客にもステージに上ってもらい、彼女にも演者と同じように、彼に向かって特定の番号を引かせたいと強く念じてもらう。結果、彼が引いた玉の番号は、彼女が思っていた数字であることが分かる。

 

第九章  シュルームプレダ

ショーの前週、マジシャンと電話で話した観客のひとりは、その中で1人の有名人を考えておくように言われる。ショーの当日、舞台にあげられた彼の思念を、別の観客が読み取り、それが誰なのかを見事言い当てる。


第十章  昨晩のショーの前にアンタが何をしてたか知ってるぜ

プレ=ショー・ワークと、それに伴う諸々。ステージに上げた観客も含め、不思議を供するにはどのような注意点が必要か等。


第十一章 時間旅行者の妻

演者は自分は未来から来たので、このショーで起こることを含め何でも分かっている、という。観客の女性に電話番号をメモに書いてもらい、そのままバッグへとしまっておいてもらう。未来というか今夜の素敵なディナーの場で、キミにビールのコースターの裏に名前と電話番号を書いてもらったんだと言う。そのコースターに書かれた名前は、果たせるかな、先ほどバッグにしまったメモと同じ、その女性の名と電話番号であることが分かる。

 

第十二章 コンフリクト解消

マジックにおけるコンフリクトの内容と扱いについて。


第十三章 まっしろな嘘が鳴り止まない

演者は前時代的なラジカセを持って登場。観客にお願いして空のテープのラベルに好きな曲名を書いてもらう。それを見ないようにしてラジカセにセットし再生。しばらく聴いた後、その曲名を当てる。
続いて別の観客にステージに上ってもらい、あらゆる楽曲が収録されているという『Mix』と書かれたテープをセット、それを聴いてもらう(観客たちにはとくに何も聴こえない)。彼女のうしろで観客席に向けて曲名の書かれたボードを掲げてから、彼女に何の曲が聴こえているかを尋ねると、そのボードに書かれたまさにその曲であることが明らかになる。


第十四章 モノのサイズは大事

Pack small - plays big にまつわる話。

 

第十五章 フェンウィック式臨死実験

イギリスの神経精神科医であるピーター・フェンウィックの実験になぞらえ、演者は外科医同伴のもとで臨死体験を再現することで、通常では見ることのできない手術台の上の無影灯の上に貼ってあるもの(数字と絵)の情報を得る。


第十六章 アバダ・ケダブラ

無慈悲にも自分に駐禁キップを切った憎き婦警の、存在自体を消滅させる。


星幽狼<アストラル・ヴォルフ>

観客の何人かに持ち物をそれぞれ封筒に入れてもらい、さらにその中から1通の封筒を選んでもらう。そこに入っているものをステージに上ってもらった観客が当てる。


421 Ⅱ

観客が4枚の4を手で覆う。メンタリストはジョーカーを自分の手で覆い、おまじないをひとつ。するとカードが入れ替わっていて、メンタリストは4枚の4を持っており、観客の手の下には1枚のカードしかない。


賽は投げられた

ステージ上に心身共に健康な成人を6人並べ、首から番号札を掛けさせる。会場の中から一番若く、もっとも無垢に見える子供(できれば白いドレスで、ウェーブのかかった金髪ロングの女の子)を指名する。彼女に何度かサイコロを振らせ、そのたびに出た目の番号の人は客席に戻っていく。最後に残った番号の客がステージ上で死ぬ。

  

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とにもかくにも傑作の1冊でした。これ以上面白い日本語奇術本は10年は出ないと思いました。10年くらいしたら超えるものが1冊くらいは出てくれないとな、という気もしますが。さっておき著者のフロリアンと、本書を見出し訳して出版してくれた岡田さんに感謝です。 
 
 

『Card College Light』再販

Roberto Giobbi『Card College Light』、また刷りました。さすがにもうこれで最後だろ感がございます。

magic.theshop.jp

 

あと2020年10月6日から20日まで、「shop120thx」のコードを入れると5%引きになるみたいです。よかったらお使いくださいませ。

 

 

あの『ネモニカ学習帳』が払底したのが驚きですね。また100冊くらい刷ったら良いのだろうか。

Pit Hartling『In Order To Amaze』

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撮影:青鬼 the sandbag様

富山でございます。ドイツのマジシャン、ピット・ハートリングの『In Order To Amaze』日本語版であります。ついに任務完了です!足掛け4年。長い戦いでございました。小学3年生だった人が、中学1年生になってしまうくらいの時間です。

 

2019年6月、20年ぶりくらいに来日&レクチャーを行ったピット。参加された方はお分かりというかご同意いただけると思いますが、まあね、震えるほど不思議な手品の数々でしたね。あそこで演じられたトリックがだいたい解説されているのが本書『IOTA』でございます。

kyouju.hateblo.jp

kyouju.hateblo.jp

 

