教授の戯言

手品のお話とかね。

マリー先生のデック・レビュー

ライアン・マリーの『Natural Card Magic』、訳者の富山が、訳している中で掲載技法の練習用に使ったもののひとつがPossible Deckだったのですが、これがあまりにうまくいかず、「このデックは作者でも無理なんじゃないのか」と思い、著者献本のついでにデックを同梱して送りつけた結果、律儀に3種4個全部で試してくれた上に5000ワードの長文でレビューしてくださった、というお話。和訳してシェアしてもいいかと聞いたところ「いいよいいよー」とのことであったので以下に掲載するものです。サンキュー、ライアン!こんな観点のデック・レビュー、見たことないですよ!

 

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送ってもらったデックは、Possible Deckの赤青1つずつ、CIRCUS Deck赤1つ、Straight Playing Cards赤1つの計4つ。私は通常USPCCのデックを使用しているので、これらにストリッパー特性が見られるかどうかは知りませんでしたが、すべてのデックに興味深い特性が見受けられました。

 

■Possible Deck
最初にこれを開けたとき、不完全さが見当たらず、また、ダイアゴナル・グリップで試しても、回転させたカードをストリップアウトできないように思いました。技法に必要なズレがないデックなのかもしれないと思ったのですが、回転させたカードの場所にきわめて微妙な色の違いがあることに気づきました。試してみると、このデックはカット具合がきわめて小さいストリッパー・デック(本に書いてあるような三日月型の凹凸ではなく、普通のテーパード・デックの型)であることが分かりました。これを見て驚いたのは、回転させたカードがほとんどそのようには視認できず、全く感じられもしないのに、なぜかストリップアウトできるほど上質なストリッパー・デックであるということです。このズレ・不完全さは、形状的には普通のストリッパー・デックのようでいながら、USPCCデックでのものよりもずっとささやかなのです。本で説明したのとは違いますが、少し練習したらうまくできるようになりました。

不完全さがごくわずかであることが、技法をやりにくくしているわけですが、逆に考えれば、このデックをナチュラル・ストリッパーの原理を知っているマジシャンに手渡してなお、デックの異状には気付かれないという利点があるでしょう。もし、マジシャンから新品の密封されたPossible Deckを借りて、それでエースカッティングを行って、デックを返したとしても、デックをじっくり調べられても何も気づけないと思われます。実際、私は2つ目のPossible Deckを開封して確認したとき、何も見つけられず、2つ目のデックも1つ目のと同じように、技法に必要な不完全さはないかと思ったのですが、日をおいてもう一度試してみると、全く同じ性質を持っていることに気がつきました。

1つ目のPossibel Deckを試したときの映像です(ダイアゴナル・グリップを使っていないことにご注目)。

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そして、これが2つ目のPossibel Deckでの映像です。

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■CIRCUS Deck
このデックはPossibel Deckと同じくストリッパーの特性があるのですが、若干その具合が小さかったです(通常のストリッパー・デックほどは細くなっていない。ただそれでもPossibel Deckと比べるとごく僅かに太い、程度の非常に微細な差ですが)。このデックの場合、そうだと分かっている上でよく見れば分かるとはいえ、マジシャンでも怪しいところを見つけるのは難しいでしょう。このデックも台湾製ですが、もしかすると台湾の工場製だと全てのカードにテーパーが付くのかもしれないと思いました(USPCCの工場製だと全てのカードにカーブが付くのと同様です)。

 


■Straight Playing Cards
これは不思議ですね。確かにクオリティは低いのですが、他のデックとは違う性質を持っていて、ある意味さらに興味を惹かれます。これで試してみたところ、新品デックの順番でいう7枚目ごとのカードがすべてネガティブ・ストリッパー(真ん中が狭く、エッジが太い)であることに気づきました。これはつまり、どのようにカードを回転させても、その8枚のカードをストリップアウトできるのです。それらのカード同士はバリューもスートも関係ないので、これをどうトリックに使うかは謎ですが、きっと何かできることがあるはずです。この方法の利点は、あなたがカードに触れる前に、観客がカードをぐちゃぐちゃに混ぜたり、シャッフルしたりしても、その8枚のカードを見つけられることです。これは、裁断前シートでのカードの並び方に関係があると思います。おそらく7枚ずつ並んでいて、各列の最初のカードの裁断方法が異なるのでしょう。

これは、私がStraight Playing Cardsを試している映像です。目標のカードは横に置いてある紙に書いてあります(映像からも、これが簡単ではないことが分かると思いますが、『ヒット』した瞬間、間違いなくカードが出てくる感触があります)。

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デックを送ってくれてありがとうございました!自分が使っているカードと比較して、どのような特性があるのか、試してみるのは面白かったです。

 

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Reverse Triumph

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で、先日のメールで言っていたのはこれのことですね*1。これは私の手順の第1フェイズであり、マジシャンにも非手品人にも楽しんでもらえるようにしたものです。いま作っているノートでは、ここで使っている方法を取り上げつつ、このトリックと同じ方法を使った他のトリックも掲載する予定です。いつ出るかはまだ分かりませんが、2023年末までには完成させたいと思っています。

*1:注:"先日のメール"では私から、「あなたがやっている、意味分かんなすぎて不思議なやつを見たけどURLを思い出せない手品があったんですけど」みたいなことを書いていました。

Ryan Murray『Curious Weaving』『Natural Card Magic』日本語版・2冊同時刊行

 


ライアン・マリーというカナダの若いマジシャンがおりまして。この2年ほど、日本の一番濃い部類のマニア……もとい、熱心な奇術ファンのあいだではちょっとした有名っぷりでした……やる技法の変態さで。2017年に初版が出て、2020年にその改訂版が出た『Curious Weaving』、2021年に出た『Natural Card Magic』、いずれもすでに上記のようなテジナ・スゴイ・メンによるレビューがちらほらありまして、興味だけはありました。でもほら……英語じゃん?英語読むのめんど……難しいじゃないですか。そんなに厚くないし、誰か訳してよ、と思っていたのです。あとまあダメ元で作者にメールとか出したんですけど、放置されていたので、残念2割、「やった!訳さなくて済むぞ!」8割でいたのですが、来てしまいましたね、返事が。下りてしまいましたね、許可が。そんなわけで両方とも日本語版を作ってしまったのがこれってわけ。正直言うとな、原書のうしろのほうのページ数(ノンブル)を見て、「分量大したことないのう」って思ってたんじゃ。じゃがな、こやつの本、かなりプロローグ的な箇所も長いんですけど、そこのページ表記はローマ数字(i, ii...xi, xiiみたいな)で、そういうのがいっぱいあってからようやくp. 1が始まるトリックが隠されているんですよ。『Curious Weaving』原著は、本文の最後のページ表示はp. 52なんですけど(まあ頑張れなくもないよね?ってページ数でしょう?)、p. 1の前にxxiiiページがあるんですよ。ずるい。実質1.5倍じゃねえか!甘い作業見積もりでつらい思いをするのは私なんですよ!勘弁してください!

