教授の戯言

手品のお話とかね。

Pit Hartling『In Order To Amaze』

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撮影:青田和也様

富山でございます。ドイツのマジシャン、ピット・ハートリングの『In Order To Amaze』日本語版であります。ついに任務完了です!足掛け4年。長い戦いでございました。小学3年生だった人が、中学1年生になってしまうくらいの時間です。

 

2019年6月、20年ぶりくらいに来日&レクチャーを行ったピット。参加された方はお分かりというかご同意いただけると思いますが、まあね、震えるほど不思議な手品の数々でしたね。あそこで演じられたトリックがだいたい解説されているのが本書『IOTA』でございます。

kyouju.hateblo.jp

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記述が実演を超えられたとは全く思っておりませんが、本当に名著です。メモライズド・デックを主体としたトリック集で、本書を超えるものは今後もまず出ないでしょう。大げさですが、割と『Mnemonica』以降最高の、あるエリアにおける『時代』の目撃者的な思いです。SU☆GO☆SU☆GI.  訳もなんといいますか15周目以降は数えておりませんが少なくとも20周はしました。ていうか30周くらいはいっている気がしなくもないです。いつも真面目にやっているつもりですが、今回はかなりの本気です。ピットも原書もどちらもリスペクトしておりますので、装丁は極力踏襲するようにしました。ハードカバークロス装(布はちょっと汚れが落ちづらいので意図的にやめた)、メタリックデボス加工、本文フルカラー336ページ。印刷費だけで『Card College Light』トリロジー全部の製作費を軽く超えたのは内緒です(震えながら)。

 

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なお昔から、『遊び半分で作ってはいけない本の要素』というのがありまして(※私調べ)、『手品の本』二翻、『ハードカバー装』二翻、『メタリックデボス加工』一翻、『ページ数セットが印刷屋の通常メニューに載っていないレベルで多い』三翻、『フルカラー』二翻って感じなのですが、もう倍満ですよ、プロデューサーさん!うっちゃダメ、勝てない手品本バクチと白い粉。まあ勝とうとは思っていませんが、毎回負ける覚悟で刷ってるのもちょっとどうかしてる気もします。まあいいんです、趣味だし(自分に言い聞かせるための一言)。

 

 

原著に序文を寄せていたサイモン・アロンソンが今年2020年にお亡くなりになってしまいましたが、なぜかわたくし細々と、きょうじゅのアドを借りて、いまさらアロンソン勉強会などを開催しております。

 みんな普通の数理系トリックのほうを担当したがるので、必然アロンソン・スタック系はわたくしの仕事になったりしています。そんな流れもあり、いまの私は『過去に憶えたアロンソン・スタックの記憶が蘇りつつあって、それとネモニカがごっちゃになってきている』という最悪のパティーンです。あ、まあとにかく、著者本人も凄いし、推薦者もすごいぞ、と。本書には数は少ないですけど技法的な意味ではセルフワーキングといえる作品もありますし、別になにかスタックを記憶してなくても特定の配列にしておけばできる手品もございます。というか本書はネモニカ・ベースではあるのですが、21作品中17作品はアロンソン・スタックでもできます(というか、だいたいの場合において、この2つ以外でもできます)。残る4つはネモニカで、とはなっています。2 つは事実そうなのですが、1 つはタマリッツ・スタックでもアロンソン・スタックでもできるもの、そして残る1 つはタマリッツ・スタックからだとすぐセットが作れる並びを使っているものというだけで、なにか特定のスタックでなくても演じられる作品なのです。何が言いたいかというと、『いまネモニカ憶えてなくてもあんまり関係ないですよ』と。

 

まあ色々とお伝えしたいのですけどなかなか言葉にするのももどかしく。ピットの演技を生で見ていただいたらきっと、「これがメモライズド・スタックだからかなんなのかとかはもうよく分からんけど、超不思議で楽しい」と思われるでしょう。そしてそれらは幸か不幸か映像媒体の資料としてははほぼ出ていないわけです。ではあるものの本人の筆による大変素敵な本があります。そして、本書の訳者たる私は著者の大ファン。愛とリスペクトと妄執的な無駄訳注溢れる本書をDon’t miss it!です。家にこもる時間は、メモライズ系の定着を図るのにも良さそうですし。いや、いいに決まっています。

 

――さあ、家に腰を下ろし デックと共に生きよう 暗記と共にコロナ禍を越え エアバイオリンと共にネモニカスタック暗記歌*を歌おう 

 *ホントに『Mnemonica』に載っています。

 

