教授の戯言

手品のお話とかね。

テクニカルなコインマジック講座

高校時代の先生に"コインマジックをちょいと練習している"旨を伝えたところ本書を貸して下さいました。荒木さんの著書は以前「舶来カード奇術 あ・ら・カルト」を購入・拝読した事があります。ただ私は、ストーリー仕立てのマジックがあまり好みではなく(そういうのが合うキャラと合わないキャラがあるのですが、私は後者なのです)、現象面だけを再現するにとどまりましたが・・・。
余談ですがストーリー仕立てのマジック、といって前田知洋さんを思い浮かべました。直後に「前田さん風にレスを返すスレ」という、某掲示板のスレッドを思い出して1人思い出し笑い。


本書は、本とDVDのセットです。詳細はいつものことながらフレンチドロップさんのページでお願いします(笑) いや、宣伝ですよ、宣伝。これが購入に繋がれば怒られない…と信じたい・・・もしダメだったら消しますです。


まず本を読んだのですが、網羅している技法の多さに感激しました。この手の事典系は、高木重朗・二川滋夫著「コインマジック事典」くらいしか読んだ事が無かったのですが、そこから約30年の懸隔を埋めるがごとく、新しい技法がふんだんに解説されていました。私がコインマジックに疎いというのもありますが、聞いたことのない技法名満載。解説がややあっさりという書評もネットなどで聞きましたが、事典系の技法解説としてはこの程度で普通なんじゃないかな、と勝手に思っております。「こんな技法あるんだ」という発見ばかりでぐいぐい読めてしまいました。「うまい人はこんな風にこのポジションに持っていくよ」的な細かなニュアンス部分は、また別のDVDなどで確認した方が良さそうですけれども。


付属のDVD演技&Tips集では、著者の荒木さんをメインに、スピリット百瀬さん・小川さん・緒川さん・上口さん・ヒロサカイさん・沢さんなど(収録順とは関係なく思い出した順)、日本の錚々たる面子がゲストとして演技を見せてくれるのも嬉しいですね。プリあら会の例会と思しき場所での荒木さんのパフォーマンス、それに対するお客さん(会員の方なのかな?)の反応が、それはもう実にL&Lの観客っぽくて、手品とは関係ない部分で面白かったです。


パフォーマンスも中々に。中でも、ごく単純な「消失」という一点に絞っているにもかかわらず、緒川さんのスライトは検めのタイミングを始めとしてやはり凄かった。観客が「左手に持ってるんじゃないの?」と疑いたくなる絶妙のタイミングでの検めがステキすぎます。角度的にはこの隠匿は弱い部類だと思うのですが、正面からの映像を見た限りまるで見えません。バニッシュを2・3種組み合わせ、パームが頻繁に漏れている1分弱くらいの妙なダンスのようなものを見せて"ワンコインルーティーン"と自慢げに仰る方も世の中にはいらっしゃるのですが、なんというかこういうのを見てしまうと逆にちょっと可哀想になってしまいます・・・。まあ私はそのレベルすらおぼつかないので「お前に可哀想とか言われる覚えはない」と言われてしまうとは思うんですが。

また上口龍生さんの演技は初めて拝見しました。MIXIの「クラシックマジックコミュ」を管理されていることは存じ上げており、その手品に関する博学ぶりをいつも拝読させて頂いておりました。今ひとつ年齢が分からない感じのお顔でしたが、30代前半くらいなんでしょうか。ハンピンチェンを解説しておられ、その昔二川さんに(聞くだけ)聞いたコツに近く、やはりうまい人はこういう工夫をしているのだなとひとしきり感心。

あとはヒロサカイさんの演技が(多分角度をものすごーく選ぶでしょうが)かなり不思議でした。まさかあんなにじゃらじゃら出てくるとは・・・。



本の長所でもあり短所でもあるのは「実際どんな感じになるのかよく分からない」という部分に尽きると思っております。「どういう風に動くんだろうなあ」という部分を自分なりに考えることでいい工夫が生まれるのは間違いないのですが、やはり実現した時の姿というのを見たいのが人情なのではないでしょうか。特にハイレベルな技量のマジシャンの書くレクチャーノート系、こういうのに一番映像集が欲しい。別に画質なんか良くなくてもいいのです、ちゃんと不思議に演じられることとタイミングさえ分かれば。レクチャーノートとそういった映像つきのCD/DVDのセットは重宝がられると思います。あくまで演技部分だけにしてしまう、とかで十分なのですが・・・。

