教授の戯言

手品のお話とかね。

ジョー・デン・レクチャー

まあ、肝心のシウェイ・リーは来られなかったわけですがw 元からシウェイ・リーとジョー・デン(邓 传玖)という中国のおふたりでのレクチャー予定が、シウェイさんが出国出来ずに急遽単独レクチャーになったという不思議顛末。中国は無職は出国できないらしいです。えー、お金はあっても?
「ふじいさんとポン太さんが腰抜かすシウェイってのはどんだけ凄いんでしょうか!」というのを見るためだけに、学ぶ気ゼロ、鑑賞のつもりで申し込んでいたのですが、よりによってその当人が来られないとかちょっと笑いました。いや、自分が主催側だったら青くなったと思うのですけれど。ポン太さんには「……大変でしたね」とお声がけしたところ「いやそれもそうなんですが、急遽ひとりで持たせなあかんジョーもちょっとかわいそうでねえ」と。「じゃあポン太さんもなんかやればいいのに」と、それを聞いていたみんなが思ったとか思わないとか。

ジョーくん(以降、ジョーくん、というときは『監獄学園』のアンドレの声(CV:興津和幸)でご想像ください。しなくてもいいです)には去年、ビル・グッドウィンのときにお会いしたことがあリ、そのときはなぜか見せて頂いた3つくらいが全部失敗するという、ある意味レアな体験しかしておらず、どんな手品するかまるで知らなかったというか。多分シウェイさんが変態テクニシャンすぎて、みんな唖然で終わるとアレなので、普通のことも出来る人を後詰にしたのかなとか思っておりました。舐めてました、すみませんでした。ジョーくんもすごかったです。

以下ざっくり備忘。どれひとつとしてタイトルを言っていなかったので分かりませんが、多分作品タイトルはあるんだと思います。ただ、ノートやDVD出す気があんまりないみたいなので永久に知る機会は来ないかもですが。



1.2枚のジョーカーの間に次々にエースが挟まれて出てくる。最後の1枚が出てくるかとおもいきや、2枚のジョーカーと思っていたものが一瞬で4枚のエースに変わっている。
のっけから解説の難しいやつで「正直これはダメかもしれないー」とか思ってしまいました。現象自体はとてもすっきりしています。が、説明開始2分位の会場のみんなの「わからねえ…」的な空気はすごかったですね。まあ私も必死にメモは取りましたが、つらかったw

2.トップ・コントロール
スイベル・カットしたところに観客のカードを戻してもらって、公明正大に上半分をパラパラとやって埋めていくが、トップから2枚目にコントロールされている。
タイミングが自然なのもありますが、解説受けてから見ても、真ん中に入れたとしか思えませんでした。なお最初、WLというのを聞き逃していて、「それじゃトップにこないんですがそれは」とかおもっていました。私がぽんこつでした。なお、この技法を使って、4枚のキングのプロダクションとかやっていましたがキモかったです。解説が複雑な1つ目より、こっちを先にやったほうがみんなの"目を盗んだ"感じでよかった気がします。「え、まじで?どうやって!?」ってなるほうがぐっと来ますしね。


3.ギャンブリング・デモンストレーション。最初に観客に1枚選んでもらい、表を見ずにテーブルに置きます。それから観客にデックを配り分けていってもらいますが、その分けた4つの山のトップが、すべて…なんかバラバラのカード。「これは中国では凄い役なんですよ」というのを生暖かい目で見守る日本のマニア。冗談です、と言って最初に出しておいた山のカードを含めて山をまとめ直し、そのカードのところから分けると、そこでロイヤルフラッシュが完成している。
セ、セルフワーキング……!の割に凄くビジュアルで綺麗です。これはちゃんと手順書を書き起こそう。観客に配ってもらうあたりはウッディ・アラゴン的な感じがしました。最後のディスプレイが実にカッコイイので、「ドヤァ!」って感じになれそうです。


4.エース・オープナー
デックを見ないでエースのところからカットしていく、ということを言う。置き終わって「あ、失敗したかも……1枚はでたけど」と観客が思っちゃったりするが、4枚全部揃っている。
この辺から徐々にジョーくんのテクニカルな部分がチラチラ覗き始める。アスカニオ・スプレッドを使うのですが、多分最近のスペイン勢の影響もあるんでしょうけど、開き方が実に多彩で。もちろん演技中はひとつしか使わないのですが、こういうのもあるし、こういうのも使えますね、のようにいろいろ場合によって使い分けてそうでした。また、ここから出てたリバーススプレッドと、そこに差し込むやつが実に自然で早くて綺麗。アッシャーのをこんな感じで変えたと言っていました。昔からリバース・スプレッドの錯覚は大好きでしたが、うまいひとがやるとあんなことになるんですね。スペインの巨匠・ガビの話にもなり、途中で出てきたトリプル・バックルを見ながらふじいさんが「俺の知ってる手品と違う」とかぼそっと言ってて不覚にも笑ってしまいました。


