教授の戯言

手品のお話とかね。

Roberto Giobbi『Card College Lighter』日本語版

ロベルト・ジョビーのライト3部作の第2作、カード・カレッジ・ライターです。

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スライトレスなカード・トリックが21と、マジック(カードに限らず)のプログラムをどのように構成すべきなのかを、実際の作品とその特性を例に挙げて解説しています。前作は3トリックをジョビーが構成して、序破急として『レンジでチンしてすぐ出せる』感じでしたが、今回は少し自分でも工夫をする形で、オープニングに適したもの(ちょっとした並べ替えが必要なもの)、中ほどに適したもの(シャッフルされたデックでよかったり、デック全体の使用を必要としないもの)、プログラムの締めにふさわしいトリック、という3カテゴリに各7トリックが入っており、それぞれから1トリックずつ抽出して組み合わせることで10分前後のショーができるようになっています。先述の通り、どう組み合わせれば最も効果的かという話はPart 4で実際の作品を例示しながら解説されていますので、あまり困ることなく自分だけのプログラムを作ることができることでありましょう。

 

訳者氏は本当はマジックマーケット2018に出すつもりだったそうですが、最終校正が間に合わなかったとのことで約1か月ちょい遅れでの完成と相成りました。いや、今の段階だと完成しないので、まだ「なりそうです」ですけれども。1冊を半年で仕上げてきたことには敬意を表します。よくやった。カレッジライターを私に3冊献本してくれる権利をやろう。
 
 
春に出した『Card College Light』日本語版は、幸いなことにもうほぼ在庫払底とのことで、訳者氏の家には自分のショップで扱う10冊程度しか残っておらず、あとは何軒かショップ様に卸してある在庫を残すのみだそうです。元々、大手書店の何分の1みたいな微々たる印刷部数なので、半年もすればそうなって然るべき、と言えなくもないのですが。ともあれ、手品業界も例外でなく、書き物が中々売れない昨今において、ご興味をもって、しかもお買い上げいただいた皆様には感謝しかございません。最終巻はいつ出るのかな(督促)。
 
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■Part 1
Voilà, Four Aces!(アル・リーチをベースに)
 観客がカードを1 枚選び、憶えてからデックに戻します。不思議なことに1 枚のカードがデックの中でひっくり返り、選ばれたカードの位置を指し示します。最後に、4 枚のA が突然現れるのです! 
TheAustralian Fives (ロナルド・ヴォール)
 “The Australian Fives” とともにエキゾチックな手続きの助けを借りて、2 枚の選ばれたカードが、不思議なことに見つけ出されます。
Fully Automatic Aces (カール・ファルヴス他)
 マジシャンは偶然の一致と純粋なスライト・オブ・ハンドの違いを示すデモンストレーションをします。まずマジシャンが、2 枚のA を目をみは瞠るやり方で取り出します。続いて観客のひとりが、残りの2 枚のA を、全くの偶然としか見えないかたちで見つけ出してくるのです。
Strange Harmony (ロベルト・ジョビー)
 観客が好きな枚数のカードを取り上げます。さらに2 人の観客が残りのデックから2 枚のカードを指定します。それら2 枚のカードの合計が最初の観客がカットしたカードの枚数とぴったり一致します。
The Thought-of Card(ダイ・ヴァーノンをベースにロベルト・ジョビー)
 観客は1 組のトランプから1 枚のカードを思い浮かべます。マジシャンは観客の心を読み取って、観客が思い浮かべたカードを当ててしまいます。
Six-Card Poker Played Here  
 カットされたデックから、4 人の観客それぞれに6 枚のカードが配られます。それぞれの観客は5 枚のカードを取り除いていき、1 枚のカードだけを残します。最後に残ったカードをみると、マジシャンは全く何もしていないように見えるのに、4 人の観客はそれぞれA を見つけ出しているのです。
Risk!(テッド・アネマン)
 観客がデックをシャッフルし、カットをします。彼女はシャッフルの結果たまたまトップに来たカードを見て、そのカードをデックの好きなところに差し込みます。彼女はカードを再びシャッフルし、カットをします。ここまでの操作は、マジシャンが部屋から退出した状態で行なってもらっても大丈夫です。このような状況にもかかわらず、信じられないことにマジシャンは選ばれたカードを見つけ出すことができるのです。
 
 
Part 2
The Spectator Does a Trick(アル・リーチ) 
 観客が、説明のつかないマジック・トリックを行います。彼はマジシャンが見て憶えたカードを見つけ出してしまうのです。
The Cards Knew(リシャール・ヴォルメル)
 観客がデックを念入りに混ぜたあと、マジシャンはデックを複数の山に分けます。観客は、4 枚のA を山の上に載せることで4 つの山を選びます。その4 つの山のカードから導かれる数が、選ばれなかった山のカードの総数とぴったり一致します。
Senza Toccare (Look Ma, No Hands)!(カール・ファルヴス) 
 観客は、シャッフルされたデックの中の、自由に決められた場所にあるカードを憶えます。マジシャンはカードの表を全く見ることなく、この選ばれたカードを探し出すことができるのです! 
The Birthday Card(ジョン・ジャーヴィス
 マジシャンは、知らない誰かの誕生日を当てることができると宣言します。観客は誰も信じませんが、マジシャンはそれを面白いやり方で証明してみせます。
A Condition of Balance(ワーレン・ウィアーズブ)
 シャッフルされたデックから観客が好きな枚数のカードを取り上げ、それをポケットにしまいます。マジシャンも残ったデックから適当な枚数のカードを取り分け、さらに自分が『ここだ』と見なすところまでカードをテーブルに捨てていきます。観客のパケットとマジシャンのパケットを数えていきます――両方のパケットは同じ枚数になっているのです! 
Mental Three-CardMonte(ボブ・ハマー)
 スリー・カード・モンテのゲームの精神に則り、観客が3 枚のうちの1 枚を当たりのカードとして選びます。それから、カードを混ぜてもらいます。マジシャンはこの間ずっとうしろを向いたままですが、観客が心の中で決めたカードを当てることができるのです。
10-11-12  
 マジシャンはオープン・プレディクション公開の予言として、1 枚のカードを表向きで置きます。観客に3 つのサイコロを振ってもらい、出た目の合計と同じ枚数のカードを配ってもらいます。最後に配ったカードと予言のカードが一致しています! 
 
 
Part 3
Infantastic(マックス・メイヴェン)
 マジシャンは、観客が自由に思い浮かべた有名人を予言しているのみならず、観客の選んだカードがその有名人と結びついたものであることも予言しているのです。
Subconscious Poker(ジョセフ・シュミット/ボブ・フィッシャー)
 マジシャンはポーカーのハンドを5 つ配ります。3 つ目のハンドの3 枚目のカード(ここでは♠Q とします)を指し、これを次のディールで全く同じ位置にコントロールしてみせる、と言います。カードを集めて再び配りますが、マジシャンは約束通りそれを成し遂げるのです。さらに、その♠Q を含む、スペードのロイヤルフラッシュを配っていることが明かされます! 
PSI Con Carte(ジョン・ラッカーバウマー)
 観客がカードを1 枚自由に選びます。そのカードがどこに行ったのかマジシャンに絶対分からないように、デックを背中に回してから、カードを戻してもらいます。そのデックはケースにしまってもらいます。マジシャンはケースを額に当てます。驚くべきことに、マジシャンはカードを特定してしまうのです。さらに、ケースに入ったデックの中の選ばれたカードを、不思議な力でひっくり返してしまいます。
Mr. King’s Tapestry(リシャール・ヴォルメル)
 タペストリーの蒐集者、キング氏についての魅力的な物語が語られます。そのお話の中で、観客がカードの表と裏をごちゃ混ぜにしてしまいます。最終的に、4 枚のカードだけが表向
きになっていますが、それらはキング氏のイニシャルと同じ、4 枚のK なのです。
The Card Sharp’s Triumph(ニック・トロスト)  
 カードが表と裏、ごちゃ混ぜにシャッフルされます。にもかかわらずマジシャンは、数ミリ秒というとてつもない短時間で、すべて裏向きに揃えてしまうのです――4 枚のAを除いて! 
Double S’Entendre(ケン・クレンツェル)
 マジシャンの関与なしに、2 人の観客がそれぞれお互いの選んだカードを見つけ出します。
Your Fateful Hour(カールホルスト・メイアー)
 マジシャンは、誰かが選んだ1 枚のカードが何かだけでなく、選んだその人が思っただけの時刻(運命の時)をも当ててしまいます。
 
 
Part 4
カード・マジック・プログラムの理想的な組み立てについて カードのフォース方法、デックのトップやボトム、あるいはその他の場所へ複数枚のカードをコントロールする方法、スタックしたものを気づかれることなくデックに付け加える方法、フォールス・シャッフルやフォールス・カットの方法、デック全体を楽に、そして感づかれることなくスイッチする方法――これらを全部、いかなるスライト・オブ・ハンドも使わずにやり遂げるにはどうすれば良いかを紹介します! 
 
