教授の戯言

手品のお話とかね。

デブ兄弟来日ツアーin東京

ダニ・ダオルティス/ミゲル・アンヘル・ヘア/クリスチャン・イングブロム、巨漢3名のユニット、ファット・ブラザーズ。数年前より世界的に話題の彼らの来日レクチャーツアーが、2013年5月下旬に行われました。東京は25日&26日の2日開催で、ツアーの千秋楽でした。発表当初「行かなくてもいいかな、どうせああいうの出来ないし、あと肉も足りないし」と思っていたのですが、結局行ってしまう病気。そして大変充実しておりました。肉量が、という意味ではないです。肉もですけど。
肉といえばこの3人はFat Brothers 2を出す際に「3人で400kgのマジックだぜ!」のキャッチコピーをつけていましたが、今回はそこにこざわ氏と齋藤氏が加わり、標題「5人で600kgのマジックだぜ!」が現出していました。……私はもはや、震えることはおろか、藁のように死ぬしかないじゃない! こざわ「ファットブラザーズと並んだら、ぼく痩せて見えそうよね」 ……結果としてはもうそういう次元じゃないです。壁です壁。肉の壁。ていうかこざわさん、ダニよりfat…少し柔らかめに言えばtubbyじゃないですかどうみても…。



彼らのDVDは持っているし見てもいるのですが、一昨年のダオルティスのレクチャー直後はダオルティスしか注目しておらず(ありがち)、いまいち他のお二人の印象が「ダオルティスよりもデカイひと」くらいでしたが、実際拝見しますとまあやはりそちらの両名も凄いものでございました。いや、体重がじゃないですよ。体重もだけど。

【1日目】ヘアのレクチャー/イングブロムのレクチャー/ダオルティスのショー
【2日目】ヘアのショー/イングブロムのショー/ダオルティスのレクチャー
という、ちょっと見たことのない構成でした。


両日で変態どもを心行くまで堪能して、月並な感想ですが、やはり不思議な手品は良いものですね。綺麗だなとかうまいな、というのではなくて、もう純粋に「なんで?」「どうして?」みたいな感想ばっかりになる、「不思議で凄いなあ」という、そんな感じです(小者感)。色々良し悪しあれど、日本人とはまるで違うというか。なんでしょう、英語とかそういう言語的なところを超えた、ショーマンシップ的なところが根本的に違うのかなあ…。各国でもこのクラスはそうはいないものというのは重々承知ですが、こういうタイプのプロというのが、出づらい気がします、日本。コンパクトに綺麗にまとまるのが伝統ではありますが、20年に1回くらいは前田慶次的な傾いた人が出てもいいと思うのですよね、パフォーマーとして。別に日本のプロをdisっているわけじゃないんです、本当に。出てきたらいいなーって思っているだけで。決していまさら「花の慶次」を読んで、その生き様にいたく感動したからではないのです。風流せよ。


※今までダオーティスと表記しておりましたが、なんかご本人の発音聞くにダオルティスの方が近い気がするので、今回以降そんな表記で。まあ私以外にはどうでもいい話ではあります。

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◆ヘアさんは、実際は結構物静かな方なようなのですが、演技の際は物凄く飛んだり跳ねたりして、そのギャップという意味ではタマリッツに近い感じがします(注:個人の感想です)。なんかコワモテな風体も相俟って、休憩時間中に会場の壁にひとり背をもたれかけている様など、素手で人を殺せる闇世界の殺し屋(©アルプス伝説)的な感じすらしました。演技ではヒゲの巨漢がニッコニコ笑って、オーバーアクションなジェスチャーをし、大変楽しい気分にさせてくれます。あの中で一番魔法少女のコスプレが似合うと思います。…いや、普通に"遊園地のアトラクションとかで、陽気な魔法使いの役で出てきそうです"の方がいいか…。


カードも使うのですが基本的にやはりコインが印象的で、口三味線でコインが出てくるのはなんか本当に空中から出てくるみたいで、不思議なんだけどちょっとおかしみを感じるのが素敵でしたね。
グラスを使ったものはDVDで見てはいたのですが、目の前で、しかも音がすると、このディセプティブさは凄いもので。特にほら、その、あるじゃないですか、彼のコップ持った手にコイン投げ込むやつ。まるで分かりませんね。また、コインボックスの演技ではカタパルトという技法も説明してくださいました。彼曰く、変態技法では無いそうなのですが、マジック全般の中で、特にコインマジックに暗い私には超絶技法のように見えて仕方ありません。あと、飛ばすだけならともかく、それを指先でキャッチしたり、コインボックス伏せる瞬間にその真下に投げ込むとか、あれはやれる気が更々いたしませんw



