教授の戯言

手品のお話とかね。

Harapan Ong『侘寂』『王房四宝』

我が国においていつまでも出なかった『カードカレッジ』シリーズ最終巻、その永遠に訪れないと思われた完結に終止符を打った<ラスト・マン・スタンディング>な男こと星野泰佑さんによる、ホシノ秋の(ハラ)パン祭りが始まりました。シンガポールのマジック賢人的なハラパン先生ですが、彼の『Wabi-Sabi』(2017)と、『The Four Treasures』(2020)の邦訳版(ギャフ・カード付)が同時リリースです。本当は彼の大著『Principia』の邦訳版も同時に、3冊でのジェットストリームアタックをかける予定だったそうですが、そちらは付属物の製作が間に合わなかったため後日にまわった模様。先般の『To your credit』の訳も星野さんがされていますし、もう名実ともに、「ハラパンといえば星野」みたいな感じですね。

 

思い起こせば2021年1月、ハラパンがThe Four Treasures』を出すことを知り、珍しく手品欲が盛り上がっていたタイミングであったこともあって、私は本人から直接買ったのです。送料込みで45ドルくらいしたわけですが、その翌週、国内のショップでも3500円くらいで扱うようになって、そしてさらに数カ月後には今回の星野さんの所業ですよ。最初から邦訳版を待てば良かった。上記の3冊とも校正のお手伝いをさせていただいているので、『The Four Treasures』を筆頭に読まざるを得なくなったことは良かったのですが、大変悔しい思いを致しました。しかも日本語で読める上に安くなっているとかどういうことなのか(邦訳あるある)。あと実は「そこまで厚くないし、訳してみようかな」と思っていたりしたのですが、綺麗に先を越されました。とはいえ他の方が訳してくれるならそれに越したことはないのでみんな色々訳して出してください。買うほうが楽なのです…。校正・査読がないとなおラクでしたね。
 
ラスボスである彼の『Principia』は、高評価とはいえでかくて厚くて重いやつなので、毛色の違う今回の軽めの2冊でウォーミングアップをしておくと良いのかなと思っております。ハラパンという人の手品の作り方・見せ方・考え方のいい取っ掛かりになるかと。作品もかぶっていませんしね。
 
 

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『Wabi-Sabi』(2017)
  • 持っておりませんでしたので、そもそも校正で初めて原文読みました。
  • "All Hail the Great Leader"とか野島伸幸さんがうまそう。
  • "MixUnMix"という表向きでやるオイル&ウォーター的な手品があって、その中でとあるチェンジ技法を使うのですが、校正中に試したところビギナーズラックで初回が完璧な変化で、自分でやって自分で本気でびっくりして声が出てしまうくらい鮮やかに変わりました。なお大方の予想通り、2回目以降下手くそになっておりました。
  • "Alternative Facts"が結構好きで、これはちょっと『王房四宝』の"意乱情迷"(Indicated Transposition)に仕組みが似ているかもしれません。
  • ラスト、手品というよりゲームである"Stock Lines"が結構好きで、めちゃめちゃ面白そう。要は特定の台詞が書かれた3種(『宣言』『質問』『指示』)計48枚の台詞カードがあり、それが観客にランダムに3枚とか渡されていて、好きなタイミングで観客はそれを1枚出す、マジシャンは必ずその台詞を言って手品を続けなくてはいけない、というやつです。絶対に観客に触らせたくないタイミングで「トランプを混ぜてください」(指示)とか、最後のカード当てのタイミングで「これからカードを見えなくします」(宣言)とか出されたら笑ってしまいそう。
 
 

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※ちなみに右が原書(英語版)で左が日本語版
 
『The Four Treasures』(2020)
  • 原書を手に取ったとき、最初に思ったのが「漢字がかっこいい」でした。手品系の書き物は、だいたい非漢字圏の人がデザイン的に漢字を使うことが多く、そうするとだいたいしょんぼりフォントでイケてない感じになるイメージがあったのですけれど、これを見たときにやはり漢字はかっこいいなと思いました。やはり漢字は繁体字に限るわ!
  • 日本語版、原書の再現度(判型、使っている紙、フルカラー等々)が変態的だなこれと思ったのですが、星野さんに伺ったところ、原書と同じ制作社に、同じ仕様での印刷を依頼されたそうです。そりゃそっくりなわけですね。
  • 自分でやりたいという意味では"偸天換日"(Hand To Pocket)が好きですね。「これ結構難しくない?鮮やかだけど」だと"百轉千回"(Punchback)です。
  • いい冊子なんですけどねえ、訳者あとがきがないのが画竜点睛を欠くのですよねこの『王房四宝』。ということで、生まれてはじめて他人への校正原稿に「訳者あとがき」を勝手にA4で2ページ書きましたが、これがめっちゃ面白いんですよ。本書の中で一番面白いと言っても過言ではない、私には。『ハァイ、クソども!今日も一日トランプをいじって日が暮れたのか!?(挨拶) 本書を翻訳しました星野泰佑でっす。まいどどうもー。え?初めて?大丈夫、優しくする(何かを)。』というMr. グリーンみたいな挨拶から始まり、「ああ、『スタァライト』の劇場版見て、名乗りの都々逸書きたくなったんだなこいつ、あと『コブラ』好きなんだなこいつ」で終わる、星野さんがそっ消しするあたまの悪い内容だったので仕方ないね……。
 
翻訳者ご本人の販売サイトの文を、その寛大なる許可を得て、下にまるっと載せておくので、収録作品と、個々がどんな内容なのかはそちらをご覧ください(丸投げパティーン)。販売開始は2021年9月16日とか17日とか、まあとにかく1週間以内くらいの模様です。
 
 
 
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『Wabi-Sabi』

izansha.thebase.in

2017年発行のハラパン・オン(Harapan Ong)のレクチャー・ノート、『Wabi-Sabi』の日本語完訳版です。ギャフ・カードをダイレクトに使ったものも多いですが、面白い設定やビジュアルな技法など、様々なアイデアに触れることができます。
 
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Daley Revision
ラスト・トリックのハンドリングからできる限り矛盾を無くそうとしたもの。
 
All Hail the Great Leader
フォロー・ザ・リーダー現象のあと、パケットを1つにして2枚のリーダー・カードの中間地点に置くと、カードたちは混乱し、完全に混ざってしまいます。パケットを分けて再び各リーダー・カードの手前に置くと、再びカードはリーダーの色に従います。
 
The Famous Eight-Card Mystery
観客にデックをカットしてもらい、カットしたパケットのボトム・カードを覚えてもらいます。その後、カードを混ぜたり配ったりすると観客のカードが見つかり、更にクライマックスがあります。“Eight-Card Mystery”というタイトルが効いてくる一作。
 
