教授の戯言

手品のお話とかね。

シェーン・コバルト・レクチャー

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「あいつが来たんだよ!」「え?だれレスカ?」「じゃなくてっ!」「ミルク?」「じゃなくてっ!」「ダ・サイダー!?」「じゃなくてっ!」「コバルトだあぁぁぁぁぁ!!」 ということであのシェーン・コバルト(Shane Cobalt)が緊急来日!6/2のレクチャー&ワークショップに参加してまいりました。……って誰?いや、はい、私も存じ上げませんでした。でもあの堀木智也さんが熱く語りつつお呼びになったのだったら、それはもう間違いはなかろうと。そういうよく分からないものに3万円以上をホイホイ払うあたり、おとなになってよかったなと思ったりしました。いや、むしろチョロくなったのか……?


カナダはトロントを拠点に活躍されているマジシャンだそうで、ヒゲにロン毛ですが33歳と。アードネスやヴァーノンの研究で有名というか、例の『Expert at the Card Table』の研究家でもあり、かつそこに載っているものを全部できるという変態凄いひとです。 端的に言ってめちゃめちゃうまい。いくつも、目を凝らしているのに全くわからない、というものもありました。セカンドディールとか、あのゆっくりさでやられても分からないものなのかと震える次第。私の好きな、ゲラゲラ笑って不思議で楽しくてしょうがない、という類ではなく、「あ、この人ガチでクラシックの技を研ぎ澄ませてきたマンだ……!」という感じでした。多分、若くて、技法とかテクニック好きな人にはズドンとくる気がします。


物販というかノートは4つ。
①『Chasing Dovetails』(ジョージ・松尾訳、堀木智也編集。トリック5種、B5カラーコピー誌、約33ページ)
②『CTRL』(ジョージ・松尾訳、堀木智也編集。カードコントロール4種、B5カラーコピー誌、約24ページ)
③『50 Faces North』(Shane Cobalt、作品単品、A4変型(多分あっちの判型)オフセット中綴じカラー、約11ページ)
④『The Visible Deck』(同上、約9ページ)
そのうちマジオンとかで販売されるのでしょうか。あとはビンテージ・デックなどを販売しておりました。

あとA Trick for Chuckという、チャールズ・ジョーダンのトリックのバリエーション的なノートを持ってきていたそうなのですが、部数が少なくて物販には乗らなかった模様。コバルトは、基本的に会ったことない人にはノート売らない、ほしければ来るかレクチャーに呼ぶかしてください、みたいな考えの人だそうで(であるがゆえに堀木さんは「じゃあ呼ぶわ」になったのですが)、ホイホイ買えないのですよね。インコンビニエントな感じもしますが、しかし手品の秘密というのはこういう風に出口や価格などで制限すべきものな気もします。気骨がある感じ。

 

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レクチャーは以下のような感じで。( )内の数字は上の掲載ノート。

01. The Silly Little Rubber Band Trick(①)
輪ゴムトリック。不思議さよりも掴みという感じ。見た目の正しさと感じる正しさの違いについて。「観客の知性に挑戦するようなことはしない」になるほどー、と思いつつ、いや、ギャンブリングデモってまんまそういうものではないだろうか、と思ったりなんかしないよ絶対。

02. The Cream Control(②)
カードのトップ・コントロール。一瞬ルージング・コントロールみたいなのかなと思ったがちょっと違いました。いい具合に正々堂々真ん中に差し込んだ感がある。ネタバレだけど本当は違うんだ。

03. 名称不明
カードをサイドスティール的にパームするときの出だしの部分。言われてみればこの最小の前後の動きだけでカードを出させることができるのだなと目からうろこ。できる、私にもできる!

04. The Helium Control(②)
カードのコントロール……というか厳密にはチェンジな気がする。イロジカル・ドリブル・フォースみたいな手法かと思いきや、そういったかたちでやりたくなかったので、とのこと。観客の目の前で、いま見せたカードをもう片方のドリブルに投げ入れるが、最終的にはトップに来ている技法。大変ディセプティブ。問題はちょっとプッシュ部分がきれいにできないんだよねえ。「コツはね、観客の目にレーザービームを打ち込むんだ!」(コバルト・談)

05. Dingle’s Riffle Shuffle Control(②)
リフル・シャッフルベースのコントロール。ディングルの手法だそうです。厳密には違うのか、はたまた単にダローが間違っていただけかは知りませんが、これ『Encyclopedia of Card Sleights』の早い巻で見た気がします。ステランコとかなんかそのへんの、結構クラシックな手法だと思っていたのですが。それこそマジシャンよりも前にギャンブラーが使ってそうな。ディングルほど新しくはない気がしますが、何か私の知っているアレとはやり方や概念が違うのかもです。