 


『Curious Weaving』

ファロ・シャッフルに関する本です。プロローグは普通のファロ・シャッフルの、きわめてまともな内容が解説され、「ああ。OKOK、私も知ってる、できる」みたいな感じなんですけど、第一章ウィーヴ・イン・サーズ、これは何かというとですね、普通ファロって1枚ずつ交互にするじゃないですか。あれを、1・2・1・2・1…って並びにする技法なんですよ。……は?
いやまず、なんでそういうことをしようと思ったのか、と言うのはさておき、なぜこれを実演レベルにまで高めてしまったのかという謎が。ウィーヴ・イン・フォースになるとこれが1・3・1・3・1…って並びになります。ビザー・ウィーヴに至っては、1・1・1・2・1・1・1・2・1・1・1・2……いやちょっと意味がよく分からんですけど、それ雑にファロしたときになるやつじゃないの?とか思うでしょう、毎回ぴたりとこうなるんですわ。
第二章は通常1枚おきにしかならないものを2・2・2…にしたり、色々組み合わせて活用することで、特定のカード(パケット)を2枚おき、3枚おき、4枚おき、6枚おき、8枚おき、9枚おきとかで配置しきるという謎の変態テクが解説されています。第三章は活用と、それらを用いたトリックが解説されています。どうかしてる度がかなり高い一品です。
内緒ですが、いま私、ウィーヴ・イン・サーズが割とできます……(練習していたらなぜかできるようになってきました)。日本で十指には入ると思います。この技法限定ですがw

 

御本人のサイトの御本人による実演:

ryanmurraymagic.weebly.com

 

『Natural Card Magic』

これは、あのなんて言えばいいのか、レギュラー・デックで、ギャフ・カードやギャフ・デックと同じことを起こす方法が解説されています。いや、「え?それっていわゆる技法のこと??とか思うじゃないですか。いや技法には違いないんですが、そんな生ぬるいもんじゃないんですよ。借りたデックなのにストリッパー・デックみたいな使い方したり、借りたデックで、完全に技術だけでエース・カッティング(たとえばシャッフルしてもらって、それ机に置かせて、演者は別になにも見ないである程度の枚数持ち上げると、そこにAがある、的なアレ)ができるんですよ。いや、分かります、「お前なに言ってんだ」ですよね。「どうせアレだろ、みんな大好きク○○プとかだろ?」私もそう思いましたよ。クソリプですわ。でも違うんよ、完全にテクニックだけでやるんですよ。作者本人が、「借りたデックを使って、それでそんなギャフ・カードでもないとできないようなことをして、マジシャンどものココロにダメージを与えたくなる誘惑に必ず駆られる」という、暗い悦びの横溢する技法の変態本なんだ。
内緒ですが、いま私、フェニックスデックなら完全に混ぜられたあとのデックから、Aだけ抜けるようにはなりました。いやべつにAじゃなくて言われたフォー・オブ・ア・カインドでもなんでもいけますけど。なおエースカッティングは全然できない模様。

 

御本人のサイトの御本人による実演:

ryanmurraymagic.weebly.com

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■『Curious Weaving』(A5, 80ページ)

目次
まえがき
プロローグ ファロ・シャッフル

第一章 ロプサイデッド・ウィーヴ
 ウィーヴ・イン・サーズ
 ウィーヴ・イン・フォース
 ビザー・ウィーヴ


第二章 ダブル・ウィーヴ
 ダブル・ファロ
 ウィーヴ・カウント
 トリプル・ファロ、そしてその先
 ファシリテーテッド・ウィーヴ・イン・サーズ
 ダブル・ウィーヴ・イン・サーズ

第三章 関連技法及びその応用集
 セパレーション・イン・サーズ
 K シャッフル
 パーフェクト・リフル・シャッフル
 INVERTED RISING CARD
 ACE PRODUCTION
 STACKING
 ULTRA MEMORIA

エピローグ
付録 参考文献
人名対照表
訳者あとがき

 

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■『Natural Card Magic』(A5, 108ページ)



 発見
 ナチュラル・ロケーター
 カードのところでカットする
 ダイアゴナル・グリップ
 ストリップアウト
 用語

Y
 デックの準備にあたり
 カードを分離する
 密かに回転させる
 デック全体でのローテーション

Z
 原理の適用
 シンプルなロケーションとして
 ブラインド・ロケーション
 Impossible Location
 Double Impossible Location
 Lucky Poker Deal
 Mirrored
 Multiple Selection
 Ace Cutting 
 Epiphany

エピローグ
付録 参考文献
人名対照表
訳者あとがき

 

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Guy Hollingworth『Drawing Room Deceptions』日本語版


が、ガイ様ーーーー!(狂喜の雄叫び)


英國のガイ・ホリングワース(Guy Hollingworth)の作品集『Drawing Room Deceptions』の日本語版が出ました。いや、出たっつってもそんなもんそのへん掘ったって出てくるもんじゃねえんだ(唐突な落語風味)。関係者が一文一文頑張って作ったんですけども。

原著は1999年の初版発行以降版を重ね、いまや10版にもなろうという世界的ベストセラー手品本です。わたくし、洋書っていうか手品自体に疎いのでよく存じ上げませんが、個人作品集でこれより強い本ってあるんですかね。いや、手品とか本で強いってなんだという話ではありますが。端的に言って超強い。原著は擬古的に作られているとのことで、文章自体も格調高く、わたくしのように英語力に不自由している、ソフィスティケイトされていない下々の者(ただし伯爵位は持っている)には難しくてたいへんつらかったのですが、素敵な皆さま(グッドイングリッシュスキルガイズ)の手助けのおかげもございまして、一冊まるまる日本語化することができました。

※特に原著にはないが、古い良い本はグラシン紙のカバーが付いているべきだと思っているので付けました。かっこいい…!横のガイ・ホリングワース・デック(エメラルド/バーガンディ)は大きさ参考がてらの見せびらかしです。

 

わたくしとて、これまでも原著を(ざっくり)読んだり、ビデオを見たりして、それだけでもガイ・ホリングワースの凄さを体感してきてはおります。しかし、2018年の箱根のコンベンション(私は行けなかった)後に、参加した知り合いの方々から「カップアンドボールが不思議すぎる。いまさらC&Bが不思議という時点でもう凄いんだけど、っていうかC&B以外も全部不思議で手がかりすらなかった」「散歩してたら日本語で応答されて、おいおい、なんで日本語……って思ったら『日本に行くとなったから少し会話を勉強したよ』とか言われた」「強いてガイの欠点を挙げるなら、欠点がないところかな」などという逸話を聞かされ、もはや人間としての魂のステージが3段階か4段階くらい違うのではないかと思わされるなどしました。