MixUnMix
赤3枚、黒3枚のみ、常時表向きで行う、極めてビジュアルなオイル&ウォーター現象。まず混合現象が起こり、その後分離現象が起こります。
 
観客の1人とそれ以外の観客とで現象の受け取り方が異なる、デュアル・リアリティを達成したカード当ての手順。構造としてはかなりシンプルです。
 
SpreadShot Transposition
スプレッドショットと呼ばれる技法を使った、アクロバティックなトランスポジション現象。
 
You'll Float Too
オイル&ウォーター現象。パケットをテーブルにドリブルすると赤黒が分かれます。
 
Stock Lines
トリックではありません。マジシャン向けのゲームの提案。アドリブ力が試されます。
 
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『The Four Treasures』

izansha.thebase.in

2020年に発売された、ハラパン・オン(Harapan Ong 中国語表記:王卿仕)による『The Four Treasures』の日本語完訳版です。“使い道のない広告カードやジョーカーの代わりにギャフ・カードを持ち歩いて、強力なトリックをいつでも演じられるようにしよう”というコンセプトで、4枚のギャフ・カードが附属し、それらをそれぞれ1枚ずつ使うトリックを計4作品、収録しています。
中国風の造本イメージに合わせ、書名やトリック名も中国語版に寄せてあります。
 
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特立独行(Centre of Attention)
4枚のAによるツイスティング現象からのオフバランス・トランスポジション。難しい操作も無く、現象の理由付けも一貫していて筋が通っています。
 
偸天換日(Hand To Pocket)
観客の手の上に載っていたはずのサインカードが消え、演者のヒップポケットから出てきます。ギャフ・カードを効果的に用いることで、シンプルかつ明瞭な消失現象を起こしています。
 
意乱情迷(Indicated Transposition)
2人の観客にそれぞれカードを選ばせ、これをデックの中に戻します。おまじないを掛けると1枚だけ表向きになり、これが片方の観客のカードです。その後マジシャンは、このカードの数値に従ってもう一方の観客のカードを見つけると言うのですが……。
 
百轉千回(Punchback)
キックバックの改案。2段構成となり、手順に流れができたおかげでキックバック現象がより強烈に感じられるようになっています。
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※巻末に実演動画へのリンク付き。
※ギャフ・カード附属。

Mott-sun『The Monster of the Secret Art』

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もっさんさんの作品集『The Monster of the Secret Art』が出ました。基本コインやらない(できない)わたくしですが、彼のタッチは昔から好きで、「くそ、コインマジックのくせにふしぎだ」などという偏見の呪詛を吐きつつも憧れておりました。あんまり参考にならないと思いますが、「コイン興味ほぼないです、変態しかいないですし、難しいですし」みたいな私が、マジオンライブレクチャーだのDVDだのPDFだの一通り買い揃え、あまつさえ、堀木智也さんと共同開催された、スパルタコイン塾にまで参加していたりします。ファンかよ。ファンですな。しょうがないね。え?だってめっちゃふしぎじゃないですか?彼の手品。堀木さんのが『スパッ』て感じだとすると、もっさんさんのは『モニュ…モニュ…』って感じで。自分で言ってて意味が分かりません。

 

本書の個々のトリックについてはご本人のサイトや、マジオンさんで説明がありますのでそれお読みくださいね、という投げっぱなしな感じで済ませる気なのですが、本文の厚みがちょうど箱入りデックと同じ分厚さの本書は、単売製品の手順含め、ここまでのもっさんさんの15年の軌跡が30近くの技法・手順に凝縮されてまとめられているわけです。あ、A5サイズ、約310ページくらいのアツイやつです。私、上述のスパルタコイン塾含め、方法を知っている、場合によっては手ずから教えていただいてその場で練習もした、という作品もいくつかあるんですけど、びっくりするほど引っかかりますね。構成がうまいのでしょうか。あとカード・マジックも面白いんですよね。ずるい。Wildcoin現象の“TEN(鼬)”あたりはもう、解説読んでも「どうなってんだよ」としか思えませんが、某所で聞いた、「これホントはそれっぽい解説が書いてあるだけで、本人は実際は魔法使ってんじゃないの」というのが一番しっくり来ます。知ってます、『ギャグマンガ日和』の“終末”で私も見ました。

 

本文自体もとても読みやすく、写真にもひと手間かけてあって、パームされていたりカバーされているコインの実際の位置等の状況がとてもわかり易いです。一作品ずつ手順をなぞっていくだけでもちょっと楽しい。全部じゃないですけど、実際のもっさんさんの演技動画リンクも有り、今後も内容を拡充していく予定とのことで、「文章だけだとイメージが沸かない」なんて場合も安心です。DMでも送れば実演してくださいそうですがw あとこれはおそらく堀木さんの仕業だと思いますが、脚注とクレジットの充実ぶりがすごすぎて酷い。こんな物を作られると後進が死にます。まあある種理想形のお手本にもなろうかと思います。脚注大好きっ子としては脚注だけでニヤニヤしてしまいます。

 

先日のツイキャスでご本人が、「なぜ世の手品本はこうもあっさり絶版になるのか、実際作ってみてようやく理解しました」と仰っていましたが、そうなのよね、ハードカバーは作る側のハードルが高いんですよ。。。初回に100冊追加で刷っておくのと、あとから100冊別ロットで刷ろうとするのと、バカみたいな値段差になるんです。なので、品切れになる前に買っておく、ってのがいいんですよ。最近のハードカバー手品本で2版以上出てるのなんて、佐藤総さんの『card magic designs』くらいじゃないですかね。なお、海外展開も考えてはいるようなので、今回買い逃した人は英語版が出るのを待てばいいかなとは思いました。その翻訳権を買ったT君に訳された訳書を読む、というのもひとつですが(日本語版作るのめっちゃ楽そう)、それより前に日本語で読めるんです、買うしかないであろう。

fromstore.base.shop

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もうとっくに終わっておりますが、早期予約特典として“TSUKUMOGAMI2.0/九十九神2.0”と“Needless”の2作品が付いておりました。前者は本編掲載のコインボックス手順、“九十九神”の難度下げ、フェアさ上げのバリエーション(いいことずくめではないですか)、“Needless”は4枚のコインと2枚のお札を使用した即席性の高いコインマトリクスです。いやあ、凄い傑作だなあ(もう入手できないものを書いて煽っていくスタイル)。本書はいまマジオンでも買えるのですが、正気を失った野島社長により、本と同時購入ならライブレクチャーが半額で買えるらしく、本のエッセンスはライブレクチャーにも結構表れているので、野島社長が正気を取り戻す前にライブレクチャーも合わせて買うのが吉でしょう。ライブレクチャーも、その場のノリでマジオンのお二人に色々やらされているので楽しいです。