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とみやま「おかげさまでライトシリーズも最後まで走り切れそうです。が、最終巻の前にハートリングのメモライズドデックの本*1を先に頑張ります。組版マンも『ジョビーのシリーズは最終巻が訳されない伝統』*2と仰っていましたし。あとあれですか、最終巻の初回限定盤には3冊収納ボックスとか付ける*3べきですかね」
とのことです。相場知らないですけど、ボックスは原価云々より配送料が高そう。。。

*1:1周目、250ページ中160ページ地点あたり(で止まっている)という噂を本人から聞きました。その前にバノン本の最終確認がどうのとか。2年越しでついに出るのですか。名著ですよね、あれ。

*2:『Card College』のVol. 5の邦訳版が、4巻刊行後かれこれ10年以上経っているのに出ていないことを踏まえて。

*3:アニメ脳。

Roberto Giobbi『Card College Light』日本語版

<宣伝のため未来日付に。実際の掲載は2018年3月7日>

ロベルト・ジョビーの『カード・カレッジ・ライト』の日本語版が出ます。「ええっ?本当かい?」マジです。T君に大体の作品見せられましたが、どれひとつとっても手がかり皆無感がすごい。震撼。私が。

ジョビーの『Card College』シリーズといえば、世界中で翻訳されている、"カード・マジックやるマン"必携の5巻組です。日本でも4巻までは翻訳されたものが出版されておりますが、2007年の4巻で止まって絶版なうです。なぜ!なぜなのですかTKD!1・2巻は結構重版かかってた印象あるのに。ラスト1冊じゃないですか!ただまあ第5巻はジョビーの作品集に近い趣なので、既刊4冊とは若干毛色が違うんですが。大きめの図書館に行くと4巻まで揃いで入っていたりしますので、いまでもカード・マジックを体系的にきちんと学ぼうと思ったときの、入手できなくもないベスト教材シリーズのひとつであることは間違いありません。

で。

カード・カレッジの1巻が出る4年前、1988年にこの本の原書『Card College Light』が出ております。なんで『Card High School』ではないのかというのはおいておいて。きわめてすごい名著です。『College』シリーズは、作品を題材にしつつ、基礎からハイレベルまで、"原理や技法の説明"を主としていますが(※個人の感想です)、こちらの本はいわゆるセルフワーキング・カード・トリックの"作品"しか扱っていません。ダブルカットすら出てきません。リフル・シャッフルくらいです(それも観客にやってもらうとか)。"それでいて"か、"それゆえ"かはともかく、まるで怪しさのない手品が揃っております。おそらくこのシリーズほどコストパフォーマンスに優れ、実用的なトリックが揃ったカード・マジック作品集は他にないでしょう。本当に傑作しか載っていません。いやホントすごい。その……ほら、……やばい(驚いたときにありがちな語彙力低下現象)。

本書は全作品、ジョビーのタッチが入ってはいるものの、ジョビーの個人作品集ではありません。ジョビーが選んだ、古今のセルフワーキング・カード・マジックの傑作選なのです(先日ご紹介したシュルツの『SSSS』みたいな)。そもそもひとつ目のトリックである"T.N.T."はタマリッツの作品ですし、以降もすべて「これは元々誰それの作品であり超ふしぎ。やばくない?マジ震える。あ、私ジョビーの工夫はこことここ」みたいな流れになっております(※そんな雑な言い方はしていません)。『古今のカードトリックの名作・傑作の選り抜き版』のような本なので、それは不思議に決まっていますよね。ずるい。「ずるくない!」 時の試練に耐えて残った作品群の力強さを感じます。

3作品を1ルーティーン、想定実演時間は約7〜10分のパッケージにしたものが7ルーティーン載っています。つまり、全部で21トリック載っているということですね(掛け算ができるアピール)。ルーティーン中のトリックは、1つ目が2つ目3つ目の作品の下準備になっていたりしつつも、現象はそれぞれ違う感じの作品になるように組まれています。サンキュージョッビ。構成を考える手間が省けます。「それから、ルーティーン中の3作品は、現象がバリエーション豊かになるように、それぞれ異なったイメージのものにして、重複感が出ないよう、観客に飽きが来ないようにしておいた」ナイスプレー、ジョッビ。それ重要よね。

『本書は初学者に対して、カードマジックという素敵世界への扉を開く素敵本である。が、決して初学者のみを対象にしているわけではない。すでにカード・マジックがうまいという評価を得ている人で、観客に手元を凝視されている状況、または「いまカードをパームしてますよね」とか看破してくるような観客の前で手品をしなければならぬ状況でなお、全くの手がかりを残さず不思議を演じ切りたい!ていうか魔法使いになりたい!そういう人にも有用なはずだ。いや、むしろそういう人のほうが本書にハァハァできるように書いてある!』(意訳)というものです。いや、この内容は私が盛っているのではなく、著者本人がだいたいそう言っています。

いやあ、いいですよ、よくできたセルフワーキング手品は。技法に頼る手品の場合は、技法そのものが見えなくても、何かやった感などはすぐ出ますからね。自分では「今日もうまくできた。パームしてたけど右手首も掴まれたりしてないし」というふうには思っていても、実際には観客から「おそろしく速いパーム……!俺でなきゃ見逃しちゃうね♪」とか思われていますしね、たいていの場合(※個人の感想です)。一方、原理を知らないセルフワーキング手品は不思議です。そもそも技法的な怪しさがありませんしね。初見殺しというか、知らないと死ぬ、みたいな。殺したり死なせたりはしませんけど。

まあとにもかくにも、この1冊から2ルーティーンくらいマスターしておけば、相当な魔術師になれること請け合い(双頭と魔術師というワードが出てくるとランテマリオ会戦を思い出しますわね)。ジョビーも、「本書の内容をマスターするだけで、この惑星上でカードマジックやってる人種の90%よりもカードマジックうまいマンになれる!まじでな!」って言ってますしね。

原著よりクレジットに詳しく(クレジット厳しいメンが絡んでいるため)、トリック成立/不成立条件の確認などまで加筆されている(Tくんはこういうのホント好きですね……)、『カード・カレッジ・ライト』、発売間近です。多分この3月下旬くらいではないでしょうか。

追記 2018 3/14:「うそやで。4月上旬やで~」(CV:犬山さん) 新生活のおともにもぜひ!

再追記 2018 3/31:出ましたよ!なくならないうちに是非!そんなになくなるようなものでもないですけど!

再々追記 2018 4/18:「まだショップさんに卸す前なのですが、もう在庫が半分もないんですがこれは」と訳者氏が。割と無くなる可能性が出てきました。良かったですね。

magic.theshop.jp
印刷所の頑張りとT君の本業の忙しさに依存。さておき、名作がいかに名作かと、うまい構成ってこういうものだぜ、というのがばっちり学べます。おすすめです。1週間に1トリックずつ習得していけば2クール弱もちますよ!

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Routine 1
T.N.T. (ホァン・タマリッツ)
 全くもって不可能に思われる状況下で、マジシャンは選ばれた2 枚のカードを当てます。
Intuition (ポール・カリーをベースにジョン・ケネディ
 2 人の観客が、直感の力により、よく混ぜられたデックを赤と黒に分けることができるようになります。
The Telephone Trick (ハワード・サビッジをベースにウィリアム・マカフリー)
 よく混ぜられたデックから自由に1 枚カードが選ばれます。演者が霊媒に電話をかけると、その人はカードが何であるかを電話越しで当ててしまうのです。

Routine 2
Thot Echo (サム・シュワルツ)
 きわめてフェアな状況で観客が2 枚のカードを選びますが、マジシャンはそれらを見つけ出すことができます。
Royal Flush (ボブ・ハマーをベースにラリー・ジェニングス)
 観客によって10 枚のカードがランダムに選ばれ、よくシャッフルされ、そして2 つのポーカーの手札として配られます。にもかかわらず、マジシャンの手札がロイヤルフラッシュになっているのです!
The Waikiki Shuffle (ビル・ムラタ)
 無意識にコントロールされた振り子の揺れから、マジシャンは選ばれたカードが何かを当ててしまいます。

Routine 3
Fingertip Sensitivity (ボブ・ハマー)
 マジシャンは、観客がテーブルの下でカードのパケットをどのような並びにしたのか当てることができます。
Muscle Reading (ジャック・マクミラン
 観客にカードを選ばせ、デックの中に戻して完全にシャッフルしてもらいます。マジシャンは、他人の“無意識の筋肉インパルス”を読む能力により、選ばれたカードを見つけ出すことができるのです。
The Lie Detector (ロベルト・ジョビー)
 観客がカードを憶えて、デックに戻し、シャッフルします。次に、7 枚の無関係なカードを抜き出してもらいます。そうしたら表は見せずにマジシャンに向かってカードの名前を言っていってもらいます。しかし、どれか1 枚のカードのところで(そのカードの名前の代わりに)選んだカードの名前を言ってもらいます。信じられないかもしれませんが、マジシャンは人の嘘を見抜く鋭敏さを備えているので、彼女のカードを見つけ出してしまうのです!

Routine 4
The Circus Card Trick (ヒューガード&ブラウ)
 このマジシャンは選ばれたカードを探し出すことに失敗してしまったな、と観客が確信している状況で、マジシャンはびっくりするような愉快な方法で、事態をうまいこと収拾します。
The Fingerprint (ヒューガード&ブラウ)
 自由に選ばれたカードが、観客によって、きわめて厳正な状況の下、デックに戻されます。にもかかわらず、マジシャンは選ばれたカードに残された“指紋”を手がかりに、これを見つけ出してしまうのです!
Magical Match (ジョン・ヒリアード)
 マジシャンは、説明のつかないやり方で、観客がデックからカットしたカードの正確な枚数を2 度も当ててしまいます!

