教授の戯言

手品のお話とかね。

2008年を振り返って

2008年は自分にとってかなり動きの激しい年でした。体調も派手に二回崩しましたし、会社では激戦地に部署が変わりました。マジックではやはりトンプソンに生で会ったというのがビッグニュースでしたかね(勿論グレッグも最高でしたけど)。
ということで、毎年恒例どころか今までやったことすらない、今年の手品を振り返る企画。無駄遣いそのものは別に振り返っても仕方ないので、オススメその他雑感を中心に。

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▼根本毅「根本毅レクチャー」
年初に見た根本さんのDVD。やはり「Card up the Sleeve」の妙味が非常に印象的。次点としてあのパームの見事さ。あのレベルでパームが出来れば、あらゆる処理が可能だと思わせてくれるような、そんな切れ味でした。画質は確かに悪いのですが、内容はそれに引きずられない確たるものです。



▼Lee Asher「WITNESS」
ジップロックを使ったカードの貫通(というか交換現象)で、デモのつくりがちょっとずるいんですが、難易度と効果が釣り合った佳作。座ってお迎えするタイプの演技には正直向かないのですが、ちょっとしたパーティーの一角で、5〜10人くらいに見せるには非常に分かりやすいトリックだと思います。上半期に2回しか実演してないのは秘密です。



▼Benjamin Earl「Past Midnight」 
マジック系より、ギャンブリング系の方が印象に残っています。何と言うか今年買ったDVDの中で、中身以前・買う前から一番雰囲気出してたなあという感想。かっこいいんですよね…(映像的に)。諸所でこれに関する感想も拝読しましたが、そこでの賞賛と同じく、見返しても現象の綺麗さには感嘆する反面、いわゆるミスディレクション系の要素には乏しかったのが個人的には残念ポイント。もっとも、あのくらいのハイレベルスライハンドを押し立てて来られると、ミスディレクションどうのといったものは正直無くても全く問題ないな、とは思ったのですが。「ハイレベル技法でねじ伏せるのが私には出来ないこと」と、「冷静に見れば明らかに見えているのに、それが堂々とまかり通ってしまっている(観客の意識に上っていない)トリック」の方が好きという観点から、真似はちょっと出来ないなという感じでした。そういえばギャンブリングデモも夏以降まるで練習できておりませぬ。



▼Stellan Lagerkvist 「It is about Tea Time!」 
いやあ、もうこれは、ねえw これより不思議かつ異様なDVDがあっただろうか、いや無い。私もこれのうち一つでもマスターしてみたいものですよ。2が出るかは不明。



▼加藤英夫「Card Magic Library」
これはいい本出ましたよねえ。既刊は3周ずつくらい読みました。が、問題はここに出ているものを、私がどれも実演レベルまでは練習できていないことです。読む限り、効果としても高そうですし、自分の演技でもそれなりに不思議さを表現できそうな気がするのですが。…そういえば最近カードマジックをほぼ実演していないことに気付きました!余談ですが、応援団サイト一覧で、このブログだけ「 」付きなのは、加藤さんにメールするときに私がサイトの名前というのを分かりやすくしようと「 」付きにしていたためなのですが、…いやあ、直したいw



▼Chad Long 「Chad Long’s DVD Vol.1」
久々に、正々堂々としたカーディシャンタッチの演技を見ました。出来るかどうかは別として、OWとコレクターは是非ご覧頂きたいです。



▼Helder Guimaraes 「Small Miracles」
ブランクデックルーティーンとOWはかなり衝撃的でした。数年の間に、このDVDにあるカードマジックを一通りマスターするだけで、かなりの収穫といえるくらい面白いアプローチ集だと思いました。本DVDのトリックで人前で見せたとなるとOWしかまだ経験がありませんが、ブランクデックルーティーンは必ずマスターしたいと思っている作品です。



▼グレゴリー・ウィルソンレクチャー
即席=すぐできる わけではないのが悔しいですが、ありえないくらい楽しいレクチャーでした。彼のトリックは2・3マスターしておくと非常に有用なはず。Pre-CapとかFreakeyなどは、最近練習サボりがちですが、場所を選ばず出来て重宝しそう。その有用性を理解しつつもマスターしていないのは私のダメなところ。



▼ジョン・ロジャーズ「ベスト・スタンダップ・ルーティーン」
おじいちゃん万歳。拙ブログとしてはイチオシでありますが、2chの「自分の買ったマジックグッズ評価スレ」とかでも見かけたことがありません(あるのかもしれませんけど)。マニアックなカード技法とかも入っていて楽しいです。スリービングを組み合わせた3ボールルーティーンも美しく、学生時代なら自分でも色々工夫してみたかも、と思わせるような幻惑ぶりでしたよ。



