教授の戯言

手品のお話とかね。

日本語版 John Guastaferro『ONE DEGREE』

評判が良かったから原書買ったような気がしていたジョン・ガスタフェローのハード・カバー本『ONE DEGREE』ですが(読破したとは言ってない)、買った理由は以前二川さんに、その中で解説されている"Solo"を見せられて「う、うぇっ?」と変な声出たからだったことを思い出しました。「それ、なにに解説されてるんですか!?」「ガスタフェローの『ONE DEGREE』ですよ、ほっほっ」みたいな。それの日本語完訳版が先日出ました。拙サークルのTさん(寺生まれではない)がまたやってます。暇なのか。

『ONE DEGREE ージョン・ガスタフェローのカード・マジックー』

基本的に変態技法もなく、どのトリックも中級者くらいの人なら短時間でさらえるようになるくらいの難易度です(カードが4枚入るワイングラス4脚用意してください、とかはありますが)。勿論どのトリックもよく出来ている、というのはもとよりですが、これが世界的によく売れたのは、おそらく手品(トリック)をコアにしつつも、観客とどうやりとりしていくか、関わるか、のようなことが色濃く出た1冊だったからではないかと思っています。ルーティーンの中にお客さんにたくさん質問をしたり、複数人にステージへと上がってもらったりと、トリックを行うということは勿論、パフォーマンスを行うということに主眼がおかれているからだと思うのです(※個人の感想です)。プロとかどマニアからするとちょっと物足りないくらいの、言われてみればそのとおりやね、わしわし、という内容が多かったかもしれません。ですがそれを実践出来ている人というのをあまりみたことがないというのも事実で(※私のクソ狭い交友・鑑賞経験からです)。"キャラ濃すぎ"、"変態テクバリバリ"、みたいな人の本は、どんなに本人が凄くて正しいと分かっていても「そ、そうっすね…」とは思いはするものの、なかなか実践出来ないことが多いのですが、本書でガスタフェローが言うようなことくらいなら、ナントカ……という気にさせてくれます。

前書きにあった、「若いマジシャンは、大きな結果を出そうとして凄い変化を試みがちですが、私としては“物凄く素晴らしいもの”というのは、私たちが思っているよりも近いところにあるのではないかと考えています。one-degree ──たった1℃の差のように。」というのはグッときました。「カードを示す前に一拍おいたり、あなたの演技の台本に特徴的な一言を付け加えたり、スライトをサトルティに置き換えたり、はたまた、あなたの助手役の観客をちゃんと名前で呼んでみる、などですね。」 →ああ、私にもこのくらいなら出来そう!w 



しかしナンですね、「何か面白そう」と思って原書買うと、しばらくして完訳本が出るとかなんか悔しいのでやめてください。っていうか私が原書を買わなければいいのか。……そうか。(悟り)

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CHAPTER 1 ONE──GET CONNECTED
TRUTH IN ADVERTISING / EITHER OR / PALM READER PLUS
のっけから観客にいっぱい質問したりする、双方向でのトリックが続きます。"EITHER OR"なんかは手品としては本当にあっさり風味で(選んだカードを当てるだけです)、マニアの方(私はマニアではないのですが残念ながら私も)なんかには物足りないのじゃないかと思ったのですが、こういうどうでもいい質問を大量にぶつけることで、ルーティーンの後々で「そういえばあなたはxxと仰ってましたけど〜」みたいなことが言える、要するにパーソナルな部分を尊重した(そして踏み込んだ)会話が出来るというのはちょっと盲点でした(ちなみにこのトリックは、こういう質問をしつつ、10枚程度ならカードを堂々とセット出来るという、布石的な性質を持っていたりします)。私も普段演じるときはよく喋るんですが、せいぜい演目自体は2つか3つでやめる弁えた子なので、そこまであとのことを考えたことがありませんでしたですよ。



