教授の戯言

手品のお話とかね。

オメガ・イクスチェンジとミステリーボックスIIとライトニング・ボックス

「みんな、密封された箱、好きー?私、大好きー」 黄金バットのマリーちゃん風に言うなら「私密封された箱大好き!密封された箱も私が好き!(断言)」 密室トリックは別に好きじゃないんですけど、手品の場合はなんかワクワクするですよ。



昨年の夏コミの際、beeさんがキラッキラしたサワヤカ笑顔で「な、きょうじゅ、これこれ。この間買ったこれがマジで当たり!良かったんよ、みてみて!(うろ覚え嘘関西弁)」と見せてくださったギミック、それがオメガ・イクスチェンジでした(以下OEと記載)。その場ではチェンジする部分の機構だけを見せられたので、「ああ、ミステリー・ボックスII(以下MBIIと記載)と似たようなもんかな。箱はこっちの方が重みがあって綺麗だけど」というくらいの感想でした。ちなみにどんなことが出来るのかというと、「まず箱の中に折りたたまれたカードがあることを示す。その後それはそのまま置いておいて、観客に1枚カードを選びサインしてもらう。それをデックに戻すなりなんなりして消す。さて、箱の中の折り畳まれたカードを取り出すと、やんぬるかな、そこには観客のサインがー!妖怪"サインカード移し"の仕業じゃろかー?」というものです。トミー・ワンダーのとか凄い美しいですよね。最近の本ですとジェイミー・イアン・スイスの本にもARTOIDSのミント缶を使ったやつがありました。要はそれ系の現象です。あれをやった後にエンドクリーン的になれるギミック。

ギミックを格納した状態での見分けのつかなさについては正直どっこいどっこい(どっちもはっきり言って「分からない」)なのですが、使い方についても「箱単体のギミックは極めて精度が高い」「手渡ししても分からない」という感じで。ただ、MBIIの場合は乱暴に扱われるとネタ場がコンニチハしてしまう可能性があるのですが、OEでは構造の仕組上ほぼ起きにくいのが特長でしょうか。いや、もちろんMBIIも気合入れてチカラを込めないと発覚しませんし、OEと言えど気合入れて叩きつければコンニチハする可能性は極めて高いですが、そういうお客様には渡さないでくださいw どちらも高いですし。ちなみにMBIIの場合、箱を傾けるだけで良いのに対し、OEはそれだけだとやや足りず、手の陰で指を使う必要があります。まあ蓋と手でカバーされるのでまず見えませんが。


本当にいやらしい目で見ると、MBIIの箱に"本当に"4つ折のカードを入れた場合、箱の深さとカードの復元力で振っても落ちてこない(引っかかるはずなので指でつまんで取り出す必要があるような)気がしますし、OEはOEで横幅的に余裕はなくぴったりなので、これまたパントマイム的には振り出す動作よりつまむ動作の方が適切な気がします。OEは演技映像を見ているときは全く気にならなかったのですが、自分でやってみた時は箱を自分の側へ向けて、中指でギミックを作動しつつ、人差し指と親指で摘み上げる方が(私の挙動的には)あっているように思えます(無論、一瞬しか箱の中が隠れない、という点では原案の方が遥かに良いです)。


自作できないかというとどちらも"原理的には"出来なくはないのですが、これらのポイントはやはり原理を再現できるかということより「なんかちゃっちい感じがしない」という点の方が重要と考えます。要するに、きちんとした場で、きちんとした相手に物を見せようとした時に、意外に見落とされがちですがこの辺は重要なポイントだと思うのです。そしてそういうギミックって驚くほど少ないんですよね、しくしく。いや全部の製品をチタンか紫檀・黒檀・総欅で作れとは言わないけれども、毎回へにょへにょした粗悪プラスチックとか真鍮とかしかないのもね…。それはそれで好きなんですけど。


