教授の戯言

手品のお話とかね。

John Bannon『High Caliber』

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アメリカのマジシャンにジョン・バノンというひとがおりまして、彼の著作としては以前『Dear Mr. Fantasy』の邦訳版が出たりしておりました。

kyouju.hateblo.jp

その本以降に出していたレクチャーノート9冊分40トリックをまとめ、2013年にハードカバーとして出したのが『High Caliber』。その名の通り、デカイやつです。それの完訳日本語版が出ます。あ、カード・マジックの本です。ちょっとだけコインもありますが。
 
原書は、訳のひとがシカゴに住んでいたタイミングで出版されたものです。ちょうど『DMF』の日本語版もそのあたりで出ておりました。現地で憧れのバノン先生に色々見せてもらって舞い上がった彼は、「『Mega 'Wave』は訳し済みだし、それはつまり2割くらい実質コピペで済むだろうし、こいつは余裕だ。よし、ハイキャリバー完訳、行っちゃうか!」という甘い皮算用を胸に帰国したらしいのですが、彼は2点見誤っていたのですね。
まずサイズ。『DMF』は日本でいうだいたいA5版をちょいと大きくしたくらい。対して『High Caliber』はB5サイズくらい。単純計算、面積比が1.5倍になるわけです。校正刷りが届いた彼は、「これ、A3で170枚くらいだと思うんですが、半分に折ったら拳銃弾程度は止まる厚みだと思うんですよ。300枚以上のコピー紙ですよ、プロデューサーさん!」とか言っておりました。評価指標がよく分かりませんが、まあとにかく分量が多い。
もうひとつは『Mega 'Wave』ぶんはコピペで行けるだろ想定、これがまた、当時と訳し方(というか文体)も変わっているわけで、そうすると他と合わせるためには結局全部訳し直さないといけないのですね。もちろん、『HC』自体がレクチャーノートの合本みたいなものなので、それぞれの中での文体や雰囲気の違いなんかはあってもいいとは思うのですが、まあそうも言ってられないよね、と。つまり、貯金などないのだ、ということです。
 
かつてない分量を相手に査読・校正を行うなかで、まずこざわまさゆき氏がさりげなくフェードアウトし、岡田氏も別件等(ex. ガルパンの映画を見に行く)で2年弱行方知れずに、訳者氏もジョビーだなんだに浮気をし、「貴社で出したいのですが」というメールを東京堂のご担当者が数か月見逃していたり、という諸々のファクターが重なった結果が今回の出版になります。みんながフルで対応していたら2015年から2016年にかけて出せていたのではないか説。まあ、結果論ですが。
 

  

訳者氏は「バノン本、アマゾンで見たらついに税込みで5ケタに突入」ということを人づてに聞いて「おいおいマジかよ。ダンスパーティーじゃねえんだぞ」とか、ハリウッダーっぽく錯乱しておりました。まあ原書は60ドルくらいだし、絶版だし(Amazon.usで千ドルちょいのプレミア価格を見ました)、DMFのとき「原書より安くなってんじゃん」、というようなこともありましたので、まあそれはそれでと思わなくもないですが、やはりライトな層は尻込みする値段ですね。バノンらしい練られた作品が40トリックなので、トリック単価的には別に高くないというか安いとは思いますし、レクチャーノートをバラで買うのの半額以下だし(それぞれのノートの原書はとっくに絶版ですが)、DVDとかの単品トリックで売っているものもかなり色々解説されているので、私は納得はしました。皆が納得するかは知らぬ。ひとつひとつたどれば、長く楽しめるのは間違いないです。
 
 
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富山です。ジョン・バノンの『High Caliber』を訳しました。大変膨大でしたし、値段設定にも正直驚きました。自分を含めて、基本的には本は1回ザーッと読んで終わり、という人も多いと思うのですが、本書は極めて良く練られた作品が多いので、一晩に1トリックとか、週末に1~2トリック、のようなペースで読んだり触ってみたりされるのが、とても贅沢な楽しみ方になるのではないかと思います。アクロバティックな技法はなく(ゼロではないですけど)、数理や技法の組み合わせもあれば、彼が当時絶妙な使い方をしていた、実にいやらしい「不整合」を駆使したものもあります。校正を兼ねて何度も何度も彼の手順をたどるたび、その賢さ、無理のなさ、ズルさを感じることができました。現象の面白さと、その実現手法のセンスが本当に心地よく、「うまくできてるなあ」と感心することしきりでした。自分史上、最もワークをかけた労作ですので、皆皆様にお読みいただければ幸甚です。……ホントに頑張ったんです……。
 
あとみんな大好き"Play it Straight"は、"The Bannon Triumph"って本人が改名したので、みんなでバノン・トライアンフって呼んであげてください。「あんなに流行って有名になると知ってたら、あの作品には最初から自分の名前をタイトルに冠しておくんだった、ぐぬぬ……!」って子供っぽいボヤキをされていたので(笑)。
 
追記(2018.1105):手元に4冊ほどあり、ほんの少しですがお安く頒布できます。直接お会いできる方は9千円、郵送の方は9200円で。ご興味ある方はコメントか、教授の物販にあるアドレス、TwitterのきょうじゅアカウントのDMなどにメッセージ頂ければと思います。
追記(2018.1110):おしまい。おまけでMega ’Waveで使えるパケット20枚くらいもつけておきました。さておきありがとうございました。
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とのことで。まあ、こうまで広まってしまった"Play it Straight"の改名は難しそうですけどねw 
 
 
 緑の蔵書票さんで、端的な、そしてしっかりとした書評があるので、ご参考に。
 
追記(2018.1113):ほんわかさんでべた褒めされていたので。ありがたいことです。訳者も浮かばれるでしょう(死んでない)。

 

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収録内容:Contents
Fractal Card Magic (2008) 
     The Royal Scam
     Duplicity
 
Six. Impossible. Things. (2009) 
     Counterpunch
     Four Faces North
     Watching the Detectives
     New Jax
     Full Circle
     Origami Poker Revisited
     Riverboat Poker
     The Einstein Overkill
 
Open and Notorious (2009) 
     Opening the Open Prediction
     Fifty One Fat Chances
     Que Será Será
     View to a ‘Skill
 
Mega ‘Wave (2010) 
     Mega ‘Wave
     Fractal Re-Call
     Short Attention Scam
     Mag-7
     Fractal Jacks
     Wicked! (Transposition)
 
Bullet Party (2011)
     Bullet Party
     Bullet Catcher
     Drop Target Aces
     Four Shadow Aces
     Flipside Assembly
     Big Fat Bluff Aces
     Box Jumper
     Fat City Revisited
     Poker Pairadox Redux
     Question Zero
     Elias Multiple Shift
     Crocodile False Cut
     Flytrap False Cut
 
Triabolical (with Liam Montier, 2011)
     B’rainiac
     Short Attention Spin
     Montinator 5.0
 
One Off 
     Aces Over Easy (2010)
     One of the Better Losers (2012)
 
All In (MAGIC Magazine,February 2012) 
     Chronic
     Buf ’d
     Origami Poker Revisited
     Ion Man
     Bannon at the Sidebar (Raj Madhok)
 
Shufflin’ (2012)
     Spin Doctor
     Power of Poker
     Bannon Triumph
     Fractal Recall (Remix)
     Origami Prediction