本書を読んで、彼が一時期手品を離れていたこと、本格的に戻ってこられたのは実は私がスパルタコイン塾に参加した2020年1月のちょい前くらいだったというのを知って割と愕然としました。こんな逸材がふっと消えるところだったのか、と。ともあれ戻ってきてくださって、そしてこんな素敵な本を出してくださって何よりです。

 

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『The Monster of the Secret Art』


ー収録作品ー
【ASSEMBLY / MATRIX】
・KATSUKARE Steal
カードを置く動作でコインをスティールする方法。

・Easy Quick Four
即席で行うフラッシュマトリクス。

Flash Matrix
ギリギリまで見えていたコインが一瞬で1箇所に集まるマトリクス。

・Another Flash Matrix
観客が“警戒・ガン見”状態でも引っ掛けるフラッシュマトリクス。

Flash Back
フラッシュマトリクスアナザーの続きで、『プラシーボ効果』取り入れたバックファイア。

・Another Flash Matrix(No Gaffs)
別メソッド。

・Reverse Matrix
元に戻るマトリクス。

・Back Fire Assembly
最後のバックファイアの瞬間に全てを捧げたアセンブリー。

・The TIME on Matrix
腕時計を絡めたマトリクス、FISM2015で演じてF.F.F.Fの招待状を貰った作品。

・International Chink a Chink
ビジュアルさに重点を置いたチンカチンク。

・Only Four
エキストラを使用しないチンカチンク。

・The Sympathetic Matrix
『コインとの接触感を無くす』ということをテーマとしたマトリクス。

【COINS ACROSS】
・Three Fly
少し特殊なスリーフライ 。

・Three Coins Across
テンポとリズムを重視した手順。

・Invisible Traveler
コインのオープントラベラー。『移動』に説得力を持たせることを意識した手順。

【SPELLBOUND】
・One Hand Change
片手でコインを変える技法。

・Trans Position
One Hand Changeの練習手順。

・Monster Spellbound
連続してコインを変化させる手順。旧バージョンと新バージョンを収録。

・TEN(鼬)
ワイルドコイン。『不思議さ』の中にあるインパクトを高めた手順。

・Three Chip Monte
スリーカードモンテをテーマとしたポーカーチップの手順。

【OTHERS】
・Quiz
観客に簡単なクイズを出しますが、観客は答えを絶対に当てることが出来ません。

Watch the Watch
ワンコインルーティンにアクセントを入れた手順。

・TSUKUMOGAMI(九十九神
一風変わったコインボックスの手順。

【TECHNIQUES / ILLUSTRATIONS 】
・No RAVEN
傑作レイバンのようなコインバニッシュ。

・KA VANISH
レイバンをスライトで解決した手順。

・NUDE
1枚のコインの完全消失。

・Yin Sound
音を使って『見えないコイン』の存在示す技法。

・Three Coin Production
Yin Soundの応用例。

~ CARD TRICK ~
・Gimlet
お気に入りのエースプロダクション。

・Anytime Coincidence
タマリッツ氏の傑作“Total Coincidens"を借りたデックで行う方法。
不思議さを損なわないように、コンパクトに纏めています。

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Nathan Kranzo『The Peek Book』

Nathan Kranzo『The Peek Book』
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2013年(たぶん)に出た、ネイサン・クランゾによるピークに関する小冊子、その日本語完訳版です。序文にも訳者あとがきにも書いてありますが、ピークの百科事典というような大著ではなく、クランゾの視点で有用と判断したものを中心にまとめられた、『俺セレクト!"使える"ピーク集』という趣の小冊子です。マジックマーケット2021春の3日間を頒布開始として、そのあとにいつものBaseで扱うようです。Theが付くのが正式タイトルなのかどうかがいまだにわかりません。
 
2021.0502追記:マジックマーケットへお送りした分は初日で売り切れてしまったので(ありがとうございます)、早々にBaseでも扱いを開始しました。
 
 
クランゾと言えば、私のような方には『Visual Voodoo』でおなじみ(カードがぴょこぴょこ逃げるアレ"The Card cannot be palmed"とか、ライターであぶると溶けるようにコインが消えるアレ"Melting Coin"とか)、もう少し年代下ると大阪のショップGINが日本に招いた際(招いたのは別の団体でしたっけ?)に話題になった"Stone Purse"などが有名でしょうか。いくつか最近の映像商品も買っておるのですが、個人的には上記DVDの頃の、いまより体重が20kgくらい重そうなときのほうのハンドリングが好きです(※個人の感想です)。
 
私も個人的にグリンプスは好きで、その昔ジェイソン・イングランドに「何か聞きたいことはあるか」と言われて、テーブルに座った状態でのピークについてとか聞いたこともあるんですよ。めんどくさかったのか、私の英語がアレだったのか、「何でも聞けとは言ったけど、よりにもよってグリンプス(なぜか都都逸風)……それはヒミツだ」的な感じで終わりましたが。私自身は以前ふじいあきらさんに教えていただいた方法をよく使うのですが(その超劣化バージョンであることは告白しておきます)、本書には似たやつも収録されておりました。また、ドラウン・グリンプスは『Dear Mr. Fantasy』でバノンが使っていたやつなのですが(日本語版同書p. 44の"Line Of Sight (Control)")でもちゃんとリファレンスしている)、私、できないんですよね、プレッシャー・ファンが……。めっちゃ不思議なのは間違いないのに。練習再開しちゃうか……。なお本書でも解説されているライアン・シュルツのピヴォタル・ピーク、これはとても好きです。私は最初シュルツのDVDで見たと思うのですが本当に不思議でした。いったいいつどこでピークしているのだ……、という。以前は「できない……技を超えた純粋な力、それがパワー、的なものが足りないのか……?」と涙を呑んでおりましたが、マッスルではなくちょっとコツがわかってきた気がします。気のせいである可能性も高い。
 
