教授の戯言

手品のお話とかね。

Vincent Hedan『Multitude』日本語版

フランスのヴィンセント・エドンというマジシャンがおりまして(綴り的にヘダンかと思っていたのですが、フランスは語頭のHを読まない上に、この人の名前は音がちょっと特殊で、ア音よりもオ音に近いので、そのように表記しています)、その『Multitude』という作品集の日本語版を作りました。A5サイズ、172ページ。

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彼は2008年にフランスのメンタリズムの大会で優勝、2011年にFFFFのメンバーになり、2012年にはカナダ・マジック・チャンピオンシップで功労賞を受賞して、同時にFISMのフランス代表メンバーに選出されたりしている、メンタル界での俊英です。また、フランスではマジック本の翻訳者としても有名で、バナチェク、ジョン・バノン、ユージン・バーガー、ベン・アール、ロベルト・ジョビー、アンディ・グラッドウィン、ルーク・ジャーメイ、クリス・ケナー、マックス・メイヴェン、デビッド・リーガル、マイケル・ウェバー等、30以上の著作をフランス語に翻訳している、アニメファン。……ちょっとキャラがかぶるじゃないですか。

 

私は当初全く存じ上げない方だったのですけれど、憶えなくてもいいメモライズド・スタックのマジック書籍『Amnesia』への興味からそれを買い、さらにPenguinmagicのライブレクチャーを見て、そこで引っかかったカード・マジックが結構あって、それがだいたい解説されているのがこの本『Multitude』の原書、みたいな流れでした。ペンギンライブで演じられていた他のカード以外の作品もかなり不思議で、かつやってみたいと思えるようなものが多く、いいセンスのマジシャンだなあと思いながら見ていただけだったのですが、まさか訳すことになるとは。8割くらい実話の『訳に至る経緯』が訳者あとがきに載っています。

 

本書でメインとなるのはマルチイフェクト・デックという、100年以上前からある仕組みのデックです。それを彼が、自身の手順を作るためにモダナイズ、磨いてきた作品が解説されています。なお、ホァン・タマリッツ、ピット・ハートリング、マイケル・ウェバーらの著名マジシャンたちも、この原理を使ったマジックを研究していることは賢明なる読者諸兄諸姉はご存知であろう(本書で初めて知ったことを、さも既知のことであるかのように語るスタイル)。従来ならスタックや専用のギャフ・カードが必要になるようなトリックが、シャッフルをしてなお成立するようになり、しかもお手軽簡単になる、というのがこのデックの面白いところです。

 

本書の構成として、冒頭にそのデックの来歴、ヴィンセント版の構成、扱い方などがまとめて解説され、その後で9手順(これはひとつなぎの財宝……じゃなかった、ルーティーンとして繋げて演じることもできますし、適当に省いて好きなのだけチョイスすることも可能)、それ以外7手順を解説、となっています。

 

おまけその1:

本書には「映像集」として、この本のためにヴィンセントが撮影したトリックの実演と解説の映像が付きます(全部英語ですが)。なので、実際はどんなふうな感じで演じているのか知りたくなっても安心です。解説自体は本書のほうが絶対詳しいといいますか、日本語なので分かりやすいですけど。

 

おまけその2:

本書の「参考情報集」には、マルチイフェクト・デック作成に使える道具の参考リンクが付いております。そのついでに、日本ですぐ手に入る物だと何がいいかも訳注で記載しています。

 

おまけその3:

ほんとうの意味でのおまけはこれだけなのですが、Straight Playing Cardsのデックにちょいとした触知加工(ギャンブルで使われていた、いわゆるパンチ・カードです)を施したものを、こちらでお買い上げいただいた方には早い者勝ちでお付けいたします。当初はそれに加えてショート加工と仕上げまでして付けようと思っていたのですが、これを何十個もやるのはつらいということに2個目で気づいてしまったので、これはもう特殊な道具も不要ですのでご自分でお願いします。すまぬ、すまぬ……。おまけその2で、カド加工用の文房具の例示もしておりますので慣れれば15分くらいでできると思うので頑張ってください。

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なお、SPCとかNOC、インポッシブルみたいなのっぺりしたデザインのものだとどうしてもあれですが、バイシクルとかフェニックスとかで同じパンチ加工をすると全く見えません。変態テクニックもいいのですが、こういう昔ながらの一工夫が好きなんですよね。
ちなみに本文にも書いてありますが、ヴィンセント本人はバイシクルでマルチイフェクト・デックを作っている上にそのパンチ加工を施し、さらにBWMDにもしているので、よくばりセット感があります笑

 

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収録内容

はじめに

THE MULTIEFFECT DECK

DECK DESCRIPTION

HANDLING THE DECK
 テーブル上でのカット
 観客によるカット
 手の中でのカット
 テーブル上でのリフル・シャッフル
 手の中でのリフル・シャッフル
 ホァン・タマリッツのサトルティ
 観客によるシャッフル
 オーバーハンド・シャッフル
 エラー修正

 

