教授の戯言

手品のお話とかね。

佐藤大輔・著 佐藤喜義作品集『Amazing Sally』, Vol.2

昨今、"人生の大切な全ての事が詰まってる"でお馴染み、某『少女s&戦車ー』の映画を頻繁に見に行く現実逃避をしており、「立川でないと満足できない」体になりつつあります。ジャンキーです。

さておき。

佐藤喜義さんの作品集『Amazing Sally』のVol. 2が出ました。いや、出るのです,なのかな?通常のショップ販売は12月25日だそうですが、既に茅場町のマジックランドでは取り扱いがあり、早速購入してまいりました。

Vol. 1が出た頃、以前拝見していた作品のイメージから、「佐藤さんといえば、もっと最後に多段階のエンドが押し寄せるやつかと思いました」とかご本人に言ったことがあるのですが、1のときはあまりそういう準備というかカードの調達が必要にならない、比較的デックひとつで始めやすい作品をチョイスしたと伺いまして。となりますと、2が出るときは使用カード全セットで、もう「すごい!え?まだ変わる?もう一回!?」という、私の中の"喜義さんらしい"手品が、それはもうバンバンですかー!?とか思っていたわけですが、今回も別にカードは付いていませんでした。シクシク。でも全部ではありませんが、「で、でたー、例のアレ〜!」というのはあったのでワクワクです。

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カードを手元も見ずにオーバーハンドシャッフルで弄んでいるように見せて、実際にはカードの並びを全て思い通りに替えてしまう技法・システムランについては、自分ではそんなにやりませんが(正:単に弄んでいるようには出来ませんが)、あれサラッと混ぜられると本当に意味がわからないですからね。あれ、ネモニカだかアロンソンって7・2・2・6とかでしたっけ?サイステビンス……?……うっ、記憶が……。
なおわたくしは、昨今手品の図々しさが増し、時節のご挨拶をしながら、カードの表を見て並び替えたりセットするようなオトナになってしまいました。バノンとかガスタフェローのみたいに、せめて手品でカムフラージュしながらにしろという声が聞こえてきそうですが。

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【第1章】
アリス・アイズ
カードを配っていって好きなところで観客にストップをかけさせ1枚選んでもらう。残りを2つに分けて同時にカードをめくっていくと、最初に選んだカードと同じ数字が同時に登場。さらに配った山の枚数に従ってデックからカードを配ると、残りの1枚が出てきて、フォー・オブ・ア・カインドが完成する。

のっけからフルデックスタックものであり震える。とはいえこの自由度で、配るだけで色々なフォー・オブ・ア・カインドが出てくることには、やっていて驚愕を禁じ得ない。のだけど、やはり1回やるごとに全部セットし直すのがつらい。なにかこう、ファローと何かを組み合わせてセット自体が手順化出来ないものでしょうか。



メンタル・サム
混ぜたデックからランダムに現れるカードの数字に従って、デックを複数の山に配り分ける。ずっとうしろを向いたままの演者には都度数字を(嘘も含めて)報告してもらうが、演者はそれを元に何かを紙に書きつける。観客に、使った数字をすべて合算してもらうが、その数字と演者が書いた数字が一致する。

ジョン・スカーニとかガスタフェローのトリックにもそういう操作というか原理のがあった気がするなと思いましたが、現象自体は当然全く違うものでした。シャッフルしたデックで始められ、基本的に演者はずっとうしろを向いたままなので、対人恐怖症の人でも出来る気がします。理屈を書かれれば、それは確かにそうだね、という感じなのですが、確かに数は当たります。手順上、さりげなく、と書かれている操作が一番難しそうなのですが、これは聞くより一瞬演者に渡してもらって、さっと数えて、しまっといてね、とやってしまいますかね、私なら。勿論一切演者が触ってない、という条件を崩してしまうのが勿体無いのですが。



【第2章】
90% パワー・ポーカー
10枚のカードから裏向きのまま2枚出し、好きな方を観客に選んでもらうことを続けていき、観客に5枚、演者は残りの5枚になったところで見てみると、観客はフルハウスで、演者はロイヤルフラッシュになっており、観客がすべて選んだにも関わらず演者が勝ってしまう。