Routine 5
Cards Never Lie!(J.C.ワグナー)
 観客がカードを選び、デックの中に戻してシャッフルします。マジシャンは、これからカードについて3 つの質問をするが、回答については嘘を言ってもいいし、本当のことを言っても構わないと観客に伝えます。にもかかわらず、マジシャンは選ばれたカードが何か分かるだけでなく、すぐに同じ数字の他の3 枚のカードも取り出してくるのです!
Digital Dexterity (アル・ベーカー)
 観客がカードを1 枚選び、それをデックに戻してシャッフルします。そして、デックはマジシャンのポケットに入れられます。全くもって信じられないような器用さで、マジシャンはデックの中から選ばれたカードを探し出してくることができるのです。
Think Stop!(ブルース・サーヴォン)
 観客が自由にカードを選び、デックに戻し、シャッフルします。にもかかわらずマジシャンは、観客が何も言わずに心の中で思ったことを読み取り、カードを見つけ出してしまいます。

Routine 6
Card Caper (ロベルト・ジョビー)
 2 人の観客が自分自身がシャッフルしたデックから、それぞれカードを選びます。選んだカードをデックに戻し、再度シャッフルします。にもかかわらず、マジシャンは2 人の選んだカードを驚くべきやり方で見つけ出してしまいます。
In the Hands (フランク・ガルシアをベースにロベルト・ジョビー)
 観客がデックをシャッフルし、その内の2 枚を憶えます。そして憶えたカードをデックに戻してもらいます。この不可能な状況にもかかわらず、マジシャンは憶えたカードを両方とも見つけ出してしまいます。
Back to the Future (アル・リーチ)
 マジシャンは自分自身で未来に行き、そこで何が起こっているかを記憶し、過去に戻ってきて、そしてこれから起こることを予言する、という、現象は明快ですが、なんだかややこしいお話です。

Routine 7
Manto (ボブ・ハマーをベースにリシャール・ヴォルメル)
 マジシャンは予言を書きます。そして、それをカード・ケースの中にしまいます。ケースは観客に持っておいてもらいましょう。観客と演者がカードを表裏ごちゃ混ぜにします。デックはカオスな状態になります。それにもかかわらず予言には、何枚のカードが表向きになっているか、それらの内、何枚が赤で何枚が黒か、正確に書かれているのです!
Vernon’s Miracle (ダイ・ヴァーノン)
 マジシャンは考え得る限りのフェアな状況のもとで、選ばれたカードを見つけ出します。
That Is the Question (リシャール・ヴォルメル)
 マジシャンはなんの質問もすることなく、自由に思ってもらったカードが何かを当て、探し出してしまいます。



A5ソフトカバー 、本文176ページ、 7ルーティーン21トリック掲載です。

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校正をしてくださった岡田さんからは「本当に傑作揃いです。実に老害手品向きです。あ、老害手品というのはですね、卒業して結構経つのに!OBとして手品サークルに頻繁に顔を出す!そんな人が(…ど、どうしたのですか岡田さん…?)、一切の気配なく、若手に不思議テジナを叩き込むのに向いている、ということです」と。
「へ、へえ……。まあ『ミステリオーソ、つまり、全体的にSF(すごく・ふしぎ)!』ということですよね」(フラメンコポーズをキメながら)
「そう、『おだやかじゃない!』」
「……くっ、先に言われた」
とにかくすごいということです(※なお本編にアイカツ要素は特に出てきません)。

著者との契約上(&大手出版社でもないため)微々たる数しか刷れませんでしたとのことでした。2版の再契約ができるかどうかは皆さまの応援(というか物理的な売れ行き)次第でございます<(_ _)> まあ基本出ないとは思いますが。

                        • -

追記:2018.0416
とみやまです。きょうじゅさんのツイッター経由で、精読してくださった方たちより早速の誤植のご指摘を頂戴いたしました。あんなにいっぱいチェックしたはずなのに泣きそうです。ともあれ本当に申し訳ございません。


Cards Never Lie!
p.96, l.18,
誤:ハート → 正:ダイヤ
セットにハートのキングは入っていないのに。「原文だとこのカードの行き先書いてないから不親切やな、入れたろ!」→間違う なぜなのか。「良かれと思って、良かれと思って原文にない一文をわざわざ足したらこのザマですよ!」


Think Stop!
p. 103 『ステージングとハンドリング』, l. 2
p. 106 『忘れるといけないので……』, l. 2
いずれも 誤:24枚 → 正22枚
3人がかりでのべ10回以上読んでおきながら見逃した、意味不明の間違いでした。「貴様の英和辞書には、"Twenty-two"は"24"と載っているのか」という、言い訳無用の箇所でございます。それも2箇所。本当に申し訳ありません。

Sébastien Calbry『manivelle』

 
ライジングカードは見た目にも面白いので好きなのですが、ギミックでやるタイプはデバノ式含め、大体、買う→家でやってみる→すごーい!おもしろーい!→手品箱にしまう という経路をたどっております。そんなある日、こざわまさゆきさんが「マニベル届いた。機構見て爆笑」とか仰っていて、気になったので買ってみました。爆笑でした。
 
バニ・ボッシのライジングカードでも、手回しクランクを吸盤でデックに付けるという、見た目と面白さが似ているものもあるのですが、あれはそれっぽく見せているだけで、本作とは違う機構でカードを上げます。
 
商品紹介ページにもあるように、本作はこのクランクを回す動作がそのままギミックの動作に連動というか直結しております。何を意味しているかというと、「回すのはお客様自身にやってもらうことが可能である」ということです。「まあ箱の垂直面にくっつくんだからテープか磁石だろうし、クランク自体が金属っぽいから磁石入ってるんだろうな」というのは誰しもが予測する感じだと思うのです。実際入っていますし。ただ、とある日本の方が演じていたときはなんのカバーもなく、箱に近づけて「たくっ」って感じでくっつけていて、「YES磁石でゴザイマス」感があったのですが、ご本人の演技だと深めにクランク持ち、箱に「ぐっ」と押し付ける感じで触れたあと、手を離すとくっついたまま、のような見せ方でした(伝われ……!)。そのほうが「なんか知らんけどもクランクが落ちない」になって好きです。クランクに両面テープが貼ってあったのかも、という感じで。
 
また、お客様のカードが上がって、それを渡して「こいつがテメエのカードだ!」と明かしたあと、箱を逆さにして中のデックをざばっと出して、クランクも外して、それらを全部検めさせることができます。というか私がもともと貧弱な手品眼しか持っていないためすぐ引っかかるというだけですが、箱から出たデックを観客が触り始めたのを見たとき、「あれ、いつギミック部を処理したんだろう」と素直に思っていました。「きょうじゅさんは裏表のない素敵な人です」 もしくはぽんこつ
 
クランクをデックに付けた瞬間、該当カードがぴょこっと出てしまうことがあるのですが、一応デックをみんなに見えるように持ち直すときに、トップ部分に左手人差し指を当てておくことで回避可能ということがわかりました。他の人はそもそもぴょこってなったりしないのかな。(「うん、しないね」こざわまさゆき・談)
 
そんなこんなで、やはりお値段としては高めですが、面白い、基本的に失敗しない、持ち運び簡単、現象がわかりやすい、ギミックの挙動を見て笑う、など、久々にギミックギミックした素敵ギミックでした。DVD系はしばらくもういいので、こういう、「ちゃんとした手品にもなっているが、妙で笑えるギミック」がいっぱい出てくれるといいのですが。

たむたむ野放し会 in 東京

佐賀が生んだ獣、けもの?ふれんず?の、たむたむ(♂ コインとカードが得意なふれんず)が、飼い主的な役割の堀木氏に連れられ、その保護監督下にて東京で野放しにされるということを聞きつけた我々取材班は、東京都板橋某所にある会場へと潜入を果たした。そこにいたのは人畜無害そうな青年であったが、コイン持ったりするとやっぱちょっとあたまおかしかったのでここにそれを記録するものである。なお、けものフレンズのあのナントカ目ナントカ属ナントカ科のパロディを作ろうと思ったが、彼にも肖像権というものがあるので、それは記載しない。こざわまさゆきとは違うのである。決して作るのが面倒だったからではない。あとタイトル通り、あくまで野放し会でありレクチャーではない。技法の説明もあるし、言えばなんでも教えてくださったが、別に全部の手順をひとつひとつ微に入り細に入り解説、というわけではなかった。ある意味新鮮である。「大人は教えない……っ!」と、尊敬する人も仰っていたような気もする。

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開会。おそらく慣れぬ環境と、20人程度にも及ぶ観察者たちの好奇の視線があるせいか、対象はやや緊張気味であるように見受けられる。横に立つ堀木智也(以下飼い主)がちょくちょくコメントを挟む。演目の名前なのかはたまた何がしかの符丁なのか、取材班には意味が取れなかった。"マイシスター"は?などという台詞が聞こえた気がするが意味が通らない。空耳であろう。

