教授の戯言

手品のお話とかね。

John Bannon 「Dear Mr. Fantasy」日本語版

アメリカのマジシャンに、ジョン・バノン(John Bannon)という人がおります。大学の頃に手品サークルに所属していた方はおそらく習ったであろう「Play It Straight」(表裏ごちゃごちゃに混ぜていくが、最終的に観客の選んだカードのスートだけが表向きになっていて、観客のカードの部分だけが抜けていることから観客のカードが当たるあれですね)の作者さんですね。


変態的技法はないのですが、極めてディセプティブな作品を多く作られている方というイメージ。90年前後にかなり多くの作品や著作を発表されておりましたが、2000年代中頃からまた精力的にマジックの活動をされている(ような気がする。個人の感想です)アマチュア・マジシャンです(本業は弁護士)。で、その彼が2006年に出したのが「Dear Mr. Fantasy」というハードカバーの200ページ程度の本。


このたび、その日本語完訳版が東京堂出版から出ることと相成りました。


じゃーん。訳者はHartlingの「CARD FICTIONS」に続いて拙サークルの彼です。


一言で表すなら「実用的」でしょうか。謎技法やファンタジックなストーリー仕立て、変態的スライハンドもありません。極めて緻密に組み上げられた、「実演出来る」トリックばかりです。褒めてばかりでも何なので一応言っておきますと、4Aとかロイヤル・フラッシュ出して終わるのが多いのは好き嫌いが別れるところかもしれません。あと、あんまり技法的に難しくないので、練習大好き!ナックル・ブレイカー希望、みたいな方には物足りないかもしれませんね。


個人的には4章のDegrees Of Freedomという章のマジックが大変好きで、明らかにランダムに見えるにもかかわらず、最終的には演者の思い通りになるというあれ、超傑作だと思うんですよね。先にご紹介した「Miracles without Moves」の際にチラッと触れました、Degrees Of Board-dom、アレの後ろ側にある、"なんでそうなるのか"についてなどが、極めて(無駄に)詳細に語られています。なお大好きなサイト「緑の蔵書票」で原著に関して触れてらっしゃいましたが、仰るとおり、「カードを自分で差し替えることで、痛手品量産に向いている気がする」については諸手を挙げて同意なので誰か作ってください、っていうか私も作ります。
特にこのDoFは20枚の痛カードをバッシバシ混ぜさせたのに、最終的にまどか/ほむら/さやか/あんこ/マミさんの5枚だけが表向きになるとか、ダイナマンチェンジマン・マスクマン・ジュウレンジャーの4戦隊を混ぜたのに、好きな戦隊のみ、フルカラー5人分を表向きにするとか、やりたい放題です。ぶっちゃけ20枚以上でも出来るので……やりたい放題です(大事なことなので二回言いました)。「おまえはしぬ」という6枚をひっくり返すと裏が「いまでしょ!」とかなってて、見た瞬間観客が死ぬ、とかもやり放題です。いま気づきましたが、もしかしたら私は馬鹿なんじゃないでしょうか。

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こんてんつ:

◆Chapter One:Bullet Train
Iconoclastic Aces / Syncopated Aces / Interrobang Aces

概ねこの通りなんですが何箇所か変えてますね、この動画の方。(省略方向に) バノンの実演見られたら一番いいんですが。

◆Chapter Two:Secrets And Mysteries Of The Four Aces
Line Of Sight(Control)/ Final Verdict / Cull De Stack / INTERLUDE:TWO CLASSICS / Beyond Fabulous / MARK Of The FABULOUS

Cull De Stackはカードをアップジョグしながらそれとは別に必要なカードを必要な枚数目にコントロールするという、もうそういうことされると観客泣いちゃうぞ、的な。やってみて「おお、確かにコントロール出来る、すげえ!」のですが、もはや最近セットすら観客の目の前で堂々とするくらいのずぼらぶりなのでスミマセン。息しててスミマセン。


TWO CLASSICSのデイリーのラスト・トリックとヴァーノンのツイスティング・ジ・エーセスは、もはや言うまでもなく全手品関係者が一度は触れるトリックでしょう。と言いつつ、私はツイスティング・ジ・エーセスはいつもやっているゆうきともさんの改案しか覚えていない。原案だと最初どうしたっけ……。<カードマジック事典見る……> なるほど(解決)。


Beyond Fabulousは「3人のマジシャンが4Aトリックの極意的なことを話していて〜」から始まるトリック。演者はその3人の上を行くわけですが。これはやってて中々楽しい。4Aプロダクションと思わせておいて、最後に…、という、「あ、それバノンでしょ」と作者即バレしそうな"バノン"ぽい作品。母校のレクチャーでやった時に一番食いつき良かった&よりによって本番で初めて失敗した感慨深い作品w いや、ちゃんと本番後のレクチャー時にはバッチリでしたよ(今更言い訳)。 