なおMBIIではマーキュリー・フォールド自体は不要とは言え、すり替えまでに保持しておかなければならない部分の手法は演者に委ねられていましたが、OEは両手を開けているのにも関わらず、箱の中にきちんと入れた、というのが音で示されるため、ディセプティブさがとても良い感じでした。その辺の"手順まで含めた完成度"が極めて高いのがOEの特長と言えましょう。なおOEでの手法は、ありがちではあるもののOEでしか使えないというわけではなく、MBIIでも、さらには普通のチェンジにも使えるので、非常に有用かと思います(別にここだけ抜き出して、物凄く画期的!とかではないので落ち着いてください)。OEでの手法を使えばMBIIもかなりディセプティブに出来ると思います。いやホントに。構造的にMBIIは先述の通り箱が深いので、お客さんに箱の中身がちゃんと見えるようにするにはきちんと傾けないといけません。OEについてはリングボックスのような構造で底が浅いので、蓋開けておけば、まず大抵の観客には見える、というのもナイスポイントですね。



で、ですよ。昨年秋頃でしたか。「ちょっとOE欲しいな」と思うようにはなっていたんですけど、世界的に品薄で。たまたまBob Kohler Magicを覗いていたら、なにやら怪しげなブツがあるじゃないですか。それがライトニング・ボックス(以下LBと記載)でした。

色々出来る事は書いてあるのですが、演技全部を収録した動画は上がってない。…怪しい。でも「なんか180ドルとかつけるんだからそこそこ良く出来てるはず」という信念(というか希望)の元、ゲットしたのです。「日本には配送できねえ」とか色々ぬかすので、米国で住所を取ってそこから転送とか(後輩がそういう通販を利用するために持っていた住所があったので相乗りさせてもらいました)えらい面倒でした。全然関係ないですが、この写真がみうらじゅんに見えた

で、これは先日の2つとは理屈が全然違いました。タネに抵触するので詳しくは書きませんけれども、コインボックス的なものの考え方といいますか。えーと、結果的には全く違ったのですが、私はてっきり「デュヴィヴィエ・コインボックスってこんな構造じゃなかろうか」と想像していた通りのもので、そこにちょっと驚きました(どうでもいい話)。
で、これはこれで凄いんですよ。どんだけ凄いって、最初にボックスからさいころ取り出して使ってしまって、最終的に折り畳まれたカードの上にさいころが乗った状態で、つまり、後からカードを入れることが出来ない状態でお客さんのカード出てくるからね。マジ凄いね。ちなみに演技動画を見た時にマーキュリー・フォールドに気付かず、全くの有り得ない現象に震えた。あ、いや、知った上で見れば確かにやっていたんですけれども。このギミックの面白いところは、冷静に見ると「論理的におかしいこと」を目の前でしているのに、流れの中では全くそこに意識が行かないところです。ギミック届いて、ちょっとだけ触って、「あれ、これどこに仕掛けがあるの?」とか思って演技見て不思議で、解説というかギミックの説明見て「これ、(私の妄想した)デュヴィヴィエ・コインボックスじゃないか!」とか思ったという。まあ私の妄想はさておき、これは「不思議」「応用が色々ある」というのは勿論、「目の前で図々しい悪行」という個人的に大好きな行為を伴う製品でかなり好き。またこのギミックに頼るだけでなく、その他の交換・消失等と組み合わせたルーティーンが素敵でした。大学の文化祭とかでやらせてもらおうっと。

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LBをゲットしてから大変面倒だった旨を語ったところ、beeさんから「これか。結構なお値段やね」というメッセージと共にURLが来て、見たらiMagicという。日本でも買えたのかYO!いや、良いんです、Bobのところ、欲しかったDVDがセール対象で15ドルとかで買えたし。いいんだもん……。今更だけどニンジャリングも超不思議だったもん。……ぐぬぬ。しかしこの小箱3つ並べて合計のお値段考えたら、大変な恐怖と絶望感を味わえました。不思議ギミックが欲しいとか、翌月恐怖のカードマジック(主に金融系カードの明細)を見たいとか、夏に涼しくなりたいとかの人は買うべき。3つ全部いちどきに。



余談:ちなみに、比較するのに久々にMBII触ったんですけど、…やっぱいいですねこれ。(この3種では)一番安いけど、かなり軽い動作で作動するので、ブランクを感じさせない滑らかさ。さっき深さについてがネックで観客に箱の中身をきちんと見せるのが〜とか書きましたけど、箱の中身見せるのなんか簡単でしたよ。あらためて良く出来てるのね、これ。しかも本当に折ったカード入れてみたけど、振ったらちゃんと落ちてきたし。あっれ、昔引っかかった思い出があるのですが…。とにかく割と文句ないクオリティ。うぬぬw こうやって色々類似製品買っては、忘れていた良さを再認識したりするわけですね(遠い目)。