CHAPTER 2 TWO──HANDS-ON EXPERIENCE
lNTRO-VERTED / MR. E. TAKES A STROLL / RELAY
観客の手を使ったり、観客に参加してもらったりするものがメイン。"MR. E. TAKES A STROLL"はミステリー・カードのプロットが好きな私としてはたまりません。最初から持ってもらっていたカードが実は観客のサインしたカード、みたいなやつ、大好き。ちなみにこれよりあとに出た『Ready, Set, GuastaferrO!』でスッキリした改案"Mr. E Returns"が入っており、私はそちらの方が好きだったりします。
"RELAY"は3人がカードをお互いに渡していく度に、それぞれのカードに変化する手品ですが、未だ実演する機会がございません。やったら盛り上がるんだろうなあ。



CHAPTER 3 THREE──FOURSCORE
QUANTUM KINGS / lMPOSTOR / SOLO
"QUANTUM KINGS"で使われている、「堂々と見せているのに、別のカードだと錯覚させる」というのはすごく好き。これ系統に無条件に弱い。先日気賀さんに見せて頂いたオイルアンドウォーターもこれとはちょっと違うんですがそういった解決法をとられていて、解説聞いて「ああああ」ってなりました(ちなみに気賀さんのは枚数的に4倍くらい図々しいw)。
"Solo"は目の前でCGみたいな現象が展開されるものなのですが、文字通り「目を疑い」ました、初めて見たとき。そういう意味では私はかなり幸せだったかもしれません。視覚に訴える手品はホントいいものだと思います。また、オープン・トラベラーズの手順としても無理なく、パーフェクトなんじゃないかと思っております。……ああ、ホント凄くいいんですけど、これは可能なら誰かに演じてもらってから読んでください。あの衝撃は是非読む前に味わってほしいです。演技動画が殆ど無いんですよねえ、これ……。



CHAPTER 4 FOUR──POCKET POWER
HOMAGE TO HOMING / POCKET CHANGE / KEY CLUB
"POCKET CHANGE"は、カードを変化させるのに、観客のポケットを使ったところが良かったと思いました。訳者さんは「Pocket Changeは"懐中の小銭"と"ポケット内での変化"のダジャレなんだけど、ダジャレ解説するといつも悲しくなります」とか申しておりました。そうですか。
"Key Club"は面白そうというか一般ウケしそうなのですが、私にはちょっとアウトを一杯用意するタイプのトリックはめんどくさいかな。あと台詞的にアメリカではアリだけど日本だとちょっと考えないといけないなーとは思いました。マルティプル・アウト式の手品は、まあ手品やる人はどうでもいいんですが、非手品人さんが見たときにはどういう感想抱くんですかね。



CHAPTER 5 FIVE──WORKER'S TOOLBOX
OVERTURNED COUNTS / BIDDLELESS / DUPLEX CHANGE
デュプレックス・チェンジは本文中にも言及がありますが、ロン・ウィルソンの"Highland Hop"的な、カードを1枚ないし複数枚、観客の目の前で堂々と、それでいて密かに捨ててくる技法で、訳者さんはあのたぐいの技法大好きなのでワクワクそうでした(あすぱらチャリティーのときもそういう技法を使った手品を投稿していたはず)。この技法は観客からの見た目が、「2枚の横にずれたカードを持っている」ということで、捨てる前と捨てたあとで全く変化がないので極めてディセプティブです。さっきまで2枚のジョーカーだったものが、手を返すだけで観客2人のカードに変わっている(ジョーカーは無くなっている)という感じの。いやーもうこういうの私も好き。にひひ。



