教授の戯言

手品のお話とかね。

『Greater Magic 邦訳補遺集 巻之弐』

この2ヶ月、ジャンカルロ・スカリア、ジョシュア・ジェイ、マルティン・ブラエッサスと、3人のレクチャーに参加してまいりました。上手い人の手品はやはりいいですね。スクリプト・マヌーヴァさんにおかれましては、ジョシュア・ジェイが実演もしていた『The Particle System』の日本語版を出してほしいです。Hurry!

 

そんな中、『Greater Magic 邦訳補遺集巻之弐』もちゃんと作っていたのです。偉い。なおいま最終巻である巻之参も半分ほど終わっております。市場のニーズガン無視で進めております。「いまさら止められないとなった」とか、政治家みたいなことを言うようになるとは思いませんでした。

 

今回はマインド・リーディング、魔方陣、ナゾの手品道具の3本柱でお送りします。

マインド・リーディングはアネマンがイケイケだった当時の作品で、マジック界的にもかなり洗練されてきた時代の手法といった趣です。電子デバイスを使わないのであれば手法自体はそんなに発展させようもない領域だとも思うので、現代でも演じられそうです。ひとつ、「吸取紙」という用具を使うトリックがあるのですが(万年筆で書いた質問文章に吸取紙を当てると、吸い取ったインクが勝手に質問の応えの文章・単語へと変化する)、吸取紙って最近見ないですね。吸取紙というのはその名の通り、万年筆で書いたあと、余分なインクを吸い取るためのもので、昔の紳士は必ず携帯しているようなものだそうですが、最近のインクは速乾性が高いので、吸取紙を使うことはまずないんですよね。売っているのだろうか。ググったらいっぱい売っていました。湿気もよく吸うので、書類の保管に重宝されているようです。なんてことだ。

カードの記憶術、は当時の記憶術の大家、スミスによる連想法による暗記です。これを活用して当時演じられていたのが、「観客たちに好き勝手に数字と物を言ってもらい、それを黒板に記入していくが、最終的にそれを見ずに全部言うことで拍手喝采」な芸などです。シャッフルされたデックの並びをガチで憶えて全部順序通りに言っていくやーつとかも解説されています。英語ベースというのもありますが、私はできる気がしません(正直)。誰かマスターして見せてください。

方陣。魔方陣はプロでやっている人を見たことがほとんどないのですが、日本人でやっている人(アマチュア)は、それはもうドッカンドッカン受けていたので、正直羨ましいというか、やってみたいとは思っていました。基本となる3x3方陣のみならず、4x4、5x5、6x6、7x7、8x8、それ以上、と変態暗算マンになれる構成になっています。これはデックのガチ記憶に比べて、数日みっちり練習すれば実演にかけられる、現実的な難度のものばかりだと思います。ただ、ヒース先生も仰っていますが、「同一の観客に魔方陣トリック見せるなら多くて2つまでにしておきなさい。観客たちが魔方陣狂いでもない限りそれ以上は不要です」が真実だと思いました。魔方陣に限りませんが。

最後が当時のパーラーやステージで使われていた手品道具の数々の絵図。女性の体を透過して向こう側の本を読む道具がマイ・フェイバリット・トンチキ手品グッズでした。状況を想像するだけで笑ってしまう。

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次、最終巻は基本的にステージの心得とトリックです。フー・マンチュー(デイヴィッド・バンバーグ)による「奇術を演じるとはこういうことだ」と、心得だけ語られるのかと思いきや、かなり実践的なアドバイスがモリモリの章と、数々のステージ・マジックの解説の章ですが、まあそれはまたのお楽しみということで。

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邦訳補遺集巻之弐:

目次
第28章 マインド・リーディング 
悪魔の紙片リーディング(セオドア・アネマン) 
ワン・アヘッド・システム 
現代的なマインド・リーディング(ウィリアム・ヒューイット)
電話帳のブック・テスト(ジョン・マルホランド
ディクショナリー・トリック(J・N・ヒリアード)
封印されしメッセージ(シド・ロレイン)
魔法の吸取紙(シド・ロレイン)
ジオマンシー(ウィリアム・H・マカフリー)
ビー玉の当て物(C・W・ジョーンズ)
3 枚の紙片(セオドア・アネマン)
魔法の足し算(ウィリアム・H・マカフリー)
距離を隔てたマインド・リーディング(フランク・レーン)
最高の即席マインド・リーディング・トリック
指先のマインド・リーディング(バート・グスタフソン)
カードの記憶術(H・エイドリアン・スミス)
システムの概要
固定観念の表(文字)
固定観念の表(単語)
カードの表
連想法
シャッフルされたデックの記憶法
ユニークなメンタル・プロブレム(H・エイドリアン・スミス)
物のリストを記憶する
セットしたデックのための方法

第29章 魔方陣(ロイヤル・V・ヒース)
方陣についての基本
3x3方陣
5x5 魔方陣
奇数マス魔方陣と偶数マス魔方陣
8x8 魔方陣
6x6 魔方陣
方陣の楽しみ方
方陣の転置
誕生日魔方陣
歴史的な魔方陣
奇数と偶数の分離手順
数理的魔方陣
興味深い珍品

第30章 新旧の奇術道具
チャールズ・H・ラーソン・コレクション
消える砲弾
魔法の潜望鏡
魔法のやかん
シルク・スタンド
ミステリアスな円盤
ミステリアスなケース
無尽樽
紐と本
象牙のカード・ブロック
マダガスカルの小屋
アンブレラ・テーブル
デックがシルクに変化する
最新のブロックと紐
シルク・プロダクション・ボール
シルク・プロダクション
カード・テーブル
最新のミラー・グラス
シガレット・キャンドル
物質の貫通
その他のコレクション

訳者あとがき

 

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John Guastaferro 『The Nth Degree』日本語版

2024年に出た、ジョン・ガスタフェローの最新メジャー作品集『The Nth Degree』の日本語完訳版です。彼のメジャー作品集『One Degree』の正統続編であります。思い返すと2015年、ちょうど10年前に私、東京堂出版様から、ガスタフェローの『One Degree』の邦訳版を出させていただいたのです(『One Degree ジョン・ガスタフェロー カードマジック』)。うまくいけば2024年中に出せたのですが、諸々が立て込み、今年までずれ込んでしまいました。

本書は、前著の出版以降、世界中からの様々なフィードバックを受け、実演に基づくブラッシュアップや吟味を重ね、『その結果が本の形に結実したもの』です。もちろん著者独自の工夫も冴え渡っていますし、そのセンスの良さは絶品です。ただ、個人的に注目したいのは、やはり著者を含めた多くの人たちがガスタフェロー作品を実演していること、そしてそれに加え、彼の提唱する『ワン・ディグリー』ーーすなわち、ちょっとした労力ですぐに実行できる程度の改善(お客様を名前で呼ぶとか、見やすいようにきちんと動きを止める、等)を施し続けた結果、磨かれてきた手順である、というところです。作品はいずれも無理がなく、そしてなにより観客も演者も楽しそうというのが見てとれます。原稿のチェックも同じかもと思いましたが、ひとりで全部やることの尊さは認めつつも、やはり複数人の目(手)が入ったほうが完成度が上がる気がするのです(※個人の感想です)。本書はガスタフェローの著作ではありますが、その作品の背後には世界中の多くのマジシャンやマジック・ファンの方たちの気付きや工夫があることが明言されていて、そこも個人的にはアツいポイントだと思っています。私も他人の作品にちょっとだけ(ワン・ディグリー)手を入れて、見違えるようなものにして、「いや?たいしたことはしていないが?」とか言いたいものです(妄言)。

