教授の戯言

手品のお話とかね。

Card Fictions日本語版

やくしゃ  
「いまこそ ブログで せんでん させてください」 
きょうじゅ 
「いいですとも!」  

【かーど ふぃくしょんず!】

いや、なんか久々にFF IVのサントラ聴いたら凄く良かったので。そういえば昔のゲームは漢字が出なかった。

ということで、Pit Hartlingの(手品)世界的名著「Card Fictions」、メンバー03氏が完訳+αし終わり、「11月頭くらいから販売開始するのですよ!…多分」とのことで、ご紹介いたします。写真等随時アップデート予定。宣伝のため、日付をちょっとだけ未来に置きます。

                                      • -

本の訳者です。以後お見知り…あ、いや、私のことはさらりと普通にお忘れください。2011年の秋頃、「これ日本語の本であったらいいなあという洋書ってありますか?理論書じゃなくて、トリックが面白いやつで」というのをプロ、マニア、ショップ店主のような方たちにゲリラ的に聞いた時期があり、そこで複数票挙がった本がありまして、それがたまたま私も好きな本だったので訳してみることにしました(以上、翻訳に至った経緯説明、終了)。



Pit Hartlingという、ドイツのマジシャンがいます。17歳のときFISM横浜大会カード部門でVice Champion(要するに2位)を勝ち取ったのを皮切りに、本国ドイツでも何度も賞に輝いているマジシャンです。



マジックランド主催の箱根クロースアップの会にも99年に招かれており(「Card Fictions」の本文中にある、「日本のマジックコンベンションで〜」というのはこれを指します)、マジックランド刊・寿里竜さんの訳で彼のレクチャーノート、「The Little Green Lecture Note」が邦訳されています。これまた傑作揃いで。ケイオス楽しいよケイオス。おっと、取り乱しました。絶版になった同名タイトルのVHSもあり。あれを入手してきてくれた時はきょうじゅさんを見直しましたねえ…。個人的なトリック感想として、「変態的な技法は見えないが、現象がえっらい不思議」という印象です。アヤシイ臭いがしないといいますか。で、その中綴じのレクチャーノート「The Little Green Lecture Note」はさておき、彼はちょいとお洒落な布張り上製本で作品集を1冊出しています。それが今回ご紹介する「Card Fictions 日本語版」の原著。


↑原著。

2002年に英語での初版が出て以降、版を重ねていて、いま4版か5版のロングセラー。手品本の類で版を重ねているというだけでもこの業界では凄いことです(大抵は第1刷で終わりですね)。なおその英語版以外にも、スペイン語版やフランス語版が出ています。ドイツ語版出てるのかな?…私が色々書くより、ワールド・ワイドの展開規模と販売実績、それから本人の受賞歴とかからもう普通に名著認定でいい気がしてきました。が、説明しておきたいのでします。



♠内容について:7トリック2コラムという構成です。
個々のトリックはどんな現象かは後でご説明しますが、どれもトリネタに使えるクオリティと思います。印象が全部異なるので、「カード当て多いの?」などという懸念は不要です。むしろ当てること自体は主眼ではないので。何よりごく一般的なカウント系の技法が全く無いため、自然に演じることが出来れば技法の臭いはおろか気配すら残さない、いい意味で大変キモい手品が揃っています。



♠コラムについて:コラムについては2つ。1つは演技とそうでない時の雰囲気や態度を切り替える「パフォーミング・モード」のお話、もう1つは現象の効果とショーの沸きっぷりをより強めるようにコントロールする「いかにして観客の挑戦を誘うか」というお話。いずれも面白いです。原著で斜め読みしていたのですが、今回訳してみたことできっちり内容を理解できました。理論なのですけれど、ショーの構成や演技の作り方について、実際に取り入れやすい実践的なものだと思います(ああしろこれ考えろではなく、これを使うと演技の効果が倍増するよ、という汎用的なツールです)。ニクいのは、コラムを理屈として書くだけでなく、ちゃんと本書の中のトリックに組み入れていることですね(それぞれ結びに、「…では実際にどう使われるのかを、次のトリックでご説明しましょう!」みたいになっています)。なお本文でも書かれている通り、程度の差こそあれ、無意識にやっている人も多そうです。私はツッコミ待ちタイプのキャラクターなのでこの「挑戦を誘う」のをちょっと実践していたせいか、大変納得感がありました。



