教授の戯言

手品のお話とかね。

くりえーしょんず

■ 長谷和幸 DVD「CREATIONS」

メンタル系の良い面も悪い面も内包した感じだなあというのが第一印象。最初に演技を全部見て、どうやったのかは分からないのが多かったのですが、ぶっちゃけ…眠かったのです。長谷さんが落ち着いた声な上、演技の都合上、観客に対しての「あれしてください」「これしてください」が非常に多いため、現象が起こるまでが長いのがその理由です。

そんな流れで演技を見たあと入浴、「睡眠導入の助けになるかな」とか凄まじく失礼なことを考えつつ、寝る前に解説編をみてみたらこれが色々と面白く、ぐいぐい引き込まれてしまいました。長谷さんすごいや!今夜は寝かさない気だな!…明日も会社なんです…。
やはりメンタル演技を見るには1ネタか2ネタにとどめておくのがバランス的にもいい気がします。DVDの構成上仕方の無いことなのかもしれませんが、クオリティが高くても、メンタル系マジックを連続して5つ6つ見せられたらどんなにいいトリックでも眠くなるものだな、と。
あと手品とは全く関係ないのですが、私は何故か長谷さんのサ行とラ行とウ段の発音に違和感を覚え続けておりました。何故だろう。

紹介文はいつも通りFDさんより拝借。メンタル系の現象は私が要約すると、凄くつまらなく見えてしまうことが分かったのであえて今回はあまり触らず。今度は自分の文章でも魅力的に見えるように頑張る所存。つまり今回は頑張りません。

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【収録内容】

・ネステュアリー
演技始め、卓上にネストボックスを置く(輪ゴムで縛られ、セロテープで固定されている)。更にその上にハンカチをかぶせておきます。この状況で観客のサインしたコインがボックスの中に移動。

と、のっけからメンタルではないのですが。ネストボックスって面白いですよね。これについては不思議ではありますが機構を知っているせいもあり特筆ポイントは無く。ボックスなどは出しっぱなしにしない、というのがこの類の鉄則なのですかね。



・ツーペンズ・ウィズ・バット・ア・シングル・ソート
2つの図形から1つを選んで書いてもらいます。マジシャンは書いてもらっている間、ずっと後ろを向いています。観客の書いた紙を見ることもありません。しかし、マジシャンはどの図形が描かれたのか、ずばり当てます。



この理屈は引き込まれました。100%ではないと思うのですが、解説されたら確かになあ、という。「私も確かにそう書くわ」と思いました。しかし久々に赤青鉛筆を見ました…。そして次に思うのです、「…あれ、これって、…5割の確率で当たるよね?」とw



・ペン・アンド・シンク(上記演技と続けて演じられています)
3つの図形から1つを選んでもらい書いてもらいます。マジシャンは書いているところを一切見ません。そして、観客の書いた紙を見ることもありません。しかし、書かれた図形を簡単に当ててしまいます。賢い方法です。図形は3つでなくても行えます。

この理屈自体をはじめて知りました。そういう機構があるんだ…。そして次に思うのです、「…あれ、これって、…1/3の確率で当たるよね?」とw

どちらも非常にロジカル&メカニカルで勉強にはなったのですが、振り返ると上記二作品とも、「二者択一」と「三者択一」のものを当てるという現象で、結果観点に立ち戻ると物凄い不思議というわけでもないのですね。このあたりが「何で当てられたかはよく分からないけれど、かといってあんまり不思議ではない」というところです。身も蓋も無い言い方をしてしまえば、サクラ一人入れといたほうが簡単じゃないか、という。勿論そういうものではないというのは重々承知しているのですが、その辺りが手放しでは賞賛しづらいです。ああ、すげえと思うけれども、冷静になるとキモいほど不思議というわけでもなく、なんと申し上げていいのか、記述する側がもどかしい…。



・ザ・カラー・アウト・オブ・スペース
4つの封筒を示します。封筒にはそれぞれ違うマークがそれぞれ違う色で書かれています。マジシャンが後ろを向いた後に、観客に好きな封筒を取ってもらいます。そして封筒の中に入っているノートとペンを使って、選んだマークを書いてもらいます。書き終わったら、書いたページを破り小さく折りたたんで手の中に入れて持っておいてもらいます。ノートとペンを戻した封筒を元の位置に戻してもらいます。そこで初めてマジシャンは前を向きます。証拠は一切残っていません。しかし、マジシャンは簡単に当ててしまいます。

