教授の戯言

手品のお話とかね。

チャド・ロング DVD1


FDの紹介ページのとおり、DVDの映像は良くないし作りも丁寧ではないのですが、確かにロング氏は恐ろしくうまかった。顔的には"緊張感を与えたデビッド・ウィリアムソン"な感じなんですが、久々の"じーっと見てなお不思議"DVDでした。名前しか存じ上げなかったのですが、不覚にもファンになってしまいそう。解説の元文とリンクは毎度おなじみフレンチドロップ様で。週刊スペルバウンド、毎週楽しく拝読しております。


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■ Chad Long 「Chad Long's DVD Vol.1」

・Black-Red-Blank
デックを一組取り出しますが、困った事に全て黒いスート。と思っていたら突然、全て赤いスートに変化。続けてカードは全部ブランクになり、そして結局は標準のデックに。

まずは「技巧派でござい」という紹介のように感じました。カバーが利いているせいもありますが、これは面白い使い方だなあと。ただ、"オールバック"同様、私は多分やらない(できない)類です。テンポよく畳み掛けるだけの技術が必要かと思います。



・Oil & Water
赤4枚と黒4枚を交互に並べ、閉じて広げると、赤と黒で分かれます。エクストラカード無し。確実に交互に置き、最後まで混ざっている様に見せられるクリーンな方法。


ゆうきさんが「奇術探求」にて、少し気になると仰っていた処理法は特に気にならなかったのですが、それ以前の部分でこの人はカルとバックルが自然でとても真似できない。なんというか、"ゆっくりで怪しさがまるでない見せ方"というより、"非常にスピーディーな手順"なので、逆にマジックを全くやっていないお客さんが見たときには「今の素早い動きの中でなんかやったかも」と思われてしまうかもしれないなあとは感じました。
残念なことにロングが左を向いた瞬間「あ、サイドスチールかカル、ないしはパスをやるのかな」という想像はしてしまいましたが、スピーディーすぎてそれを想像してなお、何かやったのかホントに何もやってないのか、よく分かりませんでしたw それはそれですごいや!
あと以前も書きましたが、映像だとカードの厚みはよく分かりません。DVDの映像でもレクチャーノートの解説でも、4枚はともかくダブルカードくらいだったら見せても大丈夫そうに思えるのですが、生で見ると意外に怪しいんですよね。これも映像的には怪しくなかったですが、さすがに4枚重ねを生で見たら怪しく感じるような気はしなくもないです。



・Full Deck Oil & Water
赤と黒のカードを数枚ずつ交互に重ねていき、デック1組が良く混ざった状態にします。このデックをスプレッドすると見事に赤と黒が分離しています。あらゆるオイル&ウォーター・ルーティンの強烈なクライマックスになるはずです。難しいですが、是非マスターしてください。

この技法、知ってたはずなのに、しかも繰り返して見せられたのにも関わらず全く怪しいと思いませんでした。このDVDの中で、私にとってもっとも強烈なパンチだったといえましょう。また「本当に普通に重ねている」のと「技法を使って若干見た目と違った形で重ねている」のが絶妙なバランス/タイミングで混じっていて、解説聞いてため息しか出ませんでした。なんと骨太で力強いトリック…。



・Another Rumor
4枚のAをテーブルに出したあと、デックから1枚のカードを覚えてもらいます。そのスートを聞き、Aのパケットを広げると、選ばれたカードと同じスートが裏返ります。次にデックを弾くと1枚のカードが飛び出ます。覚えてもらったカードかと思いきや、それはさっき裏返ったはずAです。テーブル上においた裏向きカードをめくると選ばれたカードその物になっています。この2枚のトラスポジションがもう1度起こり、最後はAと思われていたパケットがまるごと選ばれた数字のフォーオブアカインドパケットに変わっています。

