教授の戯言

手品のお話とかね。

逮捕か…


拙ブログをお読みになっていてくださる方は概ねご存知であろう、昨日の「貨幣損傷等取締法違反」による4名の逮捕。しかも実作業をしていた旋盤工の方はともかく、FDの庄野さんやG'sの銀次郎さんといった普段自分がお世話になっていた方も含まれるというのがちょっとショックです。銀次郎さんと自分の歳が大差無かったと言うのもちょっとショックではあったのですが。私は日本円のギミックコインは興味を持ったことが無いのでナンですが(単に高いので買おうという気にならなかった)、普通のコインマジック愛好家の方がやりにくい世の中になりそうだなというのが少々心配です。ZAKZAKの加工後のコインの写真の下にあった「無惨に加工されたコイン。たばこはやっぱり、コインを突き抜けないのだ=15日午後、警視庁蒲田署」というコメントに吹いたりガッカリしたり。ちなみに加工行為がいけないのであって、売買がいけないとか買った物を使って手品してはいけないということではないらしいですね。日本円ギミックユーザーは堂々と使えと。…ほとぼり冷めるまでちょいと使いづらそうですけど。

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ネットを見る限り二つに問題が分かれています。
■法を犯して金を儲けている方が悪い
■嬉々として他のギミックコインのネタまで放送するテレビ局の姿勢
それぞれについて擁護・批判がありますがどちらかというと二番目が問題のようですね。


一番目に関しては法解釈の視点が挙げられていて、要は硬貨を損傷させてはいけないというのは、「国家の貨幣流通に影響があるような変造行為は、経済原理上、当然容認できない」というのが思想の根本にあります。手渡しをしない点(=流通経路には乗らない、あくまでマジックを演じる人のみが所持することになる)があるためシェルやフォールディング、フリッパーは黙認されていたみたいですが、今回の問題となったコインの写真を見る限り「パンクチャー」というボールペンが貫通するというトリック用っぽく、しかもマジシャンの中には記念にと、穴のあいたコインをプレゼントするような人もいたとかいないとか。その辺の旺盛なサービス精神が裏目に出たといいますか、これが変造コインを市場の無関係の人に流通させたということになるらしいです。

これについて私の感想としては
・日本円のギミックは国外で加工して再輸入する分には問題無かった筈だけど、国内でやってしまったらしいのはやはりまずかろう
・店側は恐らく違法性があることは認識していただろうからそこは同情の余地は無し
・日本のギミックコインは、精度はともかく海外に比べて価格がかなり高かったし、原価と比較しても多分利益も相当出していたはず
・とはいえ法律制定の背後にあるような、"これが市場経済に重大な影響を与える事"は無いと思う

やったことは違法で、そこで相当の利益を出したのであるなら処置は明白であり、別にそこは今更ガタガタ言う事ではないと思います。しかし日本円のギミックコインを普段演技まで使っているマジシャンって何人いるんだろう。問題とするには微々たる数量ですが道義的にまずいのは間違いないんだろうなあ…。…ところで数億円の売上って放送されていたんですが、この法律違反による罰金って20万円なんですよね。…イイのかな?



で、二番目が結構問題だと思っています。本当にまっさらなコインにタバコとかボールペンが通ると認識している人はかなりレアだとは思うのです。むしろそんな人は素直すぎて怖いくらいなのですが。「なんか仕掛けがあるんだろうな」と思うのが普通でしょう。そこをお客様に認識されているのを承知の上で、ギミックという素材(想像の範囲内)とテクニックという味付け(想像の埒外)を用いて幻惑を作り出すのが手品師であり、マジックというエンターテイメントだと思うのです。
今回問題になったのはあくまでその素材部分であり、「マジックのために硬貨に穴を開ける(切る)処置を施した」という報道と、ないしはその画像を出すくらいはまあ普通かと思っていたのですが、どうも色々読んでいるとテレビのニュースで女子アナがバイツアウトやってたとか意味がわかりません(某掲示板ではそのシーンについて「噛み切るときに音が出てねえ!半端な演技をするんじゃない!」というツッコミがあり、「そこなのかよ!」とか思わず笑ってしまいましたが)。硬貨変造にかこつけてかなりの種類のギミックコインの(下手な)実演をアナウンサーとかコメンテーターがしたそうで、幸い私はその映像を見ずに済んでいますがこれは実際見たコインマジック愛好家にはやりきれないと思います。私もそういうのは嫌いですし。アメリカなら訴訟ものではないでしょうか(そもそも変造行為とトリックそのものの暴露は全く次元の違う話)。



マスクマジシャンことバレンチノやら緒川さんやら、日本のテレビにおいて種明かしという行為がかなり軽視されている傾向は前からありましたが、ここにきてエンターテイメント性ゼロの事態になりました。別に事件そのものは弁護する必要は無いですが、まったくもって野暮極まりない。野暮だ、粋じゃねえってんで全部の行為が許されるわけではないですが、杓子定規というかなんというか。テレビ局は自分たちで作り上げたマジックブームをきちんとお片づけしようとしているんですかね。マリックによるタバコの貫通に始まり、それを盛り上げ、近年はクロースアップ主体構成の番組を増やしつつもここでおしまいにすると。使い捨てっぷりに容赦が無い。

二川さんが以前、「多くの人に間口が広がるのは嬉しいけど、やっぱり手品って日の目を見ないところで地味に発展していくのがいいと思ったりするけど」と仰っておられたのが印象的に思い出されます。やはり特に日本という風土においては、こういう芸能はひそやかに楽しむのが向いているのかもしれません。

とまあ、手品っ子たちはこのニュースに首っ引きですが、一般人の認識としては津波が…とか松坂が60億円で…的なニュースの方に目がいってるとは思います(そもそも私たちが思っているほど非手品人はこんなところに興味が無い気がします)。ただ今回起こってしまった事態そのもの+テレビの報道方法が残念でなりません。業界の人には恐縮ですが「手品は日陰の楽しみ」という考えの私としては、このまま(まだ少しは続いているであろう)マジックブームが一気に終息してくれないかな、なんて考えてしまったりすることもあるのです。いやはや、難しい性質の芸能です、ホントに。