トライアンフをやるという。それもスタンドアップで、ファンに開いた状態で。ダニ・ダオルティスのオープン・トライアンフのようだな、と思ったが、本人の口から、自分はファンを閉じない、振るだけだとのこと。どういうことだろうと思っていたが、ファンが宣言通り振られると徐々に消えていく表向きのカード群。1枚だけ表向きで残る観客のカード。会場がどよめいた。

グラスホッパー。4枚のクイーンを2枚ずつに分け、片方のペアに挟んだカードが消失、別のペアの間に移るあれである。つつがなく進み、最後に1枚であるマネーカードと思しきカードがまた4枚のクイーンになる。筆者はこういう枚数の辻褄の合わない移動が大好きであるが、変態性の低い、ごくまっとうなマジックのようにも思った。途中でたむたむ氏から友人の技法(アイディア?)を使っている部分があります、という報告。ヤダ、この子、マジメである。

「よーしよし。たむたむ、落ち着こう。コインやろうな」飼い主の唐突なコメントに、場内にの観察者たちの胸中に「(この生物はコインマジックやると落ち着くのか…?)」という仮説が沸き立つ。若干口に出ていた者もいた。半裸でコインを持ち、「気持ちいい……っ!」と、創聖の何エリオンみたいになる生物がツイッターのTL上で多数(回)目撃されているが、たむたむも類似の生物ないし習性を持つ可能性がある。堀木氏のスマホを見て、「敢えてヘルバウンドいきますか」とのコメント。参加の野島伸幸研究員から「あ、あえて地獄を……?」との嗚咽が漏れる。台詞が完全に解説キャラポジションである。2枚の銀貨が移動しまくる。途中、「ここまではみんなやると思うんですけど」というたむたむ氏の発言に対し、飼い主ともう1名から「やらねーよ」と即座にツッコミが入る。直後、銀貨が2枚とも銅貨に変わっている。青ざめた野島研究員の「ヘ、ヘルをバウンドする男……!」を皮切りに、「ヘルバウンドタム」なる謎のワードが飛び交う。「お前の言うみんなってみんなじゃない」「佐賀では普通なのかも」という指摘も入った。たむたむ氏から「佐賀には僕以外ほとんどマジシャンいませんから」との発言。

堀木「隠れキリシタンです」息を潜めて手品をしている比喩かと思いきや、これから行う手品のタイトルである。全編この調子である。謎と秘跡しか無い。チャイニーズコインを撫でると、いや、撫でなくても銀貨に変わったり戻ったりする。めまぐるしい。どこから発生しているのか。「もう一度やろう。等速直線運動を」また飼い主の謎ワードである。作品タイトルは先述のとおりであるが、どうもこの作品内で用いられている特殊行動(技法)の名前であるらしい。等速直線運動を行うからだとは思うが、どこでどのように用いられているのかまったく分からない。また、明らかに高難度の技法を行っていることが見て取れ、たむたむ自身も何度となくコインを落とすも、会場からは「ああ〜(残念)」「頑張れ!」「たむたむ頑張れ!」などの応援が発生していた。普通演技中のマジシャンに掛ける言葉ではない。ジャグリング会場か、ここは。

堀木「うーん、リラックスしょう。リテンションとロップス」飼い主からまた謎のワードが出る。リテンションは分かるがロップスとは何か。通訳などをこなしているGeo氏によると(Galápagos) Retention Open Palm Steel Moveこの真中の部分でROPSとのことであるが、彼の辞書は若干世間とは違うという噂もあり、正確を期すには確認が必要である。「いや、箸休めにマッドタイガーをやろう!」これは会の前に見た。正面からはなんの変化もないが、ダウンズパームが一瞬でクラシックパーム的な感じになる(飛んでいくイメージ)技法である。バックビューでないと何も起こっていない。何なのだこれは。そのあとはリテンションバニッシュが数種あるがどれも頑張って握る感じもない割に一瞬で消失している。解説を聞くが接触というか引き込みがまったく見えない。説明はあったが、これは実際には引きネタなのではないかという疑念も会場から出ていた。

うまくいったらワンコインルーティーンに使えそうなアイディア、というものが実演され、会場からはため息がでる。

「パースフレームはどうかね」手品師しか持っていないあれだ。私でも知っている。さておき物凄い勢いで進んでいく会である。なお、「とりあえずとひさんが来る前に一通りやっちゃいましょうよ」「やつにはカップアンドボールでもやらせてればいいんですよ」「50円玉も貸してあげません」などの発言が挙がるが筆者と堀木氏である。パースフレームに通した瞬間に銀貨が消失する。文字通りどこにいったのかが判然としない。当然出ては来るがまったくの不明である。なお、この会はほぼ同じ構成を2周やり、2周目は1周目より断然無駄がなく巧かったことは付記しておく。また、筆者は2周目は真横からこのトリックを見ていたが、むしろ右手の中にいつの間にか銀貨が発生しては移動する謎の手品になっていた。何を言ってるか分からねーと思うが(略)。「フレームを通り過ぎた瞬間に消えるのですけど」ほんとにその瞬間に消えててキモイ。

「ノーギミックレイブンを」レイブンといったら私でも知っている、手をかざすとコインが消えるという15年くらい前に流行った素敵ギミックである。買ったことはあれど一度も人前で演じたことはないが、彼はこれをレイブン無しでやっていた。私の大好きなポン太ザ・スミス氏のマジックで、チャリンチャリン音をさせることで左手に握ったはずのコインが全部右手に移っている、的なものがあるが、そのことを言ったところ堀木氏が「頑張ればあっちもエクストラ抜きでできなくはないですけどねえ」などと。頑張らなくていいのである。スライトとギミックを使うのが人類のいいところである。スライトで全部解決してどうする。

ワイルドカード…っぽいやつを」ワイルドカードそのものではないらしい。ワイルドカードのようでワイルドカードではない。禅問答か。4枚のクイーンに自由に選ばれたカードを挟むが、すべて1枚ずつそのカードへと変わっていく。まともな手品である。最後が大変綺麗であった。

「ホテルミステリーを」会場から、「佐賀に行けばこれが見られるんですか?」「俺、佐賀のこと、何も知らなかったよ…」「本当の佐賀がここにある」などの珍言が飛び出す。内容はホテルミステリーである。挟んだカードが入れ替わったりするあれである。普通だ。うまいカードマジックである。ロマンシング佐賀

「リセットとジャックシナプス」後者は本当にそういうタイトルだったのかは不明である。空耳の可能性が高いため、詳細を知りたい者は飼い主に問い合わせると良い。ヴァーサスイッチと最後のディスプレイがきれいであった。たむたむ氏の「ちょっと難しくしたいと思います」に対して、「え、これ以上…?」という会場みんなの心の声が聞こえた気がした。デック中に入れたクイーンと手元の4枚の2が入れ替わっていた。野島研究員が「ギ、ギミックだって、あれは。俺クラスになると分かる」というコメントを発する。会場からは「佐賀は東京とは違う法則で物事が動いているのではないか」との仮説も提起された。

「水油」きれいである。ただ、スイッチが難しそうである。「(水と油が分かれるのは)ここまでは自然なんですけど」に対し、会場から「(自然…?)」という心の声が聞こえた気がするが、Geo氏的な声で「そういうことにしとかないと話が進まないので皆さんそういうことにしておきましょう」という声は実際に聞こえた。オトナである。「ここから少し難しくして」に対しては、全員が脊髄反射的に「え、もっと難しくなるの…?」という言葉を実際に口にしていた。私もそのひとりである。その後、水と油は分かれた。「イージーバージョンが有りまして」に対し、即座に堀木氏が「嘘だ、オマエは絶対ウソをついている」という指摘。演技を見たが、たしかに見た目にはスッキリと簡単そうに見えた。しかしそれとて程度問題である。比較的、ないし当社比という3文字を入れるべきであろう。「まやかしの希望を与えるのはやめてください……!」とのコメントが会場から上がっていた。涙が出そうである(笑い過ぎで)。

「じゃあ、朝青龍」もはや意味不明である。技法の名前なのか?人名だよね?ていうか四股名だよね。4枚のコインが1枚ずつ、音を立てて消失して、再出現する。消えるのではなく、見えなくなる、というのがミソである。置く音、投げ込む音はする。大変不思議である。なお1周目では、最後パースの中から転がり出たコイン的な薄い何かが、よりによって見えてはいけない方向でテーブル上で落ち着いていたが、もはやこれが手品の一貫なのかどうかすら不明であった。さておき好きな手品である。

SCB」との堀木氏のコメントに「あの、これ、SCBって最初に言われちゃうと何も面白くないんですけど……3枚の銀貨を使います」とたむたむ氏。マジシャン殺し上手の堀木さん、である。たむたむ氏が不憫。なおマジック自体は超きれいであった。2周目は。1周目は「簡単に戻るんです」と言ってからの苦闘がつらそうで、SCBが3枚の銀貨になかなか簡単には戻らなかった。一体何が起きていたのかはイチ観客の私からは不明である。会場から「惜しい……!」「もう少し……!」などの声が上がり、「スポーツか!」などの声も挙がるが、基本的に「やさしいせかい」である。