▼二川滋夫・きょうじゅ「ミルクとクルミとミクル」
二川氏の傑作トリック「ミルクとクルミ」のコメディ色を強めた驚きの改案です!…改案ですらねえですけど(というか素直に言おうか、「改悪です」って)。今年を振り返ると入れざるを得ませんでしたw もう私はくだらないトリックをやって、下品な改悪でマジックの品位を汚す悪い子に成り果てたのか。いや、でも多分、友人に限って言えば、前田知洋さんが「ミルクとクルミ」をやるより、私が「ミルクとクルミとミクル」をやるほうがウケがいいはず!別名・内輪ウケ。



▼ジョニー・トンプソンレクチャー
憧れのマジシャンに会えればそれはビッグニュースですよ。クロティエも生で見たいですー。ルセロは今年生で二回見られたのでそれでよしとします。



▼ながおゆう「CREATOR WORKS」
こういう方が近くにいたら、色々教えを請いたいのですけれどね。スライトとコンセプトが非常に面白いバランスで成り立っている作品集でした。



▼「Cubio Jumbo」
いまだにタネは知りませんが(読みたいとは思っているんですけどw)、これは遊んでて面白いなあ。サロンからクロースアップまで対応可能ですね。


▼Miguel Angel Gea, Christian Engblom, and Danny DaOrtiz「Fat Brothers」
ファットメンの演技はどれも面白いのですが、2枚組にして、ディスクを「演技」と「解説」という形で分離すると恐ろしく使い勝手が悪いということを再確認できた一品。ダオーティスの、借りたデックでも出来る、カードを裏見ただけでばんばん当てていくやつは物凄い好み。しかし練習しているととても寂しいw あとはコップにコインを投げ入れたと見せかけて、の技法は何度見ても不思議でした。



2008年はお会いしたマジシャンが非常に良かったのは言うまでも無いのですが(もちろん去年も良かったです)、相変わらずDVDを買い漁っている割に、練習→マスターまで至るのはゆうきともさん関係ばっかりかというあたりに己の進歩の無さを感じます。彼の作品は練習してて楽しいというのも美点だと思いますが、その易きに流れず、個人的にはもっと色々な小道具を駆使、トランプマジックなどは一つもやらないで20分くらいもたせられるような演目をもっとマスターしていきたい所存。あとはやはり「Card Magic Library」が出て良かったなというのがありますね。加藤さんも演技例DVDとか出してくださらないだろうか…。


 <以下雑文>

▼佐藤総「card magic designs」
年末にまたいいのが出ましたね。まだ咀嚼しきれていないのですが、DVDを見た段階で私にはカナリ不思議と感じた現象が多かったのと、本を読んでなお「おお、なるほど、それは気付かなかった」といった感じでなお面白かったので十分ペイしています。…敢えて言えばかさばるのでソフトカバーにして欲しかったですけど。練習していくともっと色々思うこともあるんでしょうが、久々にフィッシャーの「Paper Engine」を脇に、ハーフパスの練習をしたくはなりました。そしてなぜかこの本を1周読んだ後「トランプと悪知恵」を読み直している私がいる。「トランプと悪知恵」は何でこんなに大判なんだ…。

さて。私には非常に好みだと思えるタイプの本でしたが、ありとあらゆる人が絶賛するタイプでもないと感じたのが正直なところです。そもそもこういう内容の演技をする人自体をあまり見ない気がする。たまたま私の周りにいないだけかもしれませんけど。
前作「トランプと悪知恵」に"玉砕スタッキング"というコンセプトのバリエーションが幾つかあったのと同様、今回は"ミミック・ショウ"というコンセプトを基にしたバリエーションが半分くらいを占めているので、それにピピっと来なかった方はお得感が半減してしまうかもしれません。リチャード・サンダースネタを買うたびに「おいおい、演目凄くたくさんあるけど、さっきと全部原理同じじゃねーか!w」とか突っ込みがちな私なのですが、「同一コンセプト多数」という点ではサンダースと同じである前作も今作も、不思議とそのようには思わなかったのは、おそらく佐藤さんの色々な演出が丁寧に構成されている結果でしょうね。
なお内容については(少なくとも私は)買ってすぐ何とかなるような類のものではないので(スライトが難しいというより、演技として成立させられるまでがといいますか、演出やタイミングに至るまでを調整しきるのが難しそうという印象)、「レパートリーをぱっと広げたいなー」とか言う方は、この本より他のDVDを2枚買った方が多分良いと思います、個人的には。