これは私見ですが、現時点で、彼より面白いあるいは不思議なマジックができる人間はいても、彼よりエレガントにマジックができる人類はいないのではないでしょうか。細身・長身・スーツが似合う・英国人。いまはどうか知りませんが、若かりし頃はピアノとフェンシングが趣味。職業弁護士。良家のご出身で寄宿学校経験者。……おい、ホント設定詰め込みすぎだろ。もし私が編集者で、こんな設定のキャラ見たら「人間が描けてない」とか言いたくもなります。

マイク・ケイヴニー(出版者でもある)が序文で、『著者のことを何も知らずに本書を読んだら、このガイという人は大学の教授と思うかも知れません。でも実際には学生なのです』とか書いているのですが、ほんとそれです。熟練のマジシャンが、40歳50歳くらいになったので、さてこれまでの人生で磨き上げたレパートリーをまとめたぞ、って言うなら分かりますけど、この完成度の高い作品・技法の数々を書いたの、ガイ様が24歳のときですからね。どうかしています。しかも各作品・各技法、どれをとっても当時、業界的にも革新的だったという凄さですよ。さらに本人の演技も技術もめっちゃうまい。挿絵も全部自分で描いているしうまい。なんというか、ほんとよくその有り余る才能の恩恵の一部を手品業界にもたらしてくださったなあという感謝が生まれます。1日1万回、感謝のミラクル・チェンジ*ですよ。

*マーローの技法。ガイ様のお気に入り。

あとまあ、私の英語力のしょぼさや平民であることはさておき、やっぱり原著の英語はちょっと難しいと思います。「ハハッ、『DRD』は原著で読んだよ」と仰るあなた!それ、本当に読めていますか!?正直に言い給え!なお私は、今回訳した結果、「いままでは読んだふりで全然読めておりませんでした!」というのが正直なところです。ただ上にも書いたように、今回の日本語版は各位に相当揉んでいただいた結果でもありますので、安心してお読みいただき、読破の暁には堂々と「ああ、全部きちんと読んだが?」と仰っていただける(優雅に紅茶を飲みながら)ものと信じております。ガイ様本人、そして原書の査読チームが見つけていなかった間違いだって見つけてそっと直したりしているくらい真面目に読んでおります(というか、皆さんにお読みいただいている手品本の日本語版は、訳者をはじめみんな結構マジに取り組んでいることもあり、たいていの原著には誤りを見つけているのは内緒です。「いやお前、そこ直しても日本語のほうで新たな誤記・脱文が生まれてるじゃん」というご指摘は聞かなかったことにします!素人の皆さんはご存知ないと思いますが、違うんですよ。本というものはですね、出来たタイミングでは無謬なんですよ。なんですけど、発送途中に出てくる妖怪・活字ずらしの仕業によって、そういった誤りが発生してしまうんじゃよ)

いやしかし本当にですね、読めば読むほど凄まじい本だな、と思いました。訳したからとか関係なくです。捨てネタというか埋め草みたいなトリックがゼロというか、1作品でもマスターすれば、どこかでマジックを乞われて困ることはないでしょう。さらに、第一章でも語られていますが、本書に収録されたトリックのほとんどが、多人数向けに見栄えがするように設計されているというところも、私からの推しポイントです。

個人的にはジャケットの使い方が本当に巧みだと思うので、秋口以降、ジャケットを羽織るようになったら練習も捗るってものです。

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できた時点で、FBに「出来たー終わったー!」的なポストをして、友人たちから「お疲れー」とか色々メッセージをいただく中、「すごい!読みたいです!」のコメントもいただき、「いやほんとにいい本なんで読んでほしいですわ。誰からかな?」とか思ったら……。

 

お茶目すぎるよガイ様www 著者御本人登場w 訳とかしてて良かったです。さておき、世界的に有名なあのガイ・ホリングワースさんも読みたいという名著、『Drawing Room Deceptions』です。

帯を付けたいですね。『ガイ様も興味津々!「すごい!読みたいです!」』

 

 

【期間限定コラボのお知らせ】

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スクリプト・マヌーヴァさんと期間限定コラボ(2022 7/31まで)です。
・教授の物販で本をご購入いただいた方は、その中のとある情報を提示すれば、マヌーヴァさんで扱っているガイ様の映像作品が20%オフで購入可能になる

・マヌーヴァさんでガイ様の映像作品を買われた方には、本書を購入いただく際に使える2000円の割引クーポンが出る

というものです。

ちなみに小石川文庫というか教授の物販のほうは、特定の商品に対してのクーポンが出せなかったので、「マヌーヴァさんでガイ様関係の商品をお買い上げになると、(教授の物販で何にでも使える)2000円割引クーポンが出る」というのが本当の状況ですが、細かいことはいいのです(なお、お買い物額が3千円以上でないとクーポンは使えません)。

「わあい、私も買っちゃうか!」と思いましたが、私、オリジナルの3枚セット版も、マヌーヴァさんの日本語字幕付き版3種も持っているんですよね。ぐぬぬ。いや、『London Collection』『Routines』はVHS版だって持っていますよ!(さすがに『Reformation』のVHSは持っていませんが)

【2022 8/1追記】→盛況のうちに終了いたしました。ご利用いただきました皆さま、ありがとうございました。


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目次

出版者の覚書
序文

 第一章
カードがひっくり返る、移動する、色毎に分かれる、
あるいは何らかの離れ業を演じることについて。
 Waving the Aces ……………………3
 Waving the Aces II …………………15
 Oil and Water ……………………23
 Cherchez la Femme …………………27
 The Hofzinser Problem (or so it has become known)…28
 Other Thoughts ……………………29

 第二章
奇術につきものの難しさとビスポーク仕立ての利点について。
 The Penetration of Four Cards through a Jacket …32
 Travellers ………………………46
 An Ambidextrous Interchange ……………50
 A “One Card” Routine ………………62
 Other Thoughts ……………………68

 第三章
文房具、それから幸運の意義深さについて。
 The Control of Chosen Cards ……………73
 An Ace Assembly …………………80
 The Homing Card …………………90
 Cannibal Cards ……………………98
 Other Thoughts ……………………103

 幕間
様々な奇行を含む。
 シフト考………………………106
 コントロール手法とパーム手法……………118
 カード・スイッチ考…………………134
 フォールス・ディール考………………143
 フォールス・シャッフル考………………153

 第四章
数多の不正を織り交ぜながら。
 A Gambling Routine …………………165
 A More Light-Hearted Routine ……………176
 A “Call to the Colours” Routine ……………187