♠訳について:単純翻訳が楽ですし(…嘘です、それも楽じゃないです)正しいのでしょうが、自分で読むことを考えた時に「それではひねりと愛が足りないじゃないか」と思う性分でして、全部において無駄に練習&実践したり調査したり著者に質問したりと、読者にうざい優しい(別名:自分が読んで満足な)訳注満載です。原著では落ちていた部分すら補完出来ていると思います。……ファンブックかよ。無声映画に関しての訳注(タマリッツが寄せた序文内)に至っては、当初調べた内容を書きすぎて、組版の方に「いったい何の本なんだよw」とか言われて削ったりしました、断腸の思いで。…嘘です、多分削ったほうが正しいです。…いや、だって…なんというか松田本で育った身としては、本文に時々入る、トリックとは関係無い雑学話とか大好きなんだもんよー。本の醍醐味ってむしろ本筋以外のそこじゃんかよー(注:個人の感想です)。



♠おまけについて:本書のトリにUnforgettableという大変変態的なトリックがあります。それの公明正大さをより増したPit自身の改案が実は存在し(元々異常に不思議ですが、改案では観客にデックを持たせてしまい、もはや演者が触りもしなくなっています)、これは原著をはじめ他国語版にもありません。日本語版のみです(ちゃんと著者に掲載許可は頂きましたよ!)。某所からわざわざ入手したわけですが、普通完訳シリーズでもいちいち該当本の外、関連トリックまで手を広げたりしませんわね!そしてそのおまけ部分すら試して更に訳注追加というか、文章とトリックを補完する有様。この無駄な努力を愛と呼ぶのです。…あ、アガペー…!(無償の愛)。ということで「英語版読んだことあるYO!」という方も是非。おまけのためだけに買ってくださいとは申しませんが。…いや、そのためだけでも買う価値があります。1人5冊くらい。



♠おまけその2について:全トリックにではないのですが、中身を練習してみているときに気付いたことや、演じて分かったコツなどがあったので、何ページかつらつらと書いてみました。先着100部くらいにはお付けできると思います。無くなっちゃったらスミマセン。私はさておき、二川先生ときょうじゅさんのアイディアも拝借いたしました。なお「指で弾いて山を無様に崩す知人」の記載がありますが、拝見した数名の知人の中で、一番盛大に崩してらしたのはきょうじゅさんです。(→頂いたこの文章読んで初めて知りました。ショックです。なぜあの場でこのコツを教えてくれなかったw byきょうじゅ) ともあれ、多分このコツが分かっていればすんなりマスター出来そうというか演じられるような内容も入れたつもりなので、皆様の練習の一助になれば嬉しいです。



そんなこんなでHartlingさん凄くいい人でしたし、載ってる内容も不思議で楽しかったし、…そして何より採算度外視で作ってて、多分刷った分ほぼ全部捌いてトントンくらいだしで、ほ、本当に訳者は…まるで…まるで儲けられないという、その…「だったら、みんな売るしかないじゃない!」(CV:水橋かおり)という”魔法少女の契約”みたいな恐ろしい仕組(出す側にとって)ですので (((ガクガク))) 、諸人こぞりて安心してお買い上げくださいませ。



あと近い内に(総理大臣的発言)John Bannonの「Dear Mr. Fantasy」(全部粗訳済み)とGuy Hollingworthの「Drawing Room Deceptions」(3割くらい粗訳済み)も翻訳本を出したいと思っていますので、その時には良かったらお手に取ってくださいませ。「まァたカードマジックかよ!」「…ハイ…」 ではまた!

                                          • -

だそうです。

「今度Card Fictionsの訳本出すんですよ」と彼が言った際、プロ・アマどちらの友人にも「英語のままで、余程のことがない限り身近な奴が読まないようにしといて欲しかったなあ」という旨のコメントを頂きましたよ、という訳者さんの話が印象深かったですね。意外に読んでる人多いのね。なお、訳者さん本人は、実際に演じるまでその文章内容というか効果について割と半信半疑だったことを暴露しておきます。「この間、出身サークルの集まりで何気なく、"さも手品ではありません、テクニックです"的に演じたら、皆本気で信じだして火消しに困りました」「枚数多くしたくらいで反応変わんないでしょうよとか思ってましたけど、マジで驚きのテンションが倍くらいになりました!」「フフン、手品部員を騙すのなど、この私には余裕!くっくっく、ふあーっはっはっは!」(徐々にオカリンぽい表情に)とか言っておりました。大丈夫か、彼。あとおまけTIPS集、最初は紙を1枚くらい付けるのかと思っていたら、私が見た時点で6pを超えていたのですけれど、どんだけ書くのか、彼。



