教授の戯言

手品のお話とかね。

ボリス・ワイルドレクチャー

フランスのマジシャン、ボリス・ワイルド氏が来日&レクチャーツアーをされており、参加してまいりました。私もその昔大変お世話になったマークト・デックで大変有名なボリス氏ですが、正直他の作品って幾つか程度しか知りませんで、予習もせずにぶっつけ参加だったのですが、これまた大変楽しかったです。1997年のドレスデンFISMで、カード2位(1位は該当なし)なので、まあ実質その年のチャンピオンだったのですね。「ボリスの すごい 手品」(カレイドスターのサブタイ風)

ともあれ、マークトデックといえばしっかり裏面を見ないといけないという先入観があったのですが、(練習と膨大な実践があるとはいえ)ボリスさんはスプレッドしながらほぼ見つけてしまっておりまして。あれくらい熟達していたら、もはや裏から見ても表から見ても同じようなものだなと思いました。二次会で、こざわさんの質問に応じてチャレンジされていましたが、スプレッドしたあと80cm程度離れたところから10秒かからず4枚のエースを取り出しており脱帽でした。今回のレクチャーは、ひとつ特殊な道具を使うとはいえ、かなり蒙を啓かれました。とても良かったです。

あといまBWマークトデックというのは、メイデンバック、という乙女が描かれた裏面のものになっているのですが、むかしのは普通のライダーバックで、eBayとかで200ドルとかの値段がついてたりするそうです(未開封の、だと思いますが)。私、家に2つくらいライダーバックのがあったと思うのですが、どっちも開けてたかなあ…。

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0. lNEXPLICABLlE
最初からテーブル上に、画用紙を折りたたんだものが立ててある。その後、観客が混ぜ、適当に取り除いていった残りのうち1枚を観客のカードとするが、先の画用紙を開いていくとそれが予言されている。

通訳の二川先生の到着が遅く、かつ同席していた観客ことこざわさんの持参本(ボリス・ワイルドの著作)への凝ったサインも終わったので、「じゃあなんかレクチャーじゃないけどやっちゃいましょうか」ということで始まりました。私がシャッフルしたあと、スプレッドして、適当に私が数回ごそっと取り除いていって、残った端っこのカードを憶えたりするだけで、どう見ても技法の介在する余地もなかったのですが、……当たってしまうのですねこれが。やだなにこのひと明るいテンションなのに怖い。スプレッドもあんまり見ていた様子もないですし。のっけから震える。解説受けてその判別の速さにも震える。



1. The Ideal Effect
演者は目を背けつつ観客にカードを1枚引かせ、戻してもらい、それをカットさせたりシャッフルさせたりするが、いつの間にかそのカードだけが、デックの中でひっくり返っている。

ステージに上ったこざわさんが、ホントにボリスさんの言うこと聞かずにさくさくシャッフルとかカットとかしちゃってて、「おいおい、まだボリスさんはシャッフルしてくれまで言ってないじゃないですか、こ、このメガネめ……、(注:自分もメガネである) 台無しじゃないですか……!」とか震えていたのですが、そこまで折り込みでちゃんと当たってびっくりです。さておき、自分が手品するときは、こざわさんに何かしてもらうのはやめようとは思いました。逆はともかく、そんな機会はないでしょうが。



2. The BET
10 Card Money Game。5枚ずつのマネーカードとハズレカードがある。観客がよく混ぜたあと、観客自身が全て、自分用と演者用に選んでいくが、最終的に観客には1枚もマネーカードが来ていない。

10カード・ポーカー・ゲームの原理はよく知っていましたし、やったりもしているのですが、これは盲点でした。ボリスさんも仰っていたように、10カード・ポーカー・ゲームはいい手品なんですけど、普通はポーカーのハンドを作ることが多いものです。ですが、ヨーロッパのひと(多分アジアのひともですが)は、あまりポーカーの役に詳しくないというのがネック、というジレンマ(ちなみにバノンの本でも「アメリカ人はポーカーの役にそんなに詳しくないし〜」とあって、じゃあどこの国の人なら詳しいんでしょうかw)。これは、1000円札5枚を実際に出して、お金を獲得できるかどうかというゲームにしただけなのですが、これが意外なまでにぐっと引き込まれるんですよね。「国籍や老若男女問わず、お金がかかっている、もらえるかも、というのは凄く興味を引くし、盛り上がるよ」とのことですが、その通り、凄く分かりやすくていい手品だなと思いました。あと2回目を3枚中2枚選ばせるのは、スピードアップにもなるし、単純ながら良い工夫だと思いました。



3. Perfect Open Prediction
演者が最初に1枚オープン・プレディクションとして、色違いデックからカードを1枚取り出し、表向きでテーブルにカードを1枚置いておく。ここではハートの8とする。それから別のデックを観客に渡し、1枚ずつ表向きにしながら配っていってもらうが、途中ピンときたところのカードだけ裏向きのままにし、残りは全部配りきる。最後まで配るがハートの8は出ていない。デックをスプレッドすると、唯一裏向きのままにしたカードがハートの8だったことが明かされる。

