教授の戯言

手品のお話とかね。

トミーワンダーライブ@吉祥寺

29日夜、会社をサボって(一応有給休暇ですが)トミーワンダーのレクチャーに参加しました。35人の定員ということでしたけれども大体40人くらいは入っていたと思われます。

トミー・ワンダー(以下トミワン)をご存じない人のために少しだけ説明すると、「創作工作ネタ大好き」な御仁です。スライハンドそのものに重きをおかず、工作ネタと工夫で極力スライハンドムーブを排した演技スタイル。なおかつトリックを再現するには、まず手間のかかる工作が必要な事が多いという「DVD見てまずは演技をなぞってみようかなー?」というへっぽこマジシャン泣かせな方です。DVDにあったあのテーブルなんか自作する気が起きません。

「カードといえばレギュラーカードで、コインといえばシェルもDFも認めねえ」といったピュアリスト(意訳:変人)には「邪道だ」と不評な方かもしれません。私はその辺のこだわりが全然無い、いわゆる節操無しなのでエニシングOKです。
「1人を騙すのに100人のサクラを使っても?」
「私は一向に構わんッ!」
まあそんな感じの。
ワイルドカードとカップアンドボールが代表的な演技として知られています。前者は演者が持っている何枚かの同一カードが、お客さんの選んだカードに一枚ずつ変わっていき、最後には全てお客さんの選んだカードになってしまうもの。キモイです。後者は2カップ2ボール式ですが、テンポの良さ・意外性・演技スタイルなど、僻目を抜きにしても最高クラスの完成度と言えます。

で、この会ですがイキナリ総括すると
・トミーカッコイイ
・もっと手品して
というイベントでした。

ライブアンドレクチャーというお題だったので、予定の90分のうち20分くらいは連続で手品を見られるかと思っていたのですが、一つやっては解説と言う形だったため、ライブには違いないのですがショーと言う感じはしませんでした。ちょっと細切れすぎ。

本イベントで一貫して彼が主張し、演技にも現れていたのは、彼は別に手品をやって「お客さんを不思議がらせる事」が目的ではなく「お客さんをどうやったら楽しませられるか」を主眼にしているということです。私の考えも割にこれに近く、極言すると相手が楽しんでくれるなら別に手品じゃなくても、それこそ不思議じゃなくてもいいといったイメージでしょうか。Rivast先輩は「僕はまだそこまで手品を捨てきれないなあ」ということでしたが。元々ウケ狙い性分の私としてはその辺にこだわりは余りありません。

またレクチャーそのものを売る気はあまり無いらしく、以前に出したDVD3巻でもう出さないつもりのご様子です。彼のように一つ一つのトリックを愛して磨いて工夫していく場合は、そうそうDVDなど出せるものではないのでしょう。マジシャンが磨きぬいた完成度のものを解説する、というのがレクチャーDVDの本道だとすると、昨今のレクチャーDVDの氾濫は一体(笑) 偉大なマジシャンでも一生に持てるペットトリックって30くらいなんじゃないのかと思ったりするのですが。でも面白そうなものが出ると買ってしまうあほな私。以下に内容と雑感を。


1:カードとカードケース
カード箱からカード出してファンにして、箱を消してカードを見ると箱に入ってて、また出して・・・と文章で書くと私がバカみたいなのですが、David Stoneのquit Smokingのようなものといえばよろしいのか、「タバコを吸おうと思ったらライターとタバコが逆転している!あれ?」みたいな物をカードケースとカードファンでやっているもの。これを淡々とやる"彼のあまり好きじゃない方法"と、マジシャンが現象に驚くコミカルな"彼のいつもやる方法"を見せてくれました。理屈付けからふと"コンバージョン論"の某氏の顔が浮かびました。元々手品をやって「ね、不思議でしょ」タイプの演技が好きでなく、逆に「マジシャンが道具・現象に翻弄され、お客さんがマジシャンと現象を笑える、妙なストレスを与えないスタイル」が好きな私としては自然に受け入れられる話でしたね。


