教授の戯言

手品のお話とかね。

堂本秋次「Now I don't have a piece of thumbs in my pocket.」「How many lumps do you have?」

北海道のバー・マジシャン、堂本秋次さんの作品集その1とその2。その1はもう3語くらい長いタイトルだったら「ちょい前のラノベタイトルかw」と思ってしまうところでした。「俺のポケットの中に、なんか親指っぽいものが入っているのは"事案"でないはずがない」的な。『2014年、東京都内で数名のサラリーマンのジャケット・ポケットに、切り取られた人間の拇指が入れられている事案が複数件発生、事態を重く見た警視庁は通称・魔術探偵ことxxxに依頼を〜』的なストーリー(多分)。

さて。

最近、何故か文字媒体の作品集を読むブーム(私の中調べ)が到来していて、その中で偶然ステマに引っかかってしまって即購入。……著者本人の宣伝はステマというのかどうかは不明。『Now〜』の方はノーマルデックを使う、中でもシャッフルされた後でもいいよ的なものが殆どで(FASDIU:from a shuffled deck in use)、著者本人も書かれているようにギミックその他の条件が緩いのは演じる上での利点だと思います。『How〜』の方はパケットトリック集。レギュラーデックから抜き出すだけで使えます。


まず、総合してコスパの良い冊子だと思いました。昨今「ちょ、おま、そ、その内容、その分量で、その価格って、おい……」って言いたくなるもの(悪い意味)が多い中、良心的とも言える感じです。ちょっとハンドリング程度を変えることくらいはしますが、自分で手品を作るという行為に背を向けて久しい身としては、こういった他人の作品集を読むのは楽しい時間なのです。

難点としてはそこまでユーザーフレンドリーには作られてなかったという点でしょうか。『Now〜』は写真が一切無く、『How〜』においては時系列に並んでるとはいえ、どの写真を参照するのか、写真番号がなかったりしたので、今後その辺の改善が望まれます。他人に説明する目的の手順書をあまり作成されたことがないのかもしれない。(推理) あと分かってる人向けに書かれているというのもありますが、どっちの手で持っているのか、今置くのか持ったままなのか、どっちからどっちに置くのか、など、「どっちや!」と思う部分が散見されました。これは自分が昔手順書を書いたとき、サークルの先輩に「逐一そういう情報は書いた方が、読み手に間違いがなくて親切だよ」と言われて以来、自分が注意しているところだけに目についてしまいました。まあそのくらいは意識して読めば済む話なんですけれども。あとちょっと誤字誤用があったかなあ。電子媒体なので、出来れば随時本編は校正されるといいんじゃないかなと思います。

で。

私が今更書く必要もないくらいちゃんとしたレビューがこことかあそことかにあったりするので、みなさんもそっちを読まれた方がいい気がします(丸投げする風潮)。

ちなみにここで両方とも買えます(ステマ)。堂本さんは私に北海道の海の幸を送ったりしてくれてもいいのよ?
私もPDF販売とかしてみたいなー。


                                • -

「Now I don't have a piece of thumbs in my pocket.」

1.Doppelganger:
最初に尻ポケットにカードを1枚挿しておく。手元のデックで観客の選んだカードを絡めた変化現象をやっているうちに、実は尻ポケットに挿しておいたカードが観客のカードになっているという、チェンジとミステリーカードプロットをうまく融合させた作品。
尻カードの処理タイミングと、観客のカードを尻から示すタイミングが盛大に離れていて、そのあたりの堂々とした図々しさが実に好み。尻尻書くとアレなのでやっぱパンツポケットとか書くべきですね。すみません。ミステリーカードそのもののプロットが、時系列の齟齬という観点で大好きなのです、私。どう考えても、最初から出していたものが観客のカードであるはずがないので、どこかですり替えるなりしないといけないのですが、本作はそのへんが実に良いなと。あ、しまった、もうパンツポケットって書くタイミングがなかった。


2.Secration:
2-2のOW。流れるような感じだろうなと想像し、実際見てみたい反面、少枚数でのダブルは本当にごまかしがきかない気がいつもしています。いや、みんな「いやあ、気付かないですよ」って仰るんですけど、……昔から私は気づいていたし。言わないだけじゃないのかなあ。著者のOWのクライマックス理論については否定はしませんが、今まで4枚でやってきたものが最後にデックの中から黒2枚が〜、というのは個人的にはストーリーの流れとしてしっくりこなかったです。4枚が2枚になってる&デックから2枚登場!というのは凄く衝撃的なのですが、この手順の中ではなんだか唐突だったかも。まあこの手の作品は、上手い方の演技見るとその辺全く気にならないことの方が多いので、単に私の想像力の問題かもしれません。あとそこについては、デックを取るタイミングとリベレーションのタイミングが近いので、「ああ、あのときに移したのかな」みたいな容易かつ的確なリバースエンジニアリングをされてしまいそうな。まあ大抵のお客さんはそんなことはしないかw ちなみに「水漏れと油漏れ」を練習しつつも、私が人前でやるのはダーウィン・オーティスの簡易版だけという有り様です。……いっこ憶える度忘れちゃうんだもの、O&W……。



3.Houseguest:
箱を絡めたvisitor 。
これはちょうど間が悪かったというか、ガスタフェローのDL販売のカードの箱使ったトリックに綺麗に引っかかった後に読んでしまったので、ちょっと評価しづらいです。手順自体は綺麗で、「最初から隔離しいておいたやつの間にサンドイッチされてる」というワタシ好みではあります。