 第五章
夜の来訪者』と彼の企みについての議論。
 A Destroyed and Reproduced Card …………203
 A Card at Any Number ………………215
 A Card Stab ………………………223

 第六章
幾つかの詰め合わせ:
箱を使うもの、独特なシャッフル、そしてトロイの陥落。
 Three Cards Under a Box ………………228
 A Triumph Routine …………………235
 The Cassandra Quandary ………………250

 エピローグ
カードを破いて復元する一手法を論じつつ。


後註…………………………301
訳者あとがき………………………305

 

B5変形サイズ(原著と同一)、箔押し上製本、約320ページ。

 

 

 

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Vincent Hedan『Multitude』日本語版

フランスのヴィンセント・エドンというマジシャンがおりまして(綴り的にヘダンかと思っていたのですが、フランスは語頭のHを読まない上に、この人の名前は音がちょっと特殊で、ア音よりもオ音に近いので、そのように表記しています)、その『Multitude』という作品集の日本語版を作りました。A5サイズ、172ページ。

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彼は2008年にフランスのメンタリズムの大会で優勝、2011年にFFFFのメンバーになり、2012年にはカナダ・マジック・チャンピオンシップで功労賞を受賞して、同時にFISMのフランス代表メンバーに選出されたりしている、メンタル界での俊英です。また、フランスではマジック本の翻訳者としても有名で、バナチェク、ジョン・バノン、ユージン・バーガー、ベン・アール、ロベルト・ジョビー、アンディ・グラッドウィン、ルーク・ジャーメイ、クリス・ケナー、マックス・メイヴェン、デビッド・リーガル、マイケル・ウェバー等、30以上の著作をフランス語に翻訳している、アニメファン。……ちょっとキャラがかぶるじゃないですか。

 

私は当初全く存じ上げない方だったのですけれど、憶えなくてもいいメモライズド・スタックのマジック書籍『Amnesia』への興味からそれを買い、さらにPenguinmagicのライブレクチャーを見て、そこで引っかかったカード・マジックが結構あって、それがだいたい解説されているのがこの本『Multitude』の原書、みたいな流れでした。ペンギンライブで演じられていた他のカード以外の作品もかなり不思議で、かつやってみたいと思えるようなものが多く、いいセンスのマジシャンだなあと思いながら見ていただけだったのですが、まさか訳すことになるとは。8割くらい実話の『訳に至る経緯』が訳者あとがきに載っています。

 

本書でメインとなるのはマルチイフェクト・デックという、100年以上前からある仕組みのデックです。それを彼が、自身の手順を作るためにモダナイズ、磨いてきた作品が解説されています。なお、ホァン・タマリッツ、ピット・ハートリング、マイケル・ウェバーらの著名マジシャンたちも、この原理を使ったマジックを研究していることは賢明なる読者諸兄諸姉はご存知であろう(本書で初めて知ったことを、さも既知のことであるかのように語るスタイル)。従来ならスタックや専用のギャフ・カードが必要になるようなトリックが、シャッフルをしてなお成立するようになり、しかもお手軽簡単になる、というのがこのデックの面白いところです。

 

本書の構成として、冒頭にそのデックの来歴、ヴィンセント版の構成、扱い方などがまとめて解説され、その後で9手順(これはひとつなぎの財宝……じゃなかった、ルーティーンとして繋げて演じることもできますし、適当に省いて好きなのだけチョイスすることも可能)、それ以外7手順を解説、となっています。

 

おまけその1:

本書には「映像集」として、この本のためにヴィンセントが撮影したトリックの実演と解説の映像が付きます(全部英語ですが)。なので、実際はどんなふうな感じで演じているのか知りたくなっても安心です。解説自体は本書のほうが絶対詳しいといいますか、日本語なので分かりやすいですけど。

 

おまけその2:

本書の「参考情報集」には、マルチイフェクト・デック作成に使える道具の参考リンクが付いております。そのついでに、日本ですぐ手に入る物だと何がいいかも訳注で記載しています。

 

おまけその3:

ほんとうの意味でのおまけはこれだけなのですが、Straight Playing Cardsのデックにちょいとした触知加工(ギャンブルで使われていた、いわゆるパンチ・カードです)を施したものを、こちらでお買い上げいただいた方には早い者勝ちでお付けいたします。当初はそれに加えてショート加工と仕上げまでして付けようと思っていたのですが、これを何十個もやるのはつらいということに2個目で気づいてしまったので、これはもう特殊な道具も不要ですのでご自分でお願いします。すまぬ、すまぬ……。おまけその2で、カド加工用の文房具の例示もしておりますので慣れれば15分くらいでできると思うので頑張ってください。

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なお、SPCとかNOC、インポッシブルみたいなのっぺりしたデザインのものだとどうしてもあれですが、バイシクルとかフェニックスとかで同じパンチ加工をすると全く見えません。変態テクニックもいいのですが、こういう昔ながらの一工夫が好きなんですよね。
ちなみに本文にも書いてありますが、ヴィンセント本人はバイシクルでマルチイフェクト・デックを作っている上にそのパンチ加工を施し、さらにBWMDにもしているので、よくばりセット感があります笑

 

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収録内容

はじめに

THE MULTIEFFECT DECK

DECK DESCRIPTION

HANDLING THE DECK
 テーブル上でのカット
 観客によるカット
 手の中でのカット
 テーブル上でのリフル・シャッフル
 手の中でのリフル・シャッフル
 ホァン・タマリッツのサトルティ
 観客によるシャッフル
 オーバーハンド・シャッフル
 エラー修正

 