記述が実演を超えられたとは全く思っておりませんが、本当に名著です。メモライズド・デックを主体としたトリック集で、本書を超えるものは今後もまず出ないでしょう。大げさですが、割と『Mnemonica』以降最高の、あるエリアにおける『時代』の目撃者的な思いです。SU☆GO☆SU☆GI.  訳もなんといいますか15周目以降は数えておりませんが少なくとも20周はしました。ていうか30周くらいはいっている気がしなくもないです。いつも真面目にやっているつもりですが、今回はかなりの本気です。ピットも原書もどちらもリスペクトしておりますので、装丁は極力踏襲するようにしました。ハードカバークロス装(布はちょっと汚れが落ちづらいので意図的にやめた)、メタリックデボス加工、本文フルカラー336ページ。印刷費だけで『Card College Light』トリロジー全部の製作費を軽く超えたのは内緒です(震えながら)。

 

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なお昔から、『遊び半分で作ってはいけない本の要素』というのがありまして(※私調べ)、『手品の本』二翻、『ハードカバー装』二翻、『メタリックデボス加工』一翻、『ページ数セットが印刷屋の通常メニューに載っていないレベルで多い』三翻、『フルカラー』二翻って感じなのですが、もう倍満ですよ、プロデューサーさん!うっちゃダメ、勝てない手品本バクチと白い粉。まあ勝とうとは思っていませんが、毎回負ける覚悟で刷ってるのもちょっとどうかしてる気もします。まあいいんです、趣味だし(自分に言い聞かせるための一言)。

 

 

原著に序文を寄せていたサイモン・アロンソンが今年2020年にお亡くなりになってしまいましたが、なぜかわたくし細々と、きょうじゅのアドを借りて、いまさらアロンソン勉強会などを開催しております。

 みんな普通の数理系トリックのほうを担当したがるので、必然アロンソン・スタック系はわたくしの仕事になったりしています。そんな流れもあり、いまの私は『過去に憶えたアロンソン・スタックの記憶が蘇りつつあって、それとネモニカがごっちゃになってきている』という最悪のパティーンです。あ、まあとにかく、著者本人も凄いし、推薦者もすごいぞ、と。本書には数は少ないですけど技法的な意味ではセルフワーキングといえる作品もありますし、別になにかスタックを記憶してなくても特定の配列にしておけばできる手品もございます。というか本書はネモニカ・ベースではあるのですが、21作品中17作品はアロンソン・スタックでもできます(というか、だいたいの場合において、この2つ以外でもできます)。残る4つはネモニカで、とはなっています。2 つは事実そうなのですが、1 つはタマリッツ・スタックでもアロンソン・スタックでもできるもの、そして残る1 つはタマリッツ・スタックからだとすぐセットが作れる並びを使っているものというだけで、なにか特定のスタックでなくても演じられる作品なのです。何が言いたいかというと、『いまネモニカ憶えてなくてもあんまり関係ないですよ』と。

 

まあ色々とお伝えしたいのですけどなかなか言葉にするのももどかしく。ピットの演技を生で見ていただいたらきっと、「これがメモライズド・スタックだからかなんなのかとかはもうよく分からんけど、超不思議で楽しい」と思われるでしょう。そしてそれらは幸か不幸か映像媒体の資料としてははほぼ出ていないわけです。ではあるものの本人の筆による大変素敵な本があります。そして、本書の訳者たる私は著者の大ファン。愛とリスペクトと妄執的な無駄訳注溢れる本書をDon’t miss it!です。家にこもる時間は、メモライズ系の定着を図るのにも良さそうですし。いや、いいに決まっています。

 

――さあ、家に腰を下ろし デックと共に生きよう 暗記と共にコロナ禍を越え エアバイオリンと共にネモニカスタック暗記歌*を歌おう 

 *ホントに『Mnemonica』に載っています。

 

 ■教授の物販:Pit Hartling『In Order To Amaze』日本語版

 

 

『緑の蔵書票』さんは、さすがに原書段階からレビューされていて凄い。

greenware-ex.blogspot.com

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 収録作品

 【Miscellaneous Stack Miracles】

色々なタイプの現象を10トリック。

 

“Catch Me If You Can”

マジシャンは、マジックの鉄則を破って同じトリックを2 回やってみようと思う、と申し出ます。1 回目は指先の早業で、2 回目はそれなしで。

最初は、マジシャンが恥ずかしげもなくテクニックを披露、2 枚の“探偵”カードが、観客に自由に言ってもらった“犯人”のカードを、シャッフルされたデックの中ほどで捕まえます。