これは賢い。説得力を持たせるためではなく、相手の書いたのがどの封筒かを当てるのにアレが使われるのを初めて見ました。私には思いつきそうで思いつかないですね、これ。
ただ、やはり先刻の突っ込みと同じく、この作品では"封筒ごとに書く図形は固定されている"ので、やっていることはいわゆる「四者択一」です。封筒の上端に髪の毛一本置いておく、などでも結果的に触られた封筒がどれかは分かるので出来なくはない気がします(これは例で書いただけなので、髪の毛などでやろうとした場合は風で飛んでしまいますし、実際やろうと思ったらもう少し工夫が要るとは思いますが)。なんだろうこの、よく考えたなあ、という感心ぶりと、その後の覚めた感覚のギャップ。



・パッシング・ソート
ハンカチを使ったカード・アクロス。観客の心に思ったカードが、観客の持っているハンカチから、別の観客の持っているハンカチに移動します。これはレギュラーデック、仕掛けのないハンカチだけで行えます。また、パームなどの難しい技法は一切使いません。

見事でした。カードアクロス系マジックは好きでして、私は原則ギャフカードを使うやつしかやらないのですけれど、これはちょっとやってみたい(注:ノンギミックでのカードアクロスの時、カードを4枚をパームしていたらしいのですが、パケットスイッチの際、手のひらに接触している1枚は維持できたのに、残りの3枚を床にぶちまけてしまうという稀有な心的外傷を持った関東地方在住の若者がいるとかいないとか)。
このスイッチは実に応用範囲が広いですね。アマーもレクチャーの際にやっていましたが、素敵だ。



メビウス
すべてのカードには穴が開けられており、リボンが通っています。観客に1枚のカードを選んでもらうと、そのカードだけが裏向きに繋がっています。

現象は不思議なのですが、演者の行動に怪しいポイントが全然見当たらないので、なんとなくギミックへの注目を集めてしまいそうな気がしました。というか私はそう思いました。トポロジカルにひっくり返す方法があるのか、もしくはリボンに仕掛けがあるのか(同じ素材のリボンが貼り付けてあるだけ、とか)、私の想像は外れていたので解説聞いて素直に感心でしたけれども。あ、ここまで来て気付きました、長谷さんの着想と解決法は凄く好みなのだが、一方で現象の好き嫌いからすると、自分で実演したいとは思わないものが多い、という感覚が強いのかも。



プリズナーNo.6
観客の覚えたカードが変わった方法で予言されています。なのですが、マジシャンがおまじないをかけると予言の中から観客の選んだカードが消えてしまいます。そのカードは観客に最初に渡した財布の中から出現します。

最後にまたクレバーな。いやあ、アクリル板にはさまれた予言用のカード、絶対ギャフカード使ってると思ったんですが、見事にレギュラーでした。悔しい…っw 「挟まっていたカード、確認してみてください」で、観客の方がチェックを始めたときには「え、大丈夫なの?」とか思っておりました。てへ。…そうですよね、マジシャンが観客に物を手渡すときは、本当に何も無いか、もしくは観客自身の手で証拠隠滅を図る時だけですよね。ごく稀に、ショップの紹介文では「手渡し可能!」などと書いてあるが、どう考えても「手渡し自体は出来るかもしれないけれど、色々大事なものを失う」「観客の知的レベルが藍藻類未満でなかったら即アウトだろこれは」っていうものも多々ありますが。
財布からカードが出てくるのは演出に幅があって素敵です(解説通り、普通に密封封筒を渡しておくだけでも良さそうですし、本演技のように空であることを示した財布から出てくるのも面白いです)。

余談ですが、カードの移動時に「観客Aが息を吹きかけ観客Bが吸い込む」という、長谷さんからの演技要求が行われるのですが、…これをやらせるなら…やはり若い女性が前列にいらっしゃったら良かったなあ、なんとなくw