教授の戯言

手品のお話とかね。

サンライズ・レクチャー

2月25日、サンライズ(サンタ&茘枝)のレクチャーに行ってまいりました。以前おふたりのショーは拝見しており、テイスト違うふたりがいい感じに補完しあっていていいなーと思っていたのですが、レクチャーになったらキャラ変わるのかな、と思いきやまるで変わりませんでしたw 今後もまた開催してほしいおふたりでした。

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レクチャーはふたつの部屋に分けて行われ、私はサンライズのカオスなほう、サンタさんから。のっけからホワイトボードに列挙されている謎の言葉群。「ED, ハンニバル, APCAAN, パッション, スネークライジング, デスノート, イン ザ ストマッチ, イングリッシュカード, フィッシング, タロットオブゴーリー, コビン, タートルトライアンフ, ドリンク, ドリーム, スーパーフライ, バタフライ, バースデー, 金の斧, 21, ジャポティ」


……なんだこれ。


この中から何か連想させたりするのでしょうか。こざわまさゆきを待ってあげている間に、いま考えているという"うんちギミックの使い方"について訥々と語り始めるサンタ氏。「こ、このひと演技だけじゃなく、普段もこのカオスな感じなのか……!」などと思っていると、例の人が遅参しレクチャー開始。サンタ氏はホワイトボードを見上げ、「どれやりましょうかね……」え、それぜんぶ作品タイトルなの!?
「なんか他のところでこの作品のレクチャーみたいなのをやると、一番インパクトがありすぎて、それ以外何も憶えてない、とか言われるんですよね。だからあんまやりたくないんですけど……でもやります」松田道弘だったか誰かも言っている。言い訳から手品を始めてはいけない、と。そんなトーンで始まる第1作目は"ED"。何かの略なのかな?



01.ED
運試しをしようということで2人ポーカーが始まる。演者は今日、一番運勢がいいらしい。観客は2番目に運がいいらしい。しかし観客のハンドがロイヤルフラッシュ。え、それ以上いいハンドってなんだ?と思いきや鳴り響く例のBGM!演者のカードをオープンすると……!

もうのっけからダメだwww 場内爆笑でありました。なにがYGOプリンシプルですかw 「YGOプリンシプルの1はラフ的な役割を果たす!」バーン!「プリンシプル2はシックカードの役割を果たす!」ババーン! なんだか、「続けてドロー!」とか聞こえてきそう。ご本人も年代によると仰ってましたが、私はギリOKですかね。アニメ見てたわけじゃないですが。そりゃあれ知ってる人がこれ見てあれ聞いたらそりゃ他のは頭に入ってきません。納得しました。揃えるべき道具にBGMがあるというカオティック手品w



02.ドリンク
カードを選ばせ箱に戻し、喉が渇いたのでと言ってデックケースにストローを挿して飲む。飲んだ結果デックは……。

これはショーでも拝見しました。好きな現象です。解説聞くと結構細かく考えられてて笑うんですが。いや、笑うところじゃないんですが、なんか、ねえw そんな真面目なサンタさん、サンタさんじゃないや、みたいな。でもまあ口からピップを出したりはするんですけどw



03.スネークライジング
観客にカードを選ばせ箱に戻して立てておく。演者はリコーダーを取り出し吹き始めるが……。

「笛は2 wayなんですよ」とか言い出して、なに言ってんだこのひと、とか思いましたが確かに2 wayでした。なるほど。ていうかレッドスネークカモン的な感じで笛吹いたら箱からにょきにょき出てくると思うじゃないですか。出てこないんですよね。ご本人は最初そうやって出したかったそうなのですが。作った経緯が「マジシャンが集まる飲み会で、いきなり笛を吹きだして音を出せば、周りの注目を集められそう」と、自分には思いもよらない話で。……シンバルとかどうですかね(迷惑)。

04.21
魂の重さは21gというダンカン・マクドゥガル博士の説の話から、デックから魂を抜いて確かめてみようという流れに。電子秤を取り出し、重さを確認した後、然るべき荘厳な音楽に乗せて魂を抜き取る儀式を行うサンタ氏。結果21g軽くなって真っ白になっているデック氏、怪しげな儀式で重さを戻すサンタ氏、元に戻るデック氏。