上述の通り、作品自体が練られているな、というのに加え、本書の作品は大半がお客様とのやり取りが盛り上がる、あるいは楽しめる構成になっています。ガスタフェロー自身がいわば『陽の手品者(てじなもん)』という感じなのですが、やはりそういう人が演じるのはこういうのだよな、という印象を受けました。ものすっごいテクニカルな技でレイマンを圧倒したい、マジシャンを引っ掛けたい、みたいな人には向いていないとは思いますが、不思議でありつつも楽しい、主体的なエンタメマジックをお求めの諸兄諸姉には最適であろうと思います。バノンも同様ですが、テクニック的には中級レベルあれば、ある程度の余裕をもって実演できそうな難易度のものが揃っていると思います。

コラムについてもマジックに限らず、社会生活を営む、あるいは何がしかの挑戦をするにあたってたしかに大切なことだよな、と思わせるポジティブなものが多く、根がネガティブな私としては、もっと若いとき、ハタチくらいのときに読んでおきたかったなと感じました。いま読むと眩しくてですね……。

26トリック、6エッセイ。A5箔押し上製本、マットp.p.ダストジャケットつき、228p。原著よりちょっとずっしり重くなって登場。

 

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訳者による独断と偏見ひとこと感想のコーナー!(長いので読まずに買っていただいて大丈夫です):

 

Chapter 1 想像してみよう

1. Invisible Opener 
ごっこ遊びで想像しただけのポーカー・チップ、デック、輪ゴムが、どこからともなく現れます。

→ガスタフェローの定番オープナー。国内外でやっている人を見ますね。

 

2. Perception Plus
マジシャンは5枚のブランク・カードを取り出します。1枚目のカードに魔法のように『Jacks』の文字が現れると、他の4枚のカードが4枚のJに変わります。メッセージ・カードの文字が今度は『Aces』になり、他の4枚はAに変わります。最後には全部ブランク・カードに戻り、すべては私たちの想像の産物であったことが分かるのです。 

アンビグラムがいい味を出しています。…ネタバレじゃないよね…?日本語アンビグラムなんかを作れたらより良いのですが。

 

3. Blank Slate 
デックが取り出されますが、見たところすべて真っ白です。1 枚のジョーカーが印刷され、別のカードが印刷され、さらにはデック全体が印刷された状態になります。

→ワイルド・カード現象。いや、ブランク・デックからのギュラー・デックへの変化か?基にした、自身の作品“Truth In Advertising”や“Virus”もですが、これだけの現象を見せながらも、使うギャフが2枚だけなこと、演技終了時には完全手渡し可能になっているところが好きです。あとコツも色々教えてくれるんですけど、ガスタフェロー、逆ファンが上手すぎじゃないですかね。私も新品のだといい感じに行けるのですが、多少使ったやつだとガタガタになってしまいます……。


Chapter 2 エースの導入

4. Freestyle Aces 
2人の参加者がデックをシャッフルし、4 つのパケットにカットし、そして4 枚のA を取り出します。

→これすき。マニアの会で演じまして、「まあマニア相手だし、『なるほどね』みたいな反応だろうな」と思っていたのですが、めっちゃ驚かれて逆にこっちがびっくりでした。2人で混ぜるところが実に巧妙です。いや、私の演じ方が上手かったからってことにしておいたほうがいいのかな…?ここで使われているフリースタイル・シャッフルは、観客に参加して混ぜてもらうものなのですが、特定の箇所(かたまり)を残せるので、マジシャンの使い勝手のみならず、観客に自分で混ぜた感じを抱いてもらうにも大変有用だと思います(事実、混ぜてはいますので)。

 

5. Self-Checkout
参加者がデックを4 つの山に分けると、そこから4 枚のA が現れます。マジシャンはカードに触れもしません。

→上記の、観客が1人だけの(あるいは対象1人だけにフォーカスしたい)とき版。

 

6. Royal Transpo
赤と黒の2 枚のポーカー・チップを使って、赤と黒のA を見つけます。Aは位置が入れ替わり、それからロイヤルフラッシュに変わります。

→ガスタフェローはちょいちょいカジノのレプリカ・チップを使うのですが、本作もいい感じに演技に華を添えてくれますね。コインよりも印象が深くなる気がします。

 

7. Tipping Point
マジシャンは1 本の指だけで4 枚のA をデックの中央から突き出してみせます。

→めっちゃ好き。ヴァーノンのギンズバーグ・ポークとか20年ぶりくらいに見た気がしますが、手の中でできてセットも簡単、見栄えもするというごきげんな4Aプロダクションです。


Chapter 3 目を引くもの

8. Stranger Sandwich 
サインしてもらったカードが見えなくなり、そのあと2 枚のジョーカーのあいだに鮮やかに実体化します。どんでん返しとして、サインされたカードのバック面が変化します!

→この、2枚をVの字に開いた空間部分に突如カードが1枚実体化するのは、鏡に映した自分の手元でも不思議です。章題通り、たいへん目を引きます。カッコいい。ていうか「あれ、いま自分、瞬きしてて見逃したか?」くらいの出現っぷりです。

 

9. Double Vision 
2 枚のカードが入れ替わったあと、デックに不気味な現象が起こります。デックの縁を3 回撫でると、デックがゆっくりと消えていきます。まず中部分がまるごと消え、次にボトム・カードが、そしてトップ・カードが。デックは完全に消えてしまいます。マジシャンはうしろのポケットからデックを取り出してきます。

→本書の中で一番実演が見たいやつです。側面から見たデックの真中部分が消え、下が消え、最後に全部消えるというかなり奇妙な現象。本作で一番トリッキーというか角度厳しめですが、一度は見てみたい。

 

10. Bermuda 
選ばれた3 枚のカードが、真ん中に三角形の空きスペースができるようにテーブルに置かれます。三角形を覆って動かすと、不思議な渦巻きが現れます。3 枚のカードをひっくり返すと図柄が真っ白になっています!

→物が消える手品が大好きなのですが、3人の選んだカードが完全に消失する本作はとてもいい。基本的には消える手順なので、再出現はご自由にな感じの記載ですが、個人的には再出現自体、なくてもいいのではないかという気がします。

 

11. GPS 
バック面の色が異なる『コンパス』・カードを使って、サイン入りの選ばれたカードを見つけ出します。その目標物は誰も想像できないほど近くにあるのです。

→こういうミステリー・カードものが好きで(好きなもの多すぎ問題)、いや、でもほら、最初からずっと置いてあったカードが、最後に観客のカードであることが明かされるやつ、お好きでしょう?ていうか、嫌いな人なんかいません(断言)。

