教授の戯言

手品のお話とかね。

Ryan Schlutz『Super Strong Super Simple』DVD

昔から好きなんですよね、ライアン・シュルツとシンプルで不思議なマジック。シュルツはめっちゃテクニックもうまいんですが、それをあまり表に出さず、クレバーなトリック作ったり他のDVDに提供したりしている人で。私には無理、という技法もまれに使うのですが、大半は「そもそもどうやって実現したのかさっぱり」という感じで、そこがお気に入りでもあります。DVDとか多分コンプしてます。ラブです。彼のリフル・ピークがマスターしたいです。パケット超曲げるんですけど私はパワーが足りないw

さておき。Ryan Schlutz『Super Strong Super Simple』DVD でございます。名盤です。シュルツ本人の作品も複数入っていますが、要するに古今の名作オンパレードDVDであり、そりゃ面白いに決まっています。ハズレなしの16作品5ムーブの3時間が襲ってきます。しゅごい。鮮やかな現象が多いわけではないのですが、現象見て「え、まじで?」となり、解説聞いて「あああああ、まじかあああ」ってなって大変楽しかったです。昨今の「マジシャンもビックリ、クイック&ビジュアル!」というのとは方向性が違うのですが、私のように"手品しない人に手品見せて楽しんでもらえるなら、別に簡単なのでいいです"という趣向の人にはバッチリの1枚です(※個人の感想です)。備忘を兼ねてちゃんと感想を書いておこうと思います。


添付の画像はメニュー画面ですが、01.02.03、06.07.08、10.11.12はそれぞれワンセットで演じるのが好きだ、とか3と11はかりたデックでできるよ、とかあるんですが、借りたデックで出来ないやつのほうが少ない気がします。

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01_"Forget to Remember" by Ryan Schlutz
観客に1枚のカードを一旦憶えてもらうが、難しくするためにそこからカードを変えてもらう。にも関わらずそれが予言されている。

のっけから不思議です。いや分かりますよ、解説を聞いたときに、「なんでそういう手続を踏ませたのかという部分は結構謎じゃない?」というのは。こまけえこたあいいんですよ。よく出来たトリックだと思います。



02_"Emotional Reaction" by Dai Vernon
観客が思ったカードを当てる。

ヴァーノンの名作ですね。オリジナルがどうだったか憶えていませんが、あの「観客のカードを特定・確認するシーンを、完全に見てなかったことにする」というのはいいですね。ボリス・ワイルドがよく使う手法ですが、フェイスを見ないといけないマジックのときにこれを挟むとディセプティブさが増す気がします。



03_"Borrowed OOTW" by Various
借りたデック、かつシャッフルされたあとのデックを使うアウト・オブ・ディス・ワールド。

デックの半分程度しか使わないので、私のようにOOTW長くてあんまり好きじゃないです、的な人にも安心。かつ赤黒分けておくとかそういう準備も不要。途中でちらっと見せたり修正したりするところが賢いなと思います。むしろいやらしいわ!w



04_"Pulse Detection" by Ryan Schlutz
観客が思ったカードを当てる。"Emotional Reaction"のバリエーション。

違いは、すぐに当てず、もう1ステップ入るところです。まずカードを特定したあと(例えばスペードの10)、4枚のカードを裏向きで出して1枚に指を置かせます。残りをめくっていくと7が3枚(ダイヤ・クラブ・ハート)。その流れから、当然観客がいま押さえているカードはまだ表になっていない残りスペードの7じゃないですか?という理屈でいきますが、実際にはスートはあっているがバリューが違います。カードをめくると、それだけフォー・オブ・ア・カインドに関係なく、観客のカードであるスペードの10になっています。こういうワンクッション、好きです。



05_"Prior Commitment" by Simon Aronson
2人の観客にそれぞれカードを憶えてもらう。デックに戻してスプレッドするとジョーカー2枚が表向きになっている。このジョーカーが教えてくれるんだ、と言って、その枚数分配っていくとそれぞれのカードが出てくる。しかもジョーカーの裏にはその数字が元々書いてある。

これあれだ、ジョー・デンにアロンソンのトリックだと言って教えてもらったやつです。こういうタイトルだったのか。とにかく不思議です。なんで当たるんだよ感が。観客が何枚でカットしようが関係なく当たる。いやあ、キモいです。



06_"Bath Towel Mentalism" by So Sato
観客2人に、テーブルの下で1枚のカードを交換してもらう。演者は1人目のカードを手をかざしただけで当て、2人目のカードは箱に入れてもらった状態で当てる。

ちょいと前、ご本人の演技見て「おおお、不思議だ!」とか思っていましたが、ここで取り上げられるとは。あらためて、現象の不思議さに構成の美しさ、舞台の設え(シナリオ設定)の妙にため息が出ますね。シュルツも言っていましたが、あの2人目に箱に入れさせるところ、本当に頭いいです。



