教授の戯言

手品のお話とかね。

不思議世界への招待


■ Jerry Andrus 「A LIFETIME OF MAGIC Vol.1」



マジシャンとしても有名ですが、錯視などの大家としての顔のほうがどっちかというとメインらしいですね、アンドラス氏は。私の中では、カラーチェンジ/手がグローブみたいにでかいが、使うカードはブリッジサイズ/二つのナットにありえない角度で棒を突っ込む/人と同じマジックはしないという固い信念を持っていた/かなりの変わり者/ゾーンゼロ/今年亡くなった というような散漫なイメージしかありませんでした。

最近、手品に際立った魅力を感じなくなってきた中(一応とはいえ"手品話題メインのブログ"としてそれ言っちゃうのはどうなのかと思いますがw)、これはそんな状況でも楽しめました。つーか錯視ボックス、見てると平衡感覚がおかしくなってきます。酔った。

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・Mylar Mystery
黄色い円が描かれている赤い紙を取り出します。その紙を丸めると中から黄色いボールが出てきます。紙に描かれた黄色い円は消えています。その円はボールが出現したときは消え、ボールが消失したときに現れるのです。

一般的な知性を持った観客なら、普通に見て構造を推測できそう。100%手品というより、錯視などの紹介と組み合わせると良い気がしました。



・Zone Zero
穴の開いたボードに黄色い玉を通すと消えます。板の裏表や両手を検めますがどこにも無く、再度穴に手を入れると玉がまた出てくる。

これはかなり手品らしい。巧みな目線誘導と、「アレ、右手に無い…ってことは左手に持ってるのか?」と観客が思う"潜在的なタネ推測の瞬間"に、しっかり逆の手も検めてくれるのがニクい。
作るのはそんなに難しくないですが、滑らかに見せようと思うと要練習だと思います。しかし良く考えられたハンドリングだなあとちょびっと感心しました。



・Perfect Package
封筒の中から折りたたまれたクラッカーの箱を取り出し、さらにその箱からボールを取り出します。ペシャンコのものから、ボールを取り出す。

面白いといえば面白いのですが、原理としては上記二つと大差ありません。単体で見てればともかく、この流れで見ていると確実に不思議感が殺がれます。



・Impossible Shuffle
観客にカードを1枚選んでもらい、デックに戻します。リフルシャッフルをしますが、なんとデックとケースをシャッフルしてしまいます。 シャッフルが終わるとケースが残ります。観客にケースをカットしてもらうと(笑)、ケースの下から選ばれたカードが出てきます。おもしろいことを考えるものです。

いやほんとに。まさに「面白いことを考えるものです」。"箱とデックをリフルシャッフル"とか想像の埒外。自分でステージマジックやった時に使ったことのある、ちょいとしたギミックデックケースのような仕組みになっているのかと思ったのですが、箱の中身が完全に空になっていましてちょっと噴いた。デックの処理を含め、自分でやれる気がしません。



・A Word In Mind
観客はカードを一枚選び、フェイスに文字を書きます。マジシャンはそのカードをデックの中程に戻し、デックを観客に手渡します。その後、カードのフェイスに何が書かれたのかを当てます。

演技の現象は"字を読む"なのですが、別に図を書いてもらってもいいですし、ぶっちゃけカード当てにしてもOKと思います。概ね追えたのですが、ワンステップ意想外な事をしていました。まあやらなくても現象は成り立つ部分ですが。



・Spectator ESP
マジシャンは1人の観客をステージに呼び、後ろ向きに立ってもらいます。マジシャンはカードをファンに広げ、別の観客にカードを1枚指さしてもらいます。なんと、そのカードをマジシャンではなく、後ろ向きに立っている観客が言い当ててしまいます。

マジシャンではなく観客が当てるというのは非常に好きなプロットなので、これは実に良かった。当てる観客が演技開始後はずっと後ろを向いていて、演者の手元を一切見ていないというのがいいのです。ほんの少しだけお客さんに頼る部分があるのですが、変に偏屈な人を助手にしさえしなければ、ちょっとしたドラマが演出できますね。



・I.O.U
特殊なシャフルを何度か行い、カードでIOUの文字を形作ります。

スイマセン、英語力の問題だと思うのですがイマイチ笑いどころ、納得のしどころが分からず。I.O.U.って"借用書"という意味も"あなたのおかげ"的な意味もあるんですが、これ、IOUってのが何を表しているんでしょうか。I owe you. でいいんですかねえ…。



・Satan's Selections & Shuffles
マジシャンも観客も混ぜますが、デックを2つの山にわけると赤と黒に分かれています。それによって観客に選んでもらったカードを当ててしまいます。

様々なフォールスシャッフルを組み合わせていますが、幾つかはぱっと見でも、まるで混ぜたように見えないものもあったのがちょいと。
観客のAさんBさんにそれぞれ選んでもらって、それぞれでシャッフルしたあとで、それぞれのカードを当てればいいので、アンドラスタッチのシャッフルに拘らなければ、これの基本原理と自分の得意なフォールスシャッフルとかを組み合わせたほうが演技しやすいと思います。私はもう心が汚れてしまっているのですが、全く手品に触れていない人が見たときに、あれが全部、ちゃんとシャッフルに見えるのかどうかは忌憚の無いご意見を求めたいところ。