ともかく、ギャフを使わない、オーディナリー・デックが1つあれば出来る不思議カード・マジック集、是非ともこれで”ひとつ上の手品”を実践されることをオススメします。ていうかこれ7つ全部マスターしたらもはやどこでもOKな気がする。そのくらい各作品のクオリティが高いです。…が、正直私の持ちネタ潰しになるので、私含めて何人かで手品演じるときにはこの本の手品はやらないでください。私が確実に青ざめますw(きょうじゅからのお願い) …あーもう、凄くいい本だし、それを体感して欲しいんですが、「ナイショにしといてよー」というのは大変よく分かるのです私も。

                                                        • -

最後にトリック紹介。現象文章は本文よりほぼ抜粋。感想コメントはワタクシ、きょうじゅ。

1.Finger Flicker
デックをシャッフルし、揃え、テーブル上に置き、誰かに適当な数を言ってもらいます。演者がそのデックを指で弾くと、テーブル上のデックから先ほど言われた数字分きっかりの枚数が弾き出されるのです。再びデックをシャッフルし、そしてまた違った数を言ってもらいます。観客が手で演者の目を覆います。こんな目隠しをされた状態にもかかわらず、演者は再度、指1 本でデックを弾きます。観客が枚数を数えてみると言った通りの枚数です。
最後のデモンストレーションでは、観客がカードを選び、デックに返し、そしてシャッフルします。演者は少しの間カードをぱらぱらめくった後、デックをテーブルに置きます。選ばれたカードを言ってもらいます。「シャッフルされたデック中のどこにあったのか、位置は覚えています」と言い、演者はフリックによって、選ばれたカードのところをダイレクトに弾き出すのです!

◆訳者も私も大ハマりw えらい面白い。訳者にいたっては「なんだかこれやって以降、手品をしますという感じじゃなく、自分は変態的なテクニシャンということにしておいた方が万事丸く収まる気がしてきたよ!」とか言い出す始末。「1枚くらいずれても凄いって言われるしね!タネがどうのとか言われないしね!」いやそれは逃げでしょうw 指で弾いてパタンとひっくり返るのは、見た目として非常にキュートなのだぜ。あと「ね、ね、ちょっと後ろ来て目をふさいでみてよ!www」とかはしゃぎすぎです、彼w だがその気持は十分理解できる。



2.Master of theMess
演者は完全にごちゃ混ぜ状態のデック、つまり、52 枚のカードを全部テーブル上に盛大にぶちまけ、観客と一緒にあちこちに放り投げ、表向きのカードもあれば裏向きのカードもあり、どんな意図も介在出来ないくらいに表裏混ざっている状態、これで何か演じてみせようとします。観客は1 枚のカードに集中します。演者は1 つの質問もすることなく、大きな山から1 枚ずつカードを取り除いていきます。次第に山のカードが減っていき、やがて無くなります。……たった1 枚のカードを除いて。信じられないことに、演者は観客が選んだその1 枚だけを正確に指し示すことに成功するのです!
続いて新しいカードが選ばれ、そしてまたごちゃ混ぜの中どこにいったか完全に分からなくなります。演者は指先でそっとデックを揃えます。彼の指先で、カオスから秩序への変化が起こります:全てのカードが再び裏向きに揃うのです。そう、選ばれたカード、ただ1 枚を除いて!

◆私は作者の心配するところの”ファロー・モンスター”になっていますが、より分けは相当速くなりました。結構自然にいけてるはずです(訳者には両手を使う手法を紹介してみました)。しかしこんな寄ってたかってぐちゃぐちゃにしたものが一気に戻る様は壮観。最初に見たときは「え、ちょ、いつの間に…?なんで戻るの…?」でした。あと訳者がおまけに書いてくれていた”途中の配列表”については、「何でもっと早くくれなかった」という気持ちでいっぱいです。カードがずれて何回私が選り分け直したと思ってるんだ貴様。



3.Colour Sense
観客がデックをシャッフルします。観客はパケットを持ち、テーブルの下で表向きにします。演者はちょうど、見えていないパケットの真上あたりのテーブルに手の平で触れ、その“色”を感じるのです。演者は本当にそれぞれのカードの色を、観客がカードをテーブル上に出して置くより前に言い当てていくのです。演者は絵札であるかどうかや、パケットが何枚あるか、さらにはスートや数まで感じることが出来てしまうのです。