 ■教授の物販:Pit Hartling『In Order To Amaze』日本語版

 

 

『緑の蔵書票』さんは、さすがに原書段階からレビューされていて凄い。

greenware-ex.blogspot.com

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 収録作品

 【Miscellaneous Stack Miracles】

色々なタイプの現象を10トリック。

 

“Catch Me If You Can”

マジシャンは、マジックの鉄則を破って同じトリックを2 回やってみようと思う、と申し出ます。1 回目は指先の早業で、2 回目はそれなしで。

最初は、マジシャンが恥ずかしげもなくテクニックを披露、2 枚の“探偵”カードが、観客に自由に言ってもらった“犯人”のカードを、シャッフルされたデックの中ほどで捕まえます。

そしてありえないことに、もう1つのデック―――開始時点からずっとよけてあり、マジシャンが一切触れていなかったデック―――の中でも、探偵たちの同僚が、自由に言われたカードを捕まえているのです。

 

 

“The Heavyweight”

マジシャンは、カードに関する自身の尋常ならざる感覚スキルをデモンストレーションします。最初に、カットして取り上げられたパケットの正確な枚数を判別してみせます。続けて、ほんの少しのあいだ観客のパケットを持っただけで、それと全く同じ枚数のパケットを取り上げてみせます。最後に、何枚のカードがカットされるかが分かってしまうのです―――それも観客が実際にカットする前に。

 

 

Sherlock

観客の1 人が部屋の一番隅まで行き、デックからカードを1 枚抜き出します。彼はそれを憶えてデックの好きなところに戻します。それからデックがシャッフルされます。これらが済んで、はじめてマジシャンがデックに触れます。アーサー・コナン・ドイル顔負けの厳正な消去法と論理によって、マジシャンは選ばれたカードを追い詰め、そして見つけ出すのです。

 

 

 

“Close Encounters”

3 人の観客が、それぞれデックからカードを1 枚ずつ抜き出し、それを別のデックのバラバラの位置に差し込みます。驚くべきことに、その差し込んだカードはそれぞれ、入れた先のデックにある同じカードのちょうど隣に来ているのです。

  

 

“The Core”

神学的かつ生物学的なカード・トリックという珍しいトリックの中で、観客は演者の個人的な『エデンの園』へと幻想的な旅をします。デックがまさしく果実のようなものであることを知らされた観客は、想像の中でデックの皮を剥いていき、デックの『芯』に何のカードがあるか言うよう求められます。

最初からテーブルに置いてあり、誰も触っていない現実のデック―――マジシャンはこれを取り上げ、ゆっくりと“剥いて”いきます。なんと、このデックは観客の空想の旅から現れたもののようです―――一番真ん中にあるカード、つまりデックの芯は、まさに先ほど観客が口にしたカードなのです。

 

  

“Thought Exchange”

マジシャンと観客の1人がそれぞれカードを1枚、心に思います。そのあと、マジシャンが観客のカードを見つけるのみならず、観客もまたマジシャンのカードを見つけ出すのです!

  

 

“Duplicity”

観客の1人がデックをシャッフルし、カードを配ってポーカーのハンド手札を2つ配ります。ハンドの内容はオープンにされ、どちらかが選ばれます。マジシャンは、別のデックでこの5 枚をコントロールしてみせると言います。マジシャンは2つ目のデックで、同じようにシャッフルし、カットし、そしてハンドを2つ配ります。片方のハンドを見てみると、確かに観客のハンドと全く同じものができています。つまり、マジシャンのハンドは観客の選んだ5 枚と全く同じ5 枚からなっているのです。

マジシャンは、観客のハンドと順番までは同じにできなかったことを詫び、こう付け加えます。「お詫びしなければなりません。こちら、カードの順番までは一緒にする時間がありませんでした。ちょっと忙しくて……もう片方のパケットでそれをやっていたものでね」マジシャンはもう片方のハンドを見せますが、これは観客のもう片方のハンドとそっくり同じ、しかもこちらは順番まで一緒なのです!

 

  

“Echoes”

マジシャンはデックから無作為に1 枚のカードを取り出し、見もしないでそれをテーブル上に置きます。観客の1 人に「やまびこを選んでください」と言って1 枚抜き出させ、それを演者のカードと一緒にしてもらいます。この操作を別の観客2 人とでもう2 度繰り返します。6 枚のカードを見てみると、観客たちの選んだカードは、まさにマジシャンが選んだもののやまびこになっています。つまり、選ばれた3 枚はすべて、演者が選んだカードのメイト・カードなのです!