 


Chapter 4 四之譜

12. The Other Mates 
参加者が自由に1 枚のカードをポケットに入れます。まず、マジシャンがそのカードを言い当てます。次に、参加者がフォー・オブ・ア・カインドの残りの3 枚を見つけ出します。

→選ばせ方の妙と、残りをググって……という体で、スペリング手法を使って当てるというふんわり手順。スペリング、と言っても別に英単語を綴れという話ではなく、訳注でも付けていますが、日本語でできるものです。ほとんどの時間、演者はデックに触りもしません。ガスタフェローは本作でも、『観客にやってもらう』というか、演者が手を触れないでどこまでできるかみたいなチャレンジをしていてそのへんが面白いです。

 

13. Assembly Line 
4 人の観客がそれぞれデックの4 分の1 ずつを持ち、それぞれの真ん中にJを埋めてしまいます。しかし4 枚のJ はすべて1 つのパケットの上に集合するのです。

→これはステージでも演じられる、サロン以上で見栄えがする大変いいトリックです(観客を4人も舞台に上げますし)。ガスタフェローが本作を執筆中、テレビ番組でプロマジシャンがこれを演じていて「なんというグッド・タイミング」みたいなエピソードが書いてあって、そこも好き。これは元手順が2012の『Ready, Set, GuastaferrO!』(日本語版では当該ノートも収録されている『Three of a Kind』があります!ダイレクト・マーケティング)にも収録されているもので、本作ではディスプレイの説得力を強める工夫等が施されています。

 

14. Hide & Seek
J とA がかくれんぼ(hide and seek)をします。A を脇に置いて10 数えるあいだに、数人の参加者が、J が隠れるのを手伝います。A が探し始めると、不思議なことに4 枚のJ に変わります。そしてA はというとJ が隠れていた場所にいるのです。

→かくれんぼの体で、演者が示したカードを観客に隠してもらうように巻き込んだ、リセット的というか、ポケットインターチェンジ手順です。本作にも顕著ですが、私なんかはどうしても一人の手遊びでやるからか、自分の手の中でできるような演じ方に行ってしまうのですが、ガスタフェローの場合はこういうのもお客さんとのやり取りに仕立てるところがやはりいいセンスだなと思いますね。
手品と全然関係ないですが、どうしてもこの語を見るとARBの名曲“Hide and Seek”が脳内で流れてしまいますね。いや、私の脳内はトリプルH版なんですけど。どれも名曲だった。

 

15. Tailspin Twist 
4 枚のJ が1 枚ずつひっくり返ったあと、すべてが裏になってしまい、真っ白に変わり、さらには4 枚のA へと変化します。

→現象記載通り、ゴージャスな手順です。個人的に、このチェンジのシークエンスもいいんですが、最後卓上にパケットをオープンにパタンと倒して置くところで、特定のカードだけが隠せるという地味なTIPSにぐっと来ました。自分でやっていて不思議。


Chapter 5 デックを手渡して

16. Changemaker
参加者がカードを1 枚憶えてデックをシャッフルしたあと、マジシャンはカードを1 枚だけ手の下に置きます。ワン・ツー・スリー、驚愕の瞬間!マジシャンはカードを言い当て、続いてカードが消失し、そして参加者の手の中から再び出現するのです。

→最終的に観客の手に持っていた無関係なはずのカードが選ばれたカード、っていうのはやはり盛り上がります。観客数人に混ぜさせたものを、特定の(だいたいの)位置にコントロールする本作の使用技法は汎用性が高そう。

 

17. Hybrid Triumph
カードが1 枚選ばれ、デックの中に戻されたあと、数人の観客に手伝ってもらってカードを表向きと裏向きでシャッフルします。そしていかなるスライト・オブ・ハンドも使わずに、カードの向きが揃います。選ばれたカード1 枚を除いて。

→ガスタフェローはこういう肝心な技法部分を観客にやらせたり、逆ファンのときの見え方の活用方法とか、いちいち巧いなと思います。彼の他のレクチャー・ノートや著作にあるトライアンフ系のトリックはどれもめっちゃ受けます。なおわたくし、これのディスプレイの部分がどうにもぎこちなくなってしまうので要練習。

 

18. Biddleless Redux
参加者が5 枚の中から1 枚を思い浮かべるだけで、そのカードは消え、デックの中央にひっくり返った状態で現れます。

→『One Degree』に収録の“Biddleless”自体、著者お気に入りのいいトリックで、本作はそれほど変更はないのですが、「1枚選んでください」から「1枚思ってください」になっていて、観客からの見た目としてはコントロールのしようがないんじゃないか感がより強められています。

 

19. Reign of Tearer 
観客たちがそれぞれ3 枚のカードを持った状態で始まります。彼らはカードを破き、配り、混ぜ、取り除き、最終的に1 片を残します。それぞれが異なった選択をしましたが、そうして手元に残った1 片が、最初に脇に置いていた1 片と完全に一致するのです。どんでん返しとして、これまでに取り除かれていた紙片さえも、それぞれ一致するペアになっています。

→ウッディ・アラゴンの“How To Find Your Other Half”のバリエーション。カードをみんなでビリビリ破ります。これも少人数の会なんかで実際にカードを手渡してやらせることが出来て良いと思います。

現象そのものの不思議さは減じていないのですが、フリー・チョイスの行動の結果によっては、どんでん返しとすべき現象が事前に分かってしまうことがあり、そこはまああんまり重要ではないのではないかもなのですが、個人的には最後まで隠したいところでした。隠せる方法が浮かばないのですが。

ディール・フリップ・ドロップという、技法というか手続きがあり、これを使うと特定の紙片の位置を保てるのですが、実演しておきながら二川さんに説明してもらうまで、なぜそうなるのか理解できておりませんでした笑


Chapter 6 ミステリーたち

20. Spectral
自由に選ばれたカードが消失し、そしてもっともミステリアスなかたちで再出現します。

→これは基にした彼自身のトリックの完成度がきわめて高く、本書でもほぼ変更されていません。彼のレクチャー・ツアーでも定番だそうです。本当ならそのまま見せられない状態のパケットを、観客自身に揃えてもらうフェイズがあるのですが、そこが図々しくて大好き。観客にちゃんとガイドすれば失敗はないとは思いますし、事実、私も失敗したことはないのですが、毎度ちょっとドキドキしています。

 

21. Whisper Mental
4 枚のカードが選ばれたあと、マジシャンは4 人の参加者の頭の中のささやきを聞いてその心を読みます。そしてそれぞれのカードを不思議なやり方で見つけ出します。

→自分の作品2つを実に見事にブラッシュアップし、接続した、「まさしく改案だな」というお手本のようなマルティプル・セレクション手順。憶えることもなくなり、クリンプを付ける必要もなくなって、実に美しい。改案とか改善とか言うにはちょっとなあ、というのはありがちですが、本作くらいやってくれると文句なしですね。

 

