教授の戯言

手品のお話とかね。

キラスタイル3

■ 紀良京佑「キラスタイルIII」



【収録内容】

・予言者のカード
観客にデックの3分の1を持ち上げてもらいます。その中からカードを一枚選んでもらい、残りのカードはポケットにしまってもらいます。観客からカードを返してもらい、テーブルに置いていたデックの中に戻し、よく混ぜます。ここで、予めテーブルに出しておいた2枚のカードをデックのトップとボトムに表向きで置き、右手で押さえます。この状態でデックを振ると、2枚のカードの間に裏向きで1枚のカードが挟まっています。そのカードは、なんと観客の選んだカードです。そして、観客のポケットにあるカードの枚数も見事当ててしまいます。

「カードを当てる」「お客さんのポケット中のカードの枚数を当てる」という二つの組み合わせ。前者はいわゆる探偵カードで、最初もしこれで終わったらどうしようとか、ドキドキして見ていました。後半の枚数を当てる方は不思議でした。ただ、不遜承知で言わせて頂くと、これは最後のプレゼンがイマイチと思います。
演技では「ポケットの中には15枚あると思いますよ」→「数えてください」→「15枚でした」→(卓上の2枚のカードの合計が15)→「ほら、合計も15ですよね」 なのですが、宣言を最初にした方が、手品的に分かりやすいと思うのは私だけですか?
「この2枚が、お客さんのポケットにある枚数を教えてくれるんです。足すところによると、んー15枚とのことですがどうでしょう」→(数える)→観客「13、14、15…な、なんだってーーーーー!!」の方が盛り上がりません?
「えーと、15枚でした」「この2枚の予言カード、足したら15でしょ。だから最初に、この2枚が教えてくれると言ったんですよ」というこの流れは、ちょいととってつけた風で、枚数が一致するまでは不思議だったのに、逆に興が削がれてしまいました。観客もなんか拍手のタイミングを計り損ねていた感じがありましたし。
観客の取ったカード枚数を知ることが出来るこのシステムが良く出来ているだけに、非常に勿体無いなあと思った次第。「カード当てとは、観客の選んだカードを当てるというこの単純な行為を、いかに劇的に演出するかにかかっている」、という言葉が有ったような無かったような気がしますが、まさにその辺りかなと。実に惜しい…。



・ケースに差したカード
マジシャンはデックの中から1枚のカードを無作為に選びます。それから、そのカードを表を見ないまま、デックケースに差し込んでおきます。観客に好きなカードを一枚言ってもらいます。デックを広げてみますが、観客の言ったカードだけありません。カードケースに差し込んだカードを見ると、まさしく観客の選んだカードです。

隠匿法が面白い。かなり正々堂々とスプレッドしてなお、観客の選んだカードのみが見えないのは解説で「おおっ」とか思いました。ちょいと素敵。なお、"さしておいたカードが選ばれたカード"という現象の実現方法については、まさしく賢明な読者諸君の想像の通りである(江戸川乱歩調)。シンプルだけど普通のお客さんにとても受けます、と仰っておられました。まあ意地悪い見方をすると、「スプレッドして、該当するカードがないのを確認したら、何もしないでそのままさしておいたカードを表返して示してよ。いや、むしろスプレッド以前に、カードを聞いたらそのまま開けてよ」と、予言系のマジック全般に言える突っ込みが出来なくはないのですが。それはさすがに野暮が過ぎますね。



・マインド・ピーク
マジシャンは観客にデックを渡し、よく混ぜてもらいます。デックを返してもらい、トップから10枚を取り出します。カードをよく広げ、観客に1枚のカードを心の中で覚えてもらい、そして、そのカードが何枚目にあるかを確認してもらいます。マジシャンは覚えたカードが何枚目にあるかを聞き、カードをデックの中ほどに入れます。この状態で観客の心に覚えたカードを当てます。


このピーク方は初めて見ました。そんな体勢にしてからのピーク自体初めて見たのですが。「アウトオブサイト アウトオブマインド」よりかはお手軽だが、不可能性も若干低い、という印象。カードの表を見ていないとはいえ、枚数目をお客さんに聞かないといけないのがちょっと。この辺のバランスが難しいところですね。ただ、このマジックは下手するとキモイ(いい意味ではないが悪い意味でもない)。
選んだカードを、マジシャンがそれっぽい行動をしていないような状況下でピタリ言い当てられて終わるのって、何かお客さんとしては、「うっわ、なにそれ!キモイ」という感覚じゃなかろうか。現物出さないで口で当てるのって、この辺に課題がある気がしました。メンタリストとか、もしくは「本格的に人心をコントロールしたい、ゆくゆくは宗教法人立ち上げが野望」というような方にはうってつけ系w 紀良さんが腰の低いキャラだからいいですけど、話術と演技が反社会的方向に達者な人がやったら、色々な意味で怖そう。



