教授の戯言

手品のお話とかね。

Woodyland

先日Geniiに載ったスペインのマジシャンWoody Aragonのトリック「Genii Poker」の手法を少し変えたものを二川先生に見せられ、そのクレバーさに感銘を受けていたところに、4巻組DVDが出るということを知り、早速ポチって見てみた次第。なお元がハイレベルなのに、更に二川先生が微妙なポイントを直すと、もはや何をどうされているのかすらよくわからないという恐怖。そしてそのトリックはこの4巻組DVDの中には入ってないというw なんでやー。



DaOrtizもそうですが、大半の不思議なトリックも原理だけ聞けば「そりゃそうなりますよね」なんですけれど、基本的には追えない感じのセルフ・ワーキングがたくさん。無論それだけではなく各種面白技法も使うのですが、もう構成そのものがうまい。


ちなみにセルフ・ワーキングと書きましたが、イコール簡単というわけでもありません。効果が高いセルフ・ワーキングは、多少の計算を伴ったり、観客のコメントを誘導したりと、演者負担というか、要求される技量(しかも演技をしながら)が意外に高かったりするのでそこは注意かなと。だからこそ"セミ"オートマチック、なのでしょうけどね。ちなみに最近は他人の演技を見て、「ああ、こんな神をも恐れぬバレバレなコントロールとかしてるのか、私」とか恥じ入ることが増え、"見えなければ大丈夫"から"知らなければ追うの無理"へと少しだけ方向転換しようと思った次第(確か去年もそんなこと思った気がする)。まあ途は遠いです。

最後にスタックド・デックについてが盛大に演技・解説されていますが、想像していたタマリッツスタックやアロンソンスタックではなく、まさかのサイ・ステビンス。いや、私自身は多分世間の手品人よりもサイ・ステビンス好きですし、「赤黒交互って時点で怪しいじゃん」などという短絡っ子にはドラゴンスクリュー→足4の字で制裁という感じですが、それでもなお不明を恥じる不思議さでした。


こういう理論を分かっていて、それを実際に行い、かつ楽しげにコミュニケーション取りながら演技が出来る人が本当に羨ましい。というか日本ってそういう人があんまり出ないのは、やはり言葉の壁なのか、はたまた国民性なのか。ステージにおいては韓国が大変強いし、ここ数年クロースアップについてはスペインが凄く独自色強いように思う。日本もプレゼンスを発揮できるといいんですけどね。と思ったけど、私には別に関係なかったw 奇術協会の人でもましてプロマジシャンでもないしNE!


本製品、日本語字幕付きなので安心。安心なのだけど「一」「言」「最」「退」の4字が必ず落ちてるのは何でじゃろか。結構頻出する漢字なので、毎回脳内補完するのは意外に手間でしたよ…。まあ2日間で10時間以上手品DVD見ていた(これ以外に2本)せいもあろうけれども。

                                                  • -

■DISC 1: Live Show
ショー全体。トリックの解説はオイルアンドウォーターのみ。ショーそのものの"構成"についてが主眼の巻。私はプロじゃないので、50分以上ショーを構成することは無いと思いますけれど。大体1つ2つやって終わりますしね。本人が触れていますが、「新しいトリックを見たい人は他のを見てね」的な巻。
・LIVE SHOW
・STRUCTURE
・EXTRAS
oil and water:フォローザリーダー→OW→OWの3段。スペインのマジシャン、ルイ・トルエバの手法によるコントロールが面白い(感覚的にマルローあたりが50年前に書いてそうな感じではありましたがw)。不思議さを追求したものでもなく、感情に訴えかける方向で、ということですが十分不思議だと思うけどなあ…。



■DISC 2: Interactive and Automatic
セミ・オートマチックに起こるマジック。
・INTERACTIVE
the other half:観客と一緒に行う、カードを破っての一致現象。ベッドでやって「え、これで一致するの!?」で、何故か一致しなくて逆に驚いた(どうもどこかで操作をミスしていた模様)。解説を聞くと交換も含めて大変有用そうに思った。ついでに要らないカードを処分するのにこれ使える、とか思いました。
ring divination:空想上の指輪をして、それを移動させていくと何故か観客が全員演者に向かって…。これは面白い。ゲラゲラ笑ってしまった。
the man with 3 hands:観客が選択していくにもかかわらず、演者が勝つというポーカー・ルーティーン。こういうの好きなのよね私。