THE ROUTINE

OVERTURE

  • SIMPLE CARD
    デックをシャッフルし、言われた個数分の山に分け、言われた順序でまとめ直すが即座に見つけ出す。
  • VISION OF THE FUTURE
    デックを裏向きで広げ、演者はうしろを向く。その間観客が1枚選んで憶え、それを箱にしまう。向き直った演者は、観客に選んだカードのことを思うように言うが、「例えばですが~」でマジシャンが挙げるカードがまさしく観客の選んだカードである。
  • TWINS
    デックをシャッフルし、20枚ずつ程度の2つの山に配り、どちらかの山から1枚のカードを選んで憶えてもらう。マジシャンは選ばれなかったほうの山から1枚を抜き出し、表を見せずに裏向きで山の中程から突き出た状態にする。2山を1枚ずつひっくり返していくと、マジシャンがカードを差し込んだ同じ位置から観客のカードが出てくる。そしてマジシャンのカードを表向きにすると観客のカードのメイトである。
  • OUT OF THIS MULTIWORLD
    マジシャンと観客で20枚ずつ程度のカードを持ち、観客にはマジシャンの動作をトレースしてもらう。マジシャンはずっと表向きに、観客は裏向きでカードを配っていくが、観客は表を見ていないにもかかわらず、赤と黒をきれいに配り分けていたことが分かる。
  • FOLIE À 3
    観客の男女が1枚ずつカードを選び、デックの中に戻してどこに行ったかわからないようにする。男性がデックをコンプリート・カットし、女性のほうに向けてスプレッドすると、それぞれの端に選ばれたカードが来ていて、しかもメイトになっている。
  • SANDWICH
    何回かシャッフルしたデックを、テーブルに裏向きで置き、マジシャンが目をそらしているあいだに、観客が自由にカードを1 枚選び、見てからデックに戻してシャッフルする。マジシャンは向き直り、デックを再びシャッフルし、表向きの2 枚の黒のカードをデックに入れ、もう一度シャッフルしてカットする。デックを裏向きに広げると、2 枚の黒のA が1 枚のカードをサンドイッチしており、これが選ばれたカードである。
  • TACTO MÁS QUE FINISIMO
    マジシャンはスキルのデモンストレーションとして、言われた枚数でちょうどカットできるといい、その通り実演する。
  • IMPOSSIBLE
    最初は自明に見える状態で始めるが、徐々に難度を上げていき、最終的には不可能に思える状況下で観客の選んだカードを当てる。
  • THE DECK & THE HAND
    デックを数回シャッフルしてカットしたあと、マジシャンは観客の両手で目隠しをされる。ここからマジシャンはデックを自分の目の前のテーブル上に、4 つの裏向きの山に配り始める。途中、誰かに「ストップ」と言われたら、マジシャンは配るのを中断してデックをシャッフルし、それからまた配り続ける。デックを配りきるまで、このような中断が何度か挟まる。すべてのカードがテーブル上に配られたら、観客は目隠ししていた手を離し、マジシャンは目を開ける。この4つの山を見ていくと、スートごとに見事に分かれていることがわかる。

 

EVEN MORE EFFECTS

  • DIPROSOPUS
    デックをシャッフルし、観客がカットしたあと、テーブルに裏向きでスプレッドする。マジシャンが目をそらしているあいだに、観客は任意のカードを1 枚取り、それを見て憶え、デックのどこかに戻して、揃えてカットする。マジシャンはデックを手に取り、選ばれたカードを探していき、躊躇しているように見えつつも、デックをテーブルの上に置く。観客に、自分のカードの名前を言ってもらい、デックのトップ・カードをめくってもらうと、それが観客の選んだカードである。
  • BONUS
    観客は、シャッフルされたデックの中から自由にカードを1 枚選び、再びデックの中に混ぜ込む。マジシャンは、そのカードを魔法のように取り出し、さらに同じ値の他の3 枚も取り出してくる。
  • BIDDENDEN
    デックをシャッフルしてカットしたあと、観客が自由に1 枚カードを選ぶ。観客は自分の選んだカードを裏向きに広げたデックの任意の場所に差し込むが、デックから突き出た状態にする。選ばれたカードのすぐ下にあるカードを見ると、それが期せずしてそのカードのメイトであることが分かる。
  • ASSASSIN TWINS
    デックがシャッフルされ、マジシャンは背を向ける。観客の1 人が自由にカードを1 枚選び、他の観客たちにも見せてから、それを保持する。マジシャンは自身の財布を取り出すが、そこに入っている1 枚のカードが選ばれたカードのメイトである。
  • MENTAL SQUARE
    観客が1 から13 までで1つの値を選び、その値のカードを1 枚、デックの中から取り出す。演者は、そのカードのスートを当てる。
  • MONOAMNIOTIC TWINS
    2 人の観客がそれぞれ1 枚のカードを選ばせ、そのまま手元に持っていてもらう。デックをシャッフルして紙袋に入れて振り、カードをさらに混ぜる。マジシャンは紙袋の中に手を入れ、そこから1 枚のカードを取り出すが、これが最初の観客の選んだカードのメイトである。演者は再び紙袋の中に手を入れ、そこからもう1 枚のカードを取り出すが、これも2 人目の観客のメイトであることが分かる。
  • ZYGOSITY
    デックを2 つに分け、片方を観客用、もう片方をマジシャン用にする。マジシャンは、自分のカードを1 枚、テーブルに裏向きで置く。観客は、そのカードが赤だと思ったら、自分の赤いカードを1 枚、マジシャンの出したカードの前に表向きで置き、このカードが黒だと思った場合、彼女は黒のカードをそのカードの前に置く。この理屈で続ける。最終的に確認してみると、観客は毎回正しいメイトを置いていたことが判明する。しかし1箇所でミスをしているが、最初からテーブルにおいてあった紙を見ると、そこにはそのミスの内容が明示されている。


映像集
参考情報集

訳者駄文

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