教授の戯言

手品のお話とかね。

帰ってきた菅原茂レクチャー 2/3

と言うことで本編。なお事後譚である3/3は8割方駄話になる予定(=いつも通り)。 <後日追記:予定通り8割がた駄話に> 本会は2009年11月23日(月)、14:10開始@芭蕉会館別館にて。前回のと今回のオリジナル作品群って、Martin Lewisの「Making Magic」シリーズにも劣らないクオリティだと思うのですがいかがでしょうか。物理的には少し小さめですけど。
テクニックを前面に押し出した手品も好きですが、菅原さんの作品に通底する、「誰にでもできるように」という設計思想は非常に珍しいと思います。なにより、私にもやさしい手品w

なお、同会場にいらっしゃった日曜手品師さんも、素敵なレポートをアップされております。→

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−1.場繋ぎ
場所変更のため開始を若干遅らせることになり、場繋ぎとして出た森山さんによる、万札破って元に戻す手品。

万札が破れた瞬間、つい口をついて出たのが「は、犯罪…」だったのは秘密。貨幣の意図的な損壊は(以下略)。不思議なんですが、これはあれですよね、戻ったようで実は…と言うw


0.リボンとリング
菅原さん登場(普通に最初からいらっしゃいました)。「夏の時の最後にやったやつです」と言うことで例のこれを。白いプラスチックリングにリボンが貫通。ひとまず実演のみ。

相変わらず自分の視覚が信じられなくなる。ぬるっと、と言うのともちょっと違う、「なんか空間ずれてんじゃないの」というか、音もなく"すっ"と通る感じ。実はCGオチなんじゃないのかこれ。



1.クリスタルボックス
透明な箱に輪ゴムをかけ、その上にボールを置いてハンカチをかぶせます。するとボールがゆっくりと箱に潜り込みはじめ、最後はコトンという音とともに完全に箱の中に入ってしまいます。すべての道具を相手に渡して調べさせてもその仕掛けはわかりません。(テンヨーHPより抜粋)

森山さん実演。昔サークルの友人がやってくれた時に「どう使うんだ、これ」とか思ってしまったいわくつきのグッズ。あとで分かるのですが、これが説明書の見せ方で、私が知人にやってもらった方法(観客である私に、ハンカチ越しにボールを押させる)はどうも知人オリジナルだった模様。

X線ダイスや、加藤英夫さんのクリスタルボックス手順が発想の下敷となっているそうです。あと私も含めて、買った人は全然気にしないであろう、ボックスのアクリル注入時の注入口あとや、これが目立たないようにするために特殊な加工を依頼していたりとか。言われてから見ると、この一見して単なるボックスの中にも、先述のことやカットの工夫など、実に細やかな心配りというか、工夫がぎっしり詰まっているのだなあと感慨にふける。こういう機会でもなければ一生気付きません。

ご参考情報:日曜手品日記さん 2007年9月15日 (土) 「クリスタルボックス新旧」



1a.いんたーみっしょん.サムタイを日本刀でやる意味合いについて/火の点いていないキャンドルからのシルク出しが持つ悪い意味あい など。
いずれも「心構え」が通底。天洋さんのサムタイは見たことが無いが、むかしどこぞで見たサムタイは魔法のようでした。名人上手と言われている方ですら、日本刀でやれば指を傷つけてしまうことすらあると言う事実こそが、あの芸の説得力を増しているのですねえ…。あんまりすぱすぱ切っちゃうと、商売道具なのであれなんですが。何よりステージ上で血まみれとか怖いw 確かにこれを聞くと、"日本刀のあとにリング通す"というのは順番逆だろという気はしました。まあ、もしかすると「リングはわっかで切れ目が無いので、棒状の刀よりも貫通しづらそう」という理屈があるのかもしれません。
"火が点かなかったキャンドル"というステージアクシデント、自分ならどうリカバリするかなとか考えたらきゅんとした。胃が。…ああ。怖い。これだからステージは。
「観客が100人だろうが1人だろうが、見る側にとっては一緒であり〜」は、物凄く乱暴に意訳すれば「なにをするのでも、何人にやるのでも、きちんと丁寧にやりなさい」と言う極めてまっとうなお話です。なお私が一番粗い演技をするのは対手品関係者であり、いつもはもう少し丁寧にやってるんですよと信じたい。そういうことを言い続けて慢心していると、そのうち本気でやっても粗いままになっちゃうのですけどね。…もう手遅れかもしれないけど自戒自戒。手品をやってる人に見せてもなお、技法のにおいすらしないのが私の理想とするところなのですが、これは反復練習に加え、もっと意識的に演出を磨かないと無理ですね。