そしてありえないことに、もう1つのデック―――開始時点からずっとよけてあり、マジシャンが一切触れていなかったデック―――の中でも、探偵たちの同僚が、自由に言われたカードを捕まえているのです。

 

 

“The Heavyweight”

マジシャンは、カードに関する自身の尋常ならざる感覚スキルをデモンストレーションします。最初に、カットして取り上げられたパケットの正確な枚数を判別してみせます。続けて、ほんの少しのあいだ観客のパケットを持っただけで、それと全く同じ枚数のパケットを取り上げてみせます。最後に、何枚のカードがカットされるかが分かってしまうのです―――それも観客が実際にカットする前に。

 

 

Sherlock

観客の1 人が部屋の一番隅まで行き、デックからカードを1 枚抜き出します。彼はそれを憶えてデックの好きなところに戻します。それからデックがシャッフルされます。これらが済んで、はじめてマジシャンがデックに触れます。アーサー・コナン・ドイル顔負けの厳正な消去法と論理によって、マジシャンは選ばれたカードを追い詰め、そして見つけ出すのです。

 

 

 

“Close Encounters”

3 人の観客が、それぞれデックからカードを1 枚ずつ抜き出し、それを別のデックのバラバラの位置に差し込みます。驚くべきことに、その差し込んだカードはそれぞれ、入れた先のデックにある同じカードのちょうど隣に来ているのです。

  

 

“The Core”

神学的かつ生物学的なカード・トリックという珍しいトリックの中で、観客は演者の個人的な『エデンの園』へと幻想的な旅をします。デックがまさしく果実のようなものであることを知らされた観客は、想像の中でデックの皮を剥いていき、デックの『芯』に何のカードがあるか言うよう求められます。

最初からテーブルに置いてあり、誰も触っていない現実のデック―――マジシャンはこれを取り上げ、ゆっくりと“剥いて”いきます。なんと、このデックは観客の空想の旅から現れたもののようです―――一番真ん中にあるカード、つまりデックの芯は、まさに先ほど観客が口にしたカードなのです。

 

  

“Thought Exchange”

マジシャンと観客の1人がそれぞれカードを1枚、心に思います。そのあと、マジシャンが観客のカードを見つけるのみならず、観客もまたマジシャンのカードを見つけ出すのです!

  

 

“Duplicity”

観客の1人がデックをシャッフルし、カードを配ってポーカーのハンド手札を2つ配ります。ハンドの内容はオープンにされ、どちらかが選ばれます。マジシャンは、別のデックでこの5 枚をコントロールしてみせると言います。マジシャンは2つ目のデックで、同じようにシャッフルし、カットし、そしてハンドを2つ配ります。片方のハンドを見てみると、確かに観客のハンドと全く同じものができています。つまり、マジシャンのハンドは観客の選んだ5 枚と全く同じ5 枚からなっているのです。

マジシャンは、観客のハンドと順番までは同じにできなかったことを詫び、こう付け加えます。「お詫びしなければなりません。こちら、カードの順番までは一緒にする時間がありませんでした。ちょっと忙しくて……もう片方のパケットでそれをやっていたものでね」マジシャンはもう片方のハンドを見せますが、これは観客のもう片方のハンドとそっくり同じ、しかもこちらは順番まで一緒なのです!

 

  

“Echoes”

マジシャンはデックから無作為に1 枚のカードを取り出し、見もしないでそれをテーブル上に置きます。観客の1 人に「やまびこを選んでください」と言って1 枚抜き出させ、それを演者のカードと一緒にしてもらいます。この操作を別の観客2 人とでもう2 度繰り返します。6 枚のカードを見てみると、観客たちの選んだカードは、まさにマジシャンが選んだもののやまびこになっています。つまり、選ばれた3 枚はすべて、演者が選んだカードのメイト・カードなのです!

  

 

“The Poker Formulas”

マジシャンは、暗号のような数字の羅列に埋め尽くされた、よれよれの紙を何枚か取り出します。これこそ自分の『ポーカー・フォーミュラ』なのだと彼は説明します。この公式の力を示すため、観客に何でもいいのでポーカーのハンドをひとつ言ってもらい(ここでは7 が3 枚とK が2 枚のフルハウスとします)、プレイヤーの数も言ってもらいます(ここでは6 名とします)。

紙をガサゴソやってマジシャンは該当する公式を見つけ、それをデックに『プログラム』します。デックを静かにリフルし、叩き、ひねりますが、あきらかにカードの位置は全く変わっていません。言われた通りの人数にカード

が配られ、マジシャンのカードが示されます―――そしてまさに、それが観客のリクエストした通りのハンドなのです! さあ、このポーカー・フォーミュラは最高額でご入札いただいた方のものですよ。

