が、ガイ様ーーーー!(狂喜の雄叫び)
英國のガイ・ホリングワース(Guy Hollingworth)の作品集『Drawing Room Deceptions』の日本語版が出ました。いや、出たっつってもそんなもんそのへん掘ったって出てくるもんじゃねえんだ(唐突な落語風味)。関係者が一文一文頑張って作ったんですけども。
原著は1999年の初版発行以降版を重ね、いまや10版にもなろうという世界的ベストセラー手品本です。わたくし、洋書っていうか手品自体に疎いのでよく存じ上げませんが、個人作品集でこれより強い本ってあるんですかね。いや、手品とか本で強いってなんだという話ではありますが。端的に言って超強い。原著は擬古的に作られているとのことで、文章自体も格調高く、わたくしのように英語力に不自由している、ソフィスティケイトされていない下々の者(ただし伯爵位は持っている)には難しくてたいへんつらかったのですが、素敵な皆さま(グッドイングリッシュスキルガイズ)の手助けのおかげもございまして、一冊まるまる日本語化することができました。
※特に原著にはないが、古い良い本はグラシン紙のカバーが付いているべきだと思っているので付けました。かっこいい…!横のガイ・ホリングワース・デック(エメラルド/バーガンディ)は大きさ参考がてらの見せびらかしです。
わたくしとて、これまでも原著を(ざっくり)読んだり、ビデオを見たりして、それだけでもガイ・ホリングワースの凄さを体感してきてはおります。しかし、2018年の箱根のコンベンション(私は行けなかった)後に、参加した知り合いの方々から「カップアンドボールが不思議すぎる。いまさらC&Bが不思議という時点でもう凄いんだけど、っていうかC&B以外も全部不思議で手がかりすらなかった」「散歩してたら日本語で応答されて、おいおい、なんで日本語……って思ったら『日本に行くとなったから少し会話を勉強したよ』とか言われた」「強いてガイの欠点を挙げるなら、欠点がないところかな」などという逸話を聞かされ、もはや人間としての魂のステージが3段階か4段階くらい違うのではないかと思わされるなどしました。
これは私見ですが、現時点で、彼より面白いあるいは不思議なマジックができる人間はいても、彼よりエレガントにマジックができる人類はいないのではないでしょうか。細身・長身・スーツが似合う・英国人。いまはどうか知りませんが、若かりし頃はピアノとフェンシングが趣味。職業弁護士。良家のご出身で寄宿学校経験者。……おい、ホント設定詰め込みすぎだろ。もし私が編集者で、こんな設定のキャラ見たら「人間が描けてない」とか言いたくもなります。
マイク・ケイヴニー(出版者でもある)が序文で、『著者のことを何も知らずに本書を読んだら、このガイという人は大学の教授と思うかも知れません。でも実際には学生なのです』とか書いているのですが、ほんとそれです。熟練のマジシャンが、40歳50歳くらいになったので、さてこれまでの人生で磨き上げたレパートリーをまとめたぞ、って言うなら分かりますけど、この完成度の高い作品・技法の数々を書いたの、ガイ様が24歳のときですからね。どうかしています。しかも各作品・各技法、どれをとっても当時、業界的にも革新的だったという凄さですよ。さらに本人の演技も技術もめっちゃうまい。挿絵も全部自分で描いているしうまい。なんというか、ほんとよくその有り余る才能の恩恵の一部を手品業界にもたらしてくださったなあという感謝が生まれます。1日1万回、感謝のミラクル・チェンジ*ですよ。
*マーローの技法。ガイ様のお気に入り。
あとまあ、私の英語力のしょぼさや平民であることはさておき、やっぱり原著の英語はちょっと難しいと思います。「ハハッ、『DRD』は原著で読んだよ」と仰るあなた!それ、本当に読めていますか!?正直に言い給え!なお私は、今回訳した結果、「いままでは読んだふりで全然読めておりませんでした!」というのが正直なところです。ただ上にも書いたように、今回の日本語版は各位に相当揉んでいただいた結果でもありますので、安心してお読みいただき、読破の暁には堂々と「ああ、全部きちんと読んだが?」と仰っていただける(優雅に紅茶を飲みながら)ものと信じております。ガイ様本人、そして原書の査読チームが見つけていなかった間違いだって見つけてそっと直したりしているくらい真面目に読んでおります(というか、皆さんにお読みいただいている手品本の日本語版は、訳者をはじめみんな結構マジに取り組んでいることもあり、たいていの原著には誤りを見つけているのは内緒です。「いやお前、そこ直しても日本語のほうで新たな誤記・脱文が生まれてるじゃん」というご指摘は聞かなかったことにします!素人の皆さんはご存知ないと思いますが、違うんですよ。本というものはですね、出来たタイミングでは無謬なんですよ。なんですけど、発送途中に出てくる妖怪・活字ずらしの仕業によって、そういった誤りが発生してしまうんじゃよ)
いやしかし本当にですね、読めば読むほど凄まじい本だな、と思いました。訳したからとか関係なくです。捨てネタというか埋め草みたいなトリックがゼロというか、1作品でもマスターすれば、どこかでマジックを乞われて困ることはないでしょう。さらに、第一章でも語られていますが、本書に収録されたトリックのほとんどが、多人数向けに見栄えがするように設計されているというところも、私からの推しポイントです。