4.Operation “2 of 4”:
3枚のカードをインディケーターにして、観客のカード、及びその位置を当てる。
マニア受けしなそうだけど大変良いトリックな気がしました。本書で一番好きです。演じる際、いかにフォース感を無くせるかで、良作足り得るか否かの分かれ目と思います。サークルとかで教えるべき、地味に好きな作品。理屈とかは気にしないで見るべき。



5.Overkill prediction:
出しておいた4枚の予言カード。観客がデックから1枚カードを選ぶが、ポーカーの強いハンドを作るのに最適な残りの1枚を選んでくれる。最後にはその5枚が全く違ったハンド、ロイヤルフラッシュになる。
フォアオブアカインドかポーカーハンドかの違いがあるが、前段はバノンの作品であった(2月頃に抄訳したので憶えていた)。後段というかクライマックスは、これは大変パンチ力ありそう。これは彼の作風というかクセなのかもしれないけれど、現象一段落→オフビートにスイッチ→もうひとつのクライマックス という一種のパティーンがあるのですが、やっぱ最後にスイッチって便利だよねえ、と思ったりしました。いや、一時期私にも、最後にデックだのパケットだのをスイッチ、ダメ押しの現象を詰め込んでいた時期がありまして。めんどくさくて&ワンパターンに陥ったので 最近とんとやってなかったのですが、またやってもいいかなーなんて。



Bonus.Ambush:
コレクター。
これ結構好き。1枚を4枚に見せかけるあたり、ゆうきとも氏の名言「ですがお客は気付きません」を思い出すw 最後、サンドイッチを完成させる瞬間が美しい。そういえば私も昔コレクターを考えていた時期があった気もしますが、多分気のせいだったのだぜ!

                                        • -

「How many lumps do you have?」

1.Quicksilver
3カードモンテ。
ほんとに3枚しか使ってないのにやれることはやったな、という感じで好きです。コップ(グラスじゃない方)使うのはやはりバーの人特有なのかしら。まあ座りの人はラッピング使いそうという勝手なイメージですが。なお己のシェイプシフターの下手くそぶりに涙が出ました。「衰えたなー」と思いましたが、よくよく振り返ってみると昔からシェイプシフターはやる度に引っかかって出来てなかったことに気付き、いつまでも変わらないクオリティ、それは私が特別な存在だからです。



2.Acheron:
ラストトリック豪華版。
意図は凄くよく分かるけど、個人的には「シンプルなままでよくね?」という努力を台無しにする感想を抱きました。私だけかもしれないけど、ただでさえどっちがどっちだったか正直分からなくなることが多いのに、その上ここまでビッシビシにやられるとキツイ。なお私は素直に現象見ちゃうので、よくレクチャーノート等にある「観客はこう推理するでしょうが〜」というのがほぼ当てはまりませんw 本作もどっちかというとマニア向けかなあ。と思ったら最後に「やっぱ名作弄るもんじゃないね!テヘペロ」とかあって「畜生、可愛ければ許されると思いやがって、必ずやかの邪知暴虐たる堂本を除かねばならぬ」と決意しました。 



3.Outfox:
リセットとオイルアンドクイーン的な。
8枚を6:2とはずいぶん思い切ったなという感じ。プレゼンテーション・シナリオがはっきりしているので、喋りながらでも追いやすそう(観客側が)。先述の通り、個人的には"最後にバーンとチェンジ"は好き。非手品人受けも良さそう。自分でやるなら、エースはボトムに軽く曲げて仕込んでおいて、駄カードはトップに戻す→同時にボトムの4枚をすり替える、ってするかなあ。まあオフビートタイムなので、私でもトップのすり替えはやれなくはなさそうとは思います。私はベベルのリセットに慣れきっているので、最後にスイッチするなら正直途中はそっち使ってもいい気がしました。完全に慣れの問題ですが。なおベベルの方は5:3です。



4.Authentic authority:
エースアセンブリからの〜。
各種手法含めてかなり好き(こっそりカードを置いてくる手品が元々大好きであります)。観客向け演出だけ考慮するなら、残りのデックも全部きれいに並んでれば完全にトリネタの風格ですね。どうせ使ってないので仕込みもすり替えも余裕。みんな大好き"全部綺麗に並んで終わる"パティーン!



5.Reverie:
20枚だけ使ったトラベラー現象。
副次効果のある手品も好きです。本作は上記のトラベラー的な(厳密には違う気もしますが)現象をやるがその裏で多数のカードをセットアップ出来るという利点があります。とはいえパケットスイッチをここまで何箇所かで見てきている身としては、別に使う予定のカードに予め反りをつけておいて、トップないしボトムにセットしておく、でもいいとは思いますけれどね。
ここで使われているフォースは正直ちょっと怖いので(だって最後のカードって変に目立つし)、あとでコントロールする手間をかけてもドリブルフォースとかなんかそういう小者感溢れる手段に走りたい。フォースが成功しているかどうかで分岐させるのは、私にはキツイです。いや、やれる人はそれでいいのですが。私、色々分岐させていく手品苦手なんですよね。絶対不思議とは思うのですけども、私の手と脳がついていかないのですw



Bonus.Little effort:
エース4枚だけのアンビシャスカード。
書かれているように、新奇性としては無いし、誰かが同様のマジックを考案していてもおかしくない作品ですが、ちょうどいい長さ、不思議さ、ワーク、と個人的には思いました。エース4枚でなんかやる、というのは、それこそ星の数ほど大量にあるわけですが、スタントに走らない、かつ、このあと普通のアンビシャスに繋げるでもよし、バイプレイとしてよしの、佳作な気がします。先述の通り、作者の目論見である観客の推理誘導、あるいは先読みを云々というのは私には当てはまらないのでよく分かりませんが、上手いことまとまっていると思います。