割に簡略な操作であの現象が起こるのは面白い。エクストラカードが手元に残るのはちょっと工夫してみたいところ。とはいえ、ソロモンの"Power of Poker"みたいに、色々な箇所で観客が自身の手札を見ていったりする演出のほうが、観客の興味というかサスペンスを引き出せるような気がします(本作でも別にそうできないわけではないのでやればいいんですが)



シルエット 
カードの山から4人の観客に1枚ずつカードを覚えてもらい、デックに戻してもらう。さらに観客の指示に従って混ぜてしまったあとポケットに入れるが、その状態で観客のカードを1枚ずつ取り出してきてみせる。

最初のシステムランを読み、やってみて凄いと思い、いやしかし4回配るのめんどくさくね?と思い、解説で実はシステムランを使わなくても出来る、というのを読んでずっこけるw まあその場合はセルフワーキングとは呼べない操作が入りはしますが、完全にセルフワーキングじゃなきゃやだ、という人以外は、多分コントロールしてフォールスシャッフル、という方が楽な気がしました。これ、別にそうしたいわけではないんですが、フルデックとかもっと大きい枚数では出来ないのかしら。



フレンズ 
よく混ぜた赤黒5枚ずつのパケット、演者と観客が交互に裏向きのまま1枚ずつ取っていくが、最終的には赤黒がきれいに分かれる。
やってて面白いです。システムランは結局分かりやすい配列にしかしていないので、別に使わずとも行ける気がします。というか、私のように思考回路が256バイトしかない人間の場合、そのあとのどっち取られたときにどっちを、みたいな方に記憶容量を使いたいです。



【第3章】
フィクセーション13
パケットを出してきて混ぜる。予言を2つ出し、観客に選んでもらう。内容を確認すると、特定カードの場所が予言されている。さらにパケットを混ぜたあともう一方の予言を見てみると別のカードの場所が予言されている。

いやあ、これいいなあ。予言が2種あって、というところからしてかなり好みです。昔n枚のパケットにどういう操作をしたら、特定の1枚や2枚の位置は変わらないで済むかを試したことがあったのですが、最早記憶にございません。プログラム組んで確かめたほうが早そうな気がしますw 本作は最初見たとき、セットはめんどくさいのかと思ったのですが、かなりシンプルなものでいて感心しました。



サターニア
25枚のESPカードから2人の観客に1枚ずつ選んでもらう。残りを2つの山に分けてからめくっていくと、同じシンボルが現れるが、これが観客1の選んだシンボル。続いて配りきった2つの山を再度めくっていくと先ほどとは違ったシンボルが同時に出てくる。これが観客2のシンボルである。

私はESPカードに変な苦手感がある子なのであれですが、なんか現象だけ読んでいて、最初のアリス・アイズに似てるなとか思いました。



ニューサターニア
25枚のESPカードから2人の観客に1枚ずつ選んでもらう。残りを2つの山に分けてからめくっていくと、同じシンボルが現れるが、これが観客1の選んだシンボル。続いて配りきった2つの山を再度めくっていくと先ほどとは違ったシンボルが同時に出てくる。これが観客2のシンボルである。さらに表裏ごちゃごちゃに混ぜて2つの山に配り分けるが、すべてのペアでシンボルが一致する。
私自身はそこまで「全部が一致する」現象に凄さを感じないのですが(なんか凄い作為を感じてしまうから)、演じるとすごく受けますよね。本作は前のサターニアに追加で行えます。



【第4章】
月影のプリンティング
4枚のダブルブランクカードを出し、デックから1枚のカードを選んでもらう。その表をブランクにこすりつけると、観客のカードの表がブランクに印刷される。同様に裏をこすりつけると全部に裏面が印刷される。おまじないをかけると両面とも全てブランクに戻ってしまう。

「え、どれでもそれになるとか、ブランク側どういう構成なの」と思いましたが、さすがに想像していたほどの自由度はありませんでした。というか出来てたら怖いかも。喜義さんといえばタウンゼント・カウントなので(注:個人の感想です)、読むだけでニヤリとしました。


未来カーズ
観客にカードを1枚選んでもらったあと、演者はパケットケースから何枚かのカードを取り出してくるが、これはトランプではなくメッセージが書かれたカード。観客の選んだカードの色やマークが予言されており、最後のカードには観客の選んだカードが手書きで書いてある。さらにパケットを手の中に通すと、全部のカードが観客の選んだカードに変わってしまう。