個人的にはジャケットの使い方が本当に巧みだと思うので、秋口以降、ジャケットを羽織るようになったら練習も捗るってものです。
できた時点で、FBに「出来たー終わったー!」的なポストをして、友人たちから「お疲れー」とか色々メッセージをいただく中、「すごい!読みたいです!」のコメントもいただき、「いやほんとにいい本なんで読んでほしいですわ。誰からかな?」とか思ったら……。
エエ本やで読んで読んで……って貴方は!w しかもなんで日本語でくるんだwww 血の気が引いたわwww pic.twitter.com/wCUDCpDcEX
— きょうじゅ (@propateer) 2022年7月13日
お茶目すぎるよガイ様www 著者御本人登場w 訳とかしてて良かったです。さておき、世界的に有名なあのガイ・ホリングワースさんも読みたいという名著、『Drawing Room Deceptions』です。
帯を付けたいですね。『ガイ様も興味津々!「すごい!読みたいです!」』
【期間限定コラボのお知らせ】
スクリプト・マヌーヴァさんと期間限定コラボ(2022 7/31まで)です。
・教授の物販で本をご購入いただいた方は、その中のとある情報を提示すれば、マヌーヴァさんで扱っているガイ様の映像作品が20%オフで購入可能になる
・マヌーヴァさんでガイ様の映像作品を買われた方には、本書を購入いただく際に使える2000円の割引クーポンが出る
というものです。
ちなみに小石川文庫というか教授の物販のほうは、特定の商品に対してのクーポンが出せなかったので、「マヌーヴァさんでガイ様関係の商品をお買い上げになると、(教授の物販で何にでも使える)2000円割引クーポンが出る」というのが本当の状況ですが、細かいことはいいのです(なお、お買い物額が3千円以上でないとクーポンは使えません)。
「わあい、私も買っちゃうか!」と思いましたが、私、オリジナルの3枚セット版も、マヌーヴァさんの日本語字幕付き版3種も持っているんですよね。ぐぬぬ。いや、『London Collection』『Routines』はVHS版だって持っていますよ!(さすがに『Reformation』のVHSは持っていませんが)
【2022 8/1追記】→盛況のうちに終了いたしました。ご利用いただきました皆さま、ありがとうございました。
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目次
出版者の覚書
序文
第一章
カードがひっくり返る、移動する、色毎に分かれる、
あるいは何らかの離れ業を演じることについて。
Waving the Aces ……………………3
Waving the Aces II …………………15
Oil and Water ……………………23
Cherchez la Femme …………………27
The Hofzinser Problem (or so it has become known)…28
Other Thoughts ……………………29
第二章
奇術につきものの難しさとビスポーク仕立ての利点について。
The Penetration of Four Cards through a Jacket …32
Travellers ………………………46
An Ambidextrous Interchange ……………50
A “One Card” Routine ………………62
Other Thoughts ……………………68
第三章
文房具、それから幸運の意義深さについて。
The Control of Chosen Cards ……………73
An Ace Assembly …………………80
The Homing Card …………………90
Cannibal Cards ……………………98
Other Thoughts ……………………103
幕間
様々な奇行を含む。
シフト考………………………106
コントロール手法とパーム手法……………118
カード・スイッチ考…………………134
フォールス・ディール考………………143
フォールス・シャッフル考………………153
第四章
数多の不正を織り交ぜながら。
A Gambling Routine …………………165
A More Light-Hearted Routine ……………176
A “Call to the Colours” Routine ……………187
第五章
『夜の来訪者』と彼の企みについての議論。
A Destroyed and Reproduced Card …………203
A Card at Any Number ………………215
A Card Stab ………………………223
第六章
幾つかの詰め合わせ:
箱を使うもの、独特なシャッフル、そしてトロイの陥落。
Three Cards Under a Box ………………228
A Triumph Routine …………………235
The Cassandra Quandary ………………250
エピローグ
カードを破いて復元する一手法を論じつつ。
後註…………………………301
訳者あとがき………………………305
B5変形サイズ(原著と同一)、箔押し上製本、約320ページ。