きっちり構成しなおし、原書で漏れていた図(著者からもらった作中図フォルダに混入していたドラフトファイルには入っていたので、たぶん最終稿で入れ忘れていたように思います)も入れ、そしてクレジット大好き・組版マンの偏執的努力によりクレジットも充実、たぶん原書よりもグレードアップしているはずです。とはいえ先述の通り、割とさらっといろいろなピークを学べるお手軽冊子なので、「ピークマニアに俺はなる!」みたいな気負いは一切不要です。あと相変わらず商売センスがしょぼしょぼの訳者により、なぜか原書より25%くらい安い価格設定がされているらしいです。……いや、なんていうかさ、キミ本当に経済学部を卒業しているのか?手間かけて価格は下がっているとか、労働は価値を生まないの……?教えて、マルクス先生!マルクス・アウレリウス・アントニヌス先生!(聞く相手を間違えていくスタイル) 
 

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【2021.0506追記】
誤植というか誤記です。p. 28の下から3行目、『左手の親指でカードを下から上に素早くリフルし始め~』は"左手の"ではなく"右手の"親指が正しいです。大変失礼しました。
この段階ではすでにピークは済ませており、あとはもうそれっぽい動作をするだけなのでホントに本書(&原書)通りに左手親指で頑張れなくもないのですが、左手親指で、しかもインデックスを見る体のリフルをするとなるとかなりアクロバティックな動きにならざるを得ません。ここではクランゾも単純に左右の記載を間違えただけと思われます(訳者の私はそう訳しておきながら自分では右手親指でリフルしておりました)。
演者は右手親指でカードを下から上に弾いていき、中のカードを見ていく(ふりをする)、が正しい(偽りの)動きです。申し訳ございません。
 
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目次
グリンプスことはじめ 
グリム、シャイナー、ライト オーマイ!
 ウォッチ・ピーク 
 iPhone 
 アルペンのグリンプス
 見えないカード・シャイナー
グリンプスにおける黄金律
ブレイクを取っておき、それからピークする
アードネス・グリンプス
ビハインド・ザ・バック・グリンプス
ギャンブラーズ・ピークとボブ・ホワイト・ゲット・レディ
パケット・カット・グリンプス
アイ・レベル・ピーク
 プレッシャー・ファンを使った『カードを 1 枚触ってください』
クラシックのピークのいくつか それからレアなやつも
 グランマのピーク 
 ジョセフ・オベッテのピーク
 引かれたカードのインデックスを見る
グリンプスできる動作
 パーム
 リバーサル 
 パス 
ギャンブルの場でのグリンプス 
 “ザ・ギャンブラー”
 巧妙なトップ・カード・グリンプス
キー・カードのグリンプス
 シンプルなピックポケットの試み
現代のピーク
 ピヴォタル・ピーク
 スティーヴ・ドラウンのファン・グリンプス
 シン・リムのスプリング・グリンプス
 トップ・カード・ファン・グリンプス
 スペクテーター・ピークからのハーフ・パス・グリンプス
 ビドル・グリンプス,サイド・グライド・グリンプス
 アードネス・ブレイクからのリフル・シャッフル・ピーク
 ドリブル・グリンプス 
 ボクシング・グリンプス
 バックリー/エンドフィールド・ピーク

Florian Severin著, 岡田浩之訳『ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険』

 ロリアン・ズィヴァリン(Florian Severin)著, 岡田浩之訳『ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険<Seltsame Abenteuer des Darian Wolf>』です。ドイツ語の原書『13 Steps to Vandalism』は、本国ドイツでは出版するや売り切れ、プレミアが付くことに。その増補改訂版である英語版が『What Lies Inside』。邦訳版は英訳版を底本とし、四六判500ページ超え(!)の約3.5cm厚(!!)簡易函入。パーラー以上でも映えるメンタル・マジックのショー・ピースが、だいたい各章1つずつ解説されています。長いものは60ページ以上あったりもしますが、だいたいはそこまでではありません。

 

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ふろりん本
ハードカバーの縦組み(!!?)で文芸書っぽい感じというか、翻訳&出版者の岡田さんの造本愛の横溢する仕立てですが(あんだけ言ってたのに小口加工はしなかったのね)、実際に本書は読み物として大変面白く、校正をさせてもらっていたTくんは何度となくゲラゲラ笑ってしまって、「世の手品本がみんなこういうクオリティなら世界は平和なのに」とか言っておりました。この質、この分量をベースにされると著者アンド翻訳出版者はだいたい死ぬとは思うけど。彼も私も、「これまでに読んだ手品の本で、これより面白いものにはお目にかかっていない」で意見が一致しました。
 
カード・トリック自体は1つ2つしかありませんので、だいたいの手品マニア(たぶんカード・マニアかコイン狂いに違いない)におかれましては即座にレパートリーになるものばかりかというとそうではないと思うのですが、どの奇術の記述もべらぼうに面白く、現象としての面白さ、そこに至る筋道と構造の妙、アウトや拡がりの持たせ方などが、実にみずみずしく、ときには真面目で真摯に、そしてときにはヤクをキメたかの如きアレな筆致で描かれ、それが岡田さんの手により端正に訳出されています。量は膨大ですが、これ絶対訳してて楽しいやつですよねえ。あとがきでも訳者が爆笑していた様が。そりゃこれは笑いますw 
 
なお校正時のTくんは、マジックそのものではないのだけれど、第三章の「無料での招待奇術ショーを行うこと、その際にアンケートを行って必ず忌憚のない意見を聞き、ショーの演目の組み方や内容の改善に結びつける」という件にいたく感激したそうで、「ふろりんって、毎度まいどイカレポンチなことをバンバン書くんですけど、ショーマンとしては本当に真摯なんですよ。本来ショーを行う人間はこういうことをすべきだし、していなくてはならないと思います。私のまわりでこんなことまできっちりやってる人、一人も見たことないんですが、アマチュアはともかく、プロはこういうことまでしていないとダメだと思いました」とか熱弁しておりました。まあそもそもメンタリズムのショーをやる知り合いがまず見当たりませんが、メンタリズムに限らず、マジックという、観客に反応をしてもらわないといけない芸事においてフィードバックを得ることというのは大事というのはホントにそうですね。他人からの、率直な感想や印象・意見はパフォーマンス改善における最高のドライバーであると思います。
 
まあぐたぐだ言っても始まらないので、とりあえず絶版になる前に買っておくんだ。話はそれからだ。手品本は読まずとも買って置いておくだけで、手品が上手く・深くなる未知の手品波動が出るという研究結果もございます(※私調べ)。相変わらず、この厚さにこの装丁この内容であの値段という、明らかに経済観念に乏しいというか、Tくんよりさらに"さんすうが弱そう"な岡田さんにつけ込むしかない。絶版といえば2020年に出て話題になったMajilさんの新訳『The Expert at the Card Table』、あれもう在庫払底とか聞いたけど、しかも追加で刷ったりスタンダード・エディションも別に出さなくていっかなーとか仰っているとか聞きましたがマジですか?手品本はよく絶版になりますが、マスの東京堂くらいなら2・3年は持つでしょうけど、個人出版の払底・絶版まではまじで早いですね。みんな気をつけて。今回のふろりん本と同じ訳者・出版者である岡田氏から出ていた名著こと"りおちゃん本"も確か払底してましたからね。「おい岡田、ちょっとそこでジャンプしてみろよ」とかやったらポケットから『Thinking the Impossible』が落ちたりしないかな。スタンダード・エディションとか早くしろよ感。あれもたまに読み返すといい手品がぎっしりでありますね。
 