5.カード・チェンジ(コントロール
裏向きで両手の間にスプレッドして、観客に1枚さわってもらうじゃん?立ててみんなによく見せるじゃん?戻すじゃん?もう突き出たカードが別なのに変わってんのよ。さっきのカードはトップに来てんのよ。なんか怖くね?
知っていたのに、この技法!(類型を、なのかもですが) まったくわからない。昔買ったDVDで解説してて、見て、しゅごいいいいと思って、練習して、即挫折した奴に近いんですが。ネストル・ハトー(仏)の手法が元?とか?(あやふや) リアルスピードで見ると、決して早くはないんだけど、脳の処理がそう判断してくれない。どう見てもいま見たカードが突き出てるだけじゃんよ?(CV:諏訪部順一) すごく好みです。練習します。



6.センター・ディール
どう見てもトップから配っているのに、さっき中に入れたエースがディーラーのところで出てくるんじゃあ。不思議なんじゃあ。
解説時: ジョー「実は……真ん中からは配っていません」 マニア「「「な、なんだってーーー!(棒)」」」 会場の皆さんのノリが良すぎw これはいい手品でした。途中で挟んでいたコンビンシング・ティルトみたいなテクも自然で。いや、ここでは何もしてないので自然なのは当たり前なんですがw 



その他:
「ピンキー・カウントからのブレイクってプルプルしちゃってアレですが、こうやると大丈夫なんDAZE!」とか、サイモン・アロンソンの『Try the Impossible』で解説されているという、2枚のカードを出してくるロケーション・トリックとか(面白かったです。かつ「数理的な原理のはずなんですが、ぼくも何故こうなるのかはよく分かりません。多分こうなる」で一同爆笑)、ケン・クレンツェルのエニエニとか(あの箱の工夫には唸った)、J.C.ワグナーのTriumphとかパーム・トランスファーにデック・チェンジと。なんかもう盛り沢山で、「1人だしまあなんだかんだ2時間で終わるのかな」と思ったら3時間弱やっていて、とても楽しめました。おつかれさまでした。



ほんとうに残念なのは、物販をほぼ考えていないせいか、終わったあととか途中で買って帰れるものが何もなかったというところですね。本人の許可をもらって、3,000円位のノートくらい用意しておけばよかったのにフレンチドロップさん。もったいない。



ということで、去年失敗しか見せてなかったジョーくんは一体誰だったんだ、というくらい色々なことを見せてくださいました。とても楽しかったです。冒頭にポン太さんが「まあ、負け惜しみじゃないですけど、シウェイのを見てもうへー、すげーってなるだけだったかもしれませんが、普段単独でレクチャーとかしないジョーに、それも3時間みっちり見られる聞けるというのはある意味ラッキーかもしれません。安くなってもいますし」は、終わってみればその通りだったなあと。もちろんシウェイさん来日の暁には是非に参加しますが。ともあれジョーくんのレクチャーはとても良い体験でした。テクが上手いというのもあるんですが、原理から人まで、幅広く網羅して知っていて、かつ出来る、取り入れて自分のものにしている、という点で凄く、世界レベルってこういう人がいるんだ、という感想をいだきました(小並感)。ジョーくんは別に出てないけど、こういう人と戦えないとFISMみたいなのでは勝てないんだろうなあと思いましたね。FISMで戦う人は大変です。私は戦わないのでラクですが。

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翌日、訳担当のTくんがマジックランドにダローのレクチャー予約に行ったところ、オフのポン太さん&ジョーくんに遭遇。「前日メモしそこねたセンター・ディールのおさらいだけさせて頂けませんか」から、「じゃあコーヒーショップでも行ってやりますか」と。まあ、かかっても15分くらいで終わるだろうと思って行ったらしいのですが。いや、事実そのトリックについては15分もかからず終わっていたそうなのですが、そこから話が盛り上がり、スタバをあとにしたのは入店から3時間が経過しようとしているところだったとのことで。……ずるいぞ、私も呼んでよ!っていうかキミ仕事中でしょ!「まあ、そのあと夜遅くまで会社で頑張ってたから許してください」「さておき、昨日はやってなかったフィンガーチップ・ピークからのダブルリフトは超綺麗でした」「メンタルフォースに全部引っかかりました」「マッキング(注:ギャンブルのチートテクで、テーブルに置いてあるカードを一瞬ですり替えるもの)初めて生で見ました。ていうかジョーくん、手、凄い小さいのにあれ出来るとか凄いですよ!」 何でも中国ではジョーくんはワークショップをメインに開催していて、半分をテクニックとかの説明(ダブルリフトとコントロールが大好きらしい)、もう半分は笑いを取るプレゼンテーションに費やすそうです。あとレクチャーでも見たリフル・スタック、手品だと思っていたのですがどうもガチでやっているらしく、もうそんなの習得できません、憧れるけどw 「手品師は甘いですからね、イカサマ技法については」とか言っていたそうで、「お前はアードネスか」というツッコミを入れるのを忘れた、と嘆いておりました。そこくやしがるところなのか。