「コインとグラスを」コイントゥザグラス的なやつが始まる。すごくきれいな貫通と、若干のネタバレ・失敗を交え、全員から「おお〜(不思議)」「ああ〜(失敗)」などのため息が沸き起こる。飼い主から「もう一回やろう」、会場から「なんでそこあんなにうまいのに、そこ失敗するの…?」などの声が挙がる。「超サイヤ人になれるのに舞空術が出来ない悟天みたいだ」と、野島研究員がぼそっと言っていた。言い得て妙である。

「スリーフライを。つけもののやつ」また意味不明な指示である。スリーフライ自体は大変うまいのだが、ここで使われているつけもの、という技法がもう完全に頭おかしい方向であり、ここで何度も落とすたむたむ氏。会場が、このトリックで使われている手法を理解し始めるにつれ、たむたむ氏が落とすたび、みんなが「がんばれ!」「もう少し」「ああ、惜しい!」となっていくのが興味深い。かくいう私も「がんばえー!ぷいきゅあーがんばえー!」であった。

「コインアセンブリ」3枚のコインを1枚のカードで覆い、手前にチャイニーズコインを置くが、一瞬でカードの下にチャイニーズコイン、手元に3枚の銀貨になる。これは大変綺麗である。2周目で明かされたカード下でのコイン操作が大変素敵であった。会場からは「あれ、ウィル・ツァイのテーブルなんじゃないの?」「ということはあのテーブルもういらないんじゃないか」「佐賀こええ」などの声が挙がる。その後、一瞬でバックファイア的な現象が起こった。それはとってもきれいだなって。

「ワイルドコイン」手品マニアにしか見えない謎の粉的なものを、握ったコインにかけると銅貨が銀貨に変わっていく。最後は一瞬で銅貨に戻る。大変鮮やかであった。

「コインと指輪」指輪の中にコインが入っていく。最後には指輪からコインが出てくる。会場からはその奇天烈な状況に終始笑いが起きていた。というかきもい。



休憩を挟んでこれの2周目が行われ、筆者は横や後ろから見ていたが、ネタバレ、というチャチな言葉では到底表せない、カオティックなコイン移動・保持が行われていたことを付記しておく。ものによってはエクスポーズド・ビューのほうが不思議だったり笑えたりする。

その後、小澤氏(お約束である)であるとかテンヨー三越店の中の人、青田氏、アリス氏などが手品をしていた。続く会場主のマジックのあたりでいよいよ空腹に耐えかねたため会場を出た(昼食を取り損ねていた)。間違いなくその後もたむたむ氏を囲んで各種蛮行が繰り広げられていたことは想像に難くない。恐ろしい部屋である。この世の地獄よ。ヘルバウンドは伊達じゃないということか。

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総括すると大変刺激的な会であった。堀木氏によると、「スペインは変態っちゃあ変態だが、日本のコインマンはむしろ勝ってるかなりのレベルの変態だぜ」とのことで、「いくらスペインといえど、あなたやたむたむ氏ほどの変態がそうそういてたまるか」というのはさておき、リテンションバニッシュがどうのとか、ましてや使うのが500円玉かハーフダラーか、など、相も変わらず出てくる話題もあるが、コインマジックの世界はここ数年で大きく変わったように思う。バニッシュ云々よりも、不思議ではあるものの角度に弱い、センシティブな保持・秘匿手法がかなり強まったような。一方でセンシティブであるがゆえの危うさが消しきれず、高確率の安定度合いで、破綻のない手品として見せるには些か難しすぎる技法も増えたように思う。このあたり、もうたむたむ系テク(ないし堀木技法等)は通常のと折衷した構成にするか、もしくはもうマニアマジシャンをぶん殴るためだけに特化するか、どちらかであろう。なお彼の納言シリーズは従来よりステップを省略してのパーム及びプロダクションが可能である汎用技法であるため、筆者も練習してみんとするものである。つけもの、はやっていることは分かるし、また理屈もいいのだが、いかんせんシビアすぎる。マスターしたら手品コンベンションでは尊敬と笑いを勝ち取れるやもしれないが、それ以上の活用を思いつけない。マスターできれば、今度は自分がどこかで野放しにされる側になる、というメリット(?)は発生するかもしれない。なお、仄聞していた奈落、という技法であるが、あれは非実在技法であろう。"ぼくがかんがえた超ウルトラスーパーてじなぎほう"としか思えぬ。マスターした人がいたらぜひ見せてほしい。たむたむ氏をもってしても「いやー、ねーよなー、と思いますけどねえ」とのことであり、会場も同じような表情をしていた。同感である。

佐賀のマジシャン人口は少ないらしく、たむたむ氏の「僕ともうひとりセルフワーキング系が大好きな人くらいしかいません」発言に対し、会場から「じゃあたむたむさんとラモン・リオボーの2人しかいない、みたいってことか」という恐ろしいひとことがあった。母数の少なさを無視しさえすれば、日本全国の都道府県で手品力平均を取った場合、佐賀が突出すること請け合いである。そんなプリフェクチャーは嫌だ。怖い。今日は佐賀の恐ろしさを皆で体感した日でもあった。

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タムタミミッミ:ヘルバウンドタム
「あいつは、ヘルをバウンドする(※弾ませる、ではなく、縛り付けるの意)男、たむたむだぜ!」「ヘールバウン!ヘールバウン!」「うおおおー(失敗してチャリーン)」「もう一回―」「うおおおー(またチャリーン)」「まだまだー!」「でやああ(もう一丁チャリーン)」「頑張れ!」「たむたむー!」「うおおおお!」 ※割とホントにこんな感じ 追記:ヘルバウンドではあんまり失敗してなかった。スリーフライの際がこれに近い。


観察記であることもあり、久々にだである文体で書いた。本来だである文体の小気味よさが好きなのであるが、疲れたのでもうよすことにします。

サンライズ・レクチャー

2月25日、サンライズ(サンタ&茘枝)のレクチャーに行ってまいりました。以前おふたりのショーは拝見しており、テイスト違うふたりがいい感じに補完しあっていていいなーと思っていたのですが、レクチャーになったらキャラ変わるのかな、と思いきやまるで変わりませんでしたw 今後もまた開催してほしいおふたりでした。

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レクチャーはふたつの部屋に分けて行われ、私はサンライズのカオスなほう、サンタさんから。のっけからホワイトボードに列挙されている謎の言葉群。「ED, ハンニバル, APCAAN, パッション, スネークライジング, デスノート, イン ザ ストマッチ, イングリッシュカード, フィッシング, タロットオブゴーリー, コビン, タートルトライアンフ, ドリンク, ドリーム, スーパーフライ, バタフライ, バースデー, 金の斧, 21, ジャポティ」


……なんだこれ。


この中から何か連想させたりするのでしょうか。こざわまさゆきを待ってあげている間に、いま考えているという"うんちギミックの使い方"について訥々と語り始めるサンタ氏。「こ、このひと演技だけじゃなく、普段もこのカオスな感じなのか……!」などと思っていると、例の人が遅参しレクチャー開始。サンタ氏はホワイトボードを見上げ、「どれやりましょうかね……」え、それぜんぶ作品タイトルなの!?
「なんか他のところでこの作品のレクチャーみたいなのをやると、一番インパクトがありすぎて、それ以外何も憶えてない、とか言われるんですよね。だからあんまやりたくないんですけど……でもやります」松田道弘だったか誰かも言っている。言い訳から手品を始めてはいけない、と。そんなトーンで始まる第1作目は"ED"。何かの略なのかな?



01.ED
運試しをしようということで2人ポーカーが始まる。演者は今日、一番運勢がいいらしい。観客は2番目に運がいいらしい。しかし観客のハンドがロイヤルフラッシュ。え、それ以上いいハンドってなんだ?と思いきや鳴り響く例のBGM!演者のカードをオープンすると……!

もうのっけからダメだwww 場内爆笑でありました。なにがYGOプリンシプルですかw 「YGOプリンシプルの1はラフ的な役割を果たす!」バーン!「プリンシプル2はシックカードの役割を果たす!」ババーン! なんだか、「続けてドロー!」とか聞こえてきそう。ご本人も年代によると仰ってましたが、私はギリOKですかね。アニメ見てたわけじゃないですが。そりゃあれ知ってる人がこれ見てあれ聞いたらそりゃ他のは頭に入ってきません。納得しました。揃えるべき道具にBGMがあるというカオティック手品w



02.ドリンク
カードを選ばせ箱に戻し、喉が渇いたのでと言ってデックケースにストローを挿して飲む。飲んだ結果デックは……。

これはショーでも拝見しました。好きな現象です。解説聞くと結構細かく考えられてて笑うんですが。いや、笑うところじゃないんですが、なんか、ねえw そんな真面目なサンタさん、サンタさんじゃないや、みたいな。でもまあ口からピップを出したりはするんですけどw



03.スネークライジング
観客にカードを選ばせ箱に戻して立てておく。演者はリコーダーを取り出し吹き始めるが……。

「笛は2 wayなんですよ」とか言い出して、なに言ってんだこのひと、とか思いましたが確かに2 wayでした。なるほど。ていうかレッドスネークカモン的な感じで笛吹いたら箱からにょきにょき出てくると思うじゃないですか。出てこないんですよね。ご本人は最初そうやって出したかったそうなのですが。作った経緯が「マジシャンが集まる飲み会で、いきなり笛を吹きだして音を出せば、周りの注目を集められそう」と、自分には思いもよらない話で。……シンバルとかどうですかね(迷惑)。