  

 

“Just Like That”

マジシャンと観客がそれぞれ自由にカードを思い浮かべます。同じように自由に、それぞれ1 枚のカードをデックから抜き出し、それぞれ自分のポケットにしまいます。驚くべきことに、マジシャンも観客も、お互い相手が思ったカードを見つけ出すのです。こんな風に(Just like that.)。

  

 

【Quartets】

カルテット(スタックの最短相対距離情報)を使うことで起こすトリック7種。

 

“Top of the Heaps”

マジシャンは、少枚数のカードからなる4つの山を少しのあいだ両手で覆います。すると自由に言われた数値のフォー・オブ・ア・カインドが、それぞれの山の一番上に現れるのです。

 

  

“Murphy’s Law”

マジシャンは、トランプというものは『いにしえのタロット』に由来を持つもので、こんにち今日のデックにも、その『不思議な形質』のいくらかは備わっている、と言います。具体的には、デックは人がどれだけラッキーか、もしくはアンラッキーなのかを判別するのに使える、と言うのです。

それをデモンストレーションするため、観客のひとりにA からK まで、なんでもいいので数値を言わせたら、デックから1 枚ずつ表向きにしながら配っていってもらいます。選んだ数値のカードが早く出れば出るほど、彼はラッキーというわけです。そして、この観客はきわめてアンラッキーであることが判明します。なんと、彼が自由に言った数値のカードはデックの最後の4枚なのです。

  

 

“The Chosen”

観客のひとりが、デックの中の4 枚を自由にタッチします。素晴らしい幸運により、自由に言ったフォー・オブ・ア・カインドの4 枚を、それですべて見つけ出してしまうのです。

 

  

“Identity”

マジシャンは言われた数値のカード4 枚を指先で触るだけで見つけ出す、と言い、デックのバラバラの位置のカードを1 枚ずつ全部で4 枚、表向きにひっくり返していきます。その4 枚はてんでバラバラのカードであるにもかかわらず、マジシャンは言われた数値のカードだと自信たっぷりに宣言します。

観客たちは顔を見合わせ、このマジシャンはアタマ大丈夫かといぶか訝り始めたまさにそのとき、彼らは突如それを目の当たりにします。デックがテーブル上にスプレッドされると、4 枚の表向きのカードは、言われた数値のフォー・オブ・ア・カインドへとたちまち変わってしまっているのです。誰かが「眼医者を呼んでくれ」と言い出す前に4 枚のカードは元の姿に戻ります―――そしてまた言われたカルテットに変わります!

 

 

 

“The Illusionist”

マジシャンは謎めいた感じでこう述べます。時に、最高のトリックというのは、決して実際には起こらないもののことを言うのだ、と。そして彼は、そんな『イリュージョン幻』を見せようと言います。

まずは古典的なスキルのデモンストレーションからです。観客のひとりに、どれでもひとつ、フォー・オブ・ア・カインドを言ってもらいます。マジシャンはデックを何度もカットしますが、その度に言われたうちの1 枚を見つけ出してくるのです。

ところが信じられないことに、マジシャンは、これらは本当はすべて幻なのだ、と言います。そして実際、デックが表向きにスプレッドされると、先ほどカットしたところから出てきたカードはどこにも見当たりません。マジシャンは、トリックが始まるよりも前に入れておいたカードがありましたね、と言って、自分のポケットから4 枚のカードを取り出してきます―――それらは言われたフォー・オブ・ア・カインドの4 枚なのです! 時に、最高のトリックというのは、決して実際には起こらないもののことなのです。

 

  

“Four-Way Stop”

誰かがフォー・オブ・ア・カインドをひとつ言います。マジシャンはカードを1 枚ずつ表向きで配っていき、観客は好きなところでストップをかけます。ストップをかけられたところのカードを公明正大に裏向きのまま置き、もう3 人の観客に同じことを繰り返します。最後に、ストップを掛けられた4 枚が示されると、それはもちろん、観客の言ったフォー・オブ・ア・カインドなのです。

  

 

“The Right Kind of Wrong”

1 から10 の中のひとつの数字に集中しながら、観客がデックをシャッフルして、4つの山にカットします。それぞれの山のトップ・カードを表向きにしますが、意図とは違って目的の数字のカードは出てこず、単なるランダムなカードです。観客が間違ったデックを使っていたことにマジシャンが気づいたとき、すべてが明らかになります。ずっとテーブルに置いてあった別のデックで、カットの結果出てきたカードのバリューぶん数え下ろしていくと、まさにそれぞれの箇所から思っていたフォー・オブ・ア・カインドが出てくるのです。

 

 

 

 