THE ROUTINE

OVERTURE

  • SIMPLE CARD
    デックをシャッフルし、言われた個数分の山に分け、言われた順序でまとめ直すが即座に見つけ出す。
  • VISION OF THE FUTURE
    デックを裏向きで広げ、演者はうしろを向く。その間観客が1枚選んで憶え、それを箱にしまう。向き直った演者は、観客に選んだカードのことを思うように言うが、「例えばですが~」でマジシャンが挙げるカードがまさしく観客の選んだカードである。
  • TWINS
    デックをシャッフルし、20枚ずつ程度の2つの山に配り、どちらかの山から1枚のカードを選んで憶えてもらう。マジシャンは選ばれなかったほうの山から1枚を抜き出し、表を見せずに裏向きで山の中程から突き出た状態にする。2山を1枚ずつひっくり返していくと、マジシャンがカードを差し込んだ同じ位置から観客のカードが出てくる。そしてマジシャンのカードを表向きにすると観客のカードのメイトである。
  • OUT OF THIS MULTIWORLD
    マジシャンと観客で20枚ずつ程度のカードを持ち、観客にはマジシャンの動作をトレースしてもらう。マジシャンはずっと表向きに、観客は裏向きでカードを配っていくが、観客は表を見ていないにもかかわらず、赤と黒をきれいに配り分けていたことが分かる。
  • FOLIE À 3
    観客の男女が1枚ずつカードを選び、デックの中に戻してどこに行ったかわからないようにする。男性がデックをコンプリート・カットし、女性のほうに向けてスプレッドすると、それぞれの端に選ばれたカードが来ていて、しかもメイトになっている。
  • SANDWICH
    何回かシャッフルしたデックを、テーブルに裏向きで置き、マジシャンが目をそらしているあいだに、観客が自由にカードを1 枚選び、見てからデックに戻してシャッフルする。マジシャンは向き直り、デックを再びシャッフルし、表向きの2 枚の黒のカードをデックに入れ、もう一度シャッフルしてカットする。デックを裏向きに広げると、2 枚の黒のA が1 枚のカードをサンドイッチしており、これが選ばれたカードである。
  • TACTO MÁS QUE FINISIMO
    マジシャンはスキルのデモンストレーションとして、言われた枚数でちょうどカットできるといい、その通り実演する。
  • IMPOSSIBLE
    最初は自明に見える状態で始めるが、徐々に難度を上げていき、最終的には不可能に思える状況下で観客の選んだカードを当てる。
  • THE DECK & THE HAND
    デックを数回シャッフルしてカットしたあと、マジシャンは観客の両手で目隠しをされる。ここからマジシャンはデックを自分の目の前のテーブル上に、4 つの裏向きの山に配り始める。途中、誰かに「ストップ」と言われたら、マジシャンは配るのを中断してデックをシャッフルし、それからまた配り続ける。デックを配りきるまで、このような中断が何度か挟まる。すべてのカードがテーブル上に配られたら、観客は目隠ししていた手を離し、マジシャンは目を開ける。この4つの山を見ていくと、スートごとに見事に分かれていることがわかる。

 

EVEN MORE EFFECTS

  • DIPROSOPUS
    デックをシャッフルし、観客がカットしたあと、テーブルに裏向きでスプレッドする。マジシャンが目をそらしているあいだに、観客は任意のカードを1 枚取り、それを見て憶え、デックのどこかに戻して、揃えてカットする。マジシャンはデックを手に取り、選ばれたカードを探していき、躊躇しているように見えつつも、デックをテーブルの上に置く。観客に、自分のカードの名前を言ってもらい、デックのトップ・カードをめくってもらうと、それが観客の選んだカードである。
  • BONUS
    観客は、シャッフルされたデックの中から自由にカードを1 枚選び、再びデックの中に混ぜ込む。マジシャンは、そのカードを魔法のように取り出し、さらに同じ値の他の3 枚も取り出してくる。
  • BIDDENDEN
    デックをシャッフルしてカットしたあと、観客が自由に1 枚カードを選ぶ。観客は自分の選んだカードを裏向きに広げたデックの任意の場所に差し込むが、デックから突き出た状態にする。選ばれたカードのすぐ下にあるカードを見ると、それが期せずしてそのカードのメイトであることが分かる。
  • ASSASSIN TWINS
    デックがシャッフルされ、マジシャンは背を向ける。観客の1 人が自由にカードを1 枚選び、他の観客たちにも見せてから、それを保持する。マジシャンは自身の財布を取り出すが、そこに入っている1 枚のカードが選ばれたカードのメイトである。
  • MENTAL SQUARE
    観客が1 から13 までで1つの値を選び、その値のカードを1 枚、デックの中から取り出す。演者は、そのカードのスートを当てる。
  • MONOAMNIOTIC TWINS
    2 人の観客がそれぞれ1 枚のカードを選ばせ、そのまま手元に持っていてもらう。デックをシャッフルして紙袋に入れて振り、カードをさらに混ぜる。マジシャンは紙袋の中に手を入れ、そこから1 枚のカードを取り出すが、これが最初の観客の選んだカードのメイトである。演者は再び紙袋の中に手を入れ、そこからもう1 枚のカードを取り出すが、これも2 人目の観客のメイトであることが分かる。
  • ZYGOSITY
    デックを2 つに分け、片方を観客用、もう片方をマジシャン用にする。マジシャンは、自分のカードを1 枚、テーブルに裏向きで置く。観客は、そのカードが赤だと思ったら、自分の赤いカードを1 枚、マジシャンの出したカードの前に表向きで置き、このカードが黒だと思った場合、彼女は黒のカードをそのカードの前に置く。この理屈で続ける。最終的に確認してみると、観客は毎回正しいメイトを置いていたことが判明する。しかし1箇所でミスをしているが、最初からテーブルにおいてあった紙を見ると、そこにはそのミスの内容が明示されている。


映像集
参考情報集

訳者駄文

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Simon Aronson『Memories are Made of This』日本語訳版頒布

2022年1月にスクリプト・マヌーヴァさん主催のピット・ハートリングのオンラインレクチャーがあり、そこでまたハァハァしておりましたが、質問コーナーでどなたかが「メモライズド・デックのマジックを始めるのによい参考資料はありませんか」ということを聞いてらっしゃいました。その中でピットの回答の一つとして『Memories are Made of This』が挙がっていました。これは、アロンソン・スタックでもたいへん有名なアメリカのマジシャン、サイモン・アロンソン(2020没)が、「メモライズド・デックのマジックをはじめたいけど取っ掛かりがよく分からない」「52個憶えなきゃいけないとか正気か?」「なんか代わりはないの?」みたいな悩める子羊を優しく導くコラム的なもので、ご本人のサイトや、Vanishing Inc.で無償で頒布されている英語の資料です。アロンソンによる冊子であること、また彼自身がそういったマジックや著作を数多く作っていることから、アロンソン・スタック限定の話が書かれていると思いきや、メモライズド・デックのマジック全般について、きわめて一般化した内容となっています。

理由はいまもって謎ですが、アロンソン亡きあと著作の権利を管理されている奥様に、ふとしたきっかけで日本語版作成について相談したところすぐにご快諾いただけまして、で、まあ諸々の現実逃避がてら、稲作(サクナヒメ)とお仕事(生活費を稼ぐアレ)の合間を縫って訳してみました。

 

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初版が1999で、第2版が2002、それにボーナストリックを加えたものが2009年に改訂され、今回はその最新のものを底本にしています。また参考資料には主に彼の本である4冊が挙げられていますが、出した年がそのあたりのため、彼の最後の本となった『Art Deco』(2014)については含まれていません。ちなみに有志で18ヶ月ほどやっていたアロンソン勉強会では、なぜか私はみんながやりたがらないであろうメモライズド・デック関連のものばかり訳しており、結果、今回参考等で出てくる項目やコラムなどはほぼ全部読んでおりまして、偶然というのもあるものだな、と思いました。