やだなにこのひと怖い。いやほら、「オープン・プレディクションというのは、結局のところフォースかこの2種類の手法に帰着するのだよ」、とバノン先生も『High Caliber』の中で仰っていましたが、これはちょっとびっくりしました。自分の知っているはずの動作が何もなく、それでいて公明正大感が強いの。あと一番びっくりだったのは、帰宅して確認したら私これ持ってたところですね!(未開封でした)



4. Traveling Kiss
ダブルブランクにあるキスマークが次々と移動したり増えたり消えたりする。

キス・カウントは良かった。タカギ・オプティカル・ムーブでしたっけ、あの両面見せたようにしながら何面か隠しつつ置いていく、ワイルド・カードなどで使う技法。あれをタテで行う感じなのですが、全く止まらないので、テンポよく気持ちいい技法。要するにフラシュトレーション・カウントと目的は同じなのですが、これは色々使い勝手良さそう、と思いました。ペンギンのレクチャーではバリエーションを演じていて、4枚のエースのバックが赤だったり緑だったり黄色だったり白だったりという、盛々な感じに仕上げてらしゃいました。これは久々に(変態技法ではないけど)マスターしてみたいです。4枚とも全部両面見た気がしていたのに……!



5. Any Card At Any Birthday
観客Aに好きな数(誕生"日")を、観客Bには好きなカードを指定してもらい、最初から観客Cが中に何もないことを確認済みのポケットにそれだけ入れておいた予言デックを取り出し、観客が開けて中身を出し、1枚ずつ配っていくと、観客Aの言った数のところから、観客Bの言ったカードが出てくる。


「Any numberについて、別にそれが40でも16でも、見ている他の観客にとっては数字上の意味は無いし、それもなんか嫌なので、意味のある数字ということで誕生日を使うようにしました」というのを聞いて、「じゃああれですか、配らせるとき、表からか裏からかとかで2パターン調整するのかにゃ〜?」などといやらしいことを思っていたのですが、「あ、バースデーってタイトルだけど、別に1から52、なんでも出来るよ」「え?」「メモライズドでもないし、記憶・計算するとかもないよ」「え?」「計算もしないよ」「ナ、ナニイイイ!」と、自分が思い浮かべる方法が次々と否定されていく様は大変素敵でした。商品紹介によれば、
No rough and smooth No sticky cards No short cards No table needed No sleights No memorized deck or mnemonic work No formulas or sequences to remember No mental calculations to learn.
だそうで、更に彼は「リセットが手軽に完了する」という条件もつけて本作を練ったそうです。「このかたちにするのに5年かけたよ」とは彼の弁。デックは確かにレギュラーだし、即座に繰り返すことが出来る(しかも違う数・カードが言われてもその通りでてくる)というあたり、手品師のエニエニにかける想いは凄いなと思いました。裏で行われていることを知る前も知ったあとも、これはかなり完成度というか、現実性の高いACAANだったと思います。「えー、1とか52とか言われたらどうすんのー?」とか「ジャケット着てないときはー?」とか思ったのですが、DVDに解説されているらしいです。大枠は解説されたとはいえ感銘を受けたのでちゃんとDVDは買ってきました。見るのが楽しみです。

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会が終わって、毎度おなじみ2次会がありまして。こざわまさゆきさんの私物である、ボリスさんサイン入り『Transparency』をぱらぱら見ていたTくん。こざわさんが彼を指して「彼は色んな手品本を訳しているんですよ、例えばこういうのとか」と、『CARD FICTIONS 日本語版』を取り出したところ、ボリス氏が割と興味を持ってしまい、なんか流れで"全訳しなきゃいけない"ような流れになっていて笑いました。あとで、「なんか面白いことになりそうだったので見守ってたよwww 僕は迂闊に協力するとは言わないどくわウェヒヒ。」とかこざわさんは言っていて、Tくんサラリーマンなのに、そしてそもそも本編1ページも読んでないのに、また意味不明な手品ミッションに突入しそう。私も生暖かく見守る所存です。

「『マジックランドに行きたい』ってボリスさんが仰るから、ちょっと詳しく案内した紙をお渡ししておいたんだけどね、まあ翌日ランドにはちゃんと行けたみたいで。それは良かったんですが。で、『キミの訳したっていう本があって、ママさんに2冊見せてもらったよ!これはいいね!』って楽しそうなメールが来たんですが、ますます逃げられなくなっているのは気のせいでしょうか」という連絡を彼から受けまして。すぐに「退路なんて最初からないわ」と返しておきました。今年『Transparency』日本語版が出るかもしれませんね、マークトデック付きでw ますます彼の仕事が分からなくなってまいりました。そんなん売ってたらもう業者ですw