22. Blackjack Fever
参加者は52 までの数から1 つ思い浮かべ、それに基づいて2 つの山を作ります。それぞれの山の一番上のカードがブラックジャックになります。マジシャンによる予言も完全に一致します。

→9の数字根のアレみたいな原理を駆使しつつ、それらを多重のカバーで覆い隠す良作。一点、ブラックジャックってドローポーカーよりもさらに日本での知名度が低そうなところだけが心配です。いや、私は知ってるんですけども。最近の方たちはトランプ遊びとかもしないとか聞きますしね……。

 

23. Book of Clues 
デックの中の手がかりをもとに、観客たちが未知のカードの正体を突き止めます。そして優れたミステリーが概してそうであるように、最後にどんでん返しがあります。

→特定のカードを、別のカードをヒントにして絞っていくところがあるのですが、そのヒントがデュアル・リアリティ的というか、観客席の人たちが想像だにしていない状況になっていて、大好きですねえ、こういうの。

Notes & Credits部のバリエーション、こっちは演者ではなく、舞台に上げた、ヒントカードを選んだ3人に、観客のカードを当ててもらう手順なのですが、こっちのほうが好きです。私はマジシャンが優位に立ちすぎる演出が好みではないから、というだけですけれども。即席のサクラとかめっちゃいいですよね。

 

Chapter 7 Extra!

 

24. Crystal Clear
A の位置が入れ替わったあと、デックが硬くて透明なブロックに変化してしまいます。

→みんなの家の引き出しに眠っていることでおなじみ、オムニ・デックに出番が。4枚だけで、デックをシャッフル、カットしているように見せるのはなかなかドキドキでしたが、マニア相手にやっても大丈夫だったので大丈夫です(※個人の実演経験です)。観客の両手の中で隠してもらうのもGニキの手法っぽくていいですね。

 

25. MysteryWand
サインした1 枚のカードを4 枚のA の中に入れます。マジシャンは別デザインのカード1 枚と、リップ・クリームのキャップ2 個を使って即席のワンド杖を作ります。参加者がA の上でワンドを振ると、選んだカードが消えます。ワンドを開くと、そのカードがサイン・カードになっているのです。

→これめっちゃやりたいの。誰かリップクリームのキャップだけいっぱい買えるところご存じないですか。いや、2個あればいいので100均にでも行けばいいんですが。そしてこれも私の好きな、「観客にマジシャンの役をやってもらう」「それでも不思議な現象が起こる」「観客のカードが思いもよらないところ、今回で言えば自分が使っていたミニ・ワンドの棒の部分であったことが明かされる」という、好きポイントが多い。現象としても筋立てとしても、手品ナードには考えもつかない類のもので、たいへん憧れます。

 

26. Sublime In All
マジシャンと参加者が、選ばれたカードを見ることなく探し出すことに成功した後、すべての判断がサブリミナル広告の影響を受けていたことが明らかになります。その証拠に、選ばれたカードを除く全部のカードの裏には「Don't Pick Me」(私を引かないで)と書かれているのです。

→『One Degree』で最初を飾ったガスタフェローのお気に入り、“Truth In Advertising”ですが、それのサブリミナル広告という筋立ての回収にもなる手順です。最後、絶対サブリミナル効果ではないはずだけれど、そうとしか説明のつかないような状態で終わるという大変強い現象です。本書にも書いてありますが、本作は手順自体はそんなに難しくもないのですが、この51枚全部に『Don't Pick Me』って書く、というのが当然必要で、この準備が一番面倒です。『まあ1回だけだし、頑張る価値は充分にあるよ』ともありますし、そのとおりとは思います。最後、さっきまでなかったメッセージが、卓上いっぱいに広がったどのカードの裏にも書いてある、というのはきわめて壮観です。

 

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◆Table of Contents◆
序文:ジョン・バノン
エヌス・ディグリーについて

Chapter 1 想像してみよう
1. Invisible Opener 
2. Perception Plus 
3. Blank Slate 
エッセイ:あなたのマントラは何ですか? 

Chapter 2 エースの導入
4. Freestyle Aces 
5. Self-Checkout
6. Royal Transpo
7. Tipping Point
エッセイ:自分の目的を探す

Chapter 3 目を引くもの
8. Stranger Sandwich 
9. Double Vision 
10. Bermuda 
11. GPS 
エッセイ:ワン・ディグリーを詳細に分析する

Chapter 4 四之譜
12. The OtherMates 
13. Assembly Line 
14. Hide & Seek
15. Tailspin Twist 
エッセイ:創造性の鍵となるもの

Chapter 5 デックを手渡して
16. Changemaker
17. Hybrid Triumph
18. Biddleless Redux
19. Reign of Tearer 
エッセイ:四箇条

Chapter 6 ミステリーたち
20. Spectral
21. WhisperMental
22. Blackjack Fever
23. Book of Clues 
エッセイ:自分のやり方から離れる

Chapter 7 Extra!
24. Crystal Clear
25. MysteryWand
26. Sublime In All

Epilogue 
訳者あとがき

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『Greater Magic 邦訳補遺集 巻之壱』


1938年に出た奇術の百科事典的名著『Greater Magic』(J・N・ヒリアード)には、1980年前後に第26章までを日本語化した邦訳版が存在します。しかし実際にはそれ以降、もう1冊分の未訳部がありました(原書で170ページ分程度)。それを訳しちゃおうかな、でもいちどきに出すのはつらいので60ページ分ずつくらいかな、ということで今回その1冊目というわけです。なお、すでに日本語化されたことがある部分は7割以上がカード・トリックに関する箇所であり、必然、今回以降出す邦訳補遺集は基本的にカード以外の手品になります。カード・マニアの諸兄諸姉におかれましては興味湧かないやつですみません。なお、残りは以下のとおりです。第28章:マインド・リーディング、第29章:魔方陣、第30章:古い道具と新しい道具、第31章:ステージ・プレゼンテーション、第32章:ステージのトリックとイリュージョン

今回の補遺集Vol. 1では、角砂糖、マッチ、ロープといった古典感あふれる(身近な)素材から、アスベスト濃硫酸、バンサイト(水と混ざるとアセチレンガスを生成する)といった昨今使うには若干ヤバめなものも含む道具も登場します(本書の中にも記載していますが、『本書記載の内容を実行したことで生じたいかなる損害についても、訳者は責任を負いかねます。』(書いてみたかった))。3種の色砂をたらいの水の中で混ぜ合わせ、そこから特定の色ごとに砂を、しかも乾いた状態で取り出すやつや、はたまた観客に腕を握っていると感じさせながら実際には放せる方法、ガラス板にガラス棒を貫通させる仕掛け、はては鍋にこびりついた卵の汚れを取る謎のキッチン豆知識まで、盛り沢山な内容です。別名ごった煮。

80年以上前のマジック界ではどのようなことが行われていたのか、どういう道具があったのかなど、欲張りさんの知的好奇心を満足すること請け合い(※個人の感想です)。本書の収録作品はだいたいが、いま演じると、「見たことがない」「なにそれ不思議」「逆に新しい」となることでしょう。超面白かっこいいぜ!B5ソフトカバー(マットPP)、68p。

 

12/7のマジックマーケット2024冬D-5ブース(小石川文庫)にて頒布開始予定。会場ではBase等よりもお安くします。お立ち寄りの際にはお手にとって見ていただけると嬉しいです。読み物としても楽しいですよ!