04.21
魂の重さは21gというダンカン・マクドゥガル博士の説の話から、デックから魂を抜いて確かめてみようという流れに。電子秤を取り出し、重さを確認した後、然るべき荘厳な音楽に乗せて魂を抜き取る儀式を行うサンタ氏。結果21g軽くなって真っ白になっているデック氏、怪しげな儀式で重さを戻すサンタ氏、元に戻るデック氏。

演出はもう怪しさ満点なのですが、やりたいことは意外と(?)詩的だし、使っている方法も技法とギャフがうまい。これ、安いやつじゃなくて、もう少ししっかりした秤を使うと演技がすんなり行く気がします。当方、箱内に精密電子秤を仕込み、取り上げられた枚数から重さを表示できるようにして、そこから何枚取り上げられたかが分かるギミックを作ったことがあります。



05.APCAAN
観客の自由に言ったポイントカードが、別の観客がサイコロの目によって指定した枚数目から出てくる。あと観客が言った好きなカードが演者の財布から出てくる。

まだ殺意の波動に目覚めていなかった頃のサンタ氏が、「お好きなカードを仰ってください」と言ったところ、酔客が「えへへ、クレジットカードかな」とかなんとか言ったのをスルーしながら思いついたそうですが、意外と(?)テーブル下のワークもまともな手品です。



06.ジャポティ
観客3人に紙片を選ばせたあと、紙袋を3つ出してきて、それぞれの観客に2択を迫る。よくあるジョークと思わせつつ、紙片の内容がすべてそれと一致している。

紀良京佑のチーズとセロテープのギャグを見て大変感動して作ったとのことで、あれ私も大好きなんですが、この作品本当に良かったです。お客さんと掛け合いしながら演じる手品が好きなのですが、これはホントしっくり来ました。道具を色々揃えないといけないのですが、ちょっとだけデチューンしてでもレパートリーに入れたいなと思わせる作品で。というか絶対演じてみたいと思います。サンタさんフルセット売らないかなw


07.デスノート
観客の選んだカードがデスノートに予言されている。デスノートの設定的に、簡単な内容であればカードが当たる状況についても予言されている。

色々解説聞いても面白かったのですが、ふと、「……"デス"要素は?」


08.金の斧
唐突に始まる絵本を持っての読み聞かせ。観客が自由に選んだカードをポケットにしまい、残ったデックを泉に落とすが、そこに現れた怪しいメガネの男が金のデックと銀のデックを出してくる。「あなたが落としたのはこの金のデックですか?」「違います」「ではこの銀のデックですか?」「それも違います」「それではこのクソ汚いデックですか」「はい」「正直者のあなたにはこの金と銀のデックも差し上げましょう」と言って、それぞれ箱から出してスプレッドすると、金のデックにも銀のデックにも最初にポケットに入れたカードだけがない。

手法は見ていれば分かるのですが、ここで使われているスイッチが、変に理屈が通っていて楽しかったです。踏みスイッチってなんかスイッチペダルっぽいですよね。


09.ドリーム
BGMに乗せて演者と観客が無言で同じ動作をするが、その間一致現象が2回起こる。

これショーで見たときも、レクチャーで見たときも不思議で。これも何も知らない観客を舞台に上げるが、サクラにするでもなく不思議を起こすという、自分的に理想の手品で。曲の盛り上がりに合わせて一致現象を起こさないといけないらしいので、練習はかなり必要ですし、セットもかなり手間っぽかったのですが、これはもう一度きちんと内容を聞きたいです。最後のほうで駆け足で私もメモを取りきれなかったのですが、ショーを作る、ということを考えたときに、きわめて適した作品だと思いました。

どれも面白かったですが、ジャポティとこのドリームは私の好みに特にガッチリフィットです。あと手品作り始めて1年半程度、と聞いて驚愕しました。

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続いてサンライズのチンピラっぽいほう、茘枝さん。静岡のKISSERさんとのツーショットとか、もう犯罪臭しかしません。でも茘枝さんは腰低いし(背は高いけど)、手品もすごく真面目で王道なんですよね。今回はトリックの数は少ないものの、サイコロジカルな方法の説明等をかなりじっくりと解説するかたちでした。



01.T2っぽいぽい
エニエニ現象。

02.CALL
アダルトトランプ予言。

03.思ったカード
観客が思ったカードが予言されている。

04.チャレンジャーズライブ演技(All Back)


01-03を題材に、合間に"SHINGOU"もやられていました。

まずT2っぽいぽいやつですが、これの原案を作ったやつを知っています。わ、わたしだ。悪ふざけ同人誌『ASIS』に載ってるよ!(やけくそダイレクトマーケティング
茘枝さんがこれの改案を作られた、というお話は伺っていて、先日のショーを含めて4回目見て、ようやく手法の一端を垣間見たかな?と思ったのですが、そのまま解説に入られてしまいましたw 謎の敗北感。

その改案のもとにしたのは茘枝さんの"思ったカード"という、観客が思ったカードが最初から持たせていた封筒の中に予言されている、というもので、これはこれで一瞬ギャグかと思わせておいて実は、といういい作品なのです。アウトによって、現象のインパクトには差が出るべきか、それとも差が出ないのがいいのか、というお話があります。私はどちらかというとビビリなので、大体同じにしたいと思うのですが、茘枝さんのご説明を聞くと、まずばらつきがあって良くて、そのばらつきの中の一番すごいインパクトのやつを、一番選ばれやすいものにしておく、というのは確かに理にかなってるなと思いました。

説明のために2017年のマジケでも扱っていた"SHINGOU"という赤青黄が予言されているポケットトリックを使われていたのですが、正直侮っておりました。茘枝さんに魅せられると不思議でした。理屈からすればランダムでも3分の1で当たるのに。01と03はどちらもうまい具合に現象を達成しつつ、舞台に上がった観客と、客席の観客が見ていること、聞いていることの意味合いが違う、いわゆるデュアルリアリティの理屈をうまいこと体現していると思いました。こざわさんが「よく練られたデュアルリアリティのスクリプトって、裏から見ると、ダブルミーニングを効かせた叙述トリックや、アンジャッシュの勘違いコントのようです」と仰っていて、確かにと思ったりしました。"思ったカード"は、現象としては上記、観客が思ったカードが予言されている、というものなのですが、その仕組や台詞に至るまで、めちゃめちゃ細かく解説されているノートが売られており、説明はひととおり聞いたのですが買ってきました(聞く前に)。



CALLは単品でも売っていて、「可愛い子フォース」というのを使うのですが、あの澤浩をも幻惑した代物です。説明を求められ、聞いた澤さんに「これは新たなスタンダードになりますね」と言わしめたあれです。昨年ノート買って読んだときに思ったのですが、この原理は確かに示唆に富んでいるのです。意地悪な気持ちなしに、ぱっとみて、というときに、8割9割の人が好ましいと思う、選んでしまうものって意図的に色々作れる気がするのですね。本作はアダルトトランプで行っていますが、それこそ色だとか、景色だとか、表情だとか、そういうのも使えると思うのです。学問としては認知科学の領域な気がしますが、身の回りの実践としてはコマーシャルやマーケティングの手法によく使われているのではないかと思うんですよね、こういうの。好ましい配色や不快に思う配列、しっくり来る流れ、そういうのってもっと深掘りできるトピックなのだなあと思っておりました。本作は本作で、久々に実演見ましたけど、これ本当に選ばされている感がないというか、当たったときの不思議さときたらないです。きっかけが深夜のテンションで「エロトランプでマジック作ろうぜwww」からとは信じがたいですが、結構真面目に、人にものを選ばせる/選ばせないことについては研究の余地があるのは間違いないところだと思います。無論その性質上100%は難しいので、アウトはいくつか必要になるとは思いますが、本作のように構成されると思考を読まれたとしか思えない、いい意味でキモイ、いかにもメンタル、って感じの現象になること請け合いです。


チャレンジャーズライブのオールバックはビジュアルさもあり、かつ舞台に上げた観客には分かるがそうでない人には分からない即席の「通し」があったりと、演技も面白いんですが、裏側の工夫も良かったです。ここでも使われていましたが、昔ダブルデッカーなどがメジャーではなかった頃(そもそもなかった?)、涼宮ハルヒのパケット・トリックを行うために芯地を抜いたカードを作っていた阿呆を思い出しました。わ、私だあ!