06. Raised!(①)
表向きにしたデックを両手で覆うたび、フェイスにエースが出てくる。ジェニングスのあれっぽい!と思いましたが、移動しないのでもっとシンプルな凄みがある感じでした。「その動作でこの現象となれば、こういうセット・こういう手法しかありえない」と思った通りではありましたが、最初の2回は目の前で何が起きているのか一瞬わからないくらい不思議でした。サンドイッチマン風に言うなら「ちょっと何起きてるのか分かんないですね」「分かるだろうよ!変わってんだよ!」みたいな。

07. LePaul’s Aces(①)
伏せておいたエースにデックを重ねるたび、デックのトップにエースが上がってくる。元のルポールの方法だと全く同じ動作で同じように上がってくるのですが、さすがに現代だともう一声ほしいなというところです(※個人の感想です)。コバルトの方法は現象としては同じですが、2枚目以降、ちょっと真ん中あたりに入れたりなど、変化を持たせています。

08. Sleeving for Dummies(①)
コインのスリービングについて。「世の中のコイン技法、特にスリービングは難しすぎるし、解説も失敗させたいのかと思いたくなる書きっぷりです。私のは確実安全」ときて、「ほわああ、シェーンニキ最高や」とさせといて、何度か袖からこぼすので吹くw オイイイイイ!と阪口大助ボイスで突っ込むところでした。きちんとうまくいくことがほとんどで、それは確かに綺麗に両手がカラになってよかったです。「世の中のコインマジックの、リテンションバニッシュはどう考えてもおかしい位置で握ったりするよね」との切り出しからのコバルトのバニッシュは力みがない感じでよかったです。というかコインを持って反対の手に渡す、ということから考えたら、そんな行為はぞんざいであってしかるべきだという気はする。ほら見てほら見て、握るよ―?みたいな流れはまた別の意図、見せたいポイントがあるのでしょうが、そこはコインをほぼやらない私からしても変だと思うのですよねえ(※個人の感想です)。転がしながら引き込むやつと、ダウンズ的なポジションから指を開くだけ、というのは私も手遊びでやる方法に似ていたので、やったぜ、とか思いました。私は人には見せませんけど。

09. Coins Through The Table(①)
コインスルーザテーブル。1枚、1枚、2枚の流れなので、最後は意外かつ早いクライマックスでした。このくらいのがいいです。なおコバルトさんはCTTTにありがちな、机にカツカツパタンやるのお嫌いらしい。ごめん私は好き(※個人の好みです)。いや「実際そんな音する?しないよね?ていうか物体を通り抜けるときになんで音がするの?」ってのはそれはそうなんだけどw それ言ったら手品のたいていの動作は怪しいのだぜ。

10. The Visible Deck(④)
カードを1枚選ぶが、そのカードだけが表向きになる。続いて別のカードを憶えるが、それは最初から予言として置いてあった紙に書かれている。
こういうの、こういうギミック好きなの。すまない、ネタバレだがこれはギミックを使う。これに類するギミックは好きで一時期よく使っていましたが、あの側をあのカードにするとこういうことができるのかと大変わくわく。「ここでこのカードをひっくり返すと、手品やってる人は驚くんだよ」驚いたわ―、それがし、めっちゃ驚いたわ―。活用や工夫のしがいがあるギミックなのですが、このコバルトの使い方がシンプルで良い気がします。

11. 50 Faces North(③)
最初から予言しておいたやつが、観客が止めたところのカードになってるやーつ。私、違いをよく分かっていなかったのですが、例の条件(※)を満たすのが"51 Faces North"で、似たような現象なんだけどそれを満たしてはいないものを"Open Predition"っていうんですね。堀木さんが「ほぼ満たしてる」って言うのでまじかよと思いましたが、これは別に全然そんなことなくて(借りたデックでやる、なんか近しいものもあるらしいのですが、それは見せてもらってないので知りません)、タイトルからしてもガチで満たそうとはしていない感じですね。そもそも自分のデックだし(というか下の条件を見ていくとほぼ守ってないw)。いや、借りたものでもできるんですが。私は正直そういう縛りプレイに全く興味が無いので、このオープンプレディクションくらいで充分です。クレティアンのリボンスプレッドハイドアウト使うやつが好きなのですが、これはぱっと見、そういった熱すら残らないので演じやすいように思います。裏側にしたやつをそのまま正々堂々と見せる、というわけではなく、やはり知ってる側からするとナンデ?っていう動作は入るのですが(揃えて広げさせる、というフェイズは冷静に見れば不要)、それを知らずに見ていれば公明正大さを演出する一環として受け入れてもらえそうです。