 

Greater Magic 邦訳補遺集 巻之壱 | 教授の物販

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収録内容:
第27章 選りすぐりのトリック
即興トリック

4つの角砂糖
マッチを使ったトリック
 1. 旅するマッチ
 2. マッチを使った素敵なフラリッシュ
 3. マッチを使った当て物
 4. リンキング・マッチ
 5. 空中でマッチに火をつける
 6. 飛び移るマッチ
 7. 跳ねるマッチ(あるいは爪楊枝)(Wm・H・マカフリー)
 8. 消えるマッチ
 9. 浮揚するマッチ
鉛筆から湧き出る水(デイヴィッド・E・スウィフト)
3枚のシガレット・ペーパー
靴にとまる蝶
トリッキーなシンブル
斬新なシンブルの消失
有用な新趣向三選
 1. マッチ箱の利用
 2. セロファンの破り方
 3. 新しい仕掛け封筒
スレートを使ったトリック
 1. 両面に番号を振りつつ、片方の面にメッセージを記入しておく方法
 2. 空のフレームのアイディア
 3. フラップを使わないスレート・ライティング(スチュアート・ジュダ)
転がるゴルフ・ボール
上昇し下降する筒 ― 真のヒンドゥーのトリック
新しいライスボウル(アル・ベイカーによる改良版)
新しいサイコロと帽子のトリック(ペトリー・ルイス)
ガラスを貫通するガラス(エドワード・マッセイ)
貫通可能なガラス(ルートヴィヒ・クルオ)
ヒンドゥー・スレッド・トリック
中国の祈りの壺(ドン・ホワイトの手順)
穴だらけの箒の柄
飛び移る指輪 I
飛び移る指輪 II
新しいバニシング・グラス(パーシー・アボット
木製ブロックの当て物
キャンドルの当て物
コンパクトを使った当て物(ヘンリー・ゴーディアン)
ソルト・トリック(ヘンリー・ゴーディアン)
アフガニスタンの帯(ジェイムズ・ウォーベンスミスによる進展と改良)
 アフガニスタンの帯の進化版(エリス・スタニオン)
破っても復活する奇跡の紙(エリス・スタニオン)
砂漠の砂
 砂の準備(ユージーン・ローラントの方法)
 チャールズ・バートラムの方法
 ロウ引き紙を使う方法
 獣医師用カプセルを使う方法
 フー・マンチューの演出
 ハーラン・ターベルの演出
ピフ・パフ・プフ!! 魔法の安全ピン(ドン・ホワイトによる演じ方)
奇術に役立つ情報
 マジシャンズ・ワックス
 ゴム紐
 肌色の絵具
 斬新なプル
 便利なプル
 手を使って浮かせる
 フラッシュ・ペーパー
 スレッドまたは糸
 スレッド用の曲がった筒
 ビール
 ロープ
 卵の汚れ
 油染み
 絹の汚れ
 プル
 キャンドルのシェル
 ベルベット
 着色液
 金のペイント
 起毛製品
 羽花
実用的フラッシュ・ポット(ロイ・チャップマン)
プロダクション用の膨らむ風船(キャリル・S・フレミング
スピリット・グリップ(ユージーン・バーンスタイン
訳者あとがき

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『ネモニカ学習帳』第2版



『ネモニカ学習帳』の第2版を出しました。変わった箇所をおおまかにお伝えすると、デック初期状態からの組み方について分かりやすく書き直し、Tips2種と練習用の簡単な奇術2つ(どっちも当て物)を追加しています。みんなでメモライズド・デッカーになりましょう。たぶんですけど、いま日本語で読める、メモライズド・デックの取っ掛かり本としてはベストのチョイスなんじゃないかなと思っております。

 

家族が人質に取られていて、「1週間以内にネモニカを憶えろ。さもなくばお前の大切な家族に危害を加える」みたいな脅迫を受けている人以外は、以下の、少しあとのタイミングでお買い上げいただくと少し安いですよ、とお伝えしていたのに、なぜか注文してくださる方はちらほらいて、日本の治安もやばいのだろうか、と思うなどしました。

【お知らせ2】Baseのキャンペーンで、11/22-24にPayIDで買うと2割引されるようです。お急ぎでなければそちらをご利用ください。(右参照→ https://baseu.jp/36687

【お知らせ1】本書は、2024年12月開催のマジックマーケットのリアル会場の小石川文庫ブースでも頒布を行います。たぶん何もなければ「お祭りだYO!ウェーイ!」とか言いながら、ここよりお安い値付けを予定しているので、会場に行く予定がある方はそちらでお求めになることをオススメします。

 

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で、そもそも元のは何なんですか、という方のほうが多かろうと思うので、そういう方は過去記事のこちらをご覧ください。

kyouju.hateblo.jp


……いや、見てもあんまりよくわからないですね、これでは……。『上野さんは不器用』は面白いです。

 

上記初版は、ありがたいことに1年程度で売り切れたのです。……他のショップではマジックハウスさんでしか扱ってもらえなかったことはいまでも根に持っているものの、まあ、手品本ではなく駄洒落本だし仕方ないか……とも思っている複雑な心境。で。なぜかうちのショップで一番「アレはいつ再販するんですか」と聞かれる羽目になるというアレなアレですが、上記パワーアップして帰ってきました。「メモライズド・デックちょっと興味ある」とか、「前回のやつで憶えたけど在庫処理に協力してやらなくもない」みたいな方はぜひお買い求めください。

 

magic.theshop.jp

 

雑文:"教えていただいたトリック"の雑感等

先日、我が敬愛するJohn Guastaferroさんの新刊、『Nth Degree』の翻訳・出版権を購入しました。取得しただけでまだ何も受領していないので、諸々は来月以降に始まりますが。新作が読めるのが楽しみです。ていうかGニキ、まずは著者サイン入りの原書を買いたいので早く一般販売してください。

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皆さんのお好きなトリックを教えてくださいということで広く募り、ご回答いただいたのが前回2023年末のポストなのですが、いくつか買ったり読んだり触ったりしたものがあるので、備忘録がてらメモ。

 

1 Dave Campbell, "Thought Anticipated"(『The Dave Campbell Legacy』, Peter Duffie, 2004, p. 155)

→たいへん不思議な手品です。ただ、原書記載の方法・手順より、『monthly Magic Lesson Vol. 96』にてゆうきさんが紹介しているやり方のほうが面倒がなく(とはいえ、最初の準備の手間はあまり変わりませんが)、理屈としても正しいと思いました。繰り返しても演じられますし、手順も複雑ではないので、一度作ってさえしまえば長く使えるとてもいい手品です。