 
って、もう買えるんですね!わあ!(棒) ダイレクト・マーケティング。いや、べつに売れたところで私にマージンとかバックが入るわけではないのでマーケティングというのもちょっとヘンですが(笑) 本好きな人にはお勧めできる。間違いなくこの1冊で1ヶ月以上は楽しめます。
 

 

追記:発売開始直後から出版者が「は、配送が追いつかないんですがこれは……!」とか青息吐息になるレベルで売れておったみたいなのですが、上記の販売ページ、最初タイトル『ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険』しか情報がありませんでしたからね。本であることすら書いていないというw そしてリオボー本とキャロル本の信頼があるとはいえ、そんな白紙状況の謎商品をポンポン買う手品クラスタのブックワームのみんな、嫌いじゃないですw 
 
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目次
 第一章 斯くも脆き空想の檸檬
 第二章 浴槽の花婿
 第三章 『もしもし?』
 第四章 夕暮れにベルが鳴る
 第五章 きみの頭の中のハエ
 第六章 エフェクト・オーバーキル
 第七章 サイコ
 第八章 富籤辺獄
 第九章 シュルームプレダ
 第十章 昨晩のショーの前にアンタが何をしてたか知ってるぜ
 第十一章 時間旅行者の妻
 第十二章 コンフリクト解消
 第十三章 まっしろな嘘が鳴り止まない
 第十四章 モノのサイズは大事
 第十五章 フェンウィック式臨死実験
 第十六章 アバダ・ケダブラ
  
  星幽狼
  421 Ⅱ
  賽は投げられた

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概略
第一章  斯くも脆き空想の檸檬
暗示を主題としたトリック。演者が持つはレモンとナイフ。それを元にした暗示の話をするが、気がつくとナイフはナイフでなく、レモンはレモンでなくなっている。
 
第二章  浴槽の花婿
1人ずつ、50名程度の女性の写真が提示され、観客が自由に選び、かつ考えを変えることもできるが、それが予言されている。
 
第三章  『もしもし?』
自分のショーを改善するために、忌憚のない意見をいただくための無料のショー開催及びそのアンケートの作り方。
 

第四章  夕暮れにベルが鳴る

観客席にメモ帳を投げ、何人かに複数桁からなる数字を書いてもらう。別の観客に、その中から1つの数列を選んでもらい、電話帳の該当ページを開いてもらう。目を閉じて適当な箇所を指差してもらうと、そこにあった名前と、あらかじめ観客席の方に持っておいてもらっていた封筒の中の大きな紙に書かれた名前が一致している。


第五章  きみの頭の中のハエ

観客が3冊の本の中から適当に1冊を選び、さらにその中の適当なページの最初の単語を憶える。演者は「メンタリストの頭の中で何が起きているかを説明する」と言って、ジッパーを取り出して自分の額に貼り付け、舞台に上がってもらった観客にジッパーを開けさせ脳内のものを取り出すように言う。そこから取り出した紙片には確かにその言葉が書かれている。

 

第六章  エフェクト・オーバーキル

「読心術」のパフォーマンスと「予言」の両立のさせ方について。


第七章  サイコ

例の有名映画の殺人を題材に、観客が自由に決めたホテルの客室番号が、最初から衆人環視で置いてあったホテル・キーに記されている。

 


第八章  富籤辺獄

異なった番号の書かれたピンポン玉が50個ほど入ったバケツがあり、演者はステージ上の観客に引かせたいと思う番号のボールを見事にとらせるが、あまり感銘を受けてもらえない。今度は別の観客にもステージに上ってもらい、彼女にも演者と同じように、彼に向かって特定の番号を引かせたいと強く念じてもらう。結果、彼が引いた玉の番号は、彼女が思っていた数字であることが分かる。

 

第九章  シュルームプレダ

ショーの前週、マジシャンと電話で話した観客のひとりは、その中で1人の有名人を考えておくように言われる。ショーの当日、舞台にあげられた彼の思念を、別の観客が読み取り、それが誰なのかを見事言い当てる。


第十章  昨晩のショーの前にアンタが何をしてたか知ってるぜ

プレ=ショー・ワークと、それに伴う諸々。ステージに上げた観客も含め、不思議を供するにはどのような注意点が必要か等。


第十一章 時間旅行者の妻

演者は自分は未来から来たので、このショーで起こることを含め何でも分かっている、という。観客の女性に電話番号をメモに書いてもらい、そのままバッグへとしまっておいてもらう。未来というか今夜の素敵なディナーの場で、キミにビールのコースターの裏に名前と電話番号を書いてもらったんだと言う。そのコースターに書かれた名前は、果たせるかな、先ほどバッグにしまったメモと同じ、その女性の名と電話番号であることが分かる。

 

第十二章 コンフリクト解消

マジックにおけるコンフリクトの内容と扱いについて。


第十三章 まっしろな嘘が鳴り止まない

演者は前時代的なラジカセを持って登場。観客にお願いして空のテープのラベルに好きな曲名を書いてもらう。それを見ないようにしてラジカセにセットし再生。しばらく聴いた後、その曲名を当てる。
続いて別の観客にステージに上ってもらい、あらゆる楽曲が収録されているという『Mix』と書かれたテープをセット、それを聴いてもらう(観客たちにはとくに何も聴こえない)。彼女のうしろで観客席に向けて曲名の書かれたボードを掲げてから、彼女に何の曲が聴こえているかを尋ねると、そのボードに書かれたまさにその曲であることが明らかになる。


第十四章 モノのサイズは大事

Pack small - plays big にまつわる話。

 

第十五章 フェンウィック式臨死実験

イギリスの神経精神科医であるピーター・フェンウィックの実験になぞらえ、演者は外科医同伴のもとで臨死体験を再現することで、通常では見ることのできない手術台の上の無影灯の上に貼ってあるもの(数字と絵)の情報を得る。


