教授の戯言

手品のお話とかね。

Lee Asher 『Losing Control』

「リー・アッシャーっていったらそらお前さん、"アッシャー・ツイスト"でやんしょう」と思っていたのですが、訳担当の彼はちょっとナナメっていました。「いえ、それもいいですが、やはり"ルージング・コントロール"ですよ。さりげなく本人からも販売許可取ったので宣伝させやがれです」ということだったので、あとはヨロシク。また日本語版作るのか。業者か彼は。「なおマジケには間に合いませんでした……」ですと。しょうがないね。でも来年のマジケにだったら間に合うんじゃないかな!(焼け石に水 感) ちなみに今日の明日とかでは出ないそうなので、念を送るといいと思います。組版お兄様に。

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「リー・アッシャーの『Losing Control』冊子を和訳する権利をやろう」(AA略)ということで、日本語版を作らせて頂きました。正確には訳自体は終わっていまして、いま頑張って作っております。組版の人が。「ていうか技法って文章で読むのが一番分かりづらくない?」という皆様、ご安心を。ベーシックな手法からバリエーションまで、本書で解説されているものは、すべて本人(無論、私じゃなくアッシャー)が演じている映像リンクも入っていますので、日本語で理屈やコツを理解しつつ、映像でちゃんと理解できるナイス設計になっております。

「ルージング・コントロールってそもそも何ですか、墜落前の航空機ですか」という話ですが、要するにトップ・コントロール技法と、そのバリエーションの解説本です(「ああ、またそういうの系か」とか思わずに。。。)。この技法の何がいいかといいますと、『理屈で分かっていても脳が誤認する』感じなところです。本書冒頭の献辞に「獣の中の獣――クラシック・パスをマスターすべく、長き年月を費やしてきたすべての人々へ本書を捧げます」とあるのですが、クラパと比べて程度の差はあれど、ルージング・コントロールって、「何も不自然なことは起こってない」感が強いのですよね。いま見たはずのカードはすでにトップにある、という。なにこれキモい。やだもー、ってなもんです。さおりんかわいい。ていうか、「直接見ても気付かぬクラシック・パスなど存在しねえ!」(CV:天才の人)

2016年に中国のジョー・デンさんが来日して、その中でもアッシャーのパルプ・フリクションほか、リバース・スプレッドを活用した、大変ディセプティブで不思議な手品を見せてくださいました。それをきっかけに、「リバース・スプレッドといえばアッシャーがとても巧かったよな」というのを思い出したのです(そもそもアッシャーは左利きということもあり、リバース・スプレッドがとても自然)。直後、過去2度アッシャーが来日した際のレクチャー・ノートを読み直し、そのダイレクトにして『脳が視覚を裏切る』技法の数々を再訪し、心地よい感覚を味わいました。あまり冊子やDVD、グッズを出しまくるレクチャラー・タイプではないので忘れていましたが、本当に手品センスの塊みたいな人でした(いまでも、ですが)。初めて生で見たご本人の”Asher Twist”の鮮やかさはいまでも記憶に残っています。

アッシャーが来日した2000年当時、彼はメジャー路線をひた走り始めた若き新星であり、私自身無駄に時間はある時分でしたので、彼のビデオ(当時はビデオ・テープが主流でした)を何度も何度も見て練習したものです。”Asher Twist”と”Thunderbird”(Four Aces Production)は、当時私の所属していた奇術部では必修テクニックでした。むろん私も例に漏れず頑張りました。また、これをきっかけで思い出したのですが、私がいまでもよく使うフォースは”May the Force be With you”(フォースとともにあらんことを)ですし、唯一やる(出来る)フラリッシュは”Sibling”、フォールス・カットは”Fabrication”と、どれも当時のアッシャーの作品集からばかりでした。おお、なんてこった。

ルージング・コントロールは2009年の来日時に初めて目の前で見ましたが、私の短い手品歴の中でもっとも、『解説時にも何が起こっているのかしばらく理解出来なかった』技法です。私が盆暗だというのをさておいても、会場の皆さんも似たような感じでしたので、30人総盆暗というよりかは、この技法の持つディセプティブさと凄さの証左、と考えるのが自然でしょう。「これほど図々しいことをされてなお、気付けないものなのか」と、己の注意力のなさにがっくりきた思い出。当時は中々うまくできずそのままになっていたのですが、このたび訳しがてら練習しなおしまして、「あ、書いてある通りにやれば割といけるかも」くらいにはなりました(※自分甘々調べ)。見返すと2000年頃のレクチャーノートに1ページだけですが書いてあったりしたのですね。

なおルージング・コントロールは2004年頃、動画ファイル入りのCDROMが売っていたのですが、いまや手に入れるのが困難な模様です。ちなみにアッシャーの映像作品にありがちな、くっだらないストーリーで進んでいく、"レクチャー半分コメディ半分"みたいなものでした。すみません嘘です、やっぱ要素的にはレクチャー3分にコメディ7分くらいです。
自宅ポスト前で、目出し帽の2人組に車で拉致されるアッシャー。郊外の倉庫の椅子に縛られた状態で聞かされるところによれば、アッシャーを拉致したこの2人はカード・コントロール・テロリストとやらであり、アッシャーが知っているという"ルージング・コントロール"を聞き出すために凶行に及んだとのこと。
テロリスト「さあ、言え!"ルージング・コントロール"というのはどういう技法なんだ」
アッシャー「お前らのようなやつには教えられないな!」(ぶん殴られて鼻血を出すアッシャー)
アッシャー「わ、分かった、教える……(普通のテンションになって)『ルージング・コントロールはトップ・コントロールの一種だ。まず両手の間にデックを広げる』」 みたいな感じで進んでいきますw 

まあそんなこんなで、「別にトップ・コントロールなんかダブル・カットどころか、リアルにシングル・カットくらいで十分だろ」派なのですけど、宗旨替えをしそうな勢いであります。



また余談の中の余談ですが、ルージング・コントロールではなく、その派生のテクニック、パルプ・フリクションの話なんですけれど、"Continental Divide"という、これまたモニターの前で変な声の出てしまった手品もあります。思わずこれが載っていた雑誌の該当部だけ訳してしまいました(が、これはそもそも権利者がアッシャーではないので出版は無理っぽいですね、ごめんなさいぐへへ)。これはもう単に「これ超不思議だったんですけど、見てくださいよ!」って言いたいだけです。訳したのにもかかわらず、その解説の内容が行われているようにまったく見えません。なんなんだもう!という感覚を共有して頂きたかった(私は注意力が3万しかないのでダメですが、読者の皆さんはもっとあると思うので「いやすぐ追えるよ」かもしれませんが。……いや、なんか私がぽんこつなのを晒すだけなのは悔しいので、みなさんも追えませんように)。



凄くないですか?