2022年1月にスクリプト・マヌーヴァさん主催のピット・ハートリングのオンラインレクチャーがあり、そこでまたハァハァしておりましたが、質問コーナーでどなたかが「メモライズド・デックのマジックを始めるのによい参考資料はありませんか」ということを聞いてらっしゃいました。その中でピットの回答の一つとして『Memories are Made of This』が挙がっていました。これは、アロンソン・スタックでもたいへん有名なアメリカのマジシャン、サイモン・アロンソン(2020没)が、「メモライズド・デックのマジックをはじめたいけど取っ掛かりがよく分からない」「52個憶えなきゃいけないとか正気か?」「なんか代わりはないの?」みたいな悩める子羊を優しく導くコラム的なもので、ご本人のサイトや、Vanishing Inc.で無償で頒布されている英語の資料です。アロンソンによる冊子であること、また彼自身がそういったマジックや著作を数多く作っていることから、アロンソン・スタック限定の話が書かれていると思いきや、メモライズド・デックのマジック全般について、きわめて一般化した内容となっています。
理由はいまもって謎ですが、アロンソン亡きあと著作の権利を管理されている奥様に、ふとしたきっかけで日本語版作成について相談したところすぐにご快諾いただけまして、で、まあ諸々の現実逃避がてら、稲作(サクナヒメ)とお仕事(生活費を稼ぐアレ)の合間を縫って訳してみました。
初版が1999で、第2版が2002、それにボーナストリックを加えたものが2009年に改訂され、今回はその最新のものを底本にしています。また参考資料には主に彼の本である4冊が挙げられていますが、出した年がそのあたりのため、彼の最後の本となった『Art Deco』(2014)については含まれていません。ちなみに有志で18ヶ月ほどやっていたアロンソン勉強会では、なぜか私はみんながやりたがらないであろうメモライズド・デック関連のものばかり訳しており、結果、今回参考等で出てくる項目やコラムなどはほぼ全部読んでおりまして、偶然というのもあるものだな、と思いました。
私もいまでこそ特に意味もなくアロンソン・スタックもタマリッツ・スタックも憶えておりますが(※憶えているだけではありますが)、52個の関係性の暗記ってあまり絶望的でもないです、ということはお伝えしておきます。この伝統的で奥深いカテゴリに対し、何からとっかかればいいのかと悩み、悩んだだけで結局何も手を付けないで放置、となりがちな、つまり、かつての私のような人たちに向けて、メモライズド・デックを使うとどういうことができるのかをご案内し、ちょっと練習してみようかなと思う人が出てくれるようにこれを書いてくださったアロンソン先生に敬意を示しつつ、今回の日本語版頒布といたします。
すべての練習がほぼ脳内で完結できるのがメモライズド・スタックのいいところで、日々のルーティーンワークの最中や、何かの待ち時間などを活用して修行できる、面白いスキルだと思います。この日本語訳版がみなさんのご興味や、取っ掛かりへの一助になれば幸いです。
◆Simon Aronson『Memories are Made of This』日本語訳版
【2022.0315追記:微修正したv.1.2に差し替えました】
【2022.0310追記:微修正と、巻末に日本語参考資料紹介を追加したv.1.1に差し替えました】
■内容
はじめに 3
I. 始めるにあたり 6
どのスタック、どの並びを憶えるべきでしょうか? 11
他に必要なものはありますか? 14
暗記の代わりになるものはありますか? 16
II. メモライズド・デック実践:基本原理 18
1. 秘密のグループ 19
2. カウンティング 21
3. 端点 23
4. 数理的原理 26
5. オープン・インデックス 29
III. スタックを憶えるにはどうしたらいいですか? 32
むすびに 38
補足 40
補足A:メモライズド・デック関連文献 41
補足B:アロンソン・スタック 44
2009 Bonus “Shuffle Tracking” 46
日本語版参考資料紹介 55
-----------------
Harapan Ongの『To your Credit』を訳され、先日から無償配布を行っている、『Card College Vol. 5』の翻訳者である星野泰佑さんを、わたくしは日本手品界の聖人と崇めているのですが、私も列聖までは無理でも、未来の尊者ノミネート候補代行代理、くらいになれるよう徳を積みたいと思いまして、今回の行いとなりました。俗っぽさ丸出しでありダメっぽいです。ぐぬぬ。