・Wichita Wonder
観客にカードを選んで、サインしてもらいます。そのカードをデックの中程に入れてしまいます。観客に手を出してもらい、その上にデックを落とそうとすると・・・カードが1枚だけ落ちてきます。そのカードがサインカードです。アンビリーシャスカードのような現象。

デックバニッシュは先の「Impossible Shuffle 」のような解決法を用いていますが、オチの瞬間はかなり驚きました。なんかしてそうではあるが、何をしているかは分からなかったので…。ただ、手放しでメロメロかというとそうでもありません。私は"演者の手元がもにゅもにゅする"のがどうにも好きでは無いので、そこは若干マイナスイメージです。まあこんなのはただの好みに過ぎないのかもしれないのですが。



・Twin Pipes
2つのパイプを使って、テーブル上の3つの玉を移動させまくります。これが、かなり不思議で面白いです。ロード、改めなど参考になります。

パイプという特性上、カップのように下方からにとどまらないロードやムーブ、検めが可能なのは面白かったです。ただ、手品としては完全に幻惑されたわけでもなくて、まあアンドラス氏もかなり年取ってからのだと思うんでそれは考慮するにしても、FDの紹介の文言ほどには不思議でなかったかなというのが正直なところ。

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これの他に錯視モノがいくつかあって、「傾斜をつけて二つ重ねたナットの穴を、一本の棒がありえない角度で貫通する」「箱の模型の角に三角形の板を貼ると、箱の角が切り取られたようになり、更にそこに穴を開けて棒を通せる」うん、いったい何を言ってんだか自分でも分からないんですけど、手品とかよりこれの方が不思議だった。箱の方は仕組みを知ってから見ると一瞬納得するんですが、視覚というか脳がその認識を否定するというか、一瞬気を抜くと、いわゆる「アンドラスが見せたいカタチ」に見えてしまう。有名な、「箱型の木枠中に立っているようで、実は箱じゃない」(知らないで読むと、これまた何言ってんだかお分かりにならないでしょうけど、そういうものなのですw)やつも見たかったなあ。いつも拝見しているサイトにも動画が幾つかありますので、未見の方はぜひ、イリュージョンをお試し下さい。
「MISDIRECTION」掲載

「日曜手品日記」掲載

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▼演技項目の骨組は御馴染みフレンチドロップさんより拝借。拝借しといてナンですけど、最近のFDの新規入荷商品って、ジョークグッズとかテンヨー製品とか、なにやら老舗マジックショップっぽくない気が。どれもバイプレイになる良い物だとは思うのですが、老舗マジックショップが「新規入荷しました!」って語るようなもんでもないかなあ、なんて。やはり毎週3つ〜5つとか更新してたらネタ切れにもなりそうなもんですけどね。

そういやGINの"出産記念"は素直におめでたいのですが、あのメーリングリストのメールは唐突というか、主語が無かったので一瞬「産休?銀次郎さんって女だったっけ、いやいや、ヒゲのおじさんだったよな。…あれ?なんだこれは」とか思ってしまいました。普通に「私事ですが妻が出産」「それに伴って、妻の産児および育児のための休暇などもとる予定」「なので若干ショップの対応が遅くなりがちになっちゃうよゴメン」「それの詫びといっちゃあナンだが、パパになって個人的にスゲエ嬉しいのでセールをやるぜ!ヤロウども!」的なことだけを簡潔に書けば良かったのに。まあ妊婦姿になっている銀次郎さんを想像してちょっと面白かったのでいいです。

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▼ふと立ち寄った書店で見つけてしまうのですね、カズカタヤマ 「ゆうきとものクロースアップマジック」。ああ、つい買ってしまった。まあハズレが無いからいいんですけど。
コラム部分を全部、演技解説はざっと読み、DVDは全部見ましたが…、うん、やはりゆうきともは凄いと思った。なに扱ってもきれいなんですよね、この人は。「う、美しゅうございます…!」とかではないんですけど非常に合理的。フォアエース系で現象的にちょっと似たものがあったので、それの重複時間が勿体無いなあと思ったのと、実演DVDの方には「ひもちょき」とか「カップと玉」も入れたほうが良かったんじゃないのかと思いましたが、まあ別DVD持ってるしそっち見ればいいか…。一箇所だけドロップバニッシュが丸見えに映っちゃってたので、第二刷でDVD内容も少し変えられるなら変えたほうがいい気がしました。惜しい。

まったくもって完全な初心者向けではありませんが、ある程度基礎は出来ていて、レパートリー候補を真剣に考えている人が読むととても有益な本だと思います。内容は非常に濃いし良いです。どれもレパートリー候補たりうる魅力と、手順の合理性に満ちていると思います。勉強の合間にでもじっくり読もう。