第十六章 アバダ・ケダブラ

無慈悲にも自分に駐禁キップを切った憎き婦警の、存在自体を消滅させる。


星幽狼<アストラル・ヴォルフ>

観客の何人かに持ち物をそれぞれ封筒に入れてもらい、さらにその中から1通の封筒を選んでもらう。そこに入っているものをステージに上ってもらった観客が当てる。


421 Ⅱ

観客が4枚の4を手で覆う。メンタリストはジョーカーを自分の手で覆い、おまじないをひとつ。するとカードが入れ替わっていて、メンタリストは4枚の4を持っており、観客の手の下には1枚のカードしかない。


賽は投げられた

ステージ上に心身共に健康な成人を6人並べ、首から番号札を掛けさせる。会場の中から一番若く、もっとも無垢に見える子供(できれば白いドレスで、ウェーブのかかった金髪ロングの女の子)を指名する。彼女に何度かサイコロを振らせ、そのたびに出た目の番号の人は客席に戻っていく。最後に残った番号の客がステージ上で死ぬ。

  

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とにもかくにも傑作の1冊でした。これ以上面白い日本語奇術本は10年は出ないと思いました。10年くらいしたら超えるものが1冊くらいは出てくれないとな、という気もしますが。さっておき著者のフロリアンと、本書を見出し訳して出版してくれた岡田さんに感謝です。 
 
 

『Card College Light』再販

Roberto Giobbi『Card College Light』、また刷りました。さすがにもうこれで最後だろ感がございます。

magic.theshop.jp

 

あと2020年10月6日から20日まで、「shop120thx」のコードを入れると5%引きになるみたいです。よかったらお使いくださいませ。

 

 

あの『ネモニカ学習帳』が払底したのが驚きですね。また100冊くらい刷ったら良いのだろうか。

再販(?)

クローゼットにもう一箱発見したり、再刷したりして、Pit Hartlingの『Card Fictions New Edition』と、Lee Asherの『Losing Control』が買えますよ、というお知らせ、といいますか宣伝です。

 

教授の物販

Pit Hartling『In Order To Amaze』

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撮影:青鬼 the sandbag様

富山でございます。ドイツのマジシャン、ピット・ハートリングの『In Order To Amaze』日本語版であります。ついに任務完了です!足掛け4年。長い戦いでございました。小学3年生だった人が、中学1年生になってしまうくらいの時間です。

 

2019年6月、20年ぶりくらいに来日&レクチャーを行ったピット。参加された方はお分かりというかご同意いただけると思いますが、まあね、震えるほど不思議な手品の数々でしたね。あそこで演じられたトリックがだいたい解説されているのが本書『IOTA』でございます。

kyouju.hateblo.jp

kyouju.hateblo.jp

 

記述が実演を超えられたとは全く思っておりませんが、本当に名著です。メモライズド・デックを主体としたトリック集で、本書を超えるものは今後もまず出ないでしょう。大げさですが、割と『Mnemonica』以降最高の、あるエリアにおける『時代』の目撃者的な思いです。SU☆GO☆SU☆GI.  訳もなんといいますか15周目以降は数えておりませんが少なくとも20周はしました。ていうか30周くらいはいっている気がしなくもないです。いつも真面目にやっているつもりですが、今回はかなりの本気です。ピットも原書もどちらもリスペクトしておりますので、装丁は極力踏襲するようにしました。ハードカバークロス装(布はちょっと汚れが落ちづらいので意図的にやめた)、メタリックデボス加工、本文フルカラー336ページ。印刷費だけで『Card College Light』トリロジー全部の製作費を軽く超えたのは内緒です(震えながら)。

 

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なお昔から、『遊び半分で作ってはいけない本の要素』というのがありまして(※私調べ)、『手品の本』二翻、『ハードカバー装』二翻、『メタリックデボス加工』一翻、『ページ数セットが印刷屋の通常メニューに載っていないレベルで多い』三翻、『フルカラー』二翻って感じなのですが、もう倍満ですよ、プロデューサーさん!うっちゃダメ、勝てない手品本バクチと白い粉。まあ勝とうとは思っていませんが、毎回負ける覚悟で刷ってるのもちょっとどうかしてる気もします。まあいいんです、趣味だし(自分に言い聞かせるための一言)。

 

 

原著に序文を寄せていたサイモン・アロンソンが今年2020年にお亡くなりになってしまいましたが、なぜかわたくし細々と、きょうじゅのアドを借りて、いまさらアロンソン勉強会などを開催しております。

 みんな普通の数理系トリックのほうを担当したがるので、必然アロンソン・スタック系はわたくしの仕事になったりしています。そんな流れもあり、いまの私は『過去に憶えたアロンソン・スタックの記憶が蘇りつつあって、それとネモニカがごっちゃになってきている』という最悪のパティーンです。あ、まあとにかく、著者本人も凄いし、推薦者もすごいぞ、と。本書には数は少ないですけど技法的な意味ではセルフワーキングといえる作品もありますし、別になにかスタックを記憶してなくても特定の配列にしておけばできる手品もございます。というか本書はネモニカ・ベースではあるのですが、21作品中17作品はアロンソン・スタックでもできます(というか、だいたいの場合において、この2つ以外でもできます)。残る4つはネモニカで、とはなっています。2 つは事実そうなのですが、1 つはタマリッツ・スタックでもアロンソン・スタックでもできるもの、そして残る1 つはタマリッツ・スタックからだとすぐセットが作れる並びを使っているものというだけで、なにか特定のスタックでなくても演じられる作品なのです。何が言いたいかというと、『いまネモニカ憶えてなくてもあんまり関係ないですよ』と。

 

まあ色々とお伝えしたいのですけどなかなか言葉にするのももどかしく。ピットの演技を生で見ていただいたらきっと、「これがメモライズド・スタックだからかなんなのかとかはもうよく分からんけど、超不思議で楽しい」と思われるでしょう。そしてそれらは幸か不幸か映像媒体の資料としてははほぼ出ていないわけです。ではあるものの本人の筆による大変素敵な本があります。そして、本書の訳者たる私は著者の大ファン。愛とリスペクトと妄執的な無駄訳注溢れる本書をDon’t miss it!です。家にこもる時間は、メモライズ系の定着を図るのにも良さそうですし。いや、いいに決まっています。

 

――さあ、家に腰を下ろし デックと共に生きよう 暗記と共にコロナ禍を越え エアバイオリンと共にネモニカスタック暗記歌*を歌おう 

 *ホントに『Mnemonica』に載っています。

 

 ■教授の物販:Pit Hartling『In Order To Amaze』日本語版

 

 

『緑の蔵書票』さんは、さすがに原書段階からレビューされていて凄い。

greenware-ex.blogspot.com

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 収録作品

 【Miscellaneous Stack Miracles】

色々なタイプの現象を10トリック。

 