・AUTOMATIC
ACAAN:セットも少なく、観客に残す手がかりも少ないと思うが、数字をサラサラと組み合わせるのは意外に難しかろうという気はしました。慣れるとそれを感じさせないのだろうけど、微調整には計算以前の場慣れが必要かと。使わない数字とか出たらそれはそれで怪しいかもしれない。
australian poker:アンダーダウンをどう退屈せずに使えるかというトリック。確かにシャッフルしたのに各プレイヤーに良いハンドが行くところはいいのだけど、最後に残ったお札は演者のものになるフェイズ、ここは何だか納得出来ない。今まで4人に配ってたんだから、最後だけ演者にお札を配るのはおかしいと思うんですよね、理屈として。今まで演者にもカードを配っていたならそれもいいのですが、物言いする客はいなかったのだろうか。…私がひねくれものだからなのか!?
blessed poker:ヨナ・カードをどうするかというのは見ていて分かるのだけど(というか基本的にその原理使うのが普通だから)、観客が全部選んでいるはずなのに負ける、というのはやはり面白い。ただ、最近思うのは、マジシャンが勝つよりも、「誰を勝たせたいですか?」を実現するほうが、観客の心理負担は低そうだなあと。あとお国柄かもしれないし、私がチキンだからかもしれないけど、たとえ演技の一環としてでも、お客さんのお金だの時計だのをポケットに入れたり粗雑に扱えないのです……。
the impossible sum:これは笑った。まんまと演者の想定通り「うわ、失敗しちゃったよこの人…」とか思ったあとでのアレ。実にいいスパイスになっていました。いいなあ、こういうジョーク。
weighing the cards:レギュラーデックで行えるのが素敵。3段になっているが、最後に両手で落としていくのは、コメント通りショーの終わりという感じが伝わってフィナーレに相応しい感じでした。その後誰が片付けるのかはさておきw MMLでもゆうきさんが、「奇術探求」では齋藤修三郎さんの作品があり、あと最近のMMLボナ植木さんがやっていましたが、個人的には(これらもAragonのも入れて)ボナさんのが一番「やりやすそう」だと思いましたw いや、元々私が好きなギャフを使っているせいが多分にありますが。Aragonのは完全にレギュラーで行えるので、それはそれで凄くいいです。



■DISC 3: Sleight of Hand
技法を使った手順メイン。
・INDIVIDUAL ROUTINES
dorset:パケットで行うオールバックとリセットのミックス。完全に欺瞞された。スチュワート・ゴードン・ムーブが滑らか過ぎだろアラゴン。生で見ても完全に1枚だったりするのかなあ…。
the bumblebees:クマンバチの絵が描かれたカードでのワイルドカード。あらためまで含めて極めて合理的かつディセプティブ。全面見た気になれるし、実際見ているのだけど、同時には見えていないという。
torn corner ambitious card:破った破片をエビデンスにしつつのアンビシャス。即席デュプリの話はDaOrtizの時にもやっていたし、このマジック自体は不思議なのだけど、カードの消費を考えると正直やる気にならなかった。当然毎回カードを損傷していくので(別におみやげとして渡す手順としてはいいとは思いますが)。処分用デックでこれやって、残りは上述のthe other halfで使えばいいのかな。カードが物凄い勢いで無くなっていきそうw
aces through table:エース・アセンブリかと思いきやエース・スルー・ザ・テーブル。まさかそんな現象とは思わなかった上、両側から挟むだけであんなコントロールが出来るとは。そしてよくよく考えると5年くらい前にモンテ練習していた時に2枚で思いついたけど全く活用方法を思いつかなかった原理だった。己の考えの深掘りの無さに愕然ですよ…。
progressive order:これで使われているスインドル・スイッチは大好きでよく演じていたのだけどセパラゴンは凄い。正直最初見たとき、異常に速いクロッキングかと思っていたが、全く違うことが、しかも想像の埒外で行われていた。これは練習する。どこで演じるかは知らないけどw
・TECHNIQUES
covered false riffle shuffle:最近フォールス・リフルは愛好しているのだけど、カードが曲がるのが嫌になってきました。
Gabi's switch:デックスイッチ。はい、完全に引っかかりました。きいい。自分自身、最近ワンハンドカットって右手の何かを隠すときにしか使ってなかったのに。

・TRIUMPH:バーノンの原案ってそうなっていたのか。私はトライアンフは先輩に習ったもので、原著は読んだことなかったのです。昨今のやり方と比して格段にいい悪いというものではないのですが、見慣れない分目新しかったです。あと目隠しバージョンは「このカードだったりする?」とか言いながら裏向きのカードを示してたりの一連の流れが面白い。やはりトライアンフは楽しい。



■DISC 4: Stacked Decks
スタックト・デックについて。
・THEORY ON STACKS
・SI STEBBINS
・INDIVIDUAL ROUTINES
si senor:たくさんの山に分けたカードの中から1枚選んで他の山に移してもらうが演者がそれを当てる。これでスタックが組めるとは。一つの手品が他のの準備になってるというのはたまにあるけど、これはいい具合ですね。
the mentalist:マークと数字を別々に言い当てるが、原理は一つというのが面白い。
si fry:シャッフルしたのに複数枚のカードが当たる。これは一瞬サイ・ステビンスを疑いかけるが、則に乗らない奴があるのがニクい。しかし便利だな、サイ・ステビンス。
forcing a number:数字のフォース。凄い!と思いかけたが、数字をフォースするためだけにデックを出すのはちょっとという気もした(自分でそういう手品を作ったことは棚に上げる)。何かと合わせて使えれば良いのですけどねえ。
other curiosities:この原理は初めて知った。こんな数の誘導が出来るのか。もう一つのアスカニオもやるという詩の韻律に乗せてのやつは、確かに美しいが、ちょっとコメント通り長すぎる気がしました。DVDだと配る部分を早送りに出来ますけどね。
spelling routine:さすがにこれは凄い。最初に見せてもらったのは二川先生にでしたが、最後の「もしこっち側を選んでいた場合」のあれは震える。一大トリ・ルーティーンの風格。

・EXTRAS:
psychological force:DVD1巻冒頭でやっていたバーノンのファイブ・メンタル・フォースの発展版のような。数については当たっててびっくりしましたが、憶えたカードについては違っていてしっくりこなかったところ、解説聞いて納得。いや、でも最初、数当たってただけでも相当驚きましたけども。
572750