  

 

“The Poker Formulas”

マジシャンは、暗号のような数字の羅列に埋め尽くされた、よれよれの紙を何枚か取り出します。これこそ自分の『ポーカー・フォーミュラ』なのだと彼は説明します。この公式の力を示すため、観客に何でもいいのでポーカーのハンドをひとつ言ってもらい(ここでは7 が3 枚とK が2 枚のフルハウスとします)、プレイヤーの数も言ってもらいます(ここでは6 名とします)。

紙をガサゴソやってマジシャンは該当する公式を見つけ、それをデックに『プログラム』します。デックを静かにリフルし、叩き、ひねりますが、あきらかにカードの位置は全く変わっていません。言われた通りの人数にカード

が配られ、マジシャンのカードが示されます―――そしてまさに、それが観客のリクエストした通りのハンドなのです! さあ、このポーカー・フォーミュラは最高額でご入札いただいた方のものですよ。

  

 

“Just Like That”

マジシャンと観客がそれぞれ自由にカードを思い浮かべます。同じように自由に、それぞれ1 枚のカードをデックから抜き出し、それぞれ自分のポケットにしまいます。驚くべきことに、マジシャンも観客も、お互い相手が思ったカードを見つけ出すのです。こんな風に(Just like that.)。

  

 

【Quartets】

カルテット(スタックの最短相対距離情報)を使うことで起こすトリック7種。

 

“Top of the Heaps”

マジシャンは、少枚数のカードからなる4つの山を少しのあいだ両手で覆います。すると自由に言われた数値のフォー・オブ・ア・カインドが、それぞれの山の一番上に現れるのです。

 

  

“Murphy’s Law”

マジシャンは、トランプというものは『いにしえのタロット』に由来を持つもので、こんにち今日のデックにも、その『不思議な形質』のいくらかは備わっている、と言います。具体的には、デックは人がどれだけラッキーか、もしくはアンラッキーなのかを判別するのに使える、と言うのです。

それをデモンストレーションするため、観客のひとりにA からK まで、なんでもいいので数値を言わせたら、デックから1 枚ずつ表向きにしながら配っていってもらいます。選んだ数値のカードが早く出れば出るほど、彼はラッキーというわけです。そして、この観客はきわめてアンラッキーであることが判明します。なんと、彼が自由に言った数値のカードはデックの最後の4枚なのです。

  

 

“The Chosen”

観客のひとりが、デックの中の4 枚を自由にタッチします。素晴らしい幸運により、自由に言ったフォー・オブ・ア・カインドの4 枚を、それですべて見つけ出してしまうのです。

 

  

“Identity”

マジシャンは言われた数値のカード4 枚を指先で触るだけで見つけ出す、と言い、デックのバラバラの位置のカードを1 枚ずつ全部で4 枚、表向きにひっくり返していきます。その4 枚はてんでバラバラのカードであるにもかかわらず、マジシャンは言われた数値のカードだと自信たっぷりに宣言します。

観客たちは顔を見合わせ、このマジシャンはアタマ大丈夫かといぶか訝り始めたまさにそのとき、彼らは突如それを目の当たりにします。デックがテーブル上にスプレッドされると、4 枚の表向きのカードは、言われた数値のフォー・オブ・ア・カインドへとたちまち変わってしまっているのです。誰かが「眼医者を呼んでくれ」と言い出す前に4 枚のカードは元の姿に戻ります―――そしてまた言われたカルテットに変わります!

 

 

 

“The Illusionist”

マジシャンは謎めいた感じでこう述べます。時に、最高のトリックというのは、決して実際には起こらないもののことを言うのだ、と。そして彼は、そんな『イリュージョン幻』を見せようと言います。

まずは古典的なスキルのデモンストレーションからです。観客のひとりに、どれでもひとつ、フォー・オブ・ア・カインドを言ってもらいます。マジシャンはデックを何度もカットしますが、その度に言われたうちの1 枚を見つけ出してくるのです。

ところが信じられないことに、マジシャンは、これらは本当はすべて幻なのだ、と言います。そして実際、デックが表向きにスプレッドされると、先ほどカットしたところから出てきたカードはどこにも見当たりません。マジシャンは、トリックが始まるよりも前に入れておいたカードがありましたね、と言って、自分のポケットから4 枚のカードを取り出してきます―――それらは言われたフォー・オブ・ア・カインドの4 枚なのです! 時に、最高のトリックというのは、決して実際には起こらないもののことなのです。

 

  

“Four-Way Stop”