【The Stack Dependents】

タマリッツ・スタックを使うトリック4種。ちなみに1つ以外は別にタマリッツ・スタックである必要はないのですが、それからだと早く組めるというメリットがあったりします。

 

“Fairy Tale Poker”

マジシャンは、実は魔法のデックを使っているのだと明かします。おとぎ話のように、このデックは自ら並びを変えて観客たちの望みを叶えるのだ、と。そうして配られたポーカーでは、他7 人の強力なハンドを、デックの持ち主が4 枚のA で打ち負かすという、とんでもない事になるのです。

 

 

“Quick Change”

デックから1 枚のカードが抜き出されて示されます。マジシャンはデックを素早く4つの山にカットします。それぞれの山の表のカードは、抜き出されたカードと合わせて、ポーカーの強力な役になっているのです。

これがより困難な状況下で繰り返されます。新たなカードが選ばれ、マジシャンはそのカードを使って組める最強の役を作るため、必要となる他の4枚を―――それも4 枚一度に、1 秒で、片手で、手元を見ずに見つけてみせようと言うのです。

選ばれたカードが示され、マジシャンはテーブルの下で4つのパケットを片手で持ちます。一瞬の後、マジシャンが再び手をテーブルの上に出してくると、それぞれの表のカードが変わっています。新たに選ばれたカードとその4 枚を合わせると、スペードのロイヤルフラッシュになっているのです。

 

  

“Poker Night at the Improv”

即興とカード・コントロールの妙技で、マジシャンはシャッフルされたデックから次々とより強いポーカーのハンドを種々華麗な方法で取り出してきますが、その間ずっと、観客に自分が選んだカードを忘れさせようとします。

それらがすべて失敗に終わったとき、マジシャンは残った最後の数枚を観客に手渡し、ポーカーのハンドを配ってもらいます。観客は、彼が自身に勝利をもたらすロイヤルフラッシュを配ったのみならず、最後にカードがちょうど1 枚だけ残ったことに気づきます―――これこそが彼の選んだカードなのです!

 

 

“Game of Chance”

マジシャンがデックをシャッフルし、プレイヤーは赤か黒かの色を言います。カードを3 枚一組でめくっていき、そこに出てきたカードの色を見ていきます。それがプレイヤーの指定した色であるたびに点が加算されます。

ゲームの最序盤から、プレイヤーたちはまるでツイていない感じです。色を選びますが、3 枚目のカードはいつも選ばなかったほうの色なのです、それも最後まで!

デックは繰り返しシャッフルされ、赤と黒がランダムに混ざっていることが示されるにもかかわらず、何度プレイしても同じ結果に終わります。どちらの色が選ばれても、出てくるのは反対の色なのです!

いくつかのバリエーションがいずれも同程度に不満足な結果に終わったあと、最後にマジシャンは、同時に2 人のプレイヤーでやってはどうか、と提案します。1 人が赤を選び、もう1 人が黒を選ぶのです、と。これなら1 人は勝てるでしょう! 3 人目の観客が審判を務めます。彼はマジシャンのための色を自由に1つ言ってから、カードを3 人の参加者へと配っていきます。マジシャンの手札には赤と黒の混ざったカードが来て、得点も普通でした。しかし、他の2 人のプレイヤーが自分の手札を確認してみると、1 人は全部赤いカード、もう1 人は全部黒いカード―――ですがどちらも『ハズレ』のほうの色なのです!

 

 ■教授の物販:Pit Hartling『In Order To Amaze』日本語版

 

Guy Hollingworth関係の近況

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DRD

富山です。Guy Hollingworthの『Drawing Room Deceptions』という本の粗訳1周目がようやく終わり、合わせて彼の映像資料を全見直しの行に入っておりまして、備忘がてら映像についてのメモを後日つらつらあげていこうかと。

 

ガイ・ホリングワースは英国のマジシャンで、まあなんと言いますか、いちいちジェントル感溢れる、英国紳士です。日本の一部手品界隈では通称ガイ様。かっこよすぎ。というか本当に上流階級の人らしいので仕方ありません。私のようにカネで爵位を買ったような人間とはワケが違います(当方伯爵位持ち(本当))。

大学生の頃、奇術愛好会で彼のビデオ『London Collection』を見て震えた思い出があります。中でも私に一番手品を教えてくれた先輩がガイ大好きマンで「ぼくもいつか、白黒で『Mita Collection』とか撮りたい」とか普段から言っている類の人だったので、必然私も好きになってしまいました。なおその先輩が本書の共訳者でもあります。当時、まさか二人してガイ様本を訳すことになるとは想像もしておりませんでした。人生何が起こるか分かりません。