・幸せの白いカード
マジシャンは表面が白いカードを取り出し、観客Aにサインしてもらいます。次に観客Bにデックから1枚のカードを選んでもらい、サインしてもらいます。観客Bのカードをデックの真ん中に入れます。観客Aのカードをデックのトップに置くと、観客Bのカードがトップから2枚目に出てきます。さらに、その2枚のカードをテーブルに置き、手でこするだけで背中合わせでくっつきます。スリップ・カット・フォースの考察。

演技自体は「2WO FACED」にあった「CON-FUSED」の方が好きなのですが、スリップカットフォースの考察は自分が考えたこともなかった観点で驚きでした。確かに紀良さんの仰る通りなのですが、スリップカットのそこのポイントをきちんと考えている人をはじめて見ました。確かに音が嫌なんですよね、あの技法。なるほどなるほど。
また、"カードにサインすることへのお客さんの心的負担を軽減する方法"も、地味ながらきちんと演技を構成する上でのいい工夫だなあと、素直に感心しました。こういうささやかな工夫大好き。



・F4A
かっこいい3分割フラリッシュのあと、4Aプロダクション。フラリッシュも含め、全て丁寧に解説。

カットはかっこいいんですけど、「これからAを出す」云々は言わないでやった方が絶対かっこいいです。というかかっこいいフラリッシュの直後に、ソフトな紀良さん調子で"これからやることの説明"をすると、一気に空気が弛緩する気がします。あとあのフラリッシュ系のカット、私はもはや往時の "手品を知らないときの感覚"が弱まっているので何ともいえない部分はあるのですが、一般的に見てああいう連続カット自体、"混ぜている"ようにはちょっと見えないと思います…w



シバザクラ・コインシデンス
よく考えられたメイトカードのマジック。強力なクライマックスが待っています。デックを2つに分け、観客に好きなパケットの中から1枚のカードを選んでもらいます。そのカードをその場所で横に突き出しておきます。2つのパケットを上から1枚ずつ表向きにしていきますが、観客のカードの所だけメイトのカードが出てます。今度は別のパケットから1枚選んでもらいます。またもや観客の選んだカードの所だけ、メイトのカードが出ます。最後はパケット同士をよく混ぜます。そして、1枚ずつ交互に置いて新たなパケット2つをつくります。2つのパケットを上から同時にめくっていくと、なんと、全てメイトのカードです。また、ここで使われるオリジナルのフォールス・シャッフルは必見です。


最後の現象からセット以外にありえないとは思ったのですが、思い出してみても怪しいところを感じさせなかったのは実にお見事。最初は合わないのがたくさんあるのに、ラストに全部メイトが合っていくカタルシスはたまりません。単純に"全部のオーダーが合う"のであればデックチェンジ等を駆使すればいいのですが、これの前段、お客さんの選んだところ"だけ"がピタリと合うというのがやはりステキなスパイスです。最後の駄目押しフォールスシャッフルが見事。フォールスシャッフルが趣味だったのに、幻惑されてしまいました。こういうのがあるからクロースアップはたまりません。
トリネタに相応しい風格ですね。仕込が壮大だけあって…。セルフワーキングに近いですが、幾つか技巧もあり、全般的に巧妙に練られた手順だと思います。多分「傑作」と呼んで良いレベルじゃないかと個人的には思いました。いや、このブログの文章は全部個人的に思ったことですけどw これは手間はともかく、演じてみたいと思わせる作品でした。



・シルクの薔薇
手の中に押し込んだ赤いシルクが反対の手に移動したり、ポケットの中に移動したりします。最後はそのシルクが赤い薔薇に変わります。とてもお洒落なマジック。

こういうの大好き。私はやらないけどやりたいんです本当はw 「Match to Rose」 も持ってますし。何も持ってない手にハンカチかぶせて、ぱっと掃うと小さな花が。ベタですが、普通の人が望むマジシャン像としてはこうでないといかんですよね。
やっぱ「今はこれが精一杯」ですよ。すまねえクラリス

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紀良さんのトリックは、総じてメンタルマジシャン系の人と相性がいい気がしました。手が震えた時用に本DVDトリックのセット済みデックも用意しておくと心強そうでした。