なお、最近英語の問いかけに対して無防備にYESということは減っていたのですが、物販で1,500円のものを買うのに5,500円出した際、「こっちのデックものをつけるとちょうどだよ?」とか言われて、ついつい「YES, OK」とか言ってしまい、なんだか買う気も無かったものまで買ってしまったという、大変不思議な経験をしました。しかもそのマジックの演技をしていたのは彼ではなく、イングブロムさんだったのですが。おかしいなあw フォーシング的なテクニックを物販に応用された気分です。実際は単に「Yes」と言ってしまいがちな日本人ってだけですがw まあ、フォーシングがなくとも結局この2日間で割とアレな金額を使ってはいるのですが。




◆一番の巨漢、イングブロムさんは、初日夜にお話してフィンランドのご出身ということを初めて知りました(とある日本の本を読んだと仰っていたので、てっきりスペイン語の本かと思って聞いたら「いや、スペイン語は覚えたけど、私はスペイン人ではないよ」と。ちなみにその本は「子連れ狼」でしたw 何故だ)。私のフィンランド人知識はシモ・ヘイヘと、エイラ・イルマタル・ユーティライネンだけという有様でして、仕方ないのでシモ・ヘイヘをほぼ初対面の当該国人に話題として振るという暴挙に出ましたが、彼が知っていてくれて本当に良かったと、今にして思います。調子に乗って「日本のアニメにですね、フィンランドのエースパイロットがモデルのキャラが出る作品があるのです」「タロット占いが得意です」「"パンツじゃないから恥ずかしくないもん"です!」とか振るのはダメですかね?「ダメダナー。サーニャー。ミヤフジー」…はっ。(オタ特有の、興味分野になると饒舌になるパターン)




エイラさん

ピカソキュビズム幾何学の違いの話から始まるカード当て…というか一致というかは面白い。ちょっとやってみたくなります。
Card from Pockets系のは完全にやられました。ライトブレストにフラップパッチポケットがあるなんて、珍しいシャツ着てらっしゃるなあ、超肥満用オーダーシャツだろうか(パンツポケットより物の出し入れしやすそうじゃないかなと)とか思ってたのですがまさかあんなことに。あとペンのキャップをつけるときに「なんかいやらしいな、オイ」(©じょしらく)的なコメントが面白かったので私も使わせてもらおうと思いました。…私が言うと多分好感度が下がります。
Triumphが吐くほど不思議でした。明らかにテクニックの介在する余地がないというか。何でもタマリッツに「Triumphは直前までクリアに見せられるといいよね」ということを言われ、ダオルティスはOpen Triumph(垂直的でテーブル不要)を、そしてイングブルムは今回のTriumphを(テーブルを使う水平的なもの)それぞれ作ったそうです。普段そんなことは殆どしないのですが、個人的にあまりに衝撃だったというか、私のやりたい理想像のひとつがあった感じだったので、終了後に「あれはどこかのメディアに既に発表されてらっしゃいますか」と聞いたところ、「未発表だけど、そのうち出すFat Brothers 3に入れる予定だよ」とか言われ、これはもううっかり死ねないと思いました。「そもそも、今回の日本ツアーでそれのライブ映像っぽいのも撮ろうと思ってたんだけど、ダニがカメラ忘れてきてねえ…」エーw ともあれ極端な変態技法が介在していないことを祈りたいです。

あと、「Cooler」ですよ。いや、私は持ってはいるんですよ。持ってはいるんですが完全に引っかかりましたね。しかも2回。2回とも全く気づかず。でもあの二川さんも「Coolerが置いてあるのは分かっていたけれど、チェンジはどっちも気づかなかったですねえ」と仰っていたし(イングブロム氏、それを聞いて大変ご満悦状態w)。いやあ、使えるものだったのですね(ひどい言い草)。ちゃんと作ろうっと。