私の持っている、「ベベルのレクチャーノート」などは技術的に非常に難しい。そこに掲載されているトリックのうち半分くらいは、たまたま知人から頂いたフランスのTV番組VTRなどでニュアンスも分かるのですが、もう半分は自分でやっても全然不思議にならないのですね。いや、「ベベルなら・・・、ベベルなら何とかしてくれる・・・!」(SLAM DUNKより)とは思うのですけど。そういう時にこのセット方式だと実にいいでしょうね。


唯一鼻につくのは著者の物の言い様でしょうか。仰る内容は至極もっともで、乱暴に要約してしまえば「大き目だったり銀の含有量多かったりするし、なにより日本円を使うと所帯じみちゃうし、魔法の道具としての感覚をもって外国のコインのほうがいいよ」といった物などですが、ある意味ちょっと押し付けがましいというか。ショウマンシップ観点からは実に正しいことを言っていると思うのですが、何もそんな調子で言わなくてもなあという言い様だったのですね。くすんだコインよりぴかぴかに磨いたコインのほうが見えやすいし、ファンタジーがあるとは思うのですが、ご本人の演技の際には、それが裏目に出てしまわれているのがちと残念でした。裏返せばコインマジックとは荒木さんほどの手練れでも、毛ほどの油断も照明のあて方のちょっとしたズレも許されない、シビアな演目という再認識をさせていただいた感はあります。もっとも、言ってることの内容に関して、それを取捨選択するのは読者の義務であると同時に権利でもあると思うので、別に問題発言満載というほどではないです。ちょっと私は気になった程度、ですね。ぶっちゃけ上記のようなことを仰られてはいますが、都合上日本の現行硬貨も使っているので、あまり断言的に言わなければ矛盾が無くていいのにな、と言う感じです。

ちょっと脱線しますが、どうも最近読むマジシャンたちのコメントやコラムには、サービス業の目から見ると、いまいち配慮が足りてないものが散見されます。マジシャンとしての意見・信念・本音は当然あるべきですし、仲間内でのお喋りで大いに毒を吐くのも結構かと思います。しかし客商売・サービス業としては、ネットのコラムや書籍において最低限「出していいもの」と「悪いもの」があると思います。私のような影響力の無いアマチュアがぐだぐだ言ってしまうのとは次元が違うということを、(一部の方は)認識すべきかと。勿論大部分の人はそんなコトは言っていないと思いますけど。


ま、それはそれとして。色々思うことはありましたが、3000円内という価格でここまで充実している本は珍しいです。ちょっとコインをかじってみたけど今ひとつブレイクスルーしきれていない、と思われる方には実にオススメかと。私にとっても非常に勉強になりました。ただコインのパフォーマンス暦もあまり無いですし、練習始めたのが先月くらいだし、何より先週からジャグリングを始めているという状況なので、どこまで本書のエッセンスを取り込めるかが心配ではありますけれど。おっと、今週にはヴァルキリー・プロファイル2が出てしまうんだった。・・・コインマスターへの途遠し。

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そのあと久々にデビッド・ストーンの「Coin Magic Vol.2」をみて、マスタークラスはやっぱキモイ(最上級褒め言葉)という結論に。しかしあんなに不思議で楽しくて、何よりカッコイイっつのがストーンのズルいとこだなーと思いました。スライトは勿論、細身でエレガント、まさに"マジシャン"って言う感じですね。俳優とか言っても良さそうですけど・・・。やっぱりカッチョイイ系のマジシャンは、見た目が重要極まりないな、と痛感。そして対談とNG集とスリーフライの演技が見たいがためだけに、このビデオ持ってるのにDVDを注文してしまったダメな私・・・。また無駄遣いした・・・。


酔っ払っている時に文章書くと、冗長になりますね。ご勘弁を。