教授の戯言

手品のお話とかね。

John Carneyレクチャー


John Carneyのレクチャー@水道橋。「世界一うまいマジシャン呼びました」とはフレンチドロップさんの言ですが、確かにうまい。うまいマジシャン、という概念を具現化して服を着ている感じ。ちなみに綴り的にJohn Carey(英)とややこしいともっぱらの噂ですが、わたくしは毎回カーディニを思い浮かべて、それを消してから思い浮かべないと彼に辿り着けない病にかかっております。カーディニも名前からしてカード物凄くうまいですが、それはさておき。

「なにやっても超うまい」というイメージと、「あらゆる壁をテクニックだけでぶち壊す」という2つのイメージをカーニーには抱いていて、前者はもうその通りだったのですが、まったく見せびらかす感じもなく、後者のイメージは覆りました。ともすれば地味ともいえるマジックがほとんどです。もちろん意図的にそうなっていて、「若い頃はスピード重視で行っていたが、ヴァーノン他から、『もっとゆっくりと』『観客は今の現象を理解できないまま次の現象に行かれちゃったら困るでしょう』『君の手順は素晴らしいけど、もっともっと考えられるはずだ』というようなことを言われて、それ以来、『技術は研鑽するが、その技術の気配を消すために、技術研鑽にかけたよりも多くの時間を費やす』んだよ」というお話をされていて、「ああ、いいなあ」と思いました。

私もフラリッシュ感あふれるものも別に嫌いではないのですが、昔からよく思っていた、アクロバティックだったりダンサブル(?)な、カーニーいうところの「マジシャンしかしないムーブ」というのに対して抱いていた嫌悪感(というほどでもないけど、違和感とでもいうべきか)を言葉と実際にしてもらえた感ですかね。左手の親指人差し指でコイン1枚つまんで示しつつ、その左手の中にもう1枚コイン握る(リテンションバニッシュ)みたいな流れとかホント笑っちゃっていけません。野島伸幸さんが、「若い子にはこういう王道の上手い人を目指してほしいなあ」的なことを仰っていて「うんうん」と(思いつつ、「え、野島さんは!?」とか思いました)。

さておき、全体的に悠々・堂々たるクラシックマジックの体現だなあと思いまして、素敵なレクチャーでした。以下備忘。

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1. CAFFEINATED CUPS AND BALLS
コーヒーカップとブドウで行うカップ&ボール。

プラスチックの取っ手付きコーヒーカップと、イミテーションのブドウを用いており、カーニーの演技全般にある「理由づけ」に取っ手がうまいこと組み込まれていました。ちょっとしたくるっと回す動作や取っ手を持つことで自然なかたちでパームを秘匿していて「すげえ!」というより「怪しさが感じられない」という印象。なおクライマックスのレモンのロードをすべて見逃している始末でした。注意力が3万しかありません。あとなんかブドウを美味しそうに食べる。



2. five coins and a champagne glass
どこからともなく、1枚ずつコインが現れてはシャンパングラスに入っていき、最後にはファイブスターでキメたりする。

カーニーって基本はフィンガーパーム派(「イエー、私も」)だそうなのですが、ここではちょくちょくクラシックパームもダウンズパーム的なものも使いつつ、どこも結構オープンに手の中を見せながらも「何も持っていない」印象を与えていました。というか1枚2枚はともかく、最終的に5枚出てくるあたり、なんか別途ロードでもしてるのかなと思ってしまいましたが完全に引っかかっております。


3. Cylinder and Coins
シリンダーアンドコイン。

略して尻コイン。コインマジックはそんなに詳しくもないのですが、シリンダーアンドコインは好きです。「クラシックマジックの薫りがするからだろうか、ふふん」などと思っていたのですが、カーニーが「元はラムゼイがやっていたわけだが、彼は革のシリンダーじゃなくて、トイレットペーパーの芯を銀色に塗って使っていたようだ」とかで草不可避。しかしあのコルクをシリンダーに通して落としたようにしか見えないところとか、コルクがいきなり複数枚のコインに変わってしまうところとか、カーニーの技術を以って見せられるシリンダーアンドコインはなんかこう、じんわり来る感じで良かったです。不思議なうえに綺麗。そういえば岡野さんもうまかった。わたしもやってみたいけど、まず道具揃えるのが大変よね、これ。トイレットペーパーの芯はさておき、Sコインのほうが。



4. cigars from the purse
ハーフダラーサイズくらいのとても小さながま口から、指くらいの太さのシガーがにょきにょき出てくる。2本。

がま口取り出して「いつもは『これはジャパンで買ってきたんだけど〜』って台詞で、エキゾチック的な面白さを醸し出しつつがま口を取り出してくるんだが、本当に日本で演じるときには微妙な台詞になっちゃうな」とか仰っててワロタ。観客の胸ポケットから出してくるのが素敵です。



5. Inscrutable
デックのカードが次々とジョーカーになってしまい、都度テーブルに置いていくが、あとでそれを開けると全てAになっている。

実にいい感じに王道な手品な感じがします。



6. Bullet Train
Cards up the Sleeve。

前段で出した4Aがジャンジャカ袖に通う感じで。手順自体は直線的で大変面白いのですが(私がカードアップザスリーブが好きなのはあります)、たまにギャグも込みでやるという、ふにょんふにょんする針金の先に飛ばすべきカードをつけておいて、ジャケットの前部の開いたところを通過するところをふにょんふにょんさせながら見せる、というやつ、あれが個人的にヒットでした。


7. Knife Trick
ナイフに濡らした紙片を貼り付けて行うクラシカルなパドル・エフェクト。

いかにも即席で(実際即席ですが)、その場にあるもので戦える、古典過ぎて詠み人知らずっぽい作品。しかしまあこういうのが様になるってのが羨ましい。

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訳の人はカーニーの演技や解説を見ながら「ほーう、うわすごい……」とニヤニヤしながらメモを取っておりましたが、終了後、「しかし、あれほどの名人が手品を見せてくれている最中もなお、手元のカードやコインいじるのをやめられないマンがちょいちょいいたんですが、あれ何なんでしょうか。カーニー相手にテクを見せつけているのですか?それとも勝負でも挑むつもりでしょうか」とか言っててワロタ。手癖だろうけど、挑んで、そして勝てたらすごすぎです。あのカーニーが相手じゃぜ?マジシャンの説明を受けながらその通りにやってみている、というのは私は別に気にならないのですが、確かに特に脈絡なく、中でも音立ててる人はよくわからないですね。アンチ・ファロやってるとか、ドリブルしてるとか、コイン落とすとか。