教授の戯言

手品のお話とかね。

Doc Eason Lecture 2009

ドク・イーソンさんのレクチャー@東京に参加。とても自然に楽しめました。
彼の第一印象:で、でか! / jpmagicさんの描かれた似顔絵そっくりw 
彼の息子さんの第一印象:うお、眉ピアス!

東京での開催が遅かったというのもありますが、既にイーソンさん個人へ思い入れもたっぷりのjpmagicさんが非常に詳細なご紹介をされておられますので、内容的にはそちらにお任せで、私のような者はもう、さらりと、はい。
 
会の終了後二川さんに「静岡のレクチャーはとてもステキだったそうですね」と振ったところ、「あそこは全ツアーの中でも最高でした」ということで、演者も観客も一番盛り上がった模様。やはりそうだったのか…。ふ、ふん、羨ましくなんかないんだからね!

総括しますと、変態テクは一切無かったと思います。個々の技法も異様な完成度だったとも思いません。むしろ粗かったりするものだって散見しました。が、全てが色々な意味で"適切"でした。元々私は騙されやすいとはいえ、何ですかあのカードアンダーザグラス。4・5回ありましたけど、一度たりとも気付けませんでしたよ。多分置いてから毎回20秒以上は気付けていません。もちろん、たまたま最前列におりましたので、それが場所的にも視線誘導に逆に引っかかりやすいというのは分かっています。が、…たまりませんね、こういうの。再確認ではありますが、あの自分の目の前で堂々と"やられてる"感覚、やっぱり面白いです。なんかAHAムービーみたいでした。「わかった!さっきまで何も無かったペットボトルの下にトランプが移動してる!」「正解!」

なお開会あたりで出た、「お酒を飲んでもらうことが主眼のバーで、その前提を理解せずにマジックをばーっと見せ、それだけで仕事をしたと思っているような、いわゆる手品しか考えていないマジシャンではだめで〜」というフレーズはなかなか刺激的。とはいえ、手品をしつつ観客あしらいもし、酒を頼んでもらいつつ場を沸かせ、更にはチップまで貰ったり、あそこまで出来る人はそうそういないとは思いましたw まあいうなればスーパーマンの一種ですよ。

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第一部:
・All Screwed UP !
・Three Nuts in Search of a Bolt
ナットで行なう"ツーインザハンド ワンインザポケット"。途中で一つのナットがボルトになったり、ナットが二つ、いつの間にかボルトに通ってしまったり

"オープナーとして、バーに似つかわしくないものを出す"というのは、ストーンのレストランアクトでの"わざとコインを落として注意を引く"に通じるものがあるなと思いました。あとのトリックもそうなのですが、各演目のどこでどのように笑いを誘うかなど、彼は今までお会いしたマジシャンとちょっと一線を画すスタイルというか、テクより断然ミスディレクション&オフビート主体で構成されたスタイルに思えます。それを殊の外見事に体現しているのがカードアンダーザグラスと思います。



・Impossible Opener
・The Color Changing Deck
・Two Card Transposition Plot
・Ambicious plot & Card under the glass
カードマジック系ルーティーン。「マジシャンが一枚だけ持っている赤裏カード。残りの青裏デックから一枚だけ引かせたカードがそれと一致。他のカードを見ると全てJOKER」→「2人の観客のカードの場所が何度も入れ替わる」→「アンビシャスルーティーンとカードアンダーザグラス」
 

マジシャンの演技を見て「綺麗だなー」「うまいなー」と思うことは最近も多かったですが、カードアンダーザグラスの名手という事前情報があってなお、生で見ると全て確実に引っかかりました。素で「え、いつのまにですか!?」状態。後で思い起こせば総じて手順を類推できなくはないと思いますが、なんだろう、本当に「いつのまにか」です。だって演者が彼で、ご丁寧にペットボトルが置いてあったら、そりゃあそこには注目すると思うじゃないですか。鶴太郎氏がいて、熱いおでんがあったら顔に押し付ける、そのくらい自然な流れですよ。ボトルに注目はしていたんですよ、当初は。でも何故か肝心な場面ではそこに注意が行ってないんですね。で、彼に「ところでボトルの下にね…」とか言われて彼の目線を追って、毎回ぎゃふんですよ。なんだろう、このワクワク感というか、ハァハァ感は、私の文章力では伝え切れませんね。