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そういえばサンライズのおふたりは、本当に野島伸幸さんがお好きなようで、個々にお話伺っても、どちらも本当に野島さんを尊敬・感謝してらっしゃることが伺えて、野島さん人徳すごいなーと思いました。まったく同じ日、同じ時間に、件の野島さんご本人のレクチャーが行われている、という事実がなければ!野島さんもサンライズレクチャーに参加できてれば!もっと美談になったのになあw 野島さんが「今度サンタと茘枝ちょっと処すか」とか言ってるあたりもよかったです。血で血を洗う師弟関係ですね。わくわく。

Ryan Schlutz『Super Strong Super Simple』DVD

昔から好きなんですよね、ライアン・シュルツとシンプルで不思議なマジック。シュルツはめっちゃテクニックもうまいんですが、それをあまり表に出さず、クレバーなトリック作ったり他のDVDに提供したりしている人で。私には無理、という技法もまれに使うのですが、大半は「そもそもどうやって実現したのかさっぱり」という感じで、そこがお気に入りでもあります。DVDとか多分コンプしてます。ラブです。彼のリフル・ピークがマスターしたいです。パケット超曲げるんですけど私はパワーが足りないw

さておき。Ryan Schlutz『Super Strong Super Simple』DVD でございます。名盤です。シュルツ本人の作品も複数入っていますが、要するに古今の名作オンパレードDVDであり、そりゃ面白いに決まっています。ハズレなしの16作品5ムーブの3時間が襲ってきます。しゅごい。鮮やかな現象が多いわけではないのですが、現象見て「え、まじで?」となり、解説聞いて「あああああ、まじかあああ」ってなって大変楽しかったです。昨今の「マジシャンもビックリ、クイック&ビジュアル!」というのとは方向性が違うのですが、私のように"手品しない人に手品見せて楽しんでもらえるなら、別に簡単なのでいいです"という趣向の人にはバッチリの1枚です(※個人の感想です)。備忘を兼ねてちゃんと感想を書いておこうと思います。


添付の画像はメニュー画面ですが、01.02.03、06.07.08、10.11.12はそれぞれワンセットで演じるのが好きだ、とか3と11はかりたデックでできるよ、とかあるんですが、借りたデックで出来ないやつのほうが少ない気がします。

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01_"Forget to Remember" by Ryan Schlutz
観客に1枚のカードを一旦憶えてもらうが、難しくするためにそこからカードを変えてもらう。にも関わらずそれが予言されている。

のっけから不思議です。いや分かりますよ、解説を聞いたときに、「なんでそういう手続を踏ませたのかという部分は結構謎じゃない?」というのは。こまけえこたあいいんですよ。よく出来たトリックだと思います。



02_"Emotional Reaction" by Dai Vernon
観客が思ったカードを当てる。

ヴァーノンの名作ですね。オリジナルがどうだったか憶えていませんが、あの「観客のカードを特定・確認するシーンを、完全に見てなかったことにする」というのはいいですね。ボリス・ワイルドがよく使う手法ですが、フェイスを見ないといけないマジックのときにこれを挟むとディセプティブさが増す気がします。



03_"Borrowed OOTW" by Various
借りたデック、かつシャッフルされたあとのデックを使うアウト・オブ・ディス・ワールド。

デックの半分程度しか使わないので、私のようにOOTW長くてあんまり好きじゃないです、的な人にも安心。かつ赤黒分けておくとかそういう準備も不要。途中でちらっと見せたり修正したりするところが賢いなと思います。むしろいやらしいわ!w



04_"Pulse Detection" by Ryan Schlutz
観客が思ったカードを当てる。"Emotional Reaction"のバリエーション。

違いは、すぐに当てず、もう1ステップ入るところです。まずカードを特定したあと(例えばスペードの10)、4枚のカードを裏向きで出して1枚に指を置かせます。残りをめくっていくと7が3枚(ダイヤ・クラブ・ハート)。その流れから、当然観客がいま押さえているカードはまだ表になっていない残りスペードの7じゃないですか?という理屈でいきますが、実際にはスートはあっているがバリューが違います。カードをめくると、それだけフォー・オブ・ア・カインドに関係なく、観客のカードであるスペードの10になっています。こういうワンクッション、好きです。



05_"Prior Commitment" by Simon Aronson
2人の観客にそれぞれカードを憶えてもらう。デックに戻してスプレッドするとジョーカー2枚が表向きになっている。このジョーカーが教えてくれるんだ、と言って、その枚数分配っていくとそれぞれのカードが出てくる。しかもジョーカーの裏にはその数字が元々書いてある。

これあれだ、ジョー・デンにアロンソンのトリックだと言って教えてもらったやつです。こういうタイトルだったのか。とにかく不思議です。なんで当たるんだよ感が。観客が何枚でカットしようが関係なく当たる。いやあ、キモいです。



06_"Bath Towel Mentalism" by So Sato
観客2人に、テーブルの下で1枚のカードを交換してもらう。演者は1人目のカードを手をかざしただけで当て、2人目のカードは箱に入れてもらった状態で当てる。

ちょいと前、ご本人の演技見て「おおお、不思議だ!」とか思っていましたが、ここで取り上げられるとは。あらためて、現象の不思議さに構成の美しさ、舞台の設え(シナリオ設定)の妙にため息が出ますね。シュルツも言っていましたが、あの2人目に箱に入れさせるところ、本当に頭いいです。



07_"It Cuts Deep" by Ryan Schlutz
観客が自由にカットしたところのカードを3枚テーブルに出してもらうが、演者はそれを言い当てる。

タイトルからも行動からもバルドゥッチのカット・ディーパーを使ってそう、というところまでは予想がついたのですが、1枚はともかく、3枚当てるってどういうことだよ、という感じですが、なかなかに図々しい解決。これは以前別のDVDで見たときも、その図々しさというか巧妙さが実に好きでした。手品っぽい。



08_"All Expenses Paid" by Jim Krenz
カード・アクロス。観客が確かに数えたカードが見えない飛行をする。

ジム・クレンツの名作です。これのすごいところは、観客がすべてを行い、演者は一切手を触れないのにカードが飛行するところ。世の中には、赤パケットと青パケットを使うことでビジュアルを強調したいとか、不可能性を前面に出したいとか、こざわまさゆき言うところの「こじらせちゃったひとが考えるカード・アクロス」がゴマンとあるわけですが、それを否定するものでもないのですけど、このダイレクトかつ骨太な手順は見習ってほしいと思います。なにより、『私にもできる!』これ重要ですw
去年、Penguin Magic Live Lectureでクレンツの演技見まして、これがまたどれも不思議で。TPCベースでタマリッツひっかけるとか、"Bannon Triumph"(Pray it Straight)ベースでバノンをひっかけるとか、こいつはなんだ、相手の得意技で相手を倒すとか、漫画でよく見る強敵かよ、みたいな。



09_"Upside Down Deck" by Francis Carlyle
演者と観客が選んだ1枚ずつだけ向きが変わる、ツー・カーズ・トライアンフ。

手品をしない人は、1枚ずつほぼ交互に表裏になってなくても、パケットレベルで表、裏、表、くらいで十分ごちゃまぜになっていると思ってくれるだろうか。なんにせよスプレッドした瞬間がびっくりですわ。広げる直前に裏向きのカードが見えているのがいやらしいですねw



10_“The Absent Player” by Dani DaOrtiz
観客含めて徹底的に混ぜたデックで、観客に配らせた状態でポーカーを行うが、演者にロイヤルフラッシュが来る。

これほんとダオルティスのを見たときめっちゃ驚きましたねえ。こういう構造のものは最近だとジョセフ・バリーがくっそうまいんですが、ともあれ超不思議です。演者が最初に4枚交換したことって全然記憶に残らないんだろうなあ。



11_"Gemini Location" by Liam Montier
2人の観客が選んだカードを、1人目のはカードの表を見ながら言い当て、2人目は観客自身に読み上げながら配らせるがそれでも当たる。

ジェミニ・トリックの原理を使い、観客の声の震えの調子で当てるという演出が面白い。ジェミニ・トリックはそれこそ数多くの改案があるジャンルですが、うまい使い方だなと思います。




12_"Poker Players Picnic Redux" by Ed Oschmann and Tom Dobrowolski
ちょっとしたハイ/ロー・ゲーム(数字の大きいほうが勝ち)をしようと持ち掛ける。演者と観客で全力でシャッフルをしたデックを4人で分け、ランダム性を作るためにもうひと操作行う。まずボトム・カードを見て、その枚数分下に回す(絵札のように長くなりそうなものなら、そのまま回しても、スペルのぶん配っても構わない)。それからほかの3人に1枚ずつカードを渡す。これを全員が行い、最終的に一番上に来たカードをひっくり返すと…!