演出はもう怪しさ満点なのですが、やりたいことは意外と(?)詩的だし、使っている方法も技法とギャフがうまい。これ、安いやつじゃなくて、もう少ししっかりした秤を使うと演技がすんなり行く気がします。当方、箱内に精密電子秤を仕込み、取り上げられた枚数から重さを表示できるようにして、そこから何枚取り上げられたかが分かるギミックを作ったことがあります。



05.APCAAN
観客の自由に言ったポイントカードが、別の観客がサイコロの目によって指定した枚数目から出てくる。あと観客が言った好きなカードが演者の財布から出てくる。

まだ殺意の波動に目覚めていなかった頃のサンタ氏が、「お好きなカードを仰ってください」と言ったところ、酔客が「えへへ、クレジットカードかな」とかなんとか言ったのをスルーしながら思いついたそうですが、意外と(?)テーブル下のワークもまともな手品です。



06.ジャポティ
観客3人に紙片を選ばせたあと、紙袋を3つ出してきて、それぞれの観客に2択を迫る。よくあるジョークと思わせつつ、紙片の内容がすべてそれと一致している。

紀良京佑のチーズとセロテープのギャグを見て大変感動して作ったとのことで、あれ私も大好きなんですが、この作品本当に良かったです。お客さんと掛け合いしながら演じる手品が好きなのですが、これはホントしっくり来ました。道具を色々揃えないといけないのですが、ちょっとだけデチューンしてでもレパートリーに入れたいなと思わせる作品で。というか絶対演じてみたいと思います。サンタさんフルセット売らないかなw


07.デスノート
観客の選んだカードがデスノートに予言されている。デスノートの設定的に、簡単な内容であればカードが当たる状況についても予言されている。

色々解説聞いても面白かったのですが、ふと、「……"デス"要素は?」


08.金の斧
唐突に始まる絵本を持っての読み聞かせ。観客が自由に選んだカードをポケットにしまい、残ったデックを泉に落とすが、そこに現れた怪しいメガネの男が金のデックと銀のデックを出してくる。「あなたが落としたのはこの金のデックですか?」「違います」「ではこの銀のデックですか?」「それも違います」「それではこのクソ汚いデックですか」「はい」「正直者のあなたにはこの金と銀のデックも差し上げましょう」と言って、それぞれ箱から出してスプレッドすると、金のデックにも銀のデックにも最初にポケットに入れたカードだけがない。

手法は見ていれば分かるのですが、ここで使われているスイッチが、変に理屈が通っていて楽しかったです。踏みスイッチってなんかスイッチペダルっぽいですよね。


09.ドリーム
BGMに乗せて演者と観客が無言で同じ動作をするが、その間一致現象が2回起こる。

これショーで見たときも、レクチャーで見たときも不思議で。これも何も知らない観客を舞台に上げるが、サクラにするでもなく不思議を起こすという、自分的に理想の手品で。曲の盛り上がりに合わせて一致現象を起こさないといけないらしいので、練習はかなり必要ですし、セットもかなり手間っぽかったのですが、これはもう一度きちんと内容を聞きたいです。最後のほうで駆け足で私もメモを取りきれなかったのですが、ショーを作る、ということを考えたときに、きわめて適した作品だと思いました。

どれも面白かったですが、ジャポティとこのドリームは私の好みに特にガッチリフィットです。あと手品作り始めて1年半程度、と聞いて驚愕しました。

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続いてサンライズのチンピラっぽいほう、茘枝さん。静岡のKISSERさんとのツーショットとか、もう犯罪臭しかしません。でも茘枝さんは腰低いし(背は高いけど)、手品もすごく真面目で王道なんですよね。今回はトリックの数は少ないものの、サイコロジカルな方法の説明等をかなりじっくりと解説するかたちでした。



01.T2っぽいぽい
エニエニ現象。

02.CALL
アダルトトランプ予言。

03.思ったカード
観客が思ったカードが予言されている。

04.チャレンジャーズライブ演技(All Back)


01-03を題材に、合間に"SHINGOU"もやられていました。

まずT2っぽいぽいやつですが、これの原案を作ったやつを知っています。わ、わたしだ。悪ふざけ同人誌『ASIS』に載ってるよ!(やけくそダイレクトマーケティング
茘枝さんがこれの改案を作られた、というお話は伺っていて、先日のショーを含めて4回目見て、ようやく手法の一端を垣間見たかな?と思ったのですが、そのまま解説に入られてしまいましたw 謎の敗北感。