2:リストアカード
4片に破ったカードが3/4だけ復活、残りの一片もくっつくがそのラストの一つは・・・というもの。こういうコメディタッチの手品大好き。ラストを完全なレストアにしないところに、いわゆる不思議一辺倒のマジシャンとは違う彼の姿勢が見えました。


3:カードフロムエッグ
観客に選んでもらったカードをデックに戻すとテーブル上にはいつのまにか卵が。それを割ると中からお客さんのカードが。デックの他のカードを見ると・・・。フォーシングの完全性を期すための工夫がステキ。


4:ライター to マッチ
ライターをカチカチやるが火が点かない。オーケーこういうときはマッチを使えばいいんだと、ライターをマッチに変えて、それで火をつける。本人の演技指導が「ライターで火が点かないことを理解させるまで、誰も見てなくても会場の隅っこでカチャカチャし続ける。誰かに気づかれたら初めてやりなさい。それまではカチャカチャです」に爆笑。「君が気づいてくれるまで、僕はライターをいじるのを止めないッ!」


5:アンビシャスカード
カード出したあとのケースがちっさくなってるというナカナカ楽しい出だし。そのあと小箱を出してから例のアンビシャスルーティーンをやってました。途中2・3回入る突き出たカードを触りつつの「このお客様のカードを・・・、・・・。いや、ちゃーんとお客様のカードですよ?疑り深いなあ」とフェイスを見せる非常にうまいと思いました。選んだカードが何らかの方法で上に上がってくる、という結末を知っているお客さん、その反応をうまく捉えたいい演出だと思います。ラストは6つ折にしたカードがなぜかありえない場所から・・・。ラストはカードをしまうときに、誰もが忘れていたであろう小さくなったカードケース出して、そこに無理やり仕舞っちゃうのもステキ。


6:カップアンドボール
トミワンがポンポンつきのカップ入りの袋を出した瞬間、隣にいたマニアが「よっしゃー」とか結構大きな声で叫んでました。普段なら引きますが、私も実際生で見たかったので、同じくらい大きな声で叫んでみました。勿論心の中で。
現象知ってるのに、序盤のカップの中からボールがとけるように出てくるところに感激し、ポンポンロードがまるで、本当にまるで分からなかったという素晴らしい奇術ぶり。そこで目がダメ手品っ子視線になってしまって袋ロードは騙されなかったのが悔やまれます。いや、自分に。しかし後で解説されると、本当に堂々と入れてるんですねえ。


7:ディミニッシングカード
フラットファンに開いたトランプが徐々に小さくなっていくもの。普通これをやる人はぎゅぎゅっとファンを押し込む動作(ファンを小さくする)と、一枚のカードもしくは自分の親指人差し指で、元の大きさと対比させるのですが、彼はそういう動作もなく、広げたファンを伏せて、また立てるという動作しかしません。左手オンリー。左手芸とか書くと麻雀でしたっけか。最初何やってるのかわからなかったのですが、4・5回やってるうちに明らかに小さくなっているのが見て取れました。


延長演技も終わったあとサインしたりDVDやディミニッシングカードの販売などしてました。しかしいくつになっても憧れのマジシャンと写真撮ったり言葉を交わせるのはとても嬉しいです。えっへっへ。
カードにサインを頂くとき、「To 誰々」と始めるので「こういう宛名にして下さい」って言うのを別の紙に書いて彼がそれを見ながら書くわけです。で、彼はTOMMYなのですが、私が宛名に選んだのは愛称のTOMYだったので「あれ、私みたいにMもう一個入れないの?」と聞かれてしまいました。「TOMMYにTOMMYがサインって、それこそWONDERというかSTRANGEなので違うスペルでいいのですー」的なことを言って笑われたりしたのもいい思い出です。このイベントの前には埼玉でSAMにでて、明日にはもう韓国にいってるんだよというトミワンでした。


終了後、髪型屋のマサキさんをはじめ7人でその辺のイタリアンに行って雑談。以前マジックスイッチでもお会いしたことのあるのぶさんが、実は学校のサークルの先輩である牧人さんとミステリ仲間で、拙ブログもお読み頂いているとの事。世間は狭いということですね・・・。
ミスターマリックや前田知洋の話題で盛り上がりましたと。