しかし発売早々話題の多い品ですね、これ。早速「松田氏の思わせぶりなアオリに我慢できず、演技を見る前に技法頁を読んでしまって、初めてDVDの演技を見た時の不思議さ半減」というある種の悲劇的事例や、そこに容赦なくツッコむゆうきさんのブログとか。…「困った人」という表記は苦笑いテイストならいいんですが、どうも文字だけだと蔑む感じが出ちゃうのがなあ…。しかしあの松田さんの書き方は「押すなよ?絶対押すなよ?」を思い出すといいますか、上島竜兵師匠ならずとも逆につい後ろを覗いてしまいそうな気がしますw 「決して覗いてはなりませぬ」といわれて、逆に興味が増進されてしまい、つい見てしまってご破算、というのは『夕鶴』の与ひょうを例にとるまでもなく、人としての宿業なのだろうかw

そんな一方で「Fieldsmagic Entertainment」(今回の販売元)からの定期メールを見たら、本作について「ブログとか掲示板で紹介するときはネタばれとかしないでください」的内容がわざわざ書いてあったり。何というかちょっと寂しいコメントだと思いますけどね、この流れは。最近はこんな注意もしないと、みんな書いちゃう人ばっかりなのでしょうか。
"この作品集の中身がきちんと実行されたら、非常に高度な魔法を演出できるものだから秘密を守るのは重要なんだよ"という理屈は分かりますが、そんなことはマジック関係のものなら言わずもがな。大人気ない言い方すれば「じゃあ今までの他の人の作品集やらDVDとかはネタばれ書いてもいいのか」ということにもなりかねません。いや、そんな屁理屈はともかく、ネタばれさせちゃうような人はそもそも今回買ってないと思いますし、ブログ書く方はそもそもタネに抵触するような書き方はしないでしょう。また、種明かしスレに書く人は、店や考案者がどう言おうとネタばれ書きますし(それがスレの趣旨ですしね)。
そういうスレでタネだけ知りたい人は、多分マジックの"不思議"の部分には興味がない、"パズルの解法"を知りたい人とでも申しましょうか。それも手品の楽しみ方の一つではあるので否定はしませんけどね(私とて、モノによっては原理を知りたくて仕方が無い時もありますし)。それはさておき、発売間もない、値段もそこそこ張る本作を買って、わざわざネタばれスレに書き込むような人もいないのではと思いました。そもそもネタばれを恐がるくらいなら、さっさと買って読むか、情報遮断をしていれば済む話です。私なんか脊髄反射レベルで購入してたというのにw

で、話を戻しまして、本作品集全般について申し上げれば、「極端に斬新さを追求されたものではないが、よく練られた高品質なトリックが詰まっている、と私には思えた」ので、「お金と興味がある人は買ってみる価値はあるのでは」と思います。ちなみに私の嗜好では、"斬新であること"には殆ど価値を見出しません。サトルティその他の"構成の妙"が本書のオススメポイントだと思っています。

流れとは全く関係ないですが、本にあったあの一般的に"4Aを出すという行為"は、手品側の人間として感覚が麻痺してましたけれど、確かに"マジシャンの日常動作"の一つといえなくもないですね。ちなみに観客の注意力を実験するという名目の「Amnesia」が個人的には最も演じてみたい演目でした。怪しい動きが見当たらないのに不思議が起こるのが非常に好み。テレビの前で久々に「いやいや、まあ普通においたよね。…え、何か起こるの!?うわ、起こっちゃった!」という状況でした。いいなあ、こういうの。



▼ゆうきとも「カードミラクルス」
何と言うか佐藤さんの本と同時期だからか、ネットで全然評を見ないのですが、個人的には結構ステキな作品集だと思いましたけどね、これの2(1も好きです)。練習はしていますが、もう少しさらりと演じられるようになったらご紹介したいです。

内容よく読まずともcmdもこれも買ってるあたり、本当にいいカモお客さんですよね私。来年はのんびり「Card Magic Library」を熟読したいです。振り返ると本当によくカード関係のものを買っているといいますか、どんだけカードが好きなんだと。…やはり好きなのかなあ。好きなのかあ…。

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2008年も読みづらいブログをお読み頂きありがとうございました。来年こそは、もう少し人間性が見えづらい透明な文書を書きたいとは思っております。よいお年を。