◆ダオルティス。見慣れている、というほどでもありませんが、2年前の長時間レクチャーも、その後のDVDも見ており、3人の中ではもっとも触れている時間が長いマジシャンであり、そういう意味では"新鮮な"驚き、という感じではなかったのですが、やはり化け物ですね。ほぼほぼ、なすすべなく引っ掛けられています。借りたデックでバンバン不思議なことをやるというのは本当に憧れる。ちなみに2日目、名目上は"レクチャー"だったのですが、会場のみんなのリクエストで演技の方の比重が増していき、最終的に1個しか解説してませんでしたw 私のように以前レクチャー受けた、とか、DVD全部見た、とかだったらさておき、そうでない人にとってあれは良かったのかなw でもまああんな不思議なカードマジック、そうそう生で見られないし、良かったと思うことにいたしましょう。ていうか超不思議だったし。

2年前も震えるほどの変態でしたが、今回、磨きがかかっていたなという印象。即興的な感じを出す、ということを仰っていましたが、その陰では、隙あらばちらっと見えたカードでも憶えてあとで使い、枚数は雑に扱いつつもコントロールし、と、通る道をどんどんトラップで埋めていく感じでした。二川さんには、「ああいう感じの演技やるなら、ワーキングメモリーを普段から使ってれば結構行けるようになります」とは言われましたが、…演技しながらですからね、凄いものです。

例えば初日の夜の居酒屋にて、落ちていたカード(JC)を隣にいたこざわさんの眼鏡に挿して遊んでいたのですが(酔った故の行動に理由など無い)、その横で別の方相手にカードマジックをしていたダオルティスが相手に「ほら、彼(こざわさん)を見てごらん」とか言うと、彼が選んだJCがこざわさんの前にある、みたいな感じになっていたりもしました。あと実際にはどうやっていたのかは分かりませんが、イングブロムがカードを空中にスプリングしたところでその中へダオルティスがすっと箸を伸ばすと、観客のカードが箸に挟まれている、"剣豪がハエを箸で捕まえる感じ"のとか、そういったコンビ芸もたまらなく楽しかった(多分麻雀のコンビ打ちみたいに、卓の下を使って渡していたと思われる)。私も隙あらば他人のポケットにコイン入れたりしていた時期がありましたが(もちろん、コイン消して、観客自身にポケットから出させる)、まあ次元が違います。


イングブロム氏はどうも変化系の念能力を使えるっぽい。具体的に言うとヒソカ的な。


オルティス氏はどうも魔法少女らしい。カードキャッチプリキュア。…ごめん。プリティでキュアキュアとはちょっと言い難い。あと箸でという意味では宮本武蔵的な何かっぽいのだけれど、キメポーズをとるときの掛け声は空手家っぽかったですw



オルティスの素敵なところは、そのテクニック面というより、やはり常に現象に結びつくような行動をしているところなのかなという気がいたします。ぶっちゃけ、図々しいにも程があるテクニックも多用していますし。あとは借りたデックと自分のデックを使い分けるタイミングが絶妙というか(別に「俺でなきゃ見逃しちゃうね」©HxH というわけではないです)、当たり前といえば当たり前ですが、必要なときにはいつの間にか自分のデック使ってるんだよなあ。ずるいよなあ(感嘆)。



出来るか出来ないかというと、出来ませんしやらないのですが、とても素敵な2日間でした。そりゃ手品熱は上がります、あんなのやられたら。別に世界のプロに詳しくないというか、むしろ疎いくらいですが、間違いなく現代のトップ・プロという感じです。しばらく来日はされないかもしれませんが、映像媒体でしか知らないという方はぜひ生で見ることをお勧めします。彼らの凄いのは、技術どうこうより、場の空気を掌握した上で変態的に不思議を創出できる、そんな部分かなと、今回あらためて感じました。



そういえば「あ、きょうじゅ、マット持ってない?」と問われ、こざわさんにマットお貸ししたら、ヘア相手にオクトリクスやっておられた。よくやるもんですw イングブロムが私の横で楽しそうに見ていたので「あのジャパニーズファットガイのオリジナルトリックなのだぜ?2種8枚のマトリクス」とか言ったら「面白いコンセプトだね」とか仰っていました。どういうニュアンスなのかw


末筆ながら、ヒゲの社長ことスクリプト・マヌーヴァの滝沢さん、素敵なイベントの開催と、連日長時間の通訳、お疲れ様でした。母語ではない英語を喋る3人なので、リスニングの練習にはもってこいかと思っていましたが、やはりところどころ意味が分からないこともあり、滝沢さんの聞き取りやすい通訳、大変助かりました。本当にありがとうございました。      639360