ライアン・マリーというカナダの若いマジシャンがおりまして。この2年ほど、日本の一番濃い部類のマニア……もとい、熱心な奇術ファンのあいだではちょっとした有名っぷりでした……やる技法の変態さで。2017年に初版が出て、2020年にその改訂版が出た『Curious Weaving』、2021年に出た『Natural Card Magic』、いずれもすでに上記のようなテジナ・スゴイ・メンによるレビューがちらほらありまして、興味だけはありました。でもほら……英語じゃん?英語読むのめんど……難しいじゃないですか。そんなに厚くないし、誰か訳してよ、と思っていたのです。あとまあダメ元で作者にメールとか出したんですけど、放置されていたので、残念2割、「やった!訳さなくて済むぞ!」8割でいたのですが、来てしまいましたね、返事が。下りてしまいましたね、許可が。そんなわけで両方とも日本語版を作ってしまったのがこれってわけ。正直言うとな、原書のうしろのほうのページ数(ノンブル)を見て、「分量大したことないのう」って思ってたんじゃ。じゃがな、こやつの本、かなりプロローグ的な箇所も長いんですけど、そこのページ表記はローマ数字(i, ii...xi, xiiみたいな)で、そういうのがいっぱいあってからようやくp. 1が始まるトリックが隠されているんですよ。『Curious Weaving』原著は、本文の最後のページ表示はp. 52なんですけど(まあ頑張れなくもないよね?ってページ数でしょう?)、p. 1の前にxxiiiページがあるんですよ。ずるい。実質1.5倍じゃねえか!甘い作業見積もりでつらい思いをするのは私なんですよ!勘弁してください!
『Curious Weaving』
ファロ・シャッフルに関する本です。プロローグは普通のファロ・シャッフルの、きわめてまともな内容が解説され、「ああ。OKOK、私も知ってる、できる」みたいな感じなんですけど、第一章ウィーヴ・イン・サーズ、これは何かというとですね、普通ファロって1枚ずつ交互にするじゃないですか。あれを、1・2・1・2・1…って並びにする技法なんですよ。……は?
いやまず、なんでそういうことをしようと思ったのか、と言うのはさておき、なぜこれを実演レベルにまで高めてしまったのかという謎が。ウィーヴ・イン・フォースになるとこれが1・3・1・3・1…って並びになります。ビザー・ウィーヴに至っては、1・1・1・2・1・1・1・2・1・1・1・2……いやちょっと意味がよく分からんですけど、それ雑にファロしたときになるやつじゃないの?とか思うでしょう、毎回ぴたりとこうなるんですわ。
第二章は通常1枚おきにしかならないものを2・2・2…にしたり、色々組み合わせて活用することで、特定のカード(パケット)を2枚おき、3枚おき、4枚おき、6枚おき、8枚おき、9枚おきとかで配置しきるという謎の変態テクが解説されています。第三章は活用と、それらを用いたトリックが解説されています。どうかしてる度がかなり高い一品です。
内緒ですが、いま私、ウィーヴ・イン・サーズが割とできます……(練習していたらなぜかできるようになってきました)。日本で十指には入ると思います。この技法限定ですがw
御本人のサイトの御本人による実演:
『Natural Card Magic』
これは、あのなんて言えばいいのか、レギュラー・デックで、ギャフ・カードやギャフ・デックと同じことを起こす方法が解説されています。いや、「え?それっていわゆる技法のこと??とか思うじゃないですか。いや技法には違いないんですが、そんな生ぬるいもんじゃないんですよ。借りたデックなのにストリッパー・デックみたいな使い方したり、借りたデックで、完全に技術だけでエース・カッティング(たとえばシャッフルしてもらって、それ机に置かせて、演者は別になにも見ないである程度の枚数持ち上げると、そこにAがある、的なアレ)ができるんですよ。いや、分かります、「お前なに言ってんだ」ですよね。「どうせアレだろ、みんな大好きク○○プとかだろ?」私もそう思いましたよ。クソリプですわ。でも違うんよ、完全にテクニックだけでやるんですよ。作者本人が、「借りたデックを使って、それでそんなギャフ・カードでもないとできないようなことをして、マジシャンどものココロにダメージを与えたくなる誘惑に必ず駆られる」という、暗い悦びの横溢する技法の変態本なんだ。
内緒ですが、いま私、フェニックスデックなら完全に混ぜられたあとのデックから、Aだけ抜けるようにはなりました。いやべつにAじゃなくて言われたフォー・オブ・ア・カインドでもなんでもいけますけど。なおエースカッティングは全然できない模様。
御本人のサイトの御本人による実演:
--------------
■『Curious Weaving』(A5, 80ページ)
目次
まえがき
プロローグ ファロ・シャッフル
第一章 ロプサイデッド・ウィーヴ
ウィーヴ・イン・サーズ
ウィーヴ・イン・フォース
ビザー・ウィーヴ
第二章 ダブル・ウィーヴ
ダブル・ファロ
ウィーヴ・カウント
トリプル・ファロ、そしてその先
ファシリテーテッド・ウィーヴ・イン・サーズ
ダブル・ウィーヴ・イン・サーズ
第三章 関連技法及びその応用集
セパレーション・イン・サーズ
K シャッフル
パーフェクト・リフル・シャッフル
INVERTED RISING CARD
ACE PRODUCTION
STACKING
ULTRA MEMORIA
エピローグ
付録 参考文献
人名対照表
訳者あとがき
--------------
■『Natural Card Magic』(A5, 108ページ)
X
発見
ナチュラル・ロケーター
カードのところでカットする
ダイアゴナル・グリップ
ストリップアウト
用語
Y
デックの準備にあたり
カードを分離する
密かに回転させる
デック全体でのローテーション
Z
原理の適用
シンプルなロケーションとして
ブラインド・ロケーション
Impossible Location
Double Impossible Location
Lucky Poker Deal
Mirrored
Multiple Selection
Ace Cutting
Epiphany
エピローグ
付録 参考文献
人名対照表
訳者あとがき
--------------