その改案のもとにしたのは茘枝さんの"思ったカード"という、観客が思ったカードが最初から持たせていた封筒の中に予言されている、というもので、これはこれで一瞬ギャグかと思わせておいて実は、といういい作品なのです。アウトによって、現象のインパクトには差が出るべきか、それとも差が出ないのがいいのか、というお話があります。私はどちらかというとビビリなので、大体同じにしたいと思うのですが、茘枝さんのご説明を聞くと、まずばらつきがあって良くて、そのばらつきの中の一番すごいインパクトのやつを、一番選ばれやすいものにしておく、というのは確かに理にかなってるなと思いました。

説明のために2017年のマジケでも扱っていた"SHINGOU"という赤青黄が予言されているポケットトリックを使われていたのですが、正直侮っておりました。茘枝さんに魅せられると不思議でした。理屈からすればランダムでも3分の1で当たるのに。01と03はどちらもうまい具合に現象を達成しつつ、舞台に上がった観客と、客席の観客が見ていること、聞いていることの意味合いが違う、いわゆるデュアルリアリティの理屈をうまいこと体現していると思いました。こざわさんが「よく練られたデュアルリアリティのスクリプトって、裏から見ると、ダブルミーニングを効かせた叙述トリックや、アンジャッシュの勘違いコントのようです」と仰っていて、確かにと思ったりしました。"思ったカード"は、現象としては上記、観客が思ったカードが予言されている、というものなのですが、その仕組や台詞に至るまで、めちゃめちゃ細かく解説されているノートが売られており、説明はひととおり聞いたのですが買ってきました(聞く前に)。



CALLは単品でも売っていて、「可愛い子フォース」というのを使うのですが、あの澤浩をも幻惑した代物です。説明を求められ、聞いた澤さんに「これは新たなスタンダードになりますね」と言わしめたあれです。昨年ノート買って読んだときに思ったのですが、この原理は確かに示唆に富んでいるのです。意地悪な気持ちなしに、ぱっとみて、というときに、8割9割の人が好ましいと思う、選んでしまうものって意図的に色々作れる気がするのですね。本作はアダルトトランプで行っていますが、それこそ色だとか、景色だとか、表情だとか、そういうのも使えると思うのです。学問としては認知科学の領域な気がしますが、身の回りの実践としてはコマーシャルやマーケティングの手法によく使われているのではないかと思うんですよね、こういうの。好ましい配色や不快に思う配列、しっくり来る流れ、そういうのってもっと深掘りできるトピックなのだなあと思っておりました。本作は本作で、久々に実演見ましたけど、これ本当に選ばされている感がないというか、当たったときの不思議さときたらないです。きっかけが深夜のテンションで「エロトランプでマジック作ろうぜwww」からとは信じがたいですが、結構真面目に、人にものを選ばせる/選ばせないことについては研究の余地があるのは間違いないところだと思います。無論その性質上100%は難しいので、アウトはいくつか必要になるとは思いますが、本作のように構成されると思考を読まれたとしか思えない、いい意味でキモイ、いかにもメンタル、って感じの現象になること請け合いです。


チャレンジャーズライブのオールバックはビジュアルさもあり、かつ舞台に上げた観客には分かるがそうでない人には分からない即席の「通し」があったりと、演技も面白いんですが、裏側の工夫も良かったです。ここでも使われていましたが、昔ダブルデッカーなどがメジャーではなかった頃(そもそもなかった?)、涼宮ハルヒのパケット・トリックを行うために芯地を抜いたカードを作っていた阿呆を思い出しました。わ、私だあ!

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そういえばサンライズのおふたりは、本当に野島伸幸さんがお好きなようで、個々にお話伺っても、どちらも本当に野島さんを尊敬・感謝してらっしゃることが伺えて、野島さん人徳すごいなーと思いました。まったく同じ日、同じ時間に、件の野島さんご本人のレクチャーが行われている、という事実がなければ!野島さんもサンライズレクチャーに参加できてれば!もっと美談になったのになあw 野島さんが「今度サンタと茘枝ちょっと処すか」とか言ってるあたりもよかったです。血で血を洗う師弟関係ですね。わくわく。