教授の戯言

手品のお話とかね。

ヨーキム・ソルバーグ・レクチャー


ということで2月24日、ヨーキムさんのレクチャー@東京に参加です。あまり新作を作りまくる人ではないのですが、ひとつひとつのマジックが、見ていてとても心地いいのが個人的な印象。演技にも嫌味がない以上に、なんかいい歳のひげのおっさんなのに、物言いとか所作がいたずらっこみたいなんですよね、ヨーキムさん。「ああ!また引っかかっちゃったよ!うー、もう一個!」みたいな流れがホント多くて。見る側の緊張を緩和させる謎の成分とかが放出されているのでしょうかw

物販は2004年の来日時の日本語レクチャーノート(大好き)や、その頃に撮った映像の3枚組DVD、95年頃に作ったビデオをDVD化したもの(ジェネラル系のとロープの)、2007年の来日時に作った技法DVD『My Favorite Controls』あたりでしたかね。基本コンプしております。イエイ。

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1. ロープの穴通し
針と糸のお話から、ロープで作った小さな輪っかにロープを入れたり入れられなかったりと。

2. 2枚のカード当て
シンプルで実用的だなあと思った次第。

3. カードアクロス
3段(2段かなあ)からなるカードアクロスなのですが、これが見事で。エスティメーションのトリックかと思いきや次々と起こる素敵な作品でした。「このあといつ加えるんだろう」「いやまさか5枚は無理だって」と思っていたものが次々覆される様は壮観でした。ていうかこのあとどころかもうすでに付け加えられたあとだったりとw こういうことをきれいにキメられると実に楽しいですね。

4. ロープ
おっと、人の注意誘導についてだけがメモってあって、何をやったのかまったく覚えていませんw あっれ。

5. スポンジボール
スポンジボール手順。ヨーキムさんのは割と短めのコンパクトな手順なのですが、ともすると手順を長く・複雑化しがちなものとして、こういったコンパクトさは見習いたいですね。というか多分このくらいが一番いいんだというのは分かっているのです。ですがw

6.コインとカードのチェンジ
だんだんこの辺からヨーキムさんの"実はマニアだよな"というのが出てくるw 

7.コインズアクロス
シェルを用いたオーソドックスなもの。いや、オーソドックスとは何かという話はありますが。

8.オイルアンドウォーター
水と油がほら、分かれるやつですよ(2ヶ月近く前なので記憶が飛んでいる)。

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2次会で、借りたデックで、適当にシャッフルさせ、適当に5つの山に分けさせ、好きな山ひとつ持ち上げさせて表向きに1枚ずつ配らせ、その中の好きな枚数目のものを憶えてもらい、山を全部好き勝手に並べ替えたものを返させて当てる、というのをやってくださったのですが不思議すぎて吐きそうでした。詠み人知らずの古典のようなものらしいのですが。後日、サークルメンバーが「あれはこうだったはず」というのを作ってきてくれてそこでも引っかかり、いやはやわっかんないもんだなあと思った次第。あとヨーキムさんは本当に気さくというか、喋ってるとみんな笑顔になってくる感じがとてもいいなあと思いました。

とがった変態的なことはしていないのですが、それもまたいい具合にわざととどめている感があります(事実、パケットを弾いて枚数を数えてるのかと思ったら、手の陰で、指でカタカタ音を立てているだけで、実際は1枚しか持っていない、とかそれはもう変態なこともレクチャー外ではやってらしたのでw)。なんというか通常のレクチャーよりも、気軽に色々聞いたり見せて頂いたりするほうが良さそうなマジシャンですね。普通にだべると面白そう、的な。

John Carneyレクチャー


John Carneyのレクチャー@水道橋。「世界一うまいマジシャン呼びました」とはフレンチドロップさんの言ですが、確かにうまい。うまいマジシャン、という概念を具現化して服を着ている感じ。ちなみに綴り的にJohn Carey(英)とややこしいともっぱらの噂ですが、わたくしは毎回カーディニを思い浮かべて、それを消してから思い浮かべないと彼に辿り着けない病にかかっております。カーディニも名前からしてカード物凄くうまいですが、それはさておき。

「なにやっても超うまい」というイメージと、「あらゆる壁をテクニックだけでぶち壊す」という2つのイメージをカーニーには抱いていて、前者はもうその通りだったのですが、まったく見せびらかす感じもなく、後者のイメージは覆りました。ともすれば地味ともいえるマジックがほとんどです。もちろん意図的にそうなっていて、「若い頃はスピード重視で行っていたが、ヴァーノン他から、『もっとゆっくりと』『観客は今の現象を理解できないまま次の現象に行かれちゃったら困るでしょう』『君の手順は素晴らしいけど、もっともっと考えられるはずだ』というようなことを言われて、それ以来、『技術は研鑽するが、その技術の気配を消すために、技術研鑽にかけたよりも多くの時間を費やす』んだよ」というお話をされていて、「ああ、いいなあ」と思いました。