今回の菅原さんからは「〜〜〜のは、マニアのかたです(笑)」という発言が多く見られた。〜〜〜部には"必要以上に検める"とか"ギミック部分を過剰に隠蔽する" "そんな部分に注目する" とかが入ります。自分では意識的に「追われてないのに逃げてはいけない」を実践しているつもりなのですが、どうも過剰に隠蔽する癖はついてしまっていた模様。反省。マニアになるのは嫌ーーー。



2.菅原茂のぐりぐりカード
観客に1枚引かせて戻してもらい、演者は表を見ながら2枚のカードを候補として抜き出す。2枚とも観客のカードとは違うが、2枚を重ねてぐりぐりすると片方のカードが観客のカードに変化している。

文字通りカードを2枚ぐりぐりするとセレクテッドカードに変わる。「Vランクカード」(?)のようなものかと思いきや違いました。ああ、詳細に書くとネタばれになるもどかしさ。
これについてはどうだろう、見た時に思ったのですが、単純にワックスかゴム皮膜スプレーで、現象自体は再現できなくは無い気も。その場合は一度パケットを揃えるといったアクションが必要になるので、これのようにカジュアルなぐりぐりは出来ないのですけれど。フェイスを見せながら出来るのがぐりぐりの利点か。ワックスとかの場合は一度パケットを伏せて→揃えて→指先でずらしてフェイスを見せると変わっている、という感じですね。



< 休 憩 >
菅原さんとちょっとだけお話。夏と先ほど見た「リングとリボン」には本当に感銘を受けたことを伝えたかったのですが、中々もどかしい。あんな視覚的にハッキリきもい手品、そうそうありません。

後半突入前に元テンヨーディーラーの方と作家さんの紹介。廃盤テンヨー製品のうち、メモライズドパッドは少し欲しかったのですが、「キミはいつそれを実演するのかな?」という自問自答をした結果何とか抑えました。作家さんとは要は相沢先生であり、「午前零時のサンドリヨン」は持っているので2冊目購入はしませんでしたが。初版本万歳。しかしいらっしゃると知ってればペンと一緒に持ってまいりましたのに。しくしく。この本でブックテストとか希望。
「あなたが思い浮かべた人は…飯倉さんですね!」「! 何でわかるんですか!?」「…わからいでか」



3.菅原茂のうきうきカード
横向きカードに乗せた縦向きカードが浮き浮きします。左右にもむにょむにょします。

Oさん実演。角度が非常に重要だが、さりとて迂闊に傾斜をかけると破綻、という結構デリケートなアイテム。開発コンセプトとして、カードだけで浮かす、という縛りをかけたそうです。持ち上げ方に工夫ありでした。階段教室的な角度で見せると不思議だと思いますが、正直この会場の配置だと厳しい。指はまったく見えませんが、私の位置からはカードとカードの空間がまる見えなのです。ここを見せていい手品ではないので、先日のアッシャーツイストのように、角度をこちらで握れるのが演じる前提条件ですね。いわゆる地の利。



4.3本ロープの手順(菅原茂)
つまりそのあれです、「教授の悪夢」、それの菅原さんバージョン。

「甥っ子が丁度七五三でしてね」、という異様に卑近な現実に即して開発されたらしい3本ロープの手順。「あの、一応ギミックだけじゃなくて、普通の手品も出来るんです、ということを申し上げたくて」 誰もそんなことは疑ってないと思うのですがw ていうかむしろそれは検め不要です。菅原さん的に申し上げるなら「ギミック物を演じる人は、実はスライハンドダメなんじゃないの?」という発想自体がマニアの目線ですw

「普通左手で持って示すものを右手に持ったらどうなるのかな」という発想転換法。会場から「どうしてそういう発想になるのですか?」という質問がありましたが、これは理屈で理解できるものなら理解したいw 私などが右手ディーリングポジションでデックを持つと、「リバースファンでなにかできないかな?」ではなく「うわ、フォールスカットが出来ねえ!て言うかダブルカットすらままならねー!」で終わってしまうのとは大違いですよ。しくしく。なお私の発想逆転については単純に天邪鬼だからです。
ここでも「過剰な検めをせず、見てそのまま納得できるような自然な示しについて」を仰っていた。ただ、私はあの右手に1本とって→左手2本とスイッチして→左手の最後の1本をとるディスプレイは大好きなので、それはそれでお許しを。