07_"It Cuts Deep" by Ryan Schlutz
観客が自由にカットしたところのカードを3枚テーブルに出してもらうが、演者はそれを言い当てる。

タイトルからも行動からもバルドゥッチのカット・ディーパーを使ってそう、というところまでは予想がついたのですが、1枚はともかく、3枚当てるってどういうことだよ、という感じですが、なかなかに図々しい解決。これは以前別のDVDで見たときも、その図々しさというか巧妙さが実に好きでした。手品っぽい。



08_"All Expenses Paid" by Jim Krenz
カード・アクロス。観客が確かに数えたカードが見えない飛行をする。

ジム・クレンツの名作です。これのすごいところは、観客がすべてを行い、演者は一切手を触れないのにカードが飛行するところ。世の中には、赤パケットと青パケットを使うことでビジュアルを強調したいとか、不可能性を前面に出したいとか、こざわまさゆき言うところの「こじらせちゃったひとが考えるカード・アクロス」がゴマンとあるわけですが、それを否定するものでもないのですけど、このダイレクトかつ骨太な手順は見習ってほしいと思います。なにより、『私にもできる!』これ重要ですw
去年、Penguin Magic Live Lectureでクレンツの演技見まして、これがまたどれも不思議で。TPCベースでタマリッツひっかけるとか、"Bannon Triumph"(Pray it Straight)ベースでバノンをひっかけるとか、こいつはなんだ、相手の得意技で相手を倒すとか、漫画でよく見る強敵かよ、みたいな。



09_"Upside Down Deck" by Francis Carlyle
演者と観客が選んだ1枚ずつだけ向きが変わる、ツー・カーズ・トライアンフ。

手品をしない人は、1枚ずつほぼ交互に表裏になってなくても、パケットレベルで表、裏、表、くらいで十分ごちゃまぜになっていると思ってくれるだろうか。なんにせよスプレッドした瞬間がびっくりですわ。広げる直前に裏向きのカードが見えているのがいやらしいですねw



10_“The Absent Player” by Dani DaOrtiz
観客含めて徹底的に混ぜたデックで、観客に配らせた状態でポーカーを行うが、演者にロイヤルフラッシュが来る。

これほんとダオルティスのを見たときめっちゃ驚きましたねえ。こういう構造のものは最近だとジョセフ・バリーがくっそうまいんですが、ともあれ超不思議です。演者が最初に4枚交換したことって全然記憶に残らないんだろうなあ。



11_"Gemini Location" by Liam Montier
2人の観客が選んだカードを、1人目のはカードの表を見ながら言い当て、2人目は観客自身に読み上げながら配らせるがそれでも当たる。

ジェミニ・トリックの原理を使い、観客の声の震えの調子で当てるという演出が面白い。ジェミニ・トリックはそれこそ数多くの改案があるジャンルですが、うまい使い方だなと思います。




12_"Poker Players Picnic Redux" by Ed Oschmann and Tom Dobrowolski
ちょっとしたハイ/ロー・ゲーム(数字の大きいほうが勝ち)をしようと持ち掛ける。演者と観客で全力でシャッフルをしたデックを4人で分け、ランダム性を作るためにもうひと操作行う。まずボトム・カードを見て、その枚数分下に回す(絵札のように長くなりそうなものなら、そのまま回しても、スペルのぶん配っても構わない)。それからほかの3人に1枚ずつカードを渡す。これを全員が行い、最終的に一番上に来たカードをひっくり返すと…!

変な声出た。「え、でもこれ、何枚下に回すかわかんないじゃないですか……」と思っていたのですが、ちゃんとそういう目的でセットされてるのよね。くらっときましたね。あと私これ、最初解説聞いたとき、「最後の人に、数じゃなくてスペルでやられたら困るじゃん」とか思ったのですが、よくよく聞くと、現象説明で書いたように「絵札とか、配る枚数が多くなりそうなときは、そのまま数ぶん配らせるか、それともスペルの分だけ配るか選ばせられるよ」ってちゃんとシュルツは言っていました。見事だ。あ、冒頭のピクニックの綴りがPinicになっていますぞ(どうでもいい発見)。



13_"4 Sided Gemini" by John Bannon
最初に1枚のカードを誰にも見せないようにして観客のポケットにしまってもらう。観客に1枚ずつカードを配らせ、止めたところにジョーカーを挟む、というのを2人にやらせる。ジョーカーの示す場所のカードが黒のエース2枚、配らせたカードの数の和の分配るとダイヤのエースが出てきて、最初に入れておいてもらったカードを取り出してもらうとハートのエースである。