ただ、サークルでも演じた結果、演者としてはラクであるものの、プレゼンテーションがちょっとしっくりこないというか、伝えにくい気がしました。イチ観客として見ると、たしかに不思議なのだけどちょっと反応はしづらいかなあというか。

https://youtu.be/CrrCb0BG6rw?t=1556 萩の月に関する大発見に心惹かれてしまいました笑

 

 

2  加藤英夫, "13枚の中の4A" (『第24回 石田天海賞受賞記念 MAGIC 100 マジック・ワンハンドレッド』, 加藤英夫, 1992, p. 26)

あなたは13枚のカードを手に広げて持ち、相手に13枚のうちの好きな枚数目を2つ選ばせます。たとえば相手が3枚目と11枚目といったとします。「私も2つ選びましょう」といって、たとえば2枚目と5枚目を選びます。相手にカードを渡し、1枚ずつ表向きにまかせ、お互いに選んだ2、3、5、11枚目のカードだけ裏向きにまかせます。そして裏向きのカードを表向きにすると、なんと4枚のAなのです。

とこのように現象を書くと、なかなかすごいでしょう。その通りのことを私はできるのですが、問題はそのやり方を説明するのがじつに困難なのです。たとえやり方が理解できたとしても、マスターするのがそれ以上に難しいのです。(中略)いちおう説明いたしますが、これをマスターしようという気は起こされない方がよいかと思います。<本文より>

→著者の記述の通り、ちゃっちゃと練習してすぐにマスターというたぐいの手品ではありませんでした。理屈としては私の好みではあるものの、マスターしようという気は起こさないようにします。しかしこれを勧めてくれた方、「誰も演じてないし、受けも良いので」とのことですが、加藤さん同樣演じられるっぽいので、もうそれだけで凄い。

 

 

3  万博, "ゴリラムーブ"(A Bubble Circus(万博), 『すごいぞ!!ゴリラ』, 2019)

→こういうのを読むたび、この人本当に数理の鬼みたいな万博さんと同一人物なのだろうかという疑念がよぎります。万博さんといえば年末ついに新聞沙汰になっていましたね(いい話で)。持っていますし読んでもいますが、実演経験はありません。

 

 

4 Matt Sconce, "power word: fall"(Matt Sconce, 『power word: fall』)

→【自分 立てたペン1 立てたペン2 観客】 みたいな位置関係の状態で、ペン2だけが倒れるとかめっちゃ不思議。手も動かさないし、息で倒してもいないしでとても良い。解説がめっちゃ勢いがあって笑ってしまう。いつでもどこでもというとちょっと難しいかもですが、現象は結構薄気味悪いですよねこれ。佳き。

 

 

5 Rafael Benatar, "The favorite cards of my friend"(『Simply Impromp2 Vol.3』, Aldo Colombini著, 小林洋介訳, p. 33)

現象:デックをよく混ぜてもらった後に 2 人の観客に好きなカードをたずねます。そしてデックを広げて 演者の好きなカードを見つけだし、観客に渡します。そのカードをデックの中ほどに自由に戻してもらいます。デックを広げて演者の選んだカードを探すと、観客の言った 2 枚のカードの間にあります。

→大正義日本語訳あり。持っていました。サンキュー、ヨースケコバヤシ。今月か来月のサークルで演じてみたいと思います。

 

 

6 ドキムーン, "between" (DVD『Brave』, Kimoon Do, 2018, disc1)

→DVD持っていましたし、好きなDVDでもあります。みんな大好きド・キムーン。これはいいですよねえ。最初裏向きで出現したサンドイッチ・カードが一瞬で表向きになるのがかっこいい。キムーンの手品は、あまりごちゃごちゃしていない、そこまで難しくない、結構ビジュアル、という、普通の手品ファンに優しい構成で好き。世の一般的なトランプ手品講師には見習ってほしい。

 

 

8 ヒロサカイ, "ノーコントロールインビジブルデック"(フォーサイト, 『ケセラセラ 3』, 2014)

→私、『ケセラセラ』は4しか持っていないの…ですが、なぜかこれは知っているのです。これは枚数目へのコントロール自体はマジシャンが見れば「ああ、なるほど」という感じではあるかもしれないのですが、観客の指定したカードを知る手法が図々しくて好きです。準備不要なのもいいです。

 

 

9 Craig Petty, 『Keymaster Chrome』(同名商品)

→買っちゃった。最初にイントロダクションを見たとき、「ペティ随分小綺麗になったなあ」と思ったら、実演や解説をしてくれるのは基本デイヴィッド・ペンでした。途中に、このバージョンの発売時の10年前くらいと思しき頃のペティ本人が映像で出てきますが、まあ今よりマシとはいえ、やはりなんか怖そうな感じで、「そうそう、クレイグ・ペティっていったらこんな感じのむさい人だよな」と思いました。ひとつだけ自分で紙工作が必要ですが、工作ってレベルですらないので良いです。これ用にキーホルダーというかナスカンを買ってきてしまいました。しかしあれです、推薦者の方も言われていますが、カギという普通に穴(キーホルダー用途)が開いていておかしくないものを使い、その穴が塞がったり移動したりする、というのは、日用品マジックとしてきわめて秀逸だと思いました。

 

14  David Roth, "Eraser coin"(David Roth, 『Expert Coin Magic』, 1985, p. 152) 

https://www.youtube.com/watch?v=5BztUahcJG0

→“The Eraser Coin”は初めて動画を見ましたが、まず現象で笑い、「削れる箇所」がコインを持ったときに自然な箇所で、トンデモ手品(※私調べ)なのに手法は真面目、みたいなギャップにやられてしまいました。

 

 

15 Paul Curry, "Never in a lifetime" (Paul Curry, 『World Beyond』, 2001, p.298)

→"OotW"が相手の意識的な選択の結果であるのに対し、本作は観客と演者でデックを半分ずつ持ち、観客が混ぜて出来た結果の赤黒の順に応じて演者も同じようにしていくと、観客のパケットと全く同じ赤黒の順になる、というので、まあやはり少し意味合いが違う気がします。ていうかこれ、評判良くないのですか?面白いし、"OotW"の仕組みを知っている相手にも通用しそうな気がします。

フェザータッチマジックの本書に付属する日本語訳は基本抄訳ですが、本作については平賀さんの全訳が付いておりさっと理解できました。やはり日本語はいいですね笑

 

 

28 Dan Paulus, "Blind Luck"(同名動画商品)

→悔しいが(推薦者がお友達だったので)大変不思議なトリックだった。Dave Campbellの"Thought Anticipated"と、観客が現象自体から受ける印象は類似していると思いますが、こちらの方が最初に演じるまでのハードルは低い。あっちのほうが公明正大さは高いけれども。とにかくこちらはこちらで傑作というか、本当によくできた作品だなと思いました。

 

 

30 桂川新平, "estimation etude"(Secret Vol. 3 桂川新平, |Shimpei Katsuragawa著, Ben Daggers訳・編, LA CAMPANELLA, The Impossible Co., 2022, p. 14)