CHAPTER 6 SIX──TRI-UMPH !
BEHIND-THE-BACK TRIUMPH / BALLET STUNNER / MORE ON THE BALLET CUT
なぜみんなTriumphがこんなに好きなのかw 「マジックのコンベンションの最中、オクラホマの賑わっているレストランでこれを演じました。私がごちゃ混ぜになったデックをウェイターに手渡し、背中の後ろでさらに表裏ごちゃ混ぜにしてほしいと頼んだら、待機中のスタッフがみんな寄ってきました。カードをスプレッドし、全て表向きに揃っていたのが分かった瞬間、絶叫が上がりました。そして、1枚だけ裏向きになったカード、これは一体どういう意味を持つのか。観衆は、この直後どうなってしまうかに集中し、場が静かになります。彼がカードをめくり、それが先ほど自由に言ったカードであることが分かった瞬間、みんなもう大騒ぎでした。“Triumph”を数千回......とまではいかなくても数百回は演じてきてきましたが、こんなシンプルなバージョンのもので、こんなにも物凄い反応を得たことはかつてなく、私はずっと心中のニヤニヤが止まりませんでした。」 →畜生、やってみたくなるじゃないかw これは手品っ子は演技なり解説見れば「あー、それはそうだわね」になるよなと思ったのですが、手品をしない一般の人は、あれを自分でやったらそりゃごちゃまぜにしたと確信するよな、と思いました。最初に文章で読めて良かった、という印象。多分解説なりから入ると「いや別にいいかな」と思ってしまった可能性大。

バレイ・カットは本人ほど安定的に出来ないのですが、カラーチェンジとして使うのが最適な気がします。何度となく机の周りにカードをぶちまけております、ハイ。



CHAPTER 7 SEVEN──PERFECT STORM
LOST & FOUND / INTUITION & OUT OF THE BLUE / VINO ACES
最終章の3つは、いずれも良く出来た、本書の最後を飾るのに相応しい作品群だと思います。彼の動画、ライブレクチャーなどでも大体いつもやっている演目な気がしますね。
"LOST & FOUND"は透明なプラスティックのカードホルダーから観客のカードが消えたり戻ってきたりするのですが、彼の"フリクション・プリンシプル"は実によく出来ています。カードホルダーは名札入れたり野球カードとかのプロテクターとかだというのですが、ハンズで未だに見つけられないのです。最近全部横から入れるホルダーばっかりなんですよね。どこかで、バイシクルのカードが1枚、横幅的にほぼジャストフィットで入る少しだけ柔らか目のホルダー、どこかに売ってませんかね。凄く実演したいです。
"INTUITION & OUT OF THE BLUE"は8枚だけを使ったパケット・トリックなのですが、2段目でさっきまで普通のバイシクル柄だったクイーンが、1枚ずつ全く違う柄のカードに変わってしまうもので、最初実演見たときに「どこでスイッチしたんだ……」とか思っていたのですが、えらく巧妙に隠匿されていました。やられました。\(^o^)/
"VINO ACES"は基本的にMcDonald's Acesなのですが、ワイングラスを使って行うもので、おしゃれでかっこいいだけでなく、観客が見やすい(普通はテーブルに置いてやるので、2メートルも離れると見づらい)、公明正大、と、おしゃれパーティーでおしゃれマジシャンがかっこよく演じてそうです。ぐぬぬ。ワイングラスを乾杯で打ち合わせて鳴らすたびにエースが消えていくとか、どんなリア充手品だ。いや、かっこいいです。ハイ。思わずワイングラス買っちゃったよ!(落としても割れない、シリコン的素材の。乾杯するとペットボトルを打ち合せた音がします!(台無し))


EASSY:Strong Connections
観客との結び付きを強められるように意識しようねーと。
EASSY:The Napkin Approach
自分の今と未来、ポリシーやユニークさ、観客についてなど、書き出して整理しようねーと。
ESSAY:Mental Block
ど忘れを防ぐTIPS。
ESSAY:Magic T.I.P.S.
マジックを作るために考えるべきこととすべきこと。
ESSAY:Serendipity
マジックの不思議について。

→各エッセイも短く参考になりました。っていうか世のマジシャンの人はみんなこんな色々なこと考えて手品してるんでしょうか。震撼。