私もいまでこそ特に意味もなくアロンソン・スタックもタマリッツ・スタックも憶えておりますが(※憶えているだけではありますが)、52個の関係性の暗記ってあまり絶望的でもないです、ということはお伝えしておきます。この伝統的で奥深いカテゴリに対し、何からとっかかればいいのかと悩み、悩んだだけで結局何も手を付けないで放置、となりがちな、つまり、かつての私のような人たちに向けて、メモライズド・デックを使うとどういうことができるのかをご案内し、ちょっと練習してみようかなと思う人が出てくれるようにこれを書いてくださったアロンソン先生に敬意を示しつつ、今回の日本語版頒布といたします。

すべての練習がほぼ脳内で完結できるのがメモライズド・スタックのいいところで、日々のルーティーンワークの最中や、何かの待ち時間などを活用して修行できる、面白いスキルだと思います。この日本語訳版がみなさんのご興味や、取っ掛かりへの一助になれば幸いです。

 

◆Simon Aronson『Memories are Made of This』日本語訳版

【2022.0315追記:微修正したv.1.2に差し替えました】

【2022.0310追記:微修正と、巻末に日本語参考資料紹介を追加したv.1.1に差し替えました】

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■内容

はじめに    3

I. 始めるにあたり    6
 どのスタック、どの並びを憶えるべきでしょうか?    11
 他に必要なものはありますか?    14
 暗記の代わりになるものはありますか?    16
II. メモライズド・デック実践:基本原理    18
 1. 秘密のグループ    19
 2. カウンティング    21
 3. 端点    23
 4. 数理的原理    26
 5. オープン・インデックス    29
III. スタックを憶えるにはどうしたらいいですか?    32

むすびに    38

補足    40

 補足A:メモライズド・デック関連文献    41
 補足B:アロンソン・スタック    44

2009 Bonus “Shuffle Tracking”    46

日本語版参考資料紹介    55

 

 

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Harapan Ongの『To your Credit』を訳され、先日から無償配布を行っている、『Card College Vol. 5』の翻訳者である星野泰佑さんを、わたくしは日本手品界の聖人と崇めているのですが、私も列聖までは無理でも、未来の尊者ノミネート候補代行代理、くらいになれるよう徳を積みたいと思いまして、今回の行いとなりました。俗っぽさ丸出しでありダメっぽいです。ぐぬぬ

 

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Roberto Giobbi『The Art of Switching Decks』日本語版

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デック・スイッチ!我々はその名に!その技に!その効果に!憧憬を禁じ得ないッ!

お、なんか東京ドーム地下で奇術の闇試合が行われそう。

 

magic.theshop.jp

 

そんなわけで、ロベルト・ジョビーの世界的名著が、日本語完訳&DVD付きで登場です。まあ言うてもですよ、まずこの本のタイトルがまんま"デック・スイッチ"ですし、付属DVDもGeniiコンベンションでのデック・スイッチ・レクチャーですよ?そりゃそこで扱う手品にはデック・スイッチ使ってるに決まってるじゃないですか。なにやるかさえ分かってたら、いくらうまくやったってそりゃ分かりますよ。

<DVD視聴中>

私「ば、バカな、まったく拾えなかった……」

 

ちょっと前に、二川さん「いやー全然気づかなかったですね」と 富山君「まったくわからないです…」を聞いて、おいおいアナタタチの目は節穴ですか、とか思ってすみませんでした。節穴は私でした。
ジョビー「私はこのレクチャーで、全部で15個のデックを使っていました」
おいまじかよ。ショー自体は30分足らずだぞ。どんだけスイッチするんじゃ。まあ、天下の故ダロー先生ですら、このレクチャーのジョビーに対し、"デック・スイッチを追うどころか疑いもしていなかった"と聞きますので、文脈をきちんととった中で行われるスイッチはマジ魔法、ということですね。

カード大学の教授(学長?)ことロベルト・ジョビーによる、デック・スイッチに関する本です。訳者がこの本170ページもないぞ、と挑み、途中で、「おかしい……全然訳が進まない。……?この本、ひょっとしてカレッジ・ライトとかじゃなく、カレッジみたいな……大判本ではないですか?」と気づくというポンコツかましたことでおなじみの素敵本です。

 

みんなだいすき、ロベルト・ジョビー先生により、古今のデック・スイッチが様々な観点から体系化、整理され、中でもマジックに有用と思われるデック・スイッチの数々を豊富な写真と明快な筆致で解説している、ワールドワイドではむしろカード・カレッジ・シリーズよりも好評を博している本(著者談)、その日本語完訳版です。

B5判ハードカバー装、箔押しジャケット、本文約160p、約18mm厚、DVD付き

 

世界に数多ある本書の訳書では唯一(らしい)、日本語版にはジョビー本人のGenii記念大会での実演・解説動画入りDVD(プレス)もついてしまうのです。凄い!買わなきゃ!原著割と高いのに、なぜかそこまでやってお値段据え置き程度。やはりヤツは算数が弱いらしいです。

さあみんな、ありとあらゆる方法・状況でデックをスイッチしましょう!

 