「うん、男の子の手品って感じだ」(CV:井之頭五郎) なんていうんですかね、この技法自体やギャフの存在を知っていてなお、流石にこの現象を起こすのには結構枚数要るんじゃないかな、どこで付け加えたり引いたりしているんだろうか、という予想を裏切ってくれる見事に無駄のない構成。あとそのうち考えるのをやめた超生命体とかは関係なかったです。



【第5章】
星屑のコレクターズ
観客に1枚のカードを選んでもらう。最初から置いてあった4枚のクイーンをその上で振ると、選ばれたカードと同じ数字の3枚が、一瞬にしてその間に挟まれて出現する。

当方、コレクター現象大好きっ子なのですが、やはりこのタイプが一番楽で説得力があるのかなあ。某ギャフを知ってからは正々堂々とデュプリケートを挟んだままファンに出来ることに気づいてしまったので、よほどの至近距離でもなければそういう短絡的でいいやという手順にしてしまったのですけれども。ジョシュア・ジェイのあれが個人的にはノンギャフベストで、今年見たビル・グッドウィンのやつはテクニカル(といっても基本は変則カウントのみですが)だけど良かった。練習をカケラもしていませんが。


ノンオイルあんどクイーンズ
赤いカード4枚のうち1枚を黒いカードと交換すると、4枚とも黒いカードになる。1枚を捨て、別の黒いカードを入れるが今度はなぜか4枚とも赤いカードになる。色が何度か入れ替わったあと、最後は4枚ともクイーンになってしまう。

直接関係はないんですが、1枚交換、2枚交換、3枚交換、みたいにやっていくトリックが面白かった記憶があるのですけれど、思い出せない。うっ、記憶が……。さておきノンギャフでこれは面白い。1枚入れるとその色に変わってしまう、というロジカル(?)さのあとの、もう1枚入れるとまた色が反転する、という不可解さがたまりません。



【第6章】
エデンの東
4枚のエースと4枚のダブルブランクを出し、1枚ずつ交換すると、エースの山が4枚ともダブルブランクに。もう一方の山を見ると4枚とも裏面ができているが、表を見ると何故か4枚ともキングになっている。

でたでたw 私の想像する佐藤さん節って感じがします。ロイヤルフラッシュが出てくる、裏面が全部変わってる、それからこういう「そんなに変わるって、何枚使ってるんだよ!」、これこれw やはりというか当たり前というか、ギャフは使うのですが、多分こういう変態パケットクラスタにおいては、やはり佐藤さんは極北に位置する気がします。早速遊んでみる次第。……タウンゼントカウントってどうやりましたっけ……?(注:これから読みまして。タウンゼントカウントをすっかり忘れていたことに気づきました。Vol. 1より簡略ではありますが、ちゃんと本書内にもやり方の解説はあります。為念)



ペンシルベニア
4枚の赤い数札のうち、1枚を捨てて、その代わりに1枚のエースを差し込むが、エースは消え、4枚とも赤い数札に戻っている。これを繰り返すが、最後のエースを入れると4枚すべてエースになってしまう。更に捨てていた4枚を見ると全てキングになっている。で、4枚のエースを裏向きにすると、すべての裏の色が異なっている。

単売してw 準備がくそめんどくさいけど、現象ときたらこれはもう「あたまおかしい」としか言いようのない、実に佐藤さんらしい作品だなと思いました(注:最大限賛辞)。なんかホントこういうのがあるからこそ、使用カードは別売でもなんでもいいんですけど、用意してほしかったなあと思うわけです。どんなによさげな手品でも、物揃えるのに手間だと演じることはおろか、練習に取り掛かれる人も減ってしまうと思うのですよ。。。



五番街のルーシー
手元の4枚のエースが、テーブル上の4枚のキングと1枚ずつ入れ替わるが、おまじないをかけると一瞬でエースに戻る。エースを1枚交換するだけで、エースのパケットは4枚のキングへと変化する。これをデックの中に入れるとスペードのキングが消え、もう一方のパケットに移り、そのパケットを見ると何故かロイヤルフラッシュが出来上がっている。しかも裏の色が全部違う。

「あーチクショウ俺の負けだ、煮るなり焼くなり好きにしねぃ!」的な手品です(割と率直な感想)。さっきのペンシルベニアでも4色ですけど、今度は5色、他の色のを探さなければならない、恐ろしい手品です。準備さえ出来れば、なんかちゃんとした場所で、観客にとどめを刺すのに最適だと思います(白目)。