※51 Faces North

1 .借りたデックでできる。
2 .デックは普通のもので、さらにカードが抜けていても構わない。どんなカードが何枚抜けているかについて演者は知らずともよい。確かに知っているのは、予言対象のカードが含まれているということだけ。
3 .セットアップなどのための秘密の時間は必要としない。
4 .いっときたりとも、デックは観客の視界の外には行かない。
5 .デックからカードを抜き取ったり加えたりしない。
6 .予言を書く道具はすべて借りたものでもできる。
7 .予言を書く際に、それが予言であると明言する。予言するものはカードの名前である。これは最初のカードが配られるよりも前に明かされる。
8 .厳密に即席である。カードをセットするためにひとりになる時間や、特別な道具は不要である。
9 .別の解釈や別の現象はない。
10 .借りた物以外は使わない。
11 .観客が配り始めたとき、演者は予言したカードがどこにあるのかを知らない。この手法ではそれは問題にならない。デックの中で予言以外のどのカードがどの位置にあるかも知らない。
12 .演者は観客がどこでカードを裏向きで配るのかを、観客が実際にそうするまで決して知ることはない。
13 .観客はトップから順にカードを配っていく。変化があるのは1枚裏向きに配るときだけである。
14 .まぐれ当たりのトリックではない。観客が演者の説明通りに行えば、失敗はない。
15 .最初から最後まで、カードは演者によって操作されない。トリックの前も間も後も。
16 .裏向きに配られたカードが予言されたカードであることは、観客が確かめる。
17 .この手法は誰かによって違法な目的に使われ得る。
18 .これはカードではあまり知られた手法ではない。カード以外でも使うことができる。

(『ジョン・バノンのカードトリック』(東京堂出版, 2018)より抜粋)


冒頭に受けたリクエストを片付けていくコーナー:
オープンシフト:凄い、音がしない。これやる人シパシパ音を立ててて、そんな音してたらギャンブルはおろか、手品でもダメでしょうと思っていたのですが、本物は音はしなかった。

グリンプス:バブルピークとヒールピークをお使いの模様。

バートラムのテーブルドデックのトップパーム:うまい(注:だいたいうまい)。

ティーブンスカル:リフルシャッフルしながら見えたやつをコントロールしていくやつ。これはちょっと微妙。リフルは4回以上やったら長すぎるが(※個人の感想です)、それまでにキャッチできない運ゲーとなると多分いかにうまくてもダメな気がする。

マッキング(サーキュラーチェンジ):うまい。チェンジしたカードが、チェンジする前のカードと位置が同じと言うかほぼずれていない。ただこれはしょうがないのかもだけど、チェンジは鮮やか極まりないんだけど、右手の小指と薬指のあいだからカードは見えるので、ギャンブルテク(注:私の脳内にある、漫画的ギャンブラーの世界)としては使えないのではなかろうか。

カラーチェンジ:テンカイバートラムチェンジ、レボリューショナリーチェンジ、プリンティングカード、ルポールチェンジ(これめっちゃ良かった)、アードネスチェンジ(これも良かった)、アンドラスのチェンジ、メンドーサのチェンジ等。うまい。

表向きでやるカッティングジエーセス:恐ろしい力技を見たw

コレクターズ:「ゴメンなボクはCollectorsあんま興味ないねん。でもジャレッド・コプフのやつおすすめやで」ほほう。箱根のノート、Jared Kopf『Nothing But the Family Deck』にあった"Far-Flung Collectors"かしら。

ホフツィンザーエーセス:なんか特殊なことしていたかメモになかった。あれ。

カボーティングエーセス:おいパスするだけかよ。(※個人の感想です)

デックスイッチ:「袖使ったり、チャーリー・ミラーのテーブル・シフトもおすすめやで」ほほう。

ザローシャッフル:おいなんだこのザローは。不思議すぎというか、…あれ?ほんとに?みたいな感じでした。3回くらいやったあと、野島伸幸さんが「で、ザローはいつ始まるの?」とか仰って吹いた。しかし本当に混ぜた感じがする。いや、本来そういうものなんだけど、これは目を凝らしてみても全く分からなかったです。これだけの詳細解説出してほしい。

プッシュスルー:さりげなくそんなうまいプッシュスルーをされましてもw これはなに、アードネス本を読み返して頑張ればそういうのできるようになるの?めっちゃ不思議なんですけど。ていうか細かくかませると抜きにくいし、粗くかませると抜きやすいけど不格好じゃないですか。コバルトのこれ、ほぼオルタネートにかんでそうな気がするんですが、どうなってるのかしらね。

 

そうそう、参加したの、ワークショップ併設コースでしてね。ここまでで3時間半くらいなんですけど、ここからまた4時間半続くんですね!w

 

 