私もフラリッシュ感あふれるものも別に嫌いではないのですが、昔からよく思っていた、アクロバティックだったりダンサブル(?)な、カーニーいうところの「マジシャンしかしないムーブ」というのに対して抱いていた嫌悪感(というほどでもないけど、違和感とでもいうべきか)を言葉と実際にしてもらえた感ですかね。左手の親指人差し指でコイン1枚つまんで示しつつ、その左手の中にもう1枚コイン握る(リテンションバニッシュ)みたいな流れとかホント笑っちゃっていけません。野島伸幸さんが、「若い子にはこういう王道の上手い人を目指してほしいなあ」的なことを仰っていて「うんうん」と(思いつつ、「え、野島さんは!?」とか思いました)。

さておき、全体的に悠々・堂々たるクラシックマジックの体現だなあと思いまして、素敵なレクチャーでした。以下備忘。

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1. CAFFEINATED CUPS AND BALLS
コーヒーカップとブドウで行うカップ&ボール。

プラスチックの取っ手付きコーヒーカップと、イミテーションのブドウを用いており、カーニーの演技全般にある「理由づけ」に取っ手がうまいこと組み込まれていました。ちょっとしたくるっと回す動作や取っ手を持つことで自然なかたちでパームを秘匿していて「すげえ!」というより「怪しさが感じられない」という印象。なおクライマックスのレモンのロードをすべて見逃している始末でした。注意力が3万しかありません。あとなんかブドウを美味しそうに食べる。



2. five coins and a champagne glass
どこからともなく、1枚ずつコインが現れてはシャンパングラスに入っていき、最後にはファイブスターでキメたりする。

カーニーって基本はフィンガーパーム派(「イエー、私も」)だそうなのですが、ここではちょくちょくクラシックパームもダウンズパーム的なものも使いつつ、どこも結構オープンに手の中を見せながらも「何も持っていない」印象を与えていました。というか1枚2枚はともかく、最終的に5枚出てくるあたり、なんか別途ロードでもしてるのかなと思ってしまいましたが完全に引っかかっております。


3. Cylinder and Coins
シリンダーアンドコイン。

略して尻コイン。コインマジックはそんなに詳しくもないのですが、シリンダーアンドコインは好きです。「クラシックマジックの薫りがするからだろうか、ふふん」などと思っていたのですが、カーニーが「元はラムゼイがやっていたわけだが、彼は革のシリンダーじゃなくて、トイレットペーパーの芯を銀色に塗って使っていたようだ」とかで草不可避。しかしあのコルクをシリンダーに通して落としたようにしか見えないところとか、コルクがいきなり複数枚のコインに変わってしまうところとか、カーニーの技術を以って見せられるシリンダーアンドコインはなんかこう、じんわり来る感じで良かったです。不思議なうえに綺麗。そういえば岡野さんもうまかった。わたしもやってみたいけど、まず道具揃えるのが大変よね、これ。トイレットペーパーの芯はさておき、Sコインのほうが。



4. cigars from the purse
ハーフダラーサイズくらいのとても小さながま口から、指くらいの太さのシガーがにょきにょき出てくる。2本。

がま口取り出して「いつもは『これはジャパンで買ってきたんだけど〜』って台詞で、エキゾチック的な面白さを醸し出しつつがま口を取り出してくるんだが、本当に日本で演じるときには微妙な台詞になっちゃうな」とか仰っててワロタ。観客の胸ポケットから出してくるのが素敵です。



5. Inscrutable
デックのカードが次々とジョーカーになってしまい、都度テーブルに置いていくが、あとでそれを開けると全てAになっている。

実にいい感じに王道な手品な感じがします。



6. Bullet Train
Cards up the Sleeve。

前段で出した4Aがジャンジャカ袖に通う感じで。手順自体は直線的で大変面白いのですが(私がカードアップザスリーブが好きなのはあります)、たまにギャグも込みでやるという、ふにょんふにょんする針金の先に飛ばすべきカードをつけておいて、ジャケットの前部の開いたところを通過するところをふにょんふにょんさせながら見せる、というやつ、あれが個人的にヒットでした。


7. Knife Trick
ナイフに濡らした紙片を貼り付けて行うクラシカルなパドル・エフェクト。

いかにも即席で(実際即席ですが)、その場にあるもので戦える、古典過ぎて詠み人知らずっぽい作品。しかしまあこういうのが様になるってのが羨ましい。

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訳の人はカーニーの演技や解説を見ながら「ほーう、うわすごい……」とニヤニヤしながらメモを取っておりましたが、終了後、「しかし、あれほどの名人が手品を見せてくれている最中もなお、手元のカードやコインいじるのをやめられないマンがちょいちょいいたんですが、あれ何なんでしょうか。カーニー相手にテクを見せつけているのですか?それとも勝負でも挑むつもりでしょうか」とか言っててワロタ。手癖だろうけど、挑んで、そして勝てたらすごすぎです。あのカーニーが相手じゃぜ?マジシャンの説明を受けながらその通りにやってみている、というのは私は別に気にならないのですが、確かに特に脈絡なく、中でも音立ててる人はよくわからないですね。アンチ・ファロやってるとか、ドリブルしてるとか、コイン落とすとか。