◆Chapter Three:DEAD RECKONING
Dead Reckoning / Out Of Touch / Dawn Patrol

Dead Reckoningは知らなかったら絶対分からないタイプの、搦め手からじわじわ行く感じのトリックです。スペリングトリックなのだけがちょいと残念ですが、これはやれると思います。誰か日本語で置き換えてもうまくいくように作ってください(他力本願)。


Out Of Touchはやられたら絶対キモいので、読む前に誰かが演じるのを見たかった……。今でも出来なくはないんですが、さらっとは出来ていないのですよね、これ。最初に見て憶えたカードと、2回目に触ったカードが一致するんですが、2枚目の方は本当に驚く気がする。


Dawn Patrolも原理知らなかったら絶対追えない感じです。しかもこれを元にしたらお手軽に「オリジナル作品作っちゃった」とか言えちゃいそうな無色ぶり。ランカとシェリルの2枚のカードを表向きにして乗せ、1回シャッフルするとアルトくんを挟んで出てくるとかも余裕。ぱっつぁんと神楽の間に銀さん挟むとかも余裕。……いま一個思いついたけどちょっとあまりに尾籠なので書くのは止す。強いて言えばネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲的なものと神谷さんの例のマーチ(ry


◆Chapter Four:Degrees Of Freedom
Degrees Of Freedom / Origami Poker / Perfect Strangers / The Works

上で触れた通り、大好きです。かなり不思議です。理屈で理解してても混ぜてる最中ホントにうまくいくのかこっちが不安になります。そういえば洋書購読会で紹介したあと、東大の方が20枚のカードを観客に適当に選ばせたようにするような、かなりディセプティブなやつに改造してきてらしたなあ(遠い目)。この章は基本的にその原理の組み合わせのバリエーション。ただ、ここで使われている原理や技法は大変応用範囲が広いので、普段使い可能なところが嬉しいですね。タマリッツのリフルシャッフルのあれや、アンドラスのスロップシャッフルなどですが、発刊当時から見てもかなり広まっていますし、セミクラシックの領域ですね、今や。



◆Chapter Five: IMPOSSIBILIA BAG
Wait Until Dark / Last Man Standing / Trait Secrets / Dave's Game

表裏ごちゃ混ぜにしたのに、その枚数や内容を見通すWait Until Dark、これはその元がアロンソンのShuffleboredであることを知る前に、アリ・ボンゴのバリエーションを憶えて、大学時代によくやっていたものです。あと学園祭の時、小さな子相手にやって失敗したことがあります(そんなんばっか)。セルフワーキングの楽しさも恐ろしさも教わった作品。それの演出バリエーションに近いですが、本作も極めて不思議に見えます。あと可愛い子に、両の手で目隠しをしてもらえるという大変素敵なプレイが楽し(ry 

Last Man Standingはこれも結構大学時代に習ってやっていた気がしますが、要するに立った状態、テーブル使わないでやるトライアンフです。割と重宝しておりますね。

コントロール法はさておき、概ね本の記述の通りですね。グッドウィン・ジェニングス・ディスプレイはやっぱりいいですね。

Trait Secretsはこれまた観客2人がカードを一致させて終わりかと思いきや、そこから4A出てきたりと、観客すげー!的な。なんかマルティプル・エンディング好きなのかバノン先生。


これは本の中にもある、ソロモンの改案の方。ちょっと見ていて思いましたが、スプレッド→カードと札を合わせて押し出す→残った山を緩く揃える と、本に書いてあるようにしないと駄目なんじゃないかなあ。なんか3つの山を最初から作っちゃうとそこからなんか出てくることを予想されちゃいそうな気がします。あと一人芝居乙、なのですが、なんか家での自分を思い出して切なくなりました、この動画w


◆Lagniappe(おまけ):
The Power of Poker
ソロモンの作品。トリックの性質上、繰り返しはちょいと微妙かもですが、1回だけやってお客さんに大変モヤモヤしたものを残せる大変いやらしい作品。10枚のカードから、ポーカーのハンドを作る体で2枚のうち1枚ずつ観客が全部(計10回)選ぶのですが、マジシャンズ・チョイスなしで演者が勝ちます。なんていやらしい……。

この動画の方はちょっとですが変えていて、観客にカードをモニターさせなかったり、最初のホールカードを表向きで配らせていたりと、(ワタクシ個人的には)余計なことをしていました。ちなみにバノン本人がDVDの中で演じている際は、本の中にもある「(場に出す1ドル札の中に)予言の紙片が入っている」というバリエーション案の方を採用していました。



ちなみにこの本で私が一番やりたいのは"Line Of Sight"という、借りたデックで準備不要・繰り返し可能・なんで当たるのか意味分かんないわよ!的なトリックなのですが、よりによってそれだけ技術的にうまく出来ません。シクシク。