ガイ様はめっちゃ手がでかいというか指が長いので、昔から「この人の手品は私のように手の小さい人間には基本的に無理だな」とか思っていたのですが、腰を据えてしっかり読んだり見直したりすると、そういうのはむしろ少なく(本人は、「指が長すぎて、このタイプのボトム・ディールは無理」みたいな悩みもあったようですが)、だいたいはかなり緻密に工夫された素晴らしい作品の数々でした。

トーン・アンド・レストアード・カードという、要は4片に破いたカードを1片ずつくっつけていって復元するトリックがありますが、その彼のバージョンがかなり有名です。亜種もかなり出ました。それがきちんとできるようになりたくて、2010年頃、こざわまさゆきさん主催の洋書購読会の中で、本書のエピローグ、"The Reformation"を訳の対象に選んだのを思い出します。訳自体は、いま見直してもそこまで間違いはなかったのですが、まあとにかく練習が足りていなかったので、当日の実演ではもはや手品になっておりませんでした、という苦い思い出。その場にいた齋藤修三郎さんに「そこはこういう動きですよ」と教えていただいたという有様で(なおそのとき彼が訳していたのが『Card College Light』のトリックだったはず)。

 

本自体はこの冬以降にはなりますが、鋭意製作中です。……ら、来年かな……?内容はいまでも全然古くない折り紙付きですので、ガイ様に恥じぬ、かっこいい本になるように頑張ります。本書、挿絵もアール・デコ調の素敵なものなのですが、全部本人の手による描画というところがまた。パーフェクト超人か。

Roberto Giobbi『Card College Lightest』日本語版

ロベルト・ジョビーの『ライト』3部作の締め、『カード・カレッジ・ライテスト』、ギリギリ年内で完成です。ついにシリーズ完結いたしました。やったぜ!

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 なお2019年末まで限定ですが、以下のクーポンコードを入れると(ライテスト以外も)5%割引になる不思議仕様ですので、ぜひお使いください:shop2019thanks

 訳の片割れ、富山です。一部の皆さま、よくぞここまでついてきてくださいました。いよいよ『Light』3部作、締めの1冊です。本書では前2冊等から、"自分のルーティーンや手順構成はすでに持っている"という方たちを想定したつくりになっています。つまり、本書の収録作品は、手順中のどのフェイズにでも足せる、独立性の高い珠玉の数々18作品なのでございます。それに加え、全体的に手順の効果を倍増させる、楽に出来ながらもディセプティブなフォールス・シャッフルやフォールス・カットなどをまとめた、きわめて汎用性の高いコーナーも設けられています。全シリーズ60トリックに加え、軽めの、それでいながら実践的な理論いくつかを含む本シリーズ、足掛け2年で日本語化完了です。関係各位には厚く御礼申し上げます。

 

 

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揃えてばーん

 

【追記】

誤記です。p. 83  誤:星野泰祐 正:星野泰佑 駄文であるあとがきでは正しいのにカレッジ5巻のクレジット部というより正確性が求められる箇所で間違えるという痛恨のミス。星野様、本当に申し訳ございません。この詫びは必ずや。齋藤さんが。

 

誤記です。p. 126, l. 3 誤:フォースル 正:フォールス 

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収録内容

 

Einstein’s Card Trick(リシャール・ヴォルメル)

ノーベル賞受賞者であるアルベルト・アインシュタインによる(とマジシャンが言い張る)手続きを用いることで、観客の1 人が、先ほど自分で憶えたカードを見つけ出してしまいます。

 

Through the Magic Looking Glass(ハワード・アダムス)  

観客の1 人が自由に2 つのグループを選びます。それぞれのグループは7 枚のカードからなっています。パケットはよく混ぜられ、その観客だけがカードを取り扱っているにもかかわらず、不可解な一致現象が起こります。

The Magic Card(ビル・ノード&マックス・カッツ(?))
不可能に思える状況にもかかわらず、マジシャンは誰かにあらかじめ思ってもらっていたカードを、“マジック・カード”を用いて探し出します。

Mental Flush(ラリー・ベッカー)
観客の1 人がロイヤルフラッシュを構成する5 枚のカードのうちの1 枚を心に思います。マジシャンは躊躇うことなく、彼の思っているカードを言い当てます。

Follow the Leader(ダイ・ヴァーノン(?))  
マジシャンは赤と黒のカードを10 枚ずつテーブルに置いて2 つの山を作ります。それぞれの山の前にはその山に含まれるカードの色を示す“リーダー・カード”を置きます。リーダー・カードがどのように取り替えられても、それぞれの色は常にそのリーダーを追いかけます。これは凄い!