変な声出た。「え、でもこれ、何枚下に回すかわかんないじゃないですか……」と思っていたのですが、ちゃんとそういう目的でセットされてるのよね。くらっときましたね。あと私これ、最初解説聞いたとき、「最後の人に、数じゃなくてスペルでやられたら困るじゃん」とか思ったのですが、よくよく聞くと、現象説明で書いたように「絵札とか、配る枚数が多くなりそうなときは、そのまま数ぶん配らせるか、それともスペルの分だけ配るか選ばせられるよ」ってちゃんとシュルツは言っていました。見事だ。あ、冒頭のピクニックの綴りがPinicになっていますぞ(どうでもいい発見)。



13_"4 Sided Gemini" by John Bannon
最初に1枚のカードを誰にも見せないようにして観客のポケットにしまってもらう。観客に1枚ずつカードを配らせ、止めたところにジョーカーを挟む、というのを2人にやらせる。ジョーカーの示す場所のカードが黒のエース2枚、配らせたカードの数の和の分配るとダイヤのエースが出てきて、最初に入れておいてもらったカードを取り出してもらうとハートのエースである。

ば、バノン先生のきたー!『Destination Zero』(本)とか、『Move Zero Vol.1』(DVD)でも解説されていたアレです。「バノンファンなら常識ですよ」と訳の人が。どんだけ好きなんだよ。ジェミニ手順がここでも、という感じです。マッチングに使うのはよくありますが、これはフォー・エース・プロダクションになっています。いや、別にそれもよくあるかw バノン先生のこの図々しく「観客の操作を観客自身の手でなかったことにさせる」系の仕組み、好き。解説中にボブ・ロスの名前が出てきてちょっとニヤリとする。



14_"Shuffle-Bored" by Simon Aronson
演者は最初に予言のメッセージを観客の一人に送っておく。デックを取り出し、表裏ごちゃごちゃに何度も混ぜさせた後、その予言を読み上げてもらう。その表向きの枚数や赤黒の枚数などがすべて正しく予言されている。

もうね、名作ですね。知っててなお、途中途中で「あれ?いや、これ、今回はさすがにもう無理じゃないですかね」としか思えない状況で多段式予言が的中していきます。アロンソンのは大きな紙に上から予言を書いておいて、それを引き出しながら見せていく、という見せ方で(たぶん)、有名な改案としてはアリ・ボンゴの"折りたたんだ紙を開いていくと次なる予言が出てくる"というのがあります(私は最初それで知りました)。シュルツは観客のスマホにテキストメッセージとして送るというかたちにはしており、現代的な感じに仕立ててはいるものの(予言の効果を高めるため、改行はたくさん入れようね、みたいな)、根幹の仕組みは同じであり、やはり原案の力強さを思い知ります。あとシュルツはロゼッタ・シャッフル(レナート・グリーンがよく使っている、デックをふたつに分けて、ぐりぐりとねじって円状にしたものを左右から押し込んでシャッフルさせるアレ)を実にカジュアルに使いまして、それがまたいいのです。あれはぐちゃぐちゃ感を見せるのに本当に適した手法なのだなと再認識しました。



15_"Silent Tansmission" by Eddie Fields
観客がデックをシャッフルしてからカードを1枚選んで憶えて戻し、パケットを表向きと裏向き半分ずつでシャッフルをする。表向きのカードを読み上げさせるが演者は観客のカードが何かを言い当てる。この間、ずっと演者は電話向こうで指示を出しているだけである。

演技の冒頭から、観客の女性2人と、その間に通話状態になった電話が置いてあるだけ。観客たちは、シュルツの指示に従ってデックをシャッフルしたりパケットに分けたりカードを覚えたり混ぜたり読み上げたりしていくが、選んだカードが当たると。当たってしまうのです。もう電話越しっていうのを抜きにしても、最初に観客がデックをシャッフルした時点で、「これ演者も現場にいないし、どうやったって当たらないだろ、というか当てる手品ではないのか?」などと思い始めましたが、まあ当たりまして、変な声出ました。ビル・ムラタのワイキキ・カード・ロケーションという私の大好きなロケーションの仕組みがあり、要するにそれを使うのですが、これ電話越しにやるとここまで気持ち悪いトリックになるのかと震えました。なお解説聞くまでWCLであることに気付かなかった盆暗、それがわたくし。



16_"Six Covers Six" by Ryan Schlutz
観客がカードを1枚憶え、自分でシャッフルするが、その上で演者がカードを当てる。それも裏向きでな!

シュルツまじかしこい。だって裏向きで、観客の脈というか勘の力で当てるんですよ。キーカードの作り方が絶妙ですよね。たまりません。サンクン・キーとかやられるとまあ分かりませんね。




BONUS: Moves Toolbox
Pinky Break, Swing Cut, Box Switch, Controlling the Top Stock, Magician's Choice

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あと、気になった、というかこれはもう昔からなのですが、シュルツは英語がかなり早いのでそこは注意です。台詞の面白みをわかれよということまでは要求されませんし、解説部分を見て手順がたどれないことはないと思うのですが、まあガチネイティブのイングリッシュはめっちゃ早いな、ということだけ覚悟しておいたほうがいいです、と。日本のショップは手順概略とかつけて売ればいいのに。いや、スクリプト・マヌーヴァが字幕付きで出せばいいのです。なんでもっと早く出してくれなかったんですかヒゲ社長!

あとトラックの切り方がヘンというか。個々、「そのトリックに関してのシュルツのコメント」→「観客相手の演技」→「解説」 という構成で、それ自体は別にいいのですが、「この現象にはひとつだけギミックを使うんだ。ダブルバックカード。これを使うだけでこの奇跡が起こせるというわけでね」みたいな、若干のネタバレ的な要素を含むんですよ、この「冒頭のコメント部」w 最初「あれ、解説?解説は演技見たあとでいいのよ。演技から見たいのに。どこかな…?」ってなってた間抜けが東京に一人いたとかいないとか私とか。

ゆうきとも「オープニング・セレクション」

monthly Magic LessonのDVDには、毎回メインメニューに入る前に30秒くらいの手元のみ無言での演技映像があり、これがまたクイックかつビジュアルな現象が多くて好きだったのですが、基本的には本編で解説はありません。古今の他の人の作品だから解説できないとかそういう感じなのかなと思っていたのですが、必ずしもそうではなかったようで。半年に一度変えているとのことなので、150号を数えるいまや25種類ものクイック&ビジュアルな手順があったということになります。重ね重ね解説がないのは惜しいなと思っていたところ、出ましたね、「オープニング・セレクション」が。


DVDが届いた日、「演技だけ見たら寝よう。あの長さ6作品だし、まあ5分もあれば終わるでしょう」と思って見始めたところ、結局ついつい解説まで全部、50分ちょい見てしまう面白さ。どれも面白いのですが、個人的には"オイル&ウォーター8.5"と"ファイブ・キングズ・ロイヤル"、"フラップ・ジャックス"が特に好きでしたね、と書いて、6個のうち3個を「特に」といっても、「特に」感がゼロなことに気付きました、いま。ああ、"EZ ハイパーツイスト"も捨てがたい。

まずあれです、ゆうきさんはカウントがうますぎます。当然そうあるべき、というのはともかく、リバースカウント、エルムズレイカウント、ツーフォーカウントあたりが区別つきません。あと久々に見ましたが、フェンテスチェンジもクソうまいの。ふわっと変わる感じ。ゆうきともほど、『キャラ色はないので「あ、これはできそう」と思わせつつ、実際やってみるとああはならない(できない)』という演技を見せるマジシャンも珍しかろうという気もします。アクロバティックなことをしているわけではないのに、かつ自分もその技法はできるはずなのに、まとめてやってみると「なんか自分、全体的に雑」のような。ガビとかキコとかは見た瞬間「ハイ無理ー。ていうかこいつ本当に同じ人類なのか?」とか思うのですが、ゆうきともは『一見ラクにトレースできそうなのに、やってみると自分の"コレジャナイ感"が見える』というのが曲者です。大変けしからんです。あ、いや、全部が全部ゆうきともみたいなクオリティでできなきゃいけないわけでもないですし、トリックとして成立するレベルくらいには自分でもできるように作られているのですけれど。ともあれ、なんだかんだ短時間でインパクトある作品が揃っている印象でございました。

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■限りなく赤に近いブルー(ノースイッチバージョン)
「瞬発力」マックスのカラーチェンジングデックの手順。以前にDVD 「ワイズワークス」 で発表された手順をアレンジして、よりセルフ‐コンテインドな形にしました。シャレの利いた台詞回しによって、色が変わる「理由」を作り出している点も注目です。(mML Vol.13-18のオープニングで使用)

■EZ ハイパーツイスト
パケットトリックのクラシックである「ハイパーツイスト」をよりライトなカード構成にして演じやすくした作品。Aから4までの4枚でツイスト現象が起こり、4枚とも同一カードに変化して、さらにクライマックスの現象がある意外性抜群のトリック。(mML Vol.43-48のオープニングで使用)

■オイル&ウォーター8.5
複数段構成のオイル&ウォーターから、最後は瞬間的な入れ替わり現象となる
ボリューム感満点の手順。大変巧妙な手順構成となっていて、おそらく感心されることでしょう。一般的なあるギミックカード(ただしO&Wに使うのはさほど一般的ではない)をを使用することで、レギュラーではできないクリーンさを実現しています。(mML Vol.55-60のオープニングで使用)

■バックグラウンド・オープナー
オープナーとして4枚のエースを鮮やかに取り出し、見るとその4枚だけ裏の色が違っています。解説をご覧になるとわかりますが、応用が利く、使い勝手の良いきわめて実践的な手順です。(mML Vol.67-71のオープニングで使用)

■ファイブ・キングズ・ロイヤル
5枚の同一カードが、あっという間にロイヤルフラッシュに変化。 ちょっとテクニカルですが、秀逸なメカニズムを持つ佳作。ブラザー・ジョン・ハーマンの作品です。(mML Vol.73-78のオープニングで使用)

■フラップ・ジャックス
ポール・ハリスが有名にしたフォーカードのレべレーション。パタパタっと、瞬間的にフォアエースが開示される見事なカラクリ。発表当時大流行しただけあって、この楽しさは別格です。セルフワーキング・フラリッシュとでもいうべき唯一無二の怪作。(mML Vol.109-114のオープニングで使用)