ヨーキム・ソルバーグ 日本レクチャー

デンマーク王室御用達、ヨーキム・ソルバーグ来日決定でヒャッホウしていたのですが、二川さんから告知してよい旨を頂いたので以下に転載します。前回の来日後、思わずノートだけではなくDVD他全部揃えちゃうくらい本当に素敵で楽しかったので、いまから楽しみです。"Aces Intermezzo"は名作でした。ポン太さんの改案もとても好きです。だがしかし動画が保存できない。しくしく。

【2017.0130追記】
追加の1ショットが決定したそうなので追加のご紹介。


2月22日水曜 18時15分開場 18時30分開演(20時45分終演予定)京橋プラザ3Fにて。
「おっ、その日ならいける」という関東の方は、上記ファイルにあります、二川滋夫さんのアドレスまでご連絡を。

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ヨーキム・ソルバーグ 横浜レクチャー(関内)

ヨーキム・ソルバーグ(Joachim Solberg)が来日してレクチャーを行います!すでにご存知の方も多いかと思いますが、彼はデンマークを中心に活躍しているプロのクロースアップ・マジシャンです。テレビのマジック番組はもちろんのこと、ヨーロッパのテレビ・コマーシャルにも出演したり、毎年、デンマークの女王に招待されてマジックを披露したりするなど、海外では非常に知名度が高く人気があります。

彼の得意なマジックは、カード、コイン、ロープ、スポンジ・ボール、指輪、スプーン、カップ・アンド・ボール...と広範囲に亘っています。特にカップ・アンド・ボールの腕前は折紙付きで、彼の演技に感動したマイク・スキナーがフランシス・カーライルの銅製のカップを譲った話が有名です。

今回は好評だった2004年、2007年に続いて、三度目のレクチャーになりますが、トップ・クラスの技術、オリジナリティー溢れるアイディア、観客を楽しませる演技など、私たちが知りたい貴重な情報がまだまだ多く存在します。中でも、彼が演技をするときに心掛けている“オフビート”という考え方は、我々に浸透しているミスディレクションと同等か、それ以上に役に立つでしょう。

レクチャーの内容は、彼の来日を心待ちにしていたリピーターの方にも楽しんで頂けるように、なるべく新しいトリックをレクチャーしてもらう予定です。初めて参加して頂ける方も、きっと楽しんで頂けると思います。素晴らしいマジックを見る数少ない機会です。見逃さないようにしてください!

主催: マジックハウス
出演: ヨーキム・ソルバーグ (Joachim Solberg)
日時: 2017年02月19日(日)開場 18:15 / 開演 18:30 (20:30 終演を予定)
会場: レンタルスタジオ3355 〒231-0015 横浜市中区尾上町2丁目18−1 YSビル地下1階
交通: JR関内駅 徒歩3分 地下鉄ブルーライン関内駅 徒歩1分
料金: 5,000円 (予約制)
お問い合わせ: マジックハウス 二川滋夫まで
045-324-0662
futagawa@magichouse.biz

地図(これ二川さんの手書きですかw):

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Lee Asher 「Losing Control」

昨年9月下旬にご紹介はしていますが、リー・アッシャーの「ルージング・コントロール」をひっそりと売り始めていました。私にも言わずにそっと追加するのやめてくださいw リアルにすごく薄い本でした。『ガルパンで学ぶ英語』の2割程度じゃないでしょうか(あれが厚すぎという話はさておき)。

教授の戯言の物販:Lee Asher「Losing Control」

要するに、「理屈で考えれば全然違うのだと分かるけど、見せられるとそのまま納得してしまう」というトップ・コントロール技法の冊子です。ノーマル、アッカーマンのアイディア(私はこれをよく使っています)、立ててやるパターン、テーブルに置きながらやるパターンなどが解説されています。なお、冊子内にアッシャー本人が実演する演技動画のリンクも入っていますので、冊子で理屈を読みつつ、本人の完成形はこうなる、というのがちゃんと動画でも理解できる素敵設計(リンク先でも、動画での"解説"はありません。あくまで実演のみです)。

技法とは関係ないですけど、アッシャーの紹介しているフルニエデック、嫌いじゃないんですが、そもそも手に入りにくすぎじゃないですかね。日本で売っているんでしょうか。あと私が持っているやつ、本気で投擲するとティッシュ箱に刺さるくらい固いんですけど。キュウリくらい楽勝です。武器として大変優れていると思います。手品用としても、なじんでくると堅牢だし使いやすいとは聞くんですが。主に二川滋夫さんあたりから。他にそもそも使っている人を見たことがありません。

あと訳者あとがきが去年の8末日付になっていて、「なつやすみの宿題を片付けた感」というのは、原稿自体はもうその時点で終わっていたからとのことで、 組版お兄さん「やはり訳者から締め切りが切られず、己の気力が満ちるのを待ってから組んだのは間違いでした。すみませんでした」だそうですw