Gemini Calling(カール・ファルヴス)  
マジシャンは自分の名刺を2 枚取り、それぞれに予言を書きます。そうしたら2 人の観客は、事前にシャッフルされたデックにこれらの名刺を差し込みますが、その場所は完全に自由な方法で決めます。これらの厳しい条件にもかかわらず、名刺のすぐ隣のカードは名刺に書かれた予言とまさしく同じものであることが分かるのです。

Cardstalt(モーリス・ザイデンシュタイン)  
観客にデックから同じバリューの4 枚のカードを抜き出してもらいます。マジシャンは抜き出されたカードが何かは知りませんが、残りのデックを1 度だけ素早くリフルし、そしてそこにない4枚のカードのバリューが何かを正確に言い当ててしまいます。

Cardstalt Plus  
シャッフルされたデックから観客の1 人がカードを1枚抜き出し、それを裏向きのまま脇に置きます。“Cardstalt” のプレゼンテーションからの流れで、マジシャンはデック全体を通して一度素早く見て、そして足りないカードが何であるかを言い当てます。

Cheers, Mr. Galasso!(ロン・ヴォール)
デックをしっかりとシャッフルして観客の1 人に手渡し、その彼女が自分の手の中でカットし、その場所のカードを取り上げます。さらに2 人の観客もカードを取ります。デックを受け取ることもなく、マジシャンはそれらのカードを1 枚ずつ当てていくのです。3 枚のカードはすべて、デックがマジシャンの手の中にはない状態で選ばれ、デックも52 枚からなるごく普通のものであることは強調しておきます。さあ、じっくり考えてみてください。

Chance by Plan  
観客の誰かがランダムにカードを選びます。♠Aだったとしましょう。すると、もう1 枚の黒のA が突然表向きになります。そして黒のA が赤のA を見つけ出すのです。最後には別の4 枚のカードが出てきて、選ばれたスートのA を含む、ロイヤルフラッシュが完成するのです。

Posi-Negative Coordination(J・W・サールス) 
誰かにデックをシャッフルしてもらいますが、それでもなお、どういうわけかカードは赤と黒に分かれてしまいます。

Man Seeks Woman(ハワード・アダムス) 
4 枚のQ と4 枚のK を一緒にして徹底的に混ぜます。そうしたら、観客の誰かにこれを使ってゲームをしてもらうのですが、それぞれ同じスートのQ とK が一緒になるという驚きの結末になります。

A Swindle of Sorts(ポール・カリー)
マジシャンはデックからハートのA から10 までを取り出して順番に並べます。それから順序を入れ替えます。しかし彼は他者の行動を心理的に操ることができるので、不思議なことに観客がカードの並びを元通りに戻してしまうのです。

Two, Six, Ten(スティーヴ・ベルシュー)
観客が自由に1 枚のカードを選び、それを予言とします。これを脇に置いておきます。そうしたら残りのデックをカットして3 つの山に分けてもらいます。予言のカードの数値に従い、3つの山それぞれでカードを移動させていきます。それぞれの山の一番上に来たカードを表向きにしますが、驚いたことに、これら3 枚のカードはすべて、予言のカードと数値が一致しているのです!

 

Numerology(リシャール・ヴォルメル)
マジシャンは手短に数秘術の深遠なる秘法、その理論と実践について説明します。そして誰かにランダムに選んでもらった3 つの数字を使って、選ばれたカードを見つけてしまうのです。

FurtherThan Ever(スチュワート・ジェームス&J・W・サールス)  
観客の誰かにカードを1 枚憶えてもらいます。マジシャンは彼女の心を読み、そのカードの名前――♠A を言い当てます。そうしたらそのアルファベット1 文字につき1 枚ずつカードを配っていきます。綴っていったまさにその最後のカードを表向きにひっくり返すと♠A が現れるのです。マジシャンはそこまでに配ったカードをひっくり返しますが、“Ace” の箇所の3 枚はすべてそのほかのA――そして“Spades” と言って配った箇所はすべてスペードのカード。皆が、さすがにこれ以上はないだろうと思ったところで、最後にはスペードのロイヤルフラッシュが現れるのです!

The Vanishing Deck(ハリー・クロフォード)
鉛筆を魔法の杖代わりに使い、マジシャンはデック全体を消してみせると言います。すると鉛筆が突然消えてしまいます。鉛筆は再び見つかりますが、デックはどこかに消えてしまうのです!

