教授の戯言

手品のお話とかね。

マリー先生のデック・レビュー

ライアン・マリーの『Natural Card Magic』、訳者の富山が、訳している中で掲載技法の練習用に使ったもののひとつがPossible Deckだったのですが、これがあまりにうまくいかず、「このデックは作者でも無理なんじゃないのか」と思い、著者献本のついでにデックを同梱して送りつけた結果、律儀に3種4個全部で試してくれた上に5000ワードの長文でレビューしてくださった、というお話。和訳してシェアしてもいいかと聞いたところ「いいよいいよー」とのことであったので以下に掲載するものです。サンキュー、ライアン!こんな観点のデック・レビュー、初めて見ました笑

 

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以下、ライアンのコメント:
送ってもらったデックは、Possible Deckの赤青1つずつ、CIRCUS Deck赤1つ、Straight Playing Cards赤1つの計4つ。私は通常USPCCのデックを使用しているので、これらにストリッパー特性が見られるかどうかは知りませんでしたが、すべてのデックに興味深い特性が見受けられました。

 

■Possible Deck
最初にこれを開けたとき、不完全さが見当たらず、また、ダイアゴナル・グリップで試しても、回転させたカードをストリップアウトできないように思いました。技法に必要なズレがないデックなのかもしれないと思ったのですが、回転させたカードの場所にきわめて微妙な色の違いがあることに気づきました。試してみると、このデックはカット具合がきわめて小さいストリッパー・デック(本に書いてあるような三日月型の凹凸ではなく、普通のテーパード・デックの型)であることが分かりました。これを見て驚いたのは、回転させたカードがほとんどそのようには視認できず、全く感じられもしないのに、なぜかストリップアウトできるほど上質なストリッパー・デックであるということです。このズレ・不完全さは、形状的には普通のストリッパー・デックのようでいながら、USPCCデックでのものよりもずっとささやかなのです。本で説明したのとは違いますが、少し練習したらうまくできるようになりました。

不完全さがごくわずかであることが、技法をやりにくくしているわけですが、逆に考えれば、このデックをナチュラル・ストリッパーの原理を知っているマジシャンに手渡してなお、デックの異状には気付かれないという利点があるでしょう。もし、マジシャンから新品の密封されたPossible Deckを借りて、それでエースカッティングを行って、デックを返したとしても、デックをじっくり調べられても何も気づけないと思われます。実際、私は2つ目のPossible Deckを開封して確認したとき、何も見つけられず、2つ目のデックも1つ目のと同じように、技法に必要な不完全さはないかと思ったのですが、日をおいてもう一度試してみると、全く同じ性質を持っていることに気がつきました。

1つ目のPossibel Deckを試したときの映像です(ダイアゴナル・グリップを使っていないことにご注目)。

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そして、これが2つ目のPossibel Deckでの映像です。

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■CIRCUS Deck
このデックはPossibel Deckと同じくストリッパーの特性があるのですが、若干その具合が小さかったです(通常のストリッパー・デックほどは細くなっていない。ただそれでもPossibel Deckと比べるとごく僅かに太い、程度の非常に微細な差ですが)。このデックの場合、そうだと分かっている上でよく見れば分かるとはいえ、マジシャンでも怪しいところを見つけるのは難しいでしょう。このデックも台湾製ですが、もしかすると台湾の工場製だと全てのカードにテーパーが付くのかもしれないと思いました(USPCCの工場製だと全てのカードにカーブが付くのと同様です)。

 


■Straight Playing Cards
これは不思議ですね。確かにクオリティは低いのですが、他のデックとは違う性質を持っていて、ある意味さらに興味を惹かれます。これで試してみたところ、新品デックの順番でいう7枚目ごとのカードがすべてネガティブ・ストリッパー(真ん中が狭く、エッジが太い)であることに気づきました。これはつまり、どのようにカードを回転させても、その8枚のカードをストリップアウトできるのです。それらのカード同士はバリューもスートも関係ないので、これをどうトリックに使うかは謎ですが、きっと何かできることがあるはずです。この方法の利点は、あなたがカードに触れる前に、観客がカードをぐちゃぐちゃに混ぜたり、シャッフルしたりしても、その8枚のカードを見つけられることです。これは、裁断前シートでのカードの並び方に関係があると思います。おそらく7枚ずつ並んでいて、各列の最初のカードの裁断方法が異なるのでしょう。

これは、私がStraight Playing Cardsを試している映像です。目標のカードは横に置いてある紙に書いてあります(映像からも、これが簡単ではないことが分かると思いますが、『ヒット』した瞬間、間違いなくカードが出てくる感触があります)。

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デックを送ってくれてありがとうございました!自分が使っているカードと比較して、どのような特性があるのか、試してみるのは面白かったです。

 

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Reverse Triumph

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で、先日のメールで言っていたのはこれのことですね*1。これは私の手順の第1フェイズであり、マジシャンにも非手品人にも楽しんでもらえるようにしたものです。いま作っているノートでは、ここで使っている方法を取り上げつつ、このトリックと同じ方法を使った他のトリックも掲載する予定です。いつ出るかはまだ分かりませんが、2023年末までには完成させたいと思っています。

*1:注:"先日のメール"では私から、「あなたがやっている、意味分かんなすぎて不思議なやつを見たけどURLを思い出せない手品があったんですけど」みたいなことを書いていました。