・The Anniversary Waltz
観客Aのサインカードと観客Bのサインカードが、2人の愛の力で1枚の背中合わせのカードに。

現象だけ聞くとあっさりですが、やはり生で見るとプロットそのものからして秀逸。彼畢生の傑作トリックです。「十年・二十年後も"あのときのカード、まだちゃんと持ってるわよ!"とお客様に言われるようなトリックが、これの他に果たして幾つあるでしょうか」 ・・・確かにそうはないでしょうね。
ここまで彼のレクチャーを見て、マジシャンと言うよりエンターテイナーとしての側面の強さ、そして"客商売での前提条件"に対する深い理解(マジックはあくまで副次的なものであり、観客が楽しむことと酒を注文すること、そしてリピーターになること、などこそが、バーでマジックをする者の"なすべきこと")、それに伴う、"決してマジシャン個人のやりたいこと"ではない演目の選択と構成が光ります。そのあたりが、お上品なクロースアップ目的の観客だけにとどまらず、幅広い客層での何千回と言うショーをこなしてきた彼ならではの凄みだと思いました。


第二部:
・The Old Three Coin Trick
スリーコイントリック。

スクールクラフトで買いっぱなしのスリーコイントリックセットの存在を思い出しました。「普段コインやらない人向きだよ、これは。カンタンだし」ってイーソンさんもおっしゃってたので、ちょっとだけ練習してみます。



・Out to Dinner
Out to Lunchの発展系。

というか単に幅広の輪ゴムを金属製のクリップに替えただけなのですがw ただ、「そこそこフォーマルな集いで、名刺を出すのに輪ゴムじゃカッコつかないよね」というのは同意。ハンズ文具売り場で探してきます。



・Fusillade
場の大勢の観客にカードを引かせ、デックに戻し、を繰り返した後、一人ずつカードを当てていく。

圧巻ではあります。が、手品的要素は正直弱いとは思いました。アメリカとか英語圏であればもっと彼もばしばしいけたと思うのですが、そこは仕方がないですね。会場全体を沸かせる、というのは、多分彼の仕事上の必要性があってこそのような気もします。手品的には観客のカードのコントロールに尽きるのですが、もはやそこはどうでもいいような感じでしたw
なお、たびたび仰ってましたが「演技している(していた)マジシャンが、自分(観客)の名前を覚えていて、しかも呼んでくれたりすることの大切さ」というのは、人を感動させるポイントとして、他のサービス業のハウツーでも同様のことが言えそうです。リッツカールトンのクレドなんかには載ってそうだなとか思いました。やはり人は、自分のためだけにしてもらった特別なことや、自分という存在を意識・尊重してくれるものに弱いのですな。そういったことを演技上で実現できているマジシャンが多いほど、マジックという芸能の地位も上がるのでしょう。


第三部:
懇親会。ちょっと遠くに座ったので殆ど話せませんでした。残念。でも別に懇親会場で手品とかはしておりませんでしたしそれはそれで。
なお過日、イーソン(息子)(マックさんとか仰ったか。うろ覚え)が、都内の某地下鉄駅にて、構内へ入ってくる列車を見て「うお、地下鉄カッコイイ!そうだ写真撮ろう!」とフラッシュを焚いたのが運の尽き、諸々あって駅員を呼び寄せたり地下鉄日比谷線を10分遅らせるというマジックをやっていたらしい。賠償を伴う事態にならなくて良かった。「で、そのときイーソン(父)さんはどうしてたんですか?」 子「この人、他人のふりしてたんだよ!」 一同「えーwww」 父「いやあ、ほら、巻き込まれたらいけないじゃない」 …キュートw

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どういう経緯だったか忘れましたが、彼のライブ集とも言うべきL&LのBar Magic」全3巻については何故か前から持っておりました。マジェイアさんのページで読んだ「ビルインレモン」の紹介記事を読んで憧れたからだったか、それとも何か別のだったか。ともあれ以前もチラッと書きましたが「カードアンダーザグラスがうまいなあ」と言う、オマエ本当に全部見たのかよくらいの記憶しかなかったのが正直なところです。
で、今回Vol.1を少し見返して思いました。昔見た時、これは会話を追うのが相当難しかったろうな、と。私のようなプアイングリッシュっ子には今でも完全なリスニングは相当きついんですけれども。このDVDはバーでの実演、つまりネイティブスピーカーが、フランクな会話をしているわけです。つまり文法書やTOEICのようなカッチリした形で無いトークが続く上、そのトークスピードが凄く速いんですね(多分普通の会話速度なんでしょうけれど)。多分当時の私は現象だけを見て、会話は聞けてなかったくらいだと思います。一般的なレクチャーDVDはなんだかんだ言ってレクチャー用ですからヒアリングも大体大丈夫なのですが、やはり作られてない素の会話は当該国民でないとやはり難しいものですね…。要勉強。

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※ご参考までに
レクチャーノート
Fusillade(一対多数の古流剣術・・・ではなくカード当て) 
L&LのBar Magic」全3巻