“Catch Me If You Can”

マジシャンは、マジックの鉄則を破って同じトリックを2 回やってみようと思う、と申し出ます。1 回目は指先の早業で、2 回目はそれなしで。

最初は、マジシャンが恥ずかしげもなくテクニックを披露、2 枚の“探偵”カードが、観客に自由に言ってもらった“犯人”のカードを、シャッフルされたデックの中ほどで捕まえます。

そしてありえないことに、もう1つのデック―――開始時点からずっとよけてあり、マジシャンが一切触れていなかったデック―――の中でも、探偵たちの同僚が、自由に言われたカードを捕まえているのです。

 

 

“The Heavyweight”

マジシャンは、カードに関する自身の尋常ならざる感覚スキルをデモンストレーションします。最初に、カットして取り上げられたパケットの正確な枚数を判別してみせます。続けて、ほんの少しのあいだ観客のパケットを持っただけで、それと全く同じ枚数のパケットを取り上げてみせます。最後に、何枚のカードがカットされるかが分かってしまうのです―――それも観客が実際にカットする前に。

 

 

Sherlock

観客の1 人が部屋の一番隅まで行き、デックからカードを1 枚抜き出します。彼はそれを憶えてデックの好きなところに戻します。それからデックがシャッフルされます。これらが済んで、はじめてマジシャンがデックに触れます。アーサー・コナン・ドイル顔負けの厳正な消去法と論理によって、マジシャンは選ばれたカードを追い詰め、そして見つけ出すのです。

 

 

 

“Close Encounters”

3 人の観客が、それぞれデックからカードを1 枚ずつ抜き出し、それを別のデックのバラバラの位置に差し込みます。驚くべきことに、その差し込んだカードはそれぞれ、入れた先のデックにある同じカードのちょうど隣に来ているのです。

  

 

“The Core”

神学的かつ生物学的なカード・トリックという珍しいトリックの中で、観客は演者の個人的な『エデンの園』へと幻想的な旅をします。デックがまさしく果実のようなものであることを知らされた観客は、想像の中でデックの皮を剥いていき、デックの『芯』に何のカードがあるか言うよう求められます。

最初からテーブルに置いてあり、誰も触っていない現実のデック―――マジシャンはこれを取り上げ、ゆっくりと“剥いて”いきます。なんと、このデックは観客の空想の旅から現れたもののようです―――一番真ん中にあるカード、つまりデックの芯は、まさに先ほど観客が口にしたカードなのです。

 

  

“Thought Exchange”

マジシャンと観客の1人がそれぞれカードを1枚、心に思います。そのあと、マジシャンが観客のカードを見つけるのみならず、観客もまたマジシャンのカードを見つけ出すのです!

  

 

“Duplicity”

観客の1人がデックをシャッフルし、カードを配ってポーカーのハンド手札を2つ配ります。ハンドの内容はオープンにされ、どちらかが選ばれます。マジシャンは、別のデックでこの5 枚をコントロールしてみせると言います。マジシャンは2つ目のデックで、同じようにシャッフルし、カットし、そしてハンドを2つ配ります。片方のハンドを見てみると、確かに観客のハンドと全く同じものができています。つまり、マジシャンのハンドは観客の選んだ5 枚と全く同じ5 枚からなっているのです。

マジシャンは、観客のハンドと順番までは同じにできなかったことを詫び、こう付け加えます。「お詫びしなければなりません。こちら、カードの順番までは一緒にする時間がありませんでした。ちょっと忙しくて……もう片方のパケットでそれをやっていたものでね」マジシャンはもう片方のハンドを見せますが、これは観客のもう片方のハンドとそっくり同じ、しかもこちらは順番まで一緒なのです!

 

  

“Echoes”

マジシャンはデックから無作為に1 枚のカードを取り出し、見もしないでそれをテーブル上に置きます。観客の1 人に「やまびこを選んでください」と言って1 枚抜き出させ、それを演者のカードと一緒にしてもらいます。この操作を別の観客2 人とでもう2 度繰り返します。6 枚のカードを見てみると、観客たちの選んだカードは、まさにマジシャンが選んだもののやまびこになっています。つまり、選ばれた3 枚はすべて、演者が選んだカードのメイト・カードなのです!

  

 

“The Poker Formulas”

マジシャンは、暗号のような数字の羅列に埋め尽くされた、よれよれの紙を何枚か取り出します。これこそ自分の『ポーカー・フォーミュラ』なのだと彼は説明します。この公式の力を示すため、観客に何でもいいのでポーカーのハンドをひとつ言ってもらい(ここでは7 が3 枚とK が2 枚のフルハウスとします)、プレイヤーの数も言ってもらいます(ここでは6 名とします)。

紙をガサゴソやってマジシャンは該当する公式を見つけ、それをデックに『プログラム』します。デックを静かにリフルし、叩き、ひねりますが、あきらかにカードの位置は全く変わっていません。言われた通りの人数にカード

が配られ、マジシャンのカードが示されます―――そしてまさに、それが観客のリクエストした通りのハンドなのです! さあ、このポーカー・フォーミュラは最高額でご入札いただいた方のものですよ。

  

 

“Just Like That”

マジシャンと観客がそれぞれ自由にカードを思い浮かべます。同じように自由に、それぞれ1 枚のカードをデックから抜き出し、それぞれ自分のポケットにしまいます。驚くべきことに、マジシャンも観客も、お互い相手が思ったカードを見つけ出すのです。こんな風に(Just like that.)。

  

 

【Quartets】

カルテット(スタックの最短相対距離情報)を使うことで起こすトリック7種。

 

“Top of the Heaps”

マジシャンは、少枚数のカードからなる4つの山を少しのあいだ両手で覆います。すると自由に言われた数値のフォー・オブ・ア・カインドが、それぞれの山の一番上に現れるのです。

 

  

“Murphy’s Law”

マジシャンは、トランプというものは『いにしえのタロット』に由来を持つもので、こんにち今日のデックにも、その『不思議な形質』のいくらかは備わっている、と言います。具体的には、デックは人がどれだけラッキーか、もしくはアンラッキーなのかを判別するのに使える、と言うのです。

それをデモンストレーションするため、観客のひとりにA からK まで、なんでもいいので数値を言わせたら、デックから1 枚ずつ表向きにしながら配っていってもらいます。選んだ数値のカードが早く出れば出るほど、彼はラッキーというわけです。そして、この観客はきわめてアンラッキーであることが判明します。なんと、彼が自由に言った数値のカードはデックの最後の4枚なのです。

  

 

“The Chosen”