ば、バノン先生のきたー!『Destination Zero』(本)とか、『Move Zero Vol.1』(DVD)でも解説されていたアレです。「バノンファンなら常識ですよ」と訳の人が。どんだけ好きなんだよ。ジェミニ手順がここでも、という感じです。マッチングに使うのはよくありますが、これはフォー・エース・プロダクションになっています。いや、別にそれもよくあるかw バノン先生のこの図々しく「観客の操作を観客自身の手でなかったことにさせる」系の仕組み、好き。解説中にボブ・ロスの名前が出てきてちょっとニヤリとする。



14_"Shuffle-Bored" by Simon Aronson
演者は最初に予言のメッセージを観客の一人に送っておく。デックを取り出し、表裏ごちゃごちゃに何度も混ぜさせた後、その予言を読み上げてもらう。その表向きの枚数や赤黒の枚数などがすべて正しく予言されている。

もうね、名作ですね。知っててなお、途中途中で「あれ?いや、これ、今回はさすがにもう無理じゃないですかね」としか思えない状況で多段式予言が的中していきます。アロンソンのは大きな紙に上から予言を書いておいて、それを引き出しながら見せていく、という見せ方で(たぶん)、有名な改案としてはアリ・ボンゴの"折りたたんだ紙を開いていくと次なる予言が出てくる"というのがあります(私は最初それで知りました)。シュルツは観客のスマホにテキストメッセージとして送るというかたちにはしており、現代的な感じに仕立ててはいるものの(予言の効果を高めるため、改行はたくさん入れようね、みたいな)、根幹の仕組みは同じであり、やはり原案の力強さを思い知ります。あとシュルツはロゼッタ・シャッフル(レナート・グリーンがよく使っている、デックをふたつに分けて、ぐりぐりとねじって円状にしたものを左右から押し込んでシャッフルさせるアレ)を実にカジュアルに使いまして、それがまたいいのです。あれはぐちゃぐちゃ感を見せるのに本当に適した手法なのだなと再認識しました。



15_"Silent Tansmission" by Eddie Fields
観客がデックをシャッフルしてからカードを1枚選んで憶えて戻し、パケットを表向きと裏向き半分ずつでシャッフルをする。表向きのカードを読み上げさせるが演者は観客のカードが何かを言い当てる。この間、ずっと演者は電話向こうで指示を出しているだけである。

演技の冒頭から、観客の女性2人と、その間に通話状態になった電話が置いてあるだけ。観客たちは、シュルツの指示に従ってデックをシャッフルしたりパケットに分けたりカードを覚えたり混ぜたり読み上げたりしていくが、選んだカードが当たると。当たってしまうのです。もう電話越しっていうのを抜きにしても、最初に観客がデックをシャッフルした時点で、「これ演者も現場にいないし、どうやったって当たらないだろ、というか当てる手品ではないのか?」などと思い始めましたが、まあ当たりまして、変な声出ました。ビル・ムラタのワイキキ・カード・ロケーションという私の大好きなロケーションの仕組みがあり、要するにそれを使うのですが、これ電話越しにやるとここまで気持ち悪いトリックになるのかと震えました。なお解説聞くまでWCLであることに気付かなかった盆暗、それがわたくし。



16_"Six Covers Six" by Ryan Schlutz
観客がカードを1枚憶え、自分でシャッフルするが、その上で演者がカードを当てる。それも裏向きでな!

シュルツまじかしこい。だって裏向きで、観客の脈というか勘の力で当てるんですよ。キーカードの作り方が絶妙ですよね。たまりません。サンクン・キーとかやられるとまあ分かりませんね。




BONUS: Moves Toolbox
Pinky Break, Swing Cut, Box Switch, Controlling the Top Stock, Magician's Choice

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あと、気になった、というかこれはもう昔からなのですが、シュルツは英語がかなり早いのでそこは注意です。台詞の面白みをわかれよということまでは要求されませんし、解説部分を見て手順がたどれないことはないと思うのですが、まあガチネイティブのイングリッシュはめっちゃ早いな、ということだけ覚悟しておいたほうがいいです、と。日本のショップは手順概略とかつけて売ればいいのに。いや、スクリプト・マヌーヴァが字幕付きで出せばいいのです。なんでもっと早く出してくれなかったんですかヒゲ社長!

あとトラックの切り方がヘンというか。個々、「そのトリックに関してのシュルツのコメント」→「観客相手の演技」→「解説」 という構成で、それ自体は別にいいのですが、「この現象にはひとつだけギミックを使うんだ。ダブルバックカード。これを使うだけでこの奇跡が起こせるというわけでね」みたいな、若干のネタバレ的な要素を含むんですよ、この「冒頭のコメント部」w 最初「あれ、解説?解説は演技見たあとでいいのよ。演技から見たいのに。どこかな…?」ってなってた間抜けが東京に一人いたとかいないとか私とか。