教授の戯言

手品のお話とかね。

齋藤修三郎『JIS X 0401「都道府県カード」』

齋藤修三郎『JIS X 0401「都道府県カード」』

【現象】演者は,日本の都道府県の書かれたカードを軽く混ぜ,4人の観客に大体均等になるように十数枚ずつ渡します.
第1段:1人目の観客からカードの束を受け取り,それらに書かれている都道府県を記憶すると言います.演者は1枚ずつカードを見ていき記憶したと言います.カードを観客に戻してよく混ぜて貰い,1枚抜き出しそれを記憶して貰います.覚えて貰ったカードを2人目の観客に渡し,自身のカードの束に加えて混ぜて貰います.演者は,2人目の観客からカードの束を受け取り,先ほど記憶した中に含まれている都道府県を見つけると言い,カードの束を見ていきます.演者は1枚のカードを抜き出しますが,それは1人目の観客の選んだカードです.
第2段:
カードの束を2人目の観客に返し,もう一度混ぜて貰い,1枚抜き出しそれを記憶して貰います.そして,選んだカードを3人目の観客に渡しカードの束に混ぜて貰います.さらに,1人目の観客からカードの束を受け取り3人目の観客に渡し,全てを一纏めにしてよく混ぜて貰います.演者はカードの束を受け取り,表を見ていき1枚のカードを抜き出します.それが,2人目の観客の選んだカードです.
第3段:
演者は,4人目の観客の持っている束に含まれている都道府県以外は全て見たので,見ていない都道府県を言えば,4人目の観客の持っている束を当てることが出来ると言います.演者は,4人目の観客が持っている束に入っている都道府県の名前を次々と言い当てていきます.

 

f:id:propateer:20190802140356j:plain

とどうふけん

 

初めて本作の実演を見たのは5年ほど前の東大でだったでしょうか。それから何度か見ているのですが、どういう仕組みなのか全く分からず。抜かれる県(当てるカード)が毎回同じならなんとなく予想も付きそうなものですが、それも毎回違うしで。ピットの"Unforgettable"ではないですが、「いや、たしかに全部見て、その瞬間に憶えれば出来はするけどさ」という理屈は立つものの、果たしてそれが可能なのかというのがずっと引っかかっていたトリックです。アルスさんがやっているのが、手品なのかテクニックなのか私には判別がつかないことがあるのと同様、齋藤さんの手品はタネのある手品なのか、それとも本当に記憶や計算を駆使しているのかがまるでわからない、という、このへんの線引が難しいのが謎を一層深めておりました。齋藤さんは聞けば間違いなく教えてくださる方だとは思うのですが、私、自分がめっちゃ不思議だと思った手品は、自分が演じることにならない限りは謎のままにしておこうという奇癖があるため、あえて聞いたりもせず、「『Lightest』の齋藤さんパートはいつ上がるんですか!私もう3ヶ月前に終わってますよ!戦争が終わっちまうぞ!」みたいなことだけを言うようにしていたのです。

 

これ、裏側の話をいきなり言うのもナンですけど、まず作ると原価的に高いそうなんですよね。プラスティック製の全部違うカードだしさもありなんですが。あと、本と違って、注文ロット数量に関わらず、原価があんまり変わらない(10個作っても100個作っても1個あたり原価がほとんど低減しない)ということでしたので、齋藤さんがご自分で演じるのに作ったやつだけで、一般販売はしないんだろうなと思って半ば諦めていたのですが、今回「作りましたよ」と聞いて飛びついた次第。「卸値でお譲りしますよ?」とは仰っていただいたものの、憧れの作品だったこともあり「いや、普通に買います」で普通に買ってやりましたよ!その日の、まだ解説書も読んでいない帰り道の雑談で、齋藤さんが「ペグ(法)を使うことで各都道府県の配置を~」(※ペグ法:記憶術の手法の一つ)とか言い出したので、「(やばい、9000円払って、タネが”ガチ記憶”だったらちょっとへこむかも)」と内心怯えながら帰宅しまして。解説書を読むわけです。ネタバレですが、ガチ記憶術ではなかったです。良かった……。良かった、というか、ものすごくクレバーな原理で。私でもできそうなよくできた仕組み。

 

第1段の「記憶術初級編」では大体10分の1くらいの当てもので、第2段の「記憶術中級編」では35分の1くらいに、第3段の「記憶術上級編」では残りの県をすべて当てていくのですが、途中途中に挟まれるギャグで雰囲気は和やかに笑いも取りつつ、天地で判別しているのでは→上下バラバラに混ぜちゃってください 裏から見て分かるのでは→カードの裏が(当然表も)見えないようにしますね のように、手品っ子が思いつく解法を丁寧に潰していくところが本当にいやらしい。「エローい!エローい!」 あとこれもサイトートリックの他2つと同様ですが、想像していたよりも演者の負担が遥かに軽い、というのが素晴らしい。うん、私、齋藤さんの台詞、「頭の中で、さっき憶えた県は赤で、いま見た県は青で塗りつぶしていってまして」って、正直半分くらい本当にそうやってるんじゃないかと信じてましたからねw 齋藤さんならできそう、みたいな。

 

本品もマジックマーケット2019の「D-7:メチャ凄サイトー」で頒布されると伺っております。1セット9千円。値段だけ見れば決して安くはありません。ただ過去に実際に演技を何度も見て、笑いつつも解法の手がかりすらつかめなかった作品なので、私は脊髄反射で買うレベルでした。ちゃんと”使える”ネタです。クロースアップでもできなくはないですが(ネタバレがあるわけではなく、単純に狭っ苦しい、というだけ)、サロンレベル以上で、10分くらいかけてこそ映えるトリックだと思います。傑作。

 

f:id:propateer:20190802141057j:plain

わりと大きめ

 

www.magiclesson.biz

 

 

取り置きOKだそうです。