観客のひとりが、デックの中の4 枚を自由にタッチします。素晴らしい幸運により、自由に言ったフォー・オブ・ア・カインドの4 枚を、それですべて見つけ出してしまうのです。

 

  

“Identity”

マジシャンは言われた数値のカード4 枚を指先で触るだけで見つけ出す、と言い、デックのバラバラの位置のカードを1 枚ずつ全部で4 枚、表向きにひっくり返していきます。その4 枚はてんでバラバラのカードであるにもかかわらず、マジシャンは言われた数値のカードだと自信たっぷりに宣言します。

観客たちは顔を見合わせ、このマジシャンはアタマ大丈夫かといぶか訝り始めたまさにそのとき、彼らは突如それを目の当たりにします。デックがテーブル上にスプレッドされると、4 枚の表向きのカードは、言われた数値のフォー・オブ・ア・カインドへとたちまち変わってしまっているのです。誰かが「眼医者を呼んでくれ」と言い出す前に4 枚のカードは元の姿に戻ります―――そしてまた言われたカルテットに変わります!

 

 

 

“The Illusionist”

マジシャンは謎めいた感じでこう述べます。時に、最高のトリックというのは、決して実際には起こらないもののことを言うのだ、と。そして彼は、そんな『イリュージョン幻』を見せようと言います。

まずは古典的なスキルのデモンストレーションからです。観客のひとりに、どれでもひとつ、フォー・オブ・ア・カインドを言ってもらいます。マジシャンはデックを何度もカットしますが、その度に言われたうちの1 枚を見つけ出してくるのです。

ところが信じられないことに、マジシャンは、これらは本当はすべて幻なのだ、と言います。そして実際、デックが表向きにスプレッドされると、先ほどカットしたところから出てきたカードはどこにも見当たりません。マジシャンは、トリックが始まるよりも前に入れておいたカードがありましたね、と言って、自分のポケットから4 枚のカードを取り出してきます―――それらは言われたフォー・オブ・ア・カインドの4 枚なのです! 時に、最高のトリックというのは、決して実際には起こらないもののことなのです。

 

  

“Four-Way Stop”

誰かがフォー・オブ・ア・カインドをひとつ言います。マジシャンはカードを1 枚ずつ表向きで配っていき、観客は好きなところでストップをかけます。ストップをかけられたところのカードを公明正大に裏向きのまま置き、もう3 人の観客に同じことを繰り返します。最後に、ストップを掛けられた4 枚が示されると、それはもちろん、観客の言ったフォー・オブ・ア・カインドなのです。

  

 

“The Right Kind of Wrong”

1 から10 の中のひとつの数字に集中しながら、観客がデックをシャッフルして、4つの山にカットします。それぞれの山のトップ・カードを表向きにしますが、意図とは違って目的の数字のカードは出てこず、単なるランダムなカードです。観客が間違ったデックを使っていたことにマジシャンが気づいたとき、すべてが明らかになります。ずっとテーブルに置いてあった別のデックで、カットの結果出てきたカードのバリューぶん数え下ろしていくと、まさにそれぞれの箇所から思っていたフォー・オブ・ア・カインドが出てくるのです。

 

 

 

 

【The Stack Dependents】

タマリッツ・スタックを使うトリック4種。ちなみに1つ以外は別にタマリッツ・スタックである必要はないのですが、それからだと早く組めるというメリットがあったりします。

 

“Fairy Tale Poker”

マジシャンは、実は魔法のデックを使っているのだと明かします。おとぎ話のように、このデックは自ら並びを変えて観客たちの望みを叶えるのだ、と。そうして配られたポーカーでは、他7 人の強力なハンドを、デックの持ち主が4 枚のA で打ち負かすという、とんでもない事になるのです。

 

 

“Quick Change”

デックから1 枚のカードが抜き出されて示されます。マジシャンはデックを素早く4つの山にカットします。それぞれの山の表のカードは、抜き出されたカードと合わせて、ポーカーの強力な役になっているのです。

これがより困難な状況下で繰り返されます。新たなカードが選ばれ、マジシャンはそのカードを使って組める最強の役を作るため、必要となる他の4枚を―――それも4 枚一度に、1 秒で、片手で、手元を見ずに見つけてみせようと言うのです。

選ばれたカードが示され、マジシャンはテーブルの下で4つのパケットを片手で持ちます。一瞬の後、マジシャンが再び手をテーブルの上に出してくると、それぞれの表のカードが変わっています。新たに選ばれたカードとその4 枚を合わせると、スペードのロイヤルフラッシュになっているのです。

 

  

“Poker Night at the Improv”

即興とカード・コントロールの妙技で、マジシャンはシャッフルされたデックから次々とより強いポーカーのハンドを種々華麗な方法で取り出してきますが、その間ずっと、観客に自分が選んだカードを忘れさせようとします。

それらがすべて失敗に終わったとき、マジシャンは残った最後の数枚を観客に手渡し、ポーカーのハンドを配ってもらいます。観客は、彼が自身に勝利をもたらすロイヤルフラッシュを配ったのみならず、最後にカードがちょうど1 枚だけ残ったことに気づきます―――これこそが彼の選んだカードなのです!

 

 

“Game of Chance”

マジシャンがデックをシャッフルし、プレイヤーは赤か黒かの色を言います。カードを3 枚一組でめくっていき、そこに出てきたカードの色を見ていきます。それがプレイヤーの指定した色であるたびに点が加算されます。

ゲームの最序盤から、プレイヤーたちはまるでツイていない感じです。色を選びますが、3 枚目のカードはいつも選ばなかったほうの色なのです、それも最後まで!

デックは繰り返しシャッフルされ、赤と黒がランダムに混ざっていることが示されるにもかかわらず、何度プレイしても同じ結果に終わります。どちらの色が選ばれても、出てくるのは反対の色なのです!

いくつかのバリエーションがいずれも同程度に不満足な結果に終わったあと、最後にマジシャンは、同時に2 人のプレイヤーでやってはどうか、と提案します。1 人が赤を選び、もう1 人が黒を選ぶのです、と。これなら1 人は勝てるでしょう! 3 人目の観客が審判を務めます。彼はマジシャンのための色を自由に1つ言ってから、カードを3 人の参加者へと配っていきます。マジシャンの手札には赤と黒の混ざったカードが来て、得点も普通でした。しかし、他の2 人のプレイヤーが自分の手札を確認してみると、1 人は全部赤いカード、もう1 人は全部黒いカード―――ですがどちらも『ハズレ』のほうの色なのです!

 

 ■教授の物販:Pit Hartling『In Order To Amaze』日本語版