第一段はよくあるホフジンザースプロブレムというか、「選ばれたカードのスートのAだけが裏返っている現象」で、その辺で油断していたところ最初のトランスポジションが。それはともかく、そのあとの「4Aだったものが4Jに変わっている現象」は完全に幻惑されました。ただ、実際問題ホフジンザースプロブレムの部分だけでも充分といいますか、マニアが見ない限り2段目のオチは不要のような気はします。クライマックスにやるのであれば納得ですけれども、この通りだとちょっと重いかも。



・Coins From Purce?
パースをテーブル上で転がすと次々とコインが現れます。ロール・オーバー・コイン(ダン・フレッシュマン)のバリエーションですが、原案より随分やさしく演じられます。コイン・マジックを始めるときは、このプロダクションを使ってください。


"使ってください"といわれましてもw 私はこの類のオープナーはヴァラリノの演技くらいしか知りませんけど好きです。あ、ムッシュ・ピエールさんとかふじいあきらさんもやってましたっけ。いや、なんか記憶が混濁。多分カードでやるほうがカバーが大きい分ラクだとは思うのですが。



・Okito Revers-enmbly
4枚のコインのうち1枚をコインボックスに入れ、1ボックス3コインを4隅に置いてそれぞれ上からカードを被せます。ここからコインが1枚ずつコインボックスの中へと移動します。4枚とも集まったコインボックスを取り上げ、再度中身を確認すると、なんと空になっています。コインは元あった4隅に戻っています。不可能性と説得力が強いリバース・アセンブリー。ボストン・ボックスの特性を巧妙に利用したクレバーな手順です。

ボストンボックスの原理の利用は、確かに構造知らないと満杯に入っているように見えて素敵ですね。コインボックスの手順見て、初めて綺麗だなと思いました。あまりカチャカチャさせないのがグーだと思います。



・Y.A.C
コレクターの狡猾なバリエーション。4枚のKをテーブルに置き、ハートのA,2,3をデックにバラバラに戻します。リーダー・キング1枚が、デックを巡回してからパケットに戻ると、ハートのA,2,3はすでに各Kの間に挟まれています。大胆&鮮やかです。

これは実にクレバー。デックと脇によけた4Kが接近したような印象を殆ど与えないのがさすがです。解説ではステップを踏んでやってくれていますが、演技はもっと難度が高くなっているといいますか、いわゆる"仕事"の部分が非常にスムーズに行われるため凄く簡単そうに見えます。実際はちょいと難しいんですよね…(テクニックというより、ナチュラルブレイクの活用などがあるため、主にカードのコンディションについて、などですが)。手順をさらってみて、自分の演技のあまりの怪しさに「うっわ、"しまっちゃうおじさん"にしまわれちゃえばいいんだ」とか拗ねてみたり。



・The Vanishing Finger Ring
しっかりはまった指輪が、ペンで一叩きするだけで消えてしまいます。

まさかこうじゃないよな、という原理でホントに実現されていた、私にとって非常にショッキングなトリック。どうショッキングだったかというのは「マーキュリーリング」が届いた日の私を想像して頂ければ。いや、うん…、しかし処理にはちょっと無理がないかなあ。FDの紹介文が異様に簡略なのも何か含みがあってのことなのかとか邪推してしまいますよw



・The Shuffling Lesson
マジシャンはデックをシャフルした後、半分を観客に渡します。ここから観客にもマジシャンがやるように色んな方法でカードをシャフルしたり、カットしたりします。それぞれのパケットを4つの山に分けます。マジシャンが作った山のトップからはそれぞれKが出てきます。観客にも自分で分けた山のトップを見てもらいます。すると4枚のAが出てきます。マジシャンが観客のカードに触れる事は一切ありませんので、相当驚かれる事でしょう。よく知られた原理を使いますが、うまくカモフラージュされていますので、知っていてもひっかかります。