「やはり自然に発想が出てくるには、常に道具を触ってないとダメですね」というのは、脳内で完結させたハーマンとは対極だなあと思いました。私もどちらかというと何か触ってないと思いつきませんねえ。ちなみにM.V.P.(Mikuru Versatile Production)ギミックはピアノの内部構造を見ている時に思いついたんですよ…(誰も聞きたくないであろう、私のあほ手品グッズ開発秘話)。

「手品である以上、不思議でなかったらいけません」…なんだろう、当然なんですが、私はどっちかというとウケれば手品でも何でもいいやという子なので、ちょっと反省する。手品をやる以上は不思議にね。つまり、ネタばれとか言語道断なんだよ、分かったか私! …ハイ。



5.リングとリボン(現象は先述の通り)

解説を聞いて久々の「え、あの現象はこれだけで成り立ってるの?」でした。確かに解説を聞いたあと、道具やハンドリングを見ると納得の動きをしていらっしゃるのですが、それは聞くまで全く気にならなかった。これは売るなら結構するだろうなと思っていたまさにその金額で販売をされておりましたが、迷うことなく購入でしたw 現象だけでため息出ちゃう。



予告.輪ゴムの貫通
「輪ゴムって二重にしたりするとなんか操作する余地がありそうじゃないですか。というわけで、何とか一重のまま出来ないかということでこんなのを作ってみました」と左手の指に輪ゴムをかけ、中指の下にゴムが回るような形で示すが、中指が無かったかのようにワンアクションで輪ゴムが上がってくる。

ふ、不思議だ。きわめて地味に不思議だ。



と言うことで2時間のイベントが終了。リングとぐりぐりを購入いたしました。菅原さん、お疲れ様でした。

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▼検めについて:
 私は元々ネガティブ思考なので、色々なものを隠したがる性質なのです。最近、「手品なんだからタネがあるのは当然だし、道具について観客に検めさせる義務は無い」という境地にようやく至りました。子供に見せる時と、本気で騙しにかかるときだけは別ですがw 元々、検め出来るか出来ないかについては全くこだわりが無かったのですが、それがより(いい意味で)適当になった感じです。別に手品でメシ食ってるわけでも、観客をやり込めなければいけないわけでもなし。あと人間は、何かを隠そうとする人間の、手や目線、体や心などの動きに凄く敏感になるのは自明なので、せめてその辺の適当さをベースに、少しでも不自然に思われないようにしたいものです。

▼自主的任務について:
 休憩時間中、たまりかねて相沢先生にはご挨拶に伺いました。こっそりストーキングし続け、あとでブログで詳細な観察記を…というネタ方向を貫けなかったのは反省。我ながら「あの、小説とても楽しかったです」から入るという、独創性がカケラも見られない取っ掛かり。その次が唐突に「あと、無許可でとひ先生と"サンドリヨンズ"の片割れをやってます…」というのはどう考えてもダメ過ぎました。

とひさんに、「相沢先生が同じ部屋にいらっしゃるので、折角ですし"ふっ、銃を向けられるたび5セント貰ってたら、今頃大金持ちだぜ?" クラスの伝言はありませんか」とメールしてみたところ、あっさりと「よろしくお伝えして無礼をお詫びした上、きょうじゅだけ切腹を推奨」というメールが。くそっ、介錯は八反丸さんにお願いしてやる! なお肝心の相沢先生はと言うと、賢明な読者諸氏の予想通り、反応に困って苦笑いでした。そりゃそうですよね。


「本当に、すみませんでした。」(CV:木津さん&久藤くん)



酉乃初(徐々に一発変換できるようになってきた我がIME)が"ニュートリノ"語源説は間違いないそうなのですが、"チキンハート"という意味もあるというダブルミーニング説も事実らしく、これでもう今日の任務は果たしたと思いました。 
相沢先生「ニュートリノ、は皆さん仰るんですけどねえ。チキンハートの方はあんまり無いですねえ」 
…私がややひねくれ感性の持ち主である旨を突きつけられた瞬間でございました。しくしく。この回答もきっと気を遣ってくれたんだな。しくしく。