A Card Gag(アルド・コロンビニ(?))
借りたデックから、誰かに自由に1 枚カードを選んでもらい、それを戻したらデックをシャッフルしてもらいます。そうしたらマジシャンは「ほら、これでしょう」と1 枚のカードを取り出してきます。残念なことに、それは彼が選んだカードではありません。がっかりしたマジシャンは、それを破り捨ててしまうのです――そのデックが自分のものではないということを忘れて。ですが最後にはすべては優しいジョークであったことがはっきりして、万事丸く収まるのです。

  • Final Thoughts

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『In Order To Amaze』の訳はほぼ終わりました。査読も3人中2名からすでに返ってきております。ラストスパートがんばります。

 

『ネモニカ学習帳』

『ネモニカ学習帳』

 

皆さんはメモライズド・デックというのをご存知でしょうか。1枚目がXXで2枚目がXXで、と全部記憶してしまう、マジックの中でも「理屈は分かるけれどもさ……」系の、ひとつの極致にあるタイプのあれです。存在自体、理屈自体はご存知の方も多いと思います。では見たことは?興味を持ったことは?ていうか憶えたことは?こうするといきなり減りますよね。手品をする人全体を100%としますと、その中でカード・マジックをする人で、さらにメモライズド・デックを使える人、と絞っていけば、これはもう1%もいないのではないでしょうか。まあね、難しそうだしね。華々しさもないですからね。憶えようとも思わなかった、という方も多いでしょう。こんなん憶えるの、困難ですしね。

 

「淡い。淡いぞ田中。それをさほどの苦労なく憶えるための本が、

……これじゃあああい!」(CV:上野さん)

 

『ネモニカ学習帳』!!!!!!

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(あふれ出る出オチ感)

 

頭を抱えたくなるようなクソダジャレの数々が満載された、ある年代以上の人にはなんだか懐かしさを感じるアレなデザインの本書により、例のタマリッツ・スタックを、ものの数時間で記憶することが可能になるのである!読み終わったあとには鍋敷きにもなる!(NR:井上和彦

「最後のは要らんのでは……」(CV:田中)

 

 

タマリッツ・スタックの並び、組みかた、ダジャレによる暗記法、Move a Card に使える簡易ダジャレチェック法、メモライズド・デックを効果的に使うための安全策、オマケとしてピット・ハートリングとデニス・ベアによるカルテット(ベアはプロップ、と呼称しています)のダジャレ暗記法まで網羅した、手品そのものは一切載っていないB5サイズ34ページの薄い本だ!(ちゃんとオフセット仕様です) お祭りであるマジック・マーケット2019では500円で頒布予定!Baseのショップでも扱いますが、手数料&送料もかかるので、そっちの値付けは1000円とか1200円とかにしようかなと(ぶっちゃけ作者の実際の実入りはあんまり変わりません)。マジケで170冊売ると損益分岐を超えるぞ!荷物になるから40冊くらいしか送らないけど(作者は別用のため今年のマジケは不参加)。販売担当に「えー、小銭出るじゃん。面倒。1000円にすればいいじゃん」と言われましたが、ねえ。お祭りですし。いや、自分で書いたので、「この作者、バカだけどほんと最高に話が通じるな」というくらい全ページわかりみが深い上に、交友関係にクレジッターが多いことに怯え、さほど興味もないのに3ページ分くらいクレジット情報も入れてるしで、そこそこちゃんとした内容にはなっています。「ネモニカ憶えてみようかな」という人のとっかかりとしては十二分な内容は入っているはず。(※私調べ) 

 

 

ということで、無事届いていればメチャ凄サイトー(D-7)で頒布していると思いますので、興味なくてもお買い上げいただければ幸いです。厚みがないので「『ネモニカ学習帳』を入れておかなかったら即死だったぜ……!」みたいな用途には不向きですが、鍋敷きにどうぞ。Baseではこちらで扱っております。

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■読者からのよろこびの声コーナー■

「ネモニカを憶える前の私は、何をしてもうまくいかない、典型的な“持っとらん子“でした。春先のある日、だまされたと思って、ということで暗記用リストを渡されました。仕事で100分ほど飛行機移動することがあったので、その際に、前日買って鞄に入れっぱなしだった『異世界おじさん 第2巻』を読んでから暗記に着手しました。降りる頃には憶えていたのですが、その日の夜に行ったスーパー銭湯の露天風呂で10周ほどしたところもうばっちりです。実質2時間だと思います。するとどうでしょう、驚くべきことに、ネモニカをマスターしてから物ごとが180°転換し始めたのです。ニコラス・ローレンス、桂川新平、碓氷貴光、MH、シェーン・コバルト、ピット・ハートリング、カーティス・カムなどそうそうたるマジシャンが来日(一部もともと日本)、ピットの『In Order To Amaze』日本語版の自分校正が進んでいないことなど、さしたる問題ではないようにすら思えてきたのです!あとガルパン最終章第2話も上映されたのです!これというのもネモニカを暗記できたおかげです。ありがとうネモニカ学習帳。この功績を引っさげて、今度アメリカ大統領選に打って出る所存です」(東京都在住:手品ブロガー、手品本の訳者)