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目次
デック・スイッチの用語と構造. . 1
1. 専門用語. . 1
 ドレス・マップ. . . . . 2
2. デック・スイッチの構造. . . . . 2
 デック・スイッチのカテゴリー. . . . . 6
 デック・スイッチの表. . . . . . . . . . 9
基本原則. . . . . 10
 デックを離しておくには. . . . . . . . 10
 フィンガートング・スイッチ. . . . . 11
 コールド・デックのグリップ方法. . . . . 13
 種々のボディ・ホールドアウト. . . . . 16
 シャッフルを印象づける. . . . . . . . 18
 演技を遅らせる. . . . . . . 20
 密封されたデックを準備する方法. . . . . 21
出し入れによるデック・スイッチ方法. . . . . . . . 23
 ポケット探りのデック・スイッチ. . . . . 23
 ペン探しデック・スイッチ. . . . . . 26
 『トップレス』・デック・スイッチ. . . . . . . . 27
 高速デック・スイッチ. . . . . . . . . 29
 ニンジャ・デック・スイッチ. . . . . 31
 背中のうしろでのスイッチ. . . . . . 32
 ポケットからポケットへのスイッチ. . . . . . . . 36
 振り向きデック・スイッチ. . . . . . 39
パルタガス・スイッチ・プラス. . . . . 43
 トリプル・パルタガス. . . . . . . . . 43
 ツーポケット・パルタガス. . . . . . 46
 ヒューガードのデック・スイッチ方法. . . . . . . . 50
 デックが知っていますので. . . . . . . . 54
 リボン・スプレッド・デック・スイッチ. . . . . . 58
 リラックス・ラップ・デック・スイッチ. . . . . . 61
 椅子調整デック・スイッチ. . . . . . . . 63
 マネー・スイッチ. . . . . . . 67
 マーニ・プリーテ・デック・スイッチ. . . . . . . . 70
 フリップのデック・スイッチ. . . . . . 74
 紳士的デック・スイッチ. . . . . . . . . 77
 ギャンブラーのジャケット・デック・スイッチ. . . . . . . . . 79
 ジョーカー・デック・スイッチ. . . . . 82
 エキボック赤青デック・スイッチ. . . . . 85
 リアル似非デック・スイッチ. . . . . . 88
 ヒンバーのカミソリ・デック・トリックの再考. . . . . . . . . 93
 片手スイッチ. . . . . . . . . 99
 箱入れデック・スイッチ. . . . . . . . . 102
 シンプレックス・デック・スイッチ. . . . . 105
 クール・マンのデック・スイッチ. . . . . 109
 トロイのデック・スイッチ. . . . . . . . 112
 スイッチをしないデック・スイッチ. . . . . 116
  その他のスイッチをしないデック・スイッチ. . . . . . . . . 116
 簡単な追加アイディア. . . . . . . . . . 122
  輪ゴムの策略. . . . . . . . 122
  Do-as-I-Do . . . . . . . . . 122
  トスアウト・デック・スイッチ. . . . . 123
  ミラー・グラス・スイッチ. . . . . . 123
  中空容器スイッチ. . . . . 124
  出し入れのスイッチ. . . . . . . . . . 124
  スティングのデック・スイッチ. . . . . 125
  引き出しボックスのデック・スイッチ. . . . . . 125
 デック・スイッチ厳選紹介. . . . . . . . 126
  アマーのハンカチーフ・デック・スイッチ. . . . . . . . . . 126
  ベイカーのデック・スイッチ. . . . . 126
  バーグラスのデック・スイッチ. . . . . 126
  カーライルのデック・スイッチ. . . . . 127
  ディングルの“立ってできる技法要らずのデック・スイッチ” . . . . . . . 127
  ドラウンのデック・スイッチ. . . . . 128
 エルムズリーのデック・スイッチ. . . . . 128
 エングブロムの『ザ・クーラー』. . . . . 128
 『Encyclopedia of Card Tricks』のデック・スイッチ. . . . . 128
 ファンタシオのデック・スイッチャー. . . . . . 129
 フリップのデック・スイッチ. . . . . 129
 フォーティのデック・スイッチ. . . . . 129
 ギャンブラーたちのデック・スイッチ. . . . . . 129
 ギャンソンのデック・スイッチ. . . . . 130
 ジョビーのデック・スイッチ. . . . . 130
 ゴールドスティン/メイヴェンのデック・スイッチ. . . . . 130
 『Greater Magic』のデック・スイッチ. . . . . 131
 ホフマンのデック・スイッチ. . . . . 131
 ジェニングスのデック・スイッチ. . . . . 131
 コーランのデック・スイッチ. . . . . 132
 ラヴェルのデック・スイッチ. . . . . 132
 マディソンのデック・スイッチ. . . . . 132
 マーローのリフル・デック・スイッチ. . . . . . 133
 リチャードソンのデック・スイッチ. . . . . . . . 133
 シャクソンのデック・スイッチ. . . . . 134
 タマリッツのデック・スイッチ. . . . . 134
 タナーのデック・スイッチ. . . . . . 134
 タッカーのデック・スイッチ. . . . . 134
 ヴィクターのデック・スイッチ. . . . . 135
 ウォーターズのデック・スイッチ. . . . . 135
 ワンダーのデック・スイッチ. . . . . 135
 ビルとベアのデータベース. . . . . . 135
 おわりに. . . . . . . . . . 135
デック・スイッチではありませんが…… . . . . . . 137
 カーニーのカード・イン・バルーン. . . . . . . . 137
 クレイトン・ロースンのメンタル・ブロードキャスト. . . . . 137
 ヒューガードの演出例. . . . . . . . . 138
 ヴァーノンの“Staring Him in the Face” . . . . . 138
 ルカのエアボーン. . . . . 139
ロタ・ボウル・スイッチ. . . . . . . . . 140
DVD について. . . . . . . . 141

 

【2022.0104追記】

日本語版、p. 134、「シャクソンのデック・スイッチ」の書誌情報が抜けておりました。お詫びして以下に記載します。申し訳ございません。
Alan Shaxon, 『My Kind of Magic』, p. 24, “Switching a Pack of Cards”

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ちなみにガイ・ホリングワースの『DRD』は識者数名へ査読に出したとのこと。来年前半には出せそうですね。ほんとに出るのか、あの本が……。

 

それでは皆さま良いお年を。

 

Harapan Ong『侘寂』『王房四宝』

我が国においていつまでも出なかった『カードカレッジ』シリーズ最終巻、その永遠に訪れないと思われた完結に終止符を打った<ラスト・マン・スタンディング>な男こと星野泰佑さんによる、ホシノ秋の(ハラ)パン祭りが始まりました。シンガポールのマジック賢人的なハラパン先生ですが、彼の『Wabi-Sabi』(2017)と、『The Four Treasures』(2020)の邦訳版(ギャフ・カード付)が同時リリースです。本当は彼の大著『Principia』の邦訳版も同時に、3冊でのジェットストリームアタックをかける予定だったそうですが、そちらは付属物の製作が間に合わなかったため後日にまわった模様。先般の『To your credit』の訳も星野さんがされていますし、もう名実ともに、「ハラパンといえば星野」みたいな感じですね。

 

思い起こせば2021年1月、ハラパンがThe Four Treasures』を出すことを知り、珍しく手品欲が盛り上がっていたタイミングであったこともあって、私は本人から直接買ったのです。送料込みで45ドルくらいしたわけですが、その翌週、国内のショップでも3500円くらいで扱うようになって、そしてさらに数カ月後には今回の星野さんの所業ですよ。最初から邦訳版を待てば良かった。上記の3冊とも校正のお手伝いをさせていただいているので、『The Four Treasures』を筆頭に読まざるを得なくなったことは良かったのですが、大変悔しい思いを致しました。しかも日本語で読める上に安くなっているとかどういうことなのか(邦訳あるある)。あと実は「そこまで厚くないし、訳してみようかな」と思っていたりしたのですが、綺麗に先を越されました。とはいえ他の方が訳してくれるならそれに越したことはないのでみんな色々訳して出してください。買うほうが楽なのです…。校正・査読がないとなおラクでしたね。
 
ラスボスである彼の『Principia』は、高評価とはいえでかくて厚くて重いやつなので、毛色の違う今回の軽めの2冊でウォーミングアップをしておくと良いのかなと思っております。ハラパンという人の手品の作り方・見せ方・考え方のいい取っ掛かりになるかと。作品もかぶっていませんしね。
 
 