ワークショップ
セカンドディール:クソうまい。何だこれ。ゆっくりなほど不思議さが増す。マジシャン諸君にはセカンドメソッドがいいぞって。プッシュオフがまあ自然というか、あほみたいな速さから、冗談みたいなゆっくりさまでスキがなかった。

ボトムディール:初めて見る持ち方でデックが保持できません。でもなんか堀木さんはマスターしたらしいので今度教えてもらおう。

オーバーハンドシャッフル:微妙にみんなの認識しているオーバーハンドシャッフルと指とかの位置が違う。私は私でちょっと変則的な持ち方しているのでますます困る。ただ、コバルトは発展技法が凄いのはもとより、そこに繋がるベースとなる基本技法に一家言ある感じで、そこが良かった。ニーズが有るかはともかく、そこから発展させることを念頭に置いた、オーバーハンドシャッフルだけ2時間、とかリフルシャッフルだけ2時間、みたいなDVDとかノートとか出してほしいなと思った。というか呼べば毎年来るよ!って仰ってたらしいので、毎年パーツパーツをノートで出させて、10年後くらいにはアノーテッドエキスパートアットザテーブル的な、コバルトの注釈付きのアードネス本とかスーパー技法解説書とか作ればいいんですよ。ていうか作ってください堀木さん。

パーム:DPSがとても綺麗。あと(私にとっての)問題は複数枚のパームなんですが、なんかなれてないせいもあるんですが、結構謎の動きをする。……謎というのは嘘だな。右手が突っ張ったりするのが普通なんですが、彼のやり方はそのへんの動力を右手に求めないので、右手が全く緊張しないように見える、という感じの。謎ではないな。理由がある。いやーしかし、指がつります。

 

 

まあなんかそんなこんなで結局8時間以上やってましたね。13時開始で、終ったの21時45分とかですからね。それも終わったというか、会場的にそろそろ解散させないといけない、ってことだったので。時間で考えれば1時間4千円程度であり、普通の価格帯でした(すでに金銭感覚がおかしい)。

 各所から「すみません……!」という呻きが漏れるw そして「耳が痛いなあ」というコメントにかぶせるように、Yoshida氏が「耳が……耳がちぎれるよ……っ!」とか言ってて笑ってしまった。スミマセンw Improvementなので、素直に言うなら改案というか改善、なのですが。世の改善マンは震えて眠れ、感がある。

 

最初にも書きましたけどね、めっちゃうまいですね。逆かもですが、本もめっちゃ読んでて詳しい。ときに、「いまどきアードネスとか、カードチーティングとか古くねwww」とか言われたりすることもあるそうなのですが、「人間の手の数は変わったか?指の数は?目の数は?そこは変わっちゃいない、ということは不思議さはそのままなんだ」みたいなことを仰っててかっけえなあと思いました。

ちょっと残念だったのは、私スツールに座ってたので少し目線が高かったのですね。なのでチェンジ系の技法は全部うしろというか横の軌道が見えてしまって。なので、本当は1列目、コバルトも通常想定している低い目の位置の正面から見たかったなと。多分コバルトの凄さの半分も体験してないのではないかという気がします。それでもなおテーブル技法含め凄いんですがw

あと英語。せっかくプロ通訳のジョージ松尾さんをお呼びしていて、序盤端的で流石の訳だなーとか思って聞いていたのですが、コバルトがまあノッてくるとすごい勢いで喋るんですよね。そうすると結構私なんかは理解が怪しくなるのですが、逆にそのあたりはほとんど通訳が入っていなかったので、そこは嫌がらせレベルでコバルトの発言にボイスオーバー気味に重ねていただきたかった。他の会場だと通訳は絶賛だったのですが、なぜこちらでは……と書きながら分かりました。あれだ、レクチャーは3時間だからまあ訳していられるけど、ワークショップ入れるとこっちは8時間だからか。長すぎたのかw まあ疲れもしますわw 基本、英語については分からなかったら自分の不勉強と反省するのですが、周りでいかにもな感じで相槌打っていた方たちに「本当か!キミは本当にコバルトが何言ってたかちゃんと理解できていたのか!正直に言え!」と聞いたら、「…す、すみません!ワークショップでコバルトニキがノッてきたあたりは、なに言ってるかついていけてなかったです……」とゲロったので、通訳は私(たち)のような英語弱者向けにもっと甘くお願いしますw

 

最後に、レクチャーに参加してない人たちにも、コバルトが言っていた"手品うまくなる方法"をこっそりリークしますね。

 

日本に来てから1日1回、時には2回食べることもあるらしいです。あんだけうまいやつがいうコツなのでおそらく間違いないはずです。みなさんも是非試していただきたい。堀木さんとかCOMPに慣れてらっしゃるから、これを守るとおそらく手品うまくなる前にお腹壊すね間違いなく。