→久々に見ましたけど本当にピンキーカウントが上手いな桂川さん。桂川さんがやってるのを見るとめちゃめちゃ簡単そうに見えるが、実際にやってみると指が生まれたての子鹿みたいになってしまう。できればたいへんかっこよく、現象もスッキリわかりやすい。問題は私にはこんな華麗にできないところです。

 

 

32 岡野将太, "Blind"(岡野将太, 『Puzzle』, 2014)

→5人以上くらいでやると、(1人を除いて)めちゃめちゃ盛り上がりますなあ。確かに、一度きりしか演じられないのが惜しい。でもこういう手品は本当に盛り上がる。

あなたの好きなトリック教えてください

先日ふと、他の人の好きな手品ってどんなだろう、というのが知りたくなり、3分ほどでフォームを作ってみました。

結果、多くの方が色々なものを寄せてくれて嬉しい反面、私の物欲の刺激のされ方がやばいなと思いました。9000円くらいするやつ買っちゃったし。ペリーさんめ(オススメ者が誰だったかをバラしていくスタイル)。まあ先方も私の発言等で散財した経験は一度や二度ではないということなので、お互い長ドスをドテッパラに突き立てあって相打ち感があります。

 

ちょっとだけ手を入れましたが、2023.1231.1500の締切時点での回答を以下にお見せします。「書いてあげたけど、なんかこんな風に質問者以外にも見られるのはちょっと嫌だ」という方はこちらのコメントでも、SNSの方でも、言っていただければいつでも削除はいたしますのでお気軽に。推薦者名も書いたほうがいいのだろうか…?一応2023年末迄でいったん締切としたいと思います。 →募集終了。ご回答いただいた皆様、ありがとうございました。

 

ID 作者名 トリックのタイトル どういったところが好きなのかご紹介
1 Dave Campbell Thought Anticipated 不思議なやつを何か一個と言われたらコレです。非常にバランスが良いトリック。基本ノーセットで出来るものしか食指が動きませんがこれだけは常に出来るようにしておきたい一品。
2 加藤英夫 13枚の中の4A (確か天海賞の本) 誰も演じてないし、受けが良いので。
3 万博 ゴリラムーブ ゴリラがすごい。
4 matt sconce power word: fall 言語化できないのですが、あの空気感(手法に漂うもの含む)がたまりません。アホ。
5 Rafael Benatar The favorite cards of my friend 技法をほぼ使わないので借りたトランプでもでき、トランプの状態が悪くても大丈夫で、完全にシャッフルされた状態からカジュアルに始められるのにしっかりウケるので好きです。
6 ドキムーン between 低負担で、ビジュアルで、テンポも良くて、現象もわかりやすく、テーブル無しで出来る。手品が趣味でして…という流れから何かを見せなくてはいけない感じになった時、1番お世話になってます。
7 Art vanderlay ATM DIVINATION PLUS 色々なパスコード当てを見てきたが、1番気持ちの悪いものだった。
クリーンで日本のATMにも使える、即興で何の準備もなく出来る素晴らしいメンタルマジック。
8 ヒロサカイ ノーコントロールインビジブルデック 見えないデックの定番ギャグで遊んだあと、その見えないデックを「見て」カードを当てるという他に類を見ないシュールで不可思議なプロット、しかもFASIDUかつ全くテクニックが要らない!
9 Craig Petty Keymaster Chrome ムービングホール現象の中でも、繊細なメカニズムを使わず簡単なスライトのみで実現&トランプや名刺にわざわざ穴を空けたりせず当たり前に空いてる穴を使うことで、普段からやりやすいし、衝撃的な二段オチになってるのも素晴らしい。
何度も再販してるけど、Chrome版の時に追加された(らしい)キーホルダーを使ったやり方が、ロードと処理が確実なうえ、前後のディスプレイが極めて印象的になっていて、マジで秀逸!
10 上口龍生 ソルト&ペッパールーティン 出来ないんで、観るだけなんですが。
絶対に有り得ないけど、まさかと期待した通りの現象が起こってしまう快感と、想像の埒外の現象で打ちのめされる快感とが、繰り返しずっと襲ってくる、これぞ理想のマジック体験。
観るだけなんですが!
11 Asi Wind The Trick that Never Ends サクッとできる、なんかやって、と言われたときにセット不要のデックですぐできる。不思議。Repertoire という本で解説されています。
12 未記入 レインボーデック(クロックフォース=時計の予言) 最後のリボンスプレッドシーンが美しいです。レインボーデックそのものの品質に依存しますが、ジョニー広瀬さんのハンドリングが好きです。手順は以前デックとともにマジックランドで売られていたかと。
13 こざわまさゆき バースデートリック 手品じゃなくなってるあたりがいいと思うんですよ。こういうのもイフェクトイズエブリシングって言うんですか?
14 David Roth Eraser coin コインの形状が変わる手品が好きになったキッカケ。消しゴムでコインが削れるという絶妙なフィクションがたまらない。
15 Paul Curry Never in a lifetime 評判とは裏腹に、大変魅力的だなと感じています。
現象はOut of this Worldとは別物と感じました。OOTWがまさに世界を超えるような現象で無機質な不思議であるのに対し、観客と演者のカードのシャッフルの一致という有機質な気味の悪さのある不思議(良い意味で)があります。
性格も見た目も違うが根は同じ兄弟のような感じと思っています。
些か腑に落ちない点はありますが、そこを上手くこなしてこの現象を鮮やかに演じられたらなと思いもっと脚光が当たらないかなと思っています。
16 石田隆信 カード魔方陣の謎 数理の暴力であり、追えるとか追えないの問題ではないところ。すべてのカードに意味が生じる構成になっているのが美しい。
17 Kainoa Harbottle Three Why 正直途中のスリーフライ部分に特筆すべきとこはないのですが、
後半で使われてるスティールがマージで神技法です(たぶんインスピレーション元はムトベさんのアナザー)
全コインマンは見るべし
18 みかめくらふと ミッシングボール 左手で持った小さなテーブル的な板をステージとして、その上に3つの紙コップを伏せて、小さなボールを1つ中に入れ、それがどこに行ったか当ててもらう手品です。左手はただ台を持っているようにみせて、その実、板の下では色々なワークを行うのですが、その操作を含め、やっていて大変楽しい演目です。商品説明にもあったように大人数、特に子供がたくさんいるような環境で大変盛り上がります。
19 齋藤修三郎 月に吠える Pit HartlingのColour Senseのようなトリックです。赤の字札数枚と黒の絵札数枚を混ぜてひとつのパケットを作ります(観客が混ぜます)。演者はそのパケットを1枚ずつテーブルの下から裏向きのまま出してくるのですが、表を見ずに各カードの表が赤か黒かを全て言い当てていきます。
まず現象がカッコイイのですが、これを実現している手法が実に衝撃的で、解説をされて己の注意力の低さに愕然としました。こういう眼の前でとんでもなく図々しいことやられていたことに気づかない手品、大好きです。
20 Marc Desouza Die of Destiny 選んだカードをお客さんがダイスを振って1枚に絞って当てる。何とダイスはブランク。つまり目は1-6のうちで何でもいい。なんなら想像したダイスでもいい。不思議なのに演者の負担がとても軽いのでお客さんと楽しくやりとりしながらできる。長年ここぞというときに演じるペットトリックです。
21 Bob Read Bottle Production みんな大好きボトルプロダクション。何度でも引っ掛かるw ただこれはご本人の名人芸であって真似できない。
22 David Williamson The Famous 3 Card Trick カード当てじゃない、面白くて、オチのインパクトがすごい。良い意味で乱暴な手順なので雑に演じても良く、繊細さの欠片もない自分に向いてる。
23 Jon Racherbaumer Dueling Card Tricks カードの当て方を数学者はこうする、超能力者はこうする、そしてマジシャンは…という演出が好き。93年のレクチャーノート(マジックランド)に載ってる古い作品なのでこのプロットで誰かがアレンジしてそうな気がしてならない(ご存知でしたら教えてください)。
24 Garrett Thomas Stand Up Monte めちゃんこ不思議で使い勝手が良いモンテで、スピード感がありダレる前に全て終わる。マスターしてからずっと相棒。ただ自分も引っ掛かるせいで何度か習得を諦め、マスターしたのが買ってから1年以上経ってたのは秘密w
25 不明。演者は若い白人男性。何十年か前の話ですけど。 チャイナリング 他のチャイナリングの演者と違って、ゆっくりゆっくり演じていました。いくら目を凝らしても全く種がわかりません。これほど見事な遅業は後にも先にも見たことが有りません。
26 緒川集人 River 幼い頃から手品をやっていた、という人間味を感じるストーリーがよく、またクライマックスもインパクトがあるものでとても印象に残っています
27 沢浩 アノトリック もうね、雰囲気がね、
ええんよ
28 Dan Paulus Blind Luck Bannon Triumphと並んで、手品は難しさじゃないなと思えた名作。テーブルあるところでよくやります。
29 Helder Guimaraes Sculpture サンドイッチカードという現象を、本当に綺麗に、そして物語も添えて超絶おしゃれになっているところ
技法もそこまで難しくない上に、トリがすごい。ダ◯◯フェイスの活用方と挟むジョーカーの動きがいい。
30 桂川新平 estimation etude スキルデモンストレーションかと思いきや、観客のコールした数字によって不思議なことが起こっているというオチが好きです。
31 スライディーニ SWEET SALT 視覚だけでなく味覚でも 観客を楽しませる 素晴らしい作品。
メソッドも無駄がなく美しい。
32 岡野将太 Blind 自分で選んだカードを自分で当てて、当てた本人が一番驚くってそれだけで面白い。収録タイトルの通りパズルとかミステリっぽい面白さもある。一度きりしか演じられないのが欠点といえば欠点。
33 Pit hartling /Denis Behr QUARTET NHKのFISM特番でGreen先生が自在に任意のカードを飛ばしてる姿に度肝を抜かれて以来、そのテーマに取り憑かれ、mnemonicaから4カインドをエスティメーションできるこの技法にたどり着き、すっかり虜になりました。これ以上ないと思ってTry out フォールスシャッフルと組み合わせて気持ち良く色んなところで使ってたらFISM2022でMARKOBIを見て気絶しました。どうなってんのこれ...ポテトチップスになにかあるとしか思えなくなってきた。
34 ロベルト・ジョビー ホーミングカードプラス ウィリアムソンの51card to pocketより先に覚えたのもあってずっとトリネタにしてます。手法も演出も変えずに演じている珍しいネタ。第一、第二段階とも空の手を見せられるのがいい。
カードカレッジはマージで素晴らしい本なので再販したことだしみんな買おうな!!!
35 Peter Duffie Aces Take the Plunge Plunger Principleの使い方が特に面白いです!
36 Johnny Thompson Quadruple Coincidence いくつかの偶然現象があるDo as I Do
37 John Bannon Do the ‘Twixt 恐ろしいスイッチ
38 Caleb Wiles iDeck 面白い物語があるアンビシャスカード
39 Dani DaOrtiz L’HOMME MASQUÉ ありえない現象、よく演じてます
40 SANTA Life of Butterfly 美しさ一位のサンドイッチ現象
41 White Chen Naughty Collector 最高に面白いコレクターです!conjuring archiveに載ってます!中国のマジシャンの作品です
42 みかめくらふと サッカーブロックボックス これに限らず、明らかに容器を傾けることで中身が移動しているのを見せ、最終的に消えたりするマジックは大変受けますし、やっている側も楽しいです。
43 トロイフーザー CCC ノーギミックで、ここまでビジュアルな貫通現象を達成できることに感動しました。
そのわりに、やっている人をそれほど見ないのは不思議。
44 紀良京佑 キメラデック 簡単、リセット不要、客受け抜群なところです。もう手放せません
45 ヘンリー・クライスト ヘンリークライストのフォアエース 混ぜてるやん。確実に混ぜてるやん。絶対混ぜてるやん。