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『Wabi-Sabi』(2017)
  • 持っておりませんでしたので、そもそも校正で初めて原文読みました。
  • "All Hail the Great Leader"とか野島伸幸さんがうまそう。
  • "MixUnMix"という表向きでやるオイル&ウォーター的な手品があって、その中でとあるチェンジ技法を使うのですが、校正中に試したところビギナーズラックで初回が完璧な変化で、自分でやって自分で本気でびっくりして声が出てしまうくらい鮮やかに変わりました。なお大方の予想通り、2回目以降下手くそになっておりました。
  • "Alternative Facts"が結構好きで、これはちょっと『王房四宝』の"意乱情迷"(Indicated Transposition)に仕組みが似ているかもしれません。
  • ラスト、手品というよりゲームである"Stock Lines"が結構好きで、めちゃめちゃ面白そう。要は特定の台詞が書かれた3種(『宣言』『質問』『指示』)計48枚の台詞カードがあり、それが観客にランダムに3枚とか渡されていて、好きなタイミングで観客はそれを1枚出す、マジシャンは必ずその台詞を言って手品を続けなくてはいけない、というやつです。絶対に観客に触らせたくないタイミングで「トランプを混ぜてください」(指示)とか、最後のカード当てのタイミングで「これからカードを見えなくします」(宣言)とか出されたら笑ってしまいそう。
 
 

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※ちなみに右が原書(英語版)で左が日本語版
 
『The Four Treasures』(2020)
  • 原書を手に取ったとき、最初に思ったのが「漢字がかっこいい」でした。手品系の書き物は、だいたい非漢字圏の人がデザイン的に漢字を使うことが多く、そうするとだいたいしょんぼりフォントでイケてない感じになるイメージがあったのですけれど、これを見たときにやはり漢字はかっこいいなと思いました。やはり漢字は繁体字に限るわ!
  • 日本語版、原書の再現度(判型、使っている紙、フルカラー等々)が変態的だなこれと思ったのですが、星野さんに伺ったところ、原書と同じ制作社に、同じ仕様での印刷を依頼されたそうです。そりゃそっくりなわけですね。
  • 自分でやりたいという意味では"偸天換日"(Hand To Pocket)が好きですね。「これ結構難しくない?鮮やかだけど」だと"百轉千回"(Punchback)です。
  • いい冊子なんですけどねえ、訳者あとがきがないのが画竜点睛を欠くのですよねこの『王房四宝』。ということで、生まれてはじめて他人への校正原稿に「訳者あとがき」を勝手にA4で2ページ書きましたが、これがめっちゃ面白いんですよ。本書の中で一番面白いと言っても過言ではない、私には。『ハァイ、クソども!今日も一日トランプをいじって日が暮れたのか!?(挨拶) 本書を翻訳しました星野泰佑でっす。まいどどうもー。え?初めて?大丈夫、優しくする(何かを)。』というMr. グリーンみたいな挨拶から始まり、「ああ、『スタァライト』の劇場版見て、名乗りの都々逸書きたくなったんだなこいつ、あと『コブラ』好きなんだなこいつ」で終わる、星野さんがそっ消しするあたまの悪い内容だったので仕方ないね……。
 
翻訳者ご本人の販売サイトの文を、その寛大なる許可を得て、下にまるっと載せておくので、収録作品と、個々がどんな内容なのかはそちらをご覧ください(丸投げパティーン)。販売開始は2021年9月16日とか17日とか、まあとにかく1週間以内くらいの模様です。
 
 
 
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『Wabi-Sabi』

izansha.thebase.in

2017年発行のハラパン・オン(Harapan Ong)のレクチャー・ノート、『Wabi-Sabi』の日本語完訳版です。ギャフ・カードをダイレクトに使ったものも多いですが、面白い設定やビジュアルな技法など、様々なアイデアに触れることができます。
 
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Daley Revision
ラスト・トリックのハンドリングからできる限り矛盾を無くそうとしたもの。
 
All Hail the Great Leader
フォロー・ザ・リーダー現象のあと、パケットを1つにして2枚のリーダー・カードの中間地点に置くと、カードたちは混乱し、完全に混ざってしまいます。パケットを分けて再び各リーダー・カードの手前に置くと、再びカードはリーダーの色に従います。
 
The Famous Eight-Card Mystery
観客にデックをカットしてもらい、カットしたパケットのボトム・カードを覚えてもらいます。その後、カードを混ぜたり配ったりすると観客のカードが見つかり、更にクライマックスがあります。“Eight-Card Mystery”というタイトルが効いてくる一作。
 
MixUnMix
赤3枚、黒3枚のみ、常時表向きで行う、極めてビジュアルなオイル&ウォーター現象。まず混合現象が起こり、その後分離現象が起こります。
 
観客の1人とそれ以外の観客とで現象の受け取り方が異なる、デュアル・リアリティを達成したカード当ての手順。構造としてはかなりシンプルです。
 
SpreadShot Transposition
スプレッドショットと呼ばれる技法を使った、アクロバティックなトランスポジション現象。
 
You'll Float Too
オイル&ウォーター現象。パケットをテーブルにドリブルすると赤黒が分かれます。
 
Stock Lines
トリックではありません。マジシャン向けのゲームの提案。アドリブ力が試されます。
 
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『The Four Treasures』

izansha.thebase.in

2020年に発売された、ハラパン・オン(Harapan Ong 中国語表記:王卿仕)による『The Four Treasures』の日本語完訳版です。“使い道のない広告カードやジョーカーの代わりにギャフ・カードを持ち歩いて、強力なトリックをいつでも演じられるようにしよう”というコンセプトで、4枚のギャフ・カードが附属し、それらをそれぞれ1枚ずつ使うトリックを計4作品、収録しています。
中国風の造本イメージに合わせ、書名やトリック名も中国語版に寄せてあります。
 
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特立独行(Centre of Attention)
4枚のAによるツイスティング現象からのオフバランス・トランスポジション。難しい操作も無く、現象の理由付けも一貫していて筋が通っています。
 
偸天換日(Hand To Pocket)
観客の手の上に載っていたはずのサインカードが消え、演者のヒップポケットから出てきます。ギャフ・カードを効果的に用いることで、シンプルかつ明瞭な消失現象を起こしています。
 
意乱情迷(Indicated Transposition)
2人の観客にそれぞれカードを選ばせ、これをデックの中に戻します。おまじないを掛けると1枚だけ表向きになり、これが片方の観客のカードです。その後マジシャンは、このカードの数値に従ってもう一方の観客のカードを見つけると言うのですが……。
 
百轉千回(Punchback)
キックバックの改案。2段構成となり、手順に流れができたおかげでキックバック現象がより強烈に感じられるようになっています。
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※巻末に実演動画へのリンク付き。
※ギャフ・カード附属。