◆これの系統を演る人が周りに何人かいて、毎回騙されて大変楽しくもあり悔しくもあったのですけれども、これで私もクレアボヤンスっ子になれそうです。なお練習がてら某リバーがダブルな氏にお見せした時に、ピンときた彼が私に必要以上に話しかけるという妨害をしてくださったのですが、その時は2枚はずれましたw 「いやあ、意図的に邪魔したのにきょうじゅさん結構頑張れましたね〜」ってw ひどいw



4.High Noon
ドラマチックな“決闘”の中で、演者は相手の手から、選ばれたカードを盗み取ります。単に電光石火の速さでこれを成し遂げるにとどまらず、そのカードをきっちり4 つ折にし、しかもいつの間にか相手の腕時計の下に入れてしまうほどの余裕も見せつけつつ、です。

◆某所で他の方相手に演じ終えた訳者に「何できょうじゅさんは腕時計してないんですか!」とか怒られました。手首が荒れちゃうんでしょうがないのです。ていうか私にやる気だったのか。腕時計の下から自分の選んだカードが出てきたら心臓に悪かろうが。狭心症持ちを舐めるなYO。



5.Cincinnati Pit
よくされる質問といえばこれでしょう。「ポーカーでイカサマって出来ますか?」 これに対して演者はカード・コントロールのデモンストレーションを行ないます。自由に言われたフォア・オブ・ア・カインドを、シャッフルされたデックから堂々と抜き出します。この4 枚のカードを、演者の”パートナー”に行くように、10 秒もしないうちにスタック(積み込み)を作り上げてしまうのです。しかしこの早業の真価は、演者がこの10 秒の間に、更にもう2 人に対してそれぞれ4 枚のキングと4 枚のクイーンを配るよう仕込んだことが明かされる、まさにその瞬間にあります。で、もちろん言うまでもなく、演者自身は更に上を行っていて、4 枚のエースによるウィニング・ハンドで、場の全てのチップをかき集めてくることになります!

◆この「言われたフォア・オブ・ア・カインドを特定箇所に配るデモンストレーション」と見せかけての、実はそのあとの3連発オチというのは実に客受けが良いです。スタックを作りますって言って堂々と何だか細かそうなセット(シャッフル)をお客さんの前でやるというのがたまりません。「ああ、チーティングってこうやって特定の枚数とか位置を操作してるんだ」と、微妙にお客さんの知識欲を満足させつつ、実はもっと違うことまでやっているという。実にいやらしい。エロエロですよ。けしからん(訳者にまんまとしてやられたときのことを思い出して)。



6.Triple Countdown
3 枚のカードを選んでもらい、デックに戻して混ぜ、どこに行ったか分からなくします。3 人の観客がそれぞれ数を言います。マジカル・ジェスチャーの後、演者はデックに触れず、観客にカードをテーブル上に1 枚ずつ、表向きにしながら配っていってもらいます。選ばれた3 枚のカードが、それぞれ先ほど言ってもらった数ぴったりのところから出てくるのです。

◆この原理は昔から大好きなのです。2人相手ってのは幾つか見たことあるのですが、3人相手というのは実は初めて見ました。誰か生で見せてくれないでしょうか。これは演技の前に読んでしまったのだよなあ。実に勿体無いです…。なお訳者の本作に関するTIPSを読んだとき、真っ先に これ↓ を思い出しました。いや、TIPS読めば多分分かってもらえるはずw



7.Unforgettable
オレンジ・ジュースが演者の記憶力に驚くべき影響を与えます。ほんのひと口飲んだだけで、彼は完全にシャッフルされた52 枚のデック、その全ての配列をいとも簡単に記憶出来てしまうのです! 更にシャッフルした後も、彼だけの魔法の秘薬を飲んだなら、たった1 秒、デック全体をざっと見渡すだけで、各カードが何枚目にあるのかを正確に思い出すことだって出来てしまいます。最後に、コップを空にした後で、演者はこの薬によって引き起こされたスキルの実用的な応用法を提示します。それは即ち実践への応用! デックが全部、ブリッジ・ゲームの4 人のプレイヤーへと配られますが、演者は選ばれた手札を全部、1 枚ずつ正確な順序で言い当てていくことが出来るのです。さあ、盛大な拍手を!

◆解説を読んで目眩がしました。理屈は単純なのですが、まさか本当にそれをやるのか、という辺り。目下、これが出来るようになるように頑張りたいと思います。出来たら褒めてくださいね。しかしハートリング先生の手品は総じてカウント技法を使わない代わりに結構頭は使う感じがする。