『ホール・ソート・デックの作り方』

皆さんはホール・ソート・デックというのをご存知でしょうか。私は知りませんでした。というか私の造語です(たぶん)。

コンピューターが無かった頃、役所や学究機関(のごく一部)にはたくさんの書類カードを物理的にソート、整理する仕掛けがありました。書類の縁に穴がたくさん開いていて、いわゆる穴になっているものもあれば、外周まで繋がっているものもあります。そこに順番通りに棒を差し入れて引き上げ、上がったもの(外周には繋がっていない、独立した穴のところですね)を手前に寄せる、今度はさっきの隣の穴に棒を入れる…と繰り返していくと、直前がどんな並びになっていようが最終的には最初に設定しておいた並び順になる、というものです。Hand sorted punched card ですとか、Edge notched card と呼ばれていたそうですが、1920 年代にケルン大学で考案された、CAIRN Punched Cards が有名になるきっかけだったそうで。

それを見たときに思ったのです。「これ、前からほしいと思っていた『メモライズド・デックの並びを機械的に戻せる仕組み』そのものじゃないか」、と。「こんな素晴らしい仕組み、スタックト・デック使いたい人の練習がめっちゃ捗るやつじゃないか。なぜ研究した奴、ノート出した奴がいないんだ。しょうがない、私が書くか」ということで出来たのが本書です。

背景や仕組み、材料、作成用の道具、作業用の並び表(NDO、タマリッツ、アロンソン、あと自分で書きこめる空白表+自分でいじれるExcelファイルへのリンク付き)を一冊にまとめました。

11/18(土)のマジックマーケットでは、なぜかTANISHImagicさんのところで扱っていただけそうです。こっちで操作するとNDOに、こっちで操作するとネモニカになるという、私が試作したアホみたいなやつも実演用にお持ちしようかと思います。

メモライズド・デックやスタックト・デックの練習を効率よく高頻度でやりたいという方、謎の仕組みで並びが整っていくおもちゃを作ってみたい方、ちょっと薄手の鍋敷きがほしいんだよなあ、といった方、あとここ読んでいる方などはぜひお買い求めください。

magic.theshop.jp