誰かがフォー・オブ・ア・カインドをひとつ言います。マジシャンはカードを1 枚ずつ表向きで配っていき、観客は好きなところでストップをかけます。ストップをかけられたところのカードを公明正大に裏向きのまま置き、もう3 人の観客に同じことを繰り返します。最後に、ストップを掛けられた4 枚が示されると、それはもちろん、観客の言ったフォー・オブ・ア・カインドなのです。

  

 

“The Right Kind of Wrong”

1 から10 の中のひとつの数字に集中しながら、観客がデックをシャッフルして、4つの山にカットします。それぞれの山のトップ・カードを表向きにしますが、意図とは違って目的の数字のカードは出てこず、単なるランダムなカードです。観客が間違ったデックを使っていたことにマジシャンが気づいたとき、すべてが明らかになります。ずっとテーブルに置いてあった別のデックで、カットの結果出てきたカードのバリューぶん数え下ろしていくと、まさにそれぞれの箇所から思っていたフォー・オブ・ア・カインドが出てくるのです。

 

 

 

 

【The Stack Dependents】

タマリッツ・スタックを使うトリック4種。ちなみに1つ以外は別にタマリッツ・スタックである必要はないのですが、それからだと早く組めるというメリットがあったりします。

 

“Fairy Tale Poker”

マジシャンは、実は魔法のデックを使っているのだと明かします。おとぎ話のように、このデックは自ら並びを変えて観客たちの望みを叶えるのだ、と。そうして配られたポーカーでは、他7 人の強力なハンドを、デックの持ち主が4 枚のA で打ち負かすという、とんでもない事になるのです。

 

 

“Quick Change”

デックから1 枚のカードが抜き出されて示されます。マジシャンはデックを素早く4つの山にカットします。それぞれの山の表のカードは、抜き出されたカードと合わせて、ポーカーの強力な役になっているのです。

これがより困難な状況下で繰り返されます。新たなカードが選ばれ、マジシャンはそのカードを使って組める最強の役を作るため、必要となる他の4枚を―――それも4 枚一度に、1 秒で、片手で、手元を見ずに見つけてみせようと言うのです。

選ばれたカードが示され、マジシャンはテーブルの下で4つのパケットを片手で持ちます。一瞬の後、マジシャンが再び手をテーブルの上に出してくると、それぞれの表のカードが変わっています。新たに選ばれたカードとその4 枚を合わせると、スペードのロイヤルフラッシュになっているのです。

 

  

“Poker Night at the Improv”

即興とカード・コントロールの妙技で、マジシャンはシャッフルされたデックから次々とより強いポーカーのハンドを種々華麗な方法で取り出してきますが、その間ずっと、観客に自分が選んだカードを忘れさせようとします。

それらがすべて失敗に終わったとき、マジシャンは残った最後の数枚を観客に手渡し、ポーカーのハンドを配ってもらいます。観客は、彼が自身に勝利をもたらすロイヤルフラッシュを配ったのみならず、最後にカードがちょうど1 枚だけ残ったことに気づきます―――これこそが彼の選んだカードなのです!

 

 

“Game of Chance”

マジシャンがデックをシャッフルし、プレイヤーは赤か黒かの色を言います。カードを3 枚一組でめくっていき、そこに出てきたカードの色を見ていきます。それがプレイヤーの指定した色であるたびに点が加算されます。

ゲームの最序盤から、プレイヤーたちはまるでツイていない感じです。色を選びますが、3 枚目のカードはいつも選ばなかったほうの色なのです、それも最後まで!

デックは繰り返しシャッフルされ、赤と黒がランダムに混ざっていることが示されるにもかかわらず、何度プレイしても同じ結果に終わります。どちらの色が選ばれても、出てくるのは反対の色なのです!

いくつかのバリエーションがいずれも同程度に不満足な結果に終わったあと、最後にマジシャンは、同時に2 人のプレイヤーでやってはどうか、と提案します。1 人が赤を選び、もう1 人が黒を選ぶのです、と。これなら1 人は勝てるでしょう! 3 人目の観客が審判を務めます。彼はマジシャンのための色を自由に1つ言ってから、カードを3 人の参加者へと配っていきます。マジシャンの手札には赤と黒の混ざったカードが来て、得点も普通でした。しかし、他の2 人のプレイヤーが自分の手札を確認してみると、1 人は全部赤いカード、もう1 人は全部黒いカード―――ですがどちらも『ハズレ』のほうの色なのです!

 

 ■教授の物販:Pit Hartling『In Order To Amaze』日本語版