セルフワーキングの佳作。古き良き原理のゆったりトリック。さすがにディールをしている途中からは手品っ子目線で見てしまいましたが、ルーティーンの本格的な導入時点で、かつお客さんにも参加してもらえるという点でかなり実用性が高いのではないかと思います。自分自身はコメディタッチが好きな割に、あまりお客さんにデックを渡さないスタイルなのですが(別に検めさせるのが嫌なわけではなく、お客さんに「xxしてください」と作業を頼むのが好きではないのです)、これならこれから使うカードをお客さんにも手伝ってもらって出すという形で良さそうと感じました。
ただ、この程度でも「ちょいと時間かかるのがなあ」とか思ってしまう時点で、私の「古き良き、ゆったりしたマジックが好きなんですよ」的な発言は、果たして本気なのかが疑わしくなってまいりました。いや、スピーディーなのもエレガントなやつも好きなのは間違いないんですけど…。



Flash Coins
丸めたフラッシュ・ペーパーに火を付け、放り投げるとコインに変わります。同じように3枚出します。2枚をパースに入れ、1枚に火の付いたフラッシュ・ペーパーを投げつけます。するとその1枚は消失し、パースの中に移動します。これほど美しいコインの現象もなかなかないでしょう。


小さくしゅわっと光った紙くずがコインになるのは実に美しいです。ただ、ちょっと本人の演技でも4枚目だけはいただけなかったですけれども(いけないモノが見えている気がします)。

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これ自体に限った話ではないのですが、もはや無垢な目線を失ってしまっている私にはよく分からなくなっている"検め"について雑駁に。

手品っ子にはおなじみ、CPしている状態で指の開いた手の甲だけを見せることでモノが「消えた」ことを、観客にご認識頂くと言うのは、果たしてどの程度説得力があるものだろうかという疑問が私の中にあります。
"両手に何も持ってないことを示す"というのを日常の中でやろうと思った場合、やはり"両掌を体の前で表裏を見せるようにくるっくるっと回す"のが普通、というポイントについては、多くの方にご賛同頂けると思うのです。もちろんそれが手品の検めで出来れば苦労しないわけで、出来ないからこそワイプトクリーンやシークレットパスなど様々な技法があるのは理解しています。ただ、それを行ったところで、"両手に何もないこと"を上記の"両掌同時くるっくる"で示すのと同等の説得力は持ちえないのではないでしょうか。
しかるに自分を含めて手品サイドの人には、"手の指を開いている=何も持ってないのは明らかでしょ?"という消極的アピール、つまり"脱力した手の甲を見せること"="その手からは消失" という意図があろうとは思うのですが(実際に突っ込まれたこともない)、ただ…、ただですよ?本当にそれで一般のお客様に"ここは一寸怪しいのでは""てのひら見せろよ"などという軽い疑念すら持たせていないのかと考え始めると、ちょっとどきどきしてきたり。
まあ物は考えようで、敢えて完全消失ではなく「もしかしたらあそこかも」という想像の余地を残しておくことで観客の推理欲を満たす、というのもあるかもしれません。そうすることで観客に「私は大人だから指摘しなかったけど、多分あそこにあったな」という認識を与え、それによって「マジシャンに一方的に幻惑された」という、なんとも言いようのない敗北感を植えつけずに済むと考えられなくもないかと思ったりもしましたが、やはり酔った状態でこんな解の無い文章を書きだす時点で私が間違っています、ええ。

要約すると、
Q. 最近、マジシャンが少なくとも"掌の一部"すら見せてくれない場合、甲を向けている側の手には絶対なんか持ってそうに思えてしまう妄想にかられて困っています。脳のその感覚だけでもリセットできないでしょうか、茂木先生(アラバマ州:会社員 男性)
A. 茂木先生がどなたか図りかねますが、そのマジシャン氏はおそらくその手に実際何かしらのモノを持っていると思いますので問題ありません。あと脳とか人生にはリセットボタンがありませんが、せめてクイックセーブ&